無限書庫ではユーノとミルズが、今回の事件の情報整理に追われていた。

「クロノのやつ、相変わらず要求が多すぎる」

 ユーノがふてくされている。それを横目で見ていていたミルズは笑いながらユーノをなだめる。

「あいつは、情報最優先の優等生だからな、自然と要求も多くなるんだろう。まぁ私も手伝うんだ、それで我慢してくれ」

 ユーノもミルズとはかなり親密な関係である。
 ユーノがここ、無限書庫の司書として管理局に関わり始めてからすでに何度も同じ調査で顔を合わせていた。
 二人での会話がくだけた感じなのもそのせいなのであろう。

「しかし、今回は本当に驚かされる事ばかりだよ」

 ユーノは読書魔法を展開させつつ話す。
 ん? とミルズが聞き手に回る。

「文明LVゼロの世界に。文明があったこともそうだけどさ? モノリスに描かれている画が実体化するなんて、どういう魔法なんだか。エルヌアークの再調査ついていきたかったな」

「トレースコフィン……」

 あの人の得意な魔法だったな。ミルズは心で思っていたのだが、最初の言葉だけは口に出てしまったようだ。
 その言葉に反応したユーノがミルズに聞く。

「なんだい、トレースコフィンて?」

「そんな事言ったか?」

 ミルズはとぼけると、自分も読書魔法を展開し情報整理の作業に集中する。

「僕のきのせいかな?」

「読書のデータと、勘違いでもしたんじゃないのか?」

 ミルズは笑って誤魔化した。







 アースラは現在、クロノをフォワードトップとしたエルヌアーク再調査隊の編成が完了し出発する所である。

「シャマル、ヴィータしっかりな?」

 はやては同行する家族二人の見送りにきていた。

「シグナムとザフィーラのことお願いします」

《あと、カレンさんの事も》

 思念通話に切り替えてシャマルはカレンという言葉を追加した。

《そっちも了解や、新しい家族みたいなもんやしな》

 はやても同じよう思念通話で返す。アースラはその後出発していった。

「さて、我が家にかえるか〜」

 出発した次元航行艦を見送った彼女は誰に言うでもなく声に出していた。

本局に戻ったアースラチームは情報整理と別隊の編成に人員を分けた。クロノを頭にした別部隊に参加するのはシャマルとヴィータ。
ザフィーラ、シグナムは傷の治療の為地球に居残り。はやても家族と共に残る。

フェイトとミルズ、ユーノは本局で情報整理となっていたがこの作業に三人も必要ではなかった。






「じゃあ、今日はここまでです」

 教導隊制服を着た高町なのはの声が訓練スペースに響き今日の訓練の終わりを宣言していた。

「ありがとうございました」

 武装局員達が声を揃えて敬礼をする。
 学校のほうは今日から夏休みに突入し、今まで以上に魔導師としての仕事に力をいれていた。
 教導官補佐という割に高町なのはには補佐すべき人物が居ない。
 実質の所、教導隊も人手不足でありなのはの様な補佐官でも一人で教導を行わねばならない。
 もっとも教導を行えるだけの実力が彼女にあるからなのだが。

 制服から私服に着替えるためにロッカー室に向かう高町なのはに声をかけて来た人物がいた

「すいません」

 突然声をかけられなのはは声のあった方に振り向く。
 振り向くとキャップ帽をかぶった少年が所在なさげになのはに聞いてくる。

「レティ・ロウラン提督の部屋はどこにあるのだろう?」

 自分の知っている名前が出たので。彼女は自分が案内役を買って出ることにした。

「私、知ってるのでご案内しましょうか?」

 なのはは、所在なさげにしている人物を見つめる。
 黒いキャップ帽子をかぶり地上本部所属を意味する茶色の陸士隊制服を着込こむ少年。彼から自分と同じ位の魔力の強さを感じた。

「助かります」

 頭を下げた少年は心底助かったという感じでなのはに本局の感想を述べる。

「本局は。初めて来たのですが迷う……」

「アハハ」

 なのはにも迷った経験があるので笑ってしまった。
 レティの部屋につくまでの少しの間、少年と話しをしてなのはは驚いた。

「じゃあ? あなたも地球の出身なの?」

「そうなります……」

「私もだよ? 高町なのはです。あなたは?」

「俺は……」

 少年が名乗ろうとした時。少年が探していた人物。レティ・ロウランが二人に声をかけてきた。

「トウヤ! それになのはさん?」

 声がした方に二人が振り向くとレティ・ロウランが分厚い紙の書類を腕に抱えて歩いてきた。
 ネットワークが発達した管理世界でも書類仕事というのはあるのだろう。
 トウヤと呼ばれた少年は、レティの持つ分厚い紙の書類の半分を自主的に受け取り、部屋の行き方を教えてもらうとなのはに礼をいって先にレティの部屋に向かった。

「ここまで案内してくれて助かった、ありがとう。高町なのは」

 律儀にありがとうと言う少年に、いえいえ困った時はお互い様ですよと返すなのははレティに向き直り挨拶をする。
 レティも挨拶を交わすがはのはに向けた表情はすこし暗かった。






 レティとも離れ、着替えをすまし家に戻るなのはの表情は暗かった。レティからアースラが担当してるプロトクリスタル回収の失敗という結果に。
 参加している親友二人の事を心配するのだった。

(フェイトちゃんとはやてちゃん。大丈夫かな)

 



 













 プロトクリスタルの放つ五色の光が混ざり合う場所。夢幻回廊。

 番人達はひとつのモノリスの所に集まっていた。氷の世界コキュートスに在ったモノリスである。
 エウリュトスがクリスタル回収に出向き。グリードとスロウスが後を追って出かけたわけだが、スロウスが其処でコレを発見していたのである。

 描かれている画は、フェイトと同じ様な感じのツインテールの女性であった。
 女性とは言っても色々タイプがあるわけで、エンヴィーが成人。ラースが少女とすると画に描かれた女性は女子高生と言った所か。

 グラトニーがラースとグリードを実体化させた時と同じように、金色の六角形の魔方陣を指で器用に描く。

 六角形と言ったが正確にはミッド式の円形の中に描かれている紋様がヘキサグラムであり、ベルカ式の様にヘキサグラムが円の中でゆっくりと時計回りに回転している物である。
 その魔方陣はモノリスの封印を解いた。

「プライドがこれで覚醒か、残るはラストのみだな……」

 エウリュトスがぼそりと呟いた。








 ユーノと別れたミルズは一人、アースラスタッフが待機できるデータベース室にいた。
 ディスプレイには彼個人が集めた情報が羅列されている。そのデータを見つめ、考えを巡らす。

 モノリスに書かれていた女王のメッセージ。生まれ出る命(うまれいずるいのち)の時間。

 七罪の番人とは、失われし都と呼ばれたアルハザードにおける死刑執行人という存在である等。
 クロノ達が知りえない事柄が事細かに載っている。

 シグナムと戦ったエンヴィー。フェイトと戦ったグリード等。
 番人達の戦闘パターンから癖を見抜き攻略法を練っている時に突然閃いた。

(今までクリスタルの回収にかち合った七罪の番人は……ひょっとすると、エインなのか?)

 ミルズはエインと言う単語を考えた後にクロノ達の事を考える。

(もし。番人がエインだとしたら……エルヌアークの再調査は彼等だけでは危うい……クロノ死なないでくれよ?)

 既にエルヌアークに向けて出発したクロノ達に、生きて戻って来いと願う黒翠色の騎士だった。




 海鳴市午後7:30。

 フェイトは休息の為に朝から家にいた。魔力自体はもとにもどっていたのだが、リンディが家に戻って休んでなさい! きつく言ったので渋々戻ってリビングでくつろいでいた。

(なのはも仕事だったし、家にいてもつまらないな……)

 テレビを見ながらそんなことを考えていた。

「フェイトちゃんメールだよ! フェイトちゃんメールだよ! フェ」

 このふざけた着信音は、地球製機械音痴のフェイトのために、エイミィが作ったなのはちゃん音声だ。
 フェイトは誰からだろう? とメールの確認をする。

「あ……」

 速人からだった。

{フェイトへ この間の約束の件ですが用事ですぐには無理です、都合のいい日を教えてください 速人}

 フェイトは少し喜び返信をする。
 地球系機械音痴であるがメール文作成や送信は出来る。設定とかが彼女にはキツイのだ。

{私も今忙しいのですが、日程を速人がきめていいよ? それにあわせます フェイト}

 返信するとエイミィがアルフ(犬形態)と買出しから帰ってきた。

「お帰りふたりとも」

 家族を迎えるフェイトの表情はなぜか優しいものだった。

 フェイト。アルフ(人形態)エイミィはユーノから送られてきたデータをみて唸っていた。

「う〜ん、残りのクリスタルの在る場所かぁ」

 エイミィは、見当がつかない顔で買いだして来たお菓子を口に運ぶ。
 ユーノから送られてきたデータは、光を除く 雷、風、土、氷、闇がすでに番人によって奪取させてる事も送られてきていた。
 三人でうんうん唸っているとアースラのリンディから通信が入る。普段飄々としてるリンディがかなり焦っている様子だ。

「エイミィいる?」

「ハイハイいます!」

 だらけていた体勢を整えて返事をするエイミィ・リミエッタ。

「今、管理世界の一つシンフレアで番人が炎のプロトクリスタルを奪取したわ!」

 モニターに映像が映るとエイミィが悲鳴に近い声をあげる

「うあぁ」

 見たことも無い番人がもの凄い魔法で辺り一帯を火の海としていた。

「これは……ひどいや」

 アルフはそういってフェイトを抱き寄せ映像を見せないようにする。
 グラトニーとスロウスが無差別蒐集をしている映像も映し出された。これをみせたくなかったらしい。
 リンディがさらに告げる。

「それでねミルズ君から連絡入ったんだけど、本局のパルス探知機が残りのクリスタルの位置を特定したの。データを送るわ」

 そのデータを見たエイミィは、驚きの声を上げる。

「え?……これって……海鳴!」

「ミルズとユーノ君が先行して向かったわ、そっちの管制おねがいね」

 リンディが出動命令をだした。通信士の顔になり返事を返すエイミィ。

「了解しました! フェイトちゃんでれる?」

「わたしはいつでも」

 フェイトは既にバリアジャッケトを展開していた。





 
 弓士エウリュトス、剣士エンヴィーにラースとグリードの四名。番人たちは既に海鳴に来ていた。

「こんな辺境世界にじじぃが本当にいるのかよ? エウリュトス?」

 グリードが面倒くさそうに聞く。

「グラトニーさんの調査は完璧ですわ、反抗的すぎですわグリードは」

 グリードの言動に突っ込みを入れるのはわっちとですわが口癖の少女ラース。
 二人の会話を他所に、エンヴィーは空を見上げ月明かりをまぶしそうにして呟く。

「月が、光をよく放っている」

「この世界では満月っていうんですわ〜」

 得意げにラースはいう。それはもう人差し指を突き立てる位に。

「邪魔者が来る前に作業を終わらせてしまいましょうかね」

 行動開始をエウリュトスが促す。









 藤見町の高町邸。

(なに? この感じ)

 なのははくつろいでいた部屋から急いで玄関にむかい外にでる。彼女の中で警鐘をあげるように耳鳴りが激しく鳴り響く。

(魔力反応?……)

 目を凝らしよく見るとうまく隠してはいるが結界を張ってる最中なのが解った。

「この魔力……ユーノ君? レイジングハート」

 愛機に魔導師になる事を伝えるなのは。レイジングハートも応える。

【yes my master】

「いくよ、レイジングハート。セーットアーップ!」

 天使を模した白いバリアジャケットが展開されていき、レイジングハートが飛翔呪文を発声する。

【AccelFin】{アクセルフィン}

 足元に桜色の魔力の羽が生え、高町なのはが大空に舞う。










 ミルズとユーノは番人より先に海鳴海上で水のプロトクリスタルを発見していた。
 ミルズはクリスタル回収の行動に出ようとするが。結界構築の時間まで行動を起こすなと、ユーノが注意する。

「ミルズ! この世界は魔法文明が無い。僕が結界を張るからそれまでまって」

「しかし、そんなことをしていたら番人がくるぞ?」

 クリスタル回収を最優先に動くミルズは、多少なりともじれる発言をする。ユーノはミルズを落ち着かせるために結界準備をしながら返事を返す。

「大丈夫、フェイトもすぐに駆けつける」

 だが、ユーノの心中は別なところにあった。

(それに、ここはあの子がいる。巻き込みたくは無い)

 ユーノの結界は海鳴市全域を包み込む。なのは出会った頃よりも力強く、大きさも増していた。
 結界が出来上がった頃。二人が揃ってやってきた。

「ミルズ!」「ユーノ君」

「なのは……」

 ユーノは関わらせたくない少女の登場に次の言葉を彼女に投げかける。

「どうして、きたの?」

 問いかけられた少女。高町なのはは自分の考えを目の前の結界魔導師の少年にぶつける。

「ここは私の出身世界だよ? それにレティさんからフェイトちゃん達のこと聞いたの。わたしも手伝うよ!」

 ユーノはこの少女の意思の強さを誰よりも知っていた、だから。

「ジュエルシードや、闇の書の防衛プログラムとは訳が違うよ? 相手は軒並みオーバーSランクだ。サポートはするから無理はしないでね?」

 うん! と頷きミルズに向かって参戦表明を述べる。

「高町なのは戦技教導官補佐。非魔法文明の魔法漏洩防止のために助力します。よろしくおねがいします、ミルズ捜査官」

 管理局式の敬礼をミルズにするなのは。

「こちらこそお願いいたしますよ? 高町なのはさん」

 広域特別捜査官たるミルズには緊急時の人員決定権がある、この時点で高町なのはは暫定的に公務につくことになる。親友に念話で話しかけるフェイト。

(がんばろうね? なのは)

(うん! フェイトちゃん)

 管理局きってのAAAクラスの魔法少女と広域特別捜査官の自己紹介も済んだころ。

「ハイハイ、クリスタルの回収急いで、番人がくるよ!」

 空間ディスプレイからエイミィが締める。

「私が回収に。みんなはサポートを」

 ミルズが回収に向かおうとすると一条の緑の光がそれを妨げる。

「わたせませんよ! それはね」

 転移魔法ではなく飛行移動でこの場に来て、ヴァーリボウを構えたエウリュトスが現れる。
 エウリュトス……と小さく呻いて彼を睨むミルズ。

「ラストを覚醒させる、あとはたのんだよ」

 管理局勢を前にしても目的遂行の行動を取るエウリュトスは、残りのメンバーに管理局メンバーを抑える様に指示をだす。

「オレは金髪へびあたまをやる! あとは好きにしな!」

「すきにするですわ、わっちはどうでもいいのですわ」

 フェイトに対し雪辱をかけるグリード。そんなグリードに突っ込みを忘れないラースは、新たに参加したなのはを標的にする。

 エンヴィーは既にミルズのほうに飛んでいた、3on3のバトルが始まる。
 フェイトVSグリード。ミルズVSエンヴィー。なのはVSラースの構図。


 高町なのはは、すぐさま戦況分析をして自分が何をすべきか? 答えをたたき出し行動に反映させていく。

「そっちの思うようにはいかせない! レイジングハート!」

【AccelShooter】{アクセルシューター}

 12発のシューターを向かってくるラースめがけて飛ばすなのは、そして直ぐにフェイトのほうに向かう。

 フェイトもグリードと高速戦を行ってるが思ってることは同じようだ。
 一人でだめなら二人で。それでもだめなら三人で仲間を信頼すれば負けることは無い。それが二人の想い。

(フェイトちゃん、うまく避けてね)

 念話でなくただ心に思う。
 フェイトはグリードをなのはの射線軸上に誘い込む。砲撃体勢にはいるなのはは愛機に叫ぶ。

「レイジングハート!」

【LoadCartrige】{ロードカートリッジ}

 一発ロードして砲撃スフィアを展開すると照準内にグリードが収まる。

(なのは、まかせた)

 フェイトも同じく心に思うだけで愛機に叫ぶ。

「バルディッシュ!」

【SonicMove】{ソニックムーブ}

 フェイトがグリードの視界から消えうせる、向かう先はアクセルシュータでもたついてるラースの所。

「ディバインバスター!」

 夜空に桜色の閃光が鮮やかに光る。

「な!」

 グリードはもろにバスターを食らい彼の周囲には桜色の魔力煙が立ち込める。ラースの背後を取るフェイト。

「ハァー!」

【HakenSlash】{ハーケンスラッシュ}

 ハーケン状のバルディッシュが、ラースの後ろから襲い掛かる。

「なんですわ?」

【RoundShiedPowered】{ラウンドシールドパワード}

 グリンタンニがオートでシールドを展開する。

 ハーケンスラッシュをすんでのところで受け止めるラースであるが、フェイトは次の手を繰り出していた。

【PlasmaLancer】{プラズマランサー}

 バルディッシュが発声し四発のランサーがラースの背後に出現し命中する。

 なのはとフェイトの魔法を直撃で受けた少年と少女は揃って海鳴の海中に落下した。
 かなりの高度から落下したため、結構な高さの水柱が出来上がる。それを見ていたエイミィが感嘆の声を上げた。

「さっすがN&Fね。仕事が速い!」



 ユーノはミルズのほうを見ていた。何だか様子がおかしい、いつもの動きでは無いのだ。

 エンヴィーがシグナムと互角以上の戦いをするのは見知ってるが、ミルズだって伊達に空戦AA+じゃない。ランクで言えばシグナムと同等のはずだ。

「でも今は……」

 ミルズは終始エンヴィーに押されている。ダインスレイフを巧みに操りミルズを追い込んでいく剣士。

「ハァハァ」

 ミルズは既に肩で息をしている。ミルズの息の上がり方を観察したエンヴィーはダインスレイフを構えなおし話しかけた。

「本調子ではないようだな?」

(くそ、迂闊だった。ここは月がひとつしかないんだった……)

 グラットンを構えなおし不屈の精神を押し出すようにエンヴィーに挑発をする。

「演技かも、しれないぞ?」

 目の前の肩で息をしている黒翠色の騎士を見つめながら女性剣士はため息混じりに返答をする。

「そのような挑発をすること自体、すでに余裕が無いと見た方がいいのでしょうね……」

 ミルズもこの反応は予測ができていたようだ。一人で攻略法を練っていたときに出た単語、エインに関係するのであろうか?

(さすがにエンヴィーか、グリードやラースとは違う。ならカウンターにかけるしかない!)

 ミルズは口元にやつかせまだ奥の手があるぞ! といわんばかりに。

「なら、試してみてはどうだ?」

 足元に黒のベルカ式魔方陣を生成させカートリッジを3発ロード。グラットンソードを水平にかまえた。

「……」

 ミルズの自信があるぞ! といわんばかりの構えを前にエンヴィーも白色のベルカ式魔方陣を出現させる。

「ご自慢の技……仕掛けてみたらどうだ?」

「なにを考えてるのか知りませんが、死ぬことになる……」

 エンヴィーもダインスレイフを水平にかまえた。月明かりの中、先に仕掛けたのはエンヴィー。

「ゆくぞ!」

「応!」

 白色と黒色の魔方陣が一層に輝きを増しお互いの技の発現を予告する。

「紫光四連閃(しこうよんれんせん)ヴォーパルブレード……」

 エンヴィーはミルズに一気に詰め寄りダインスレイフによる四連の剣戟を繰り出す。
 対してミルズはその場から動かず。
 水平のグラットンはそのままの状態で、迫り来るエンヴィーめがけて五連続の突きを繰り出す。

「剣刺五連(けんしごれん)エヴィサレーション!」

 白と黒の激しい激突。お互いの技を繰り出す前とは立つ位置が入れ替わり。

 エンヴィーは斜め45度にダインスレイフを振り上げた状態。
 ミルズはグラットンソードを水平に突き出した格好でお互い背中合わせで静止する。

 彼等の静止は一陣の夜風が吹くまで続いた。風がエンヴィーの頭から僅かにピョンと出た髪の毛を揺らす。エンヴィーの額からツツーと赤い液体が一筋流れた。

「その技はナイツオブブルーの……」

 エンヴィーはそういって気絶しながら落下する。海に落ちるとラースとグリードと同じように水柱が吹き上がる。

「昔のことだよ、エンヴィー……」

 その場でミルズは小さく呟き、月を見上げてハァハァと肩で息をする。

「ミルズ(さん!)」

 決着をつけた騎士の元にユーノとなのは。フェイトの三人が駆け寄り今までチームで共に行動していたフェイトが心配する。

「ミルズ。どこか具合が?」

「大丈夫ですよ……それよりもクリスタルの回収を!」

 そう叫んだ瞬間海から水柱が上がるとミルズが悔しそうに言う。

「最後の番人が復活か……」
 
「これで、全員そろったな」

 エウリュトスは最後の番人の復活を確認すると。

「ラスト。三人が海の中だ引き上げてくれ」

 フェイト達に撃墜された番人のリカバリーを命じる。ラストと呼ばれた人物は老人の男性だった。

 いかにもなローブいかにもな杖を手にしている。その杖が水色に輝き海中から3つの光の球体が浮かび上がる。

 真ん中にエンヴィー。左にグリード右にラース。さらにラストは左右の球体に魔力の供給を行う。
 みるみるうちにラース、グリードが回復し覚醒する。

 ラストを加えた三人がまたもフェイト達に立ちはだかる。エウリュトスは回収をすますためにクリスタルの方に向かった。

「なにあれ? インチキだよぅ」

 なのはが泣きそうに言う。

「さっきはよくもやってくれたな! 触角頭!」

 グリードがなのはに向かってシミターを構えほえる。

「しょ、しょっかくってわたし?」

 なのはが自分を指差す。フェイトも同じような事言われてるんだと言う様に一言。

「わたしなんか、へびあたまとかって……」

「グリード、ボキャブラリーがお粗末すぎですわ」

 表現力の弱いグリードに突っ込みを入れるラース。

「うるせぇ! 頭からアンテナみてーなもんプラプラさせやがってるじゃねーか! あれはどう見たって触角だ!」

 その突っ込みに素晴らしく素直な反応をする激情家グリード。

「お前達、さっさと相手をするんじゃ」

 ラストが威厳ある声でいう。ラースグリードは口喧嘩をやめてはのはとフェイトの方に向き直る。

「おっとそうだった、こいつらやっちまわねーとな。さっきのようにはいかないんだぜ?」

「おじい様、ラースたちに強化をお願いしますですわ」

「うむ」

 ラストが杖をかざすと二人の全身が黄金色に輝きだす。

「HAHAHA、みなぎってきたZEEEEEEEEE!」

 グリードがそう叫ぶと、先ほどとは比べ物にならない速さでなのはめがけ一気に飛ぶ。

 風切り音が聞こえる位の唸りを上げあっという間に目の前にきて、イモータルシミターを上段から振り下ろす。

【Protection】{プロテクション}

 レイジングハートがオートでプロテクションを出す。
 バチバチと派手な明滅を繰り返すユーノ直伝の防御魔法。なのはの強固な守りに阻まれて決定打にはならないが、じわりじわりとバリアを侵食していく。

「強いの……」

 なのはもこの一撃の強さに守るだけで精一杯だ。

「なのは!」

 ユーノがストラグルバインドでグリードを捕らえるが一瞬動きをとめただけだった。
 それでもなのはにとっては長すぎる隙だった。抜け出してユーノの元にいく高町なのは。自分を助けてくれた少年にお礼を述べる。

「ありがとうユーノ君」



 ラースはミルズめがけグリンタンニを振りかぶって打ち下ろす。

「いただきですわ!」

 巨大なハンマーがミルズを押しつぶしにかかる。だが彼女が思った様には事は運ばなかった。
 フェイトがザンバーモードを起動させ、巨大なザンバーの魔力刃でグリンタンニを止めていた。

「なんですわ?」

「くっ! なんていう力なんだ」

 それでも止めるだけで精一杯なフェイト。

「ミルズ! 逃げて!」

 フェイトが叫ぶも、疲弊が激しいミルズは動けない。

「押し……返せない……」

 ミルズの体にユーノのストラグルバインドが絡まりその位置からミルズを動かした。

「邪魔……ですわ!」

 ラースが渾身の力でフェイトのザンバーを振り払う。というか、ぶち抜いた! ザンバーの魔力刃を破壊する。
 フェイトは離脱して間合いをとる。四人が、ユーノの所に集合する様な感じに集まった。そこでミルズは疲弊しながらも口を開く。

「このままじゃ駄目だ、あの二人を相手にしてはいけない。ラストに狙いを絞るんだ」

「どういうこと?」

 ミルズの言動に疑問をもったフェイトが聞く。

「あれは。スピリットリンクという魔法……一時的に対象者の魔力を大幅にブーストさせる……だから……元のラストを叩けば……効果は消える」

 接近戦を身上とするフェイトとミルズでは強化されたグリードとラースを抜いて、目標であるラストにはどうあってもたどり着けない。
 だが今、こちらにはあの砲撃の天才少女が居るのだ。

 ミルズはなのはにラスト撃墜を託す。

「高町さんの砲撃なら……それが、できる!」

 なのはも心得たといわんばかりに大きく無言でうなずく。

「私が二人を引き付けます……テスタロッサさんはサポートを」

 理由は解らないが、かなりの魔力の疲弊をしているミルズに対しフェイトは叫ぶ。

「無茶だ! ミルズ! 囮なら私が……」

 今の状態のミルズよりは、自分の方が適任だと主張するフェイトであるが。

「大丈夫ですよ、とっておきの魔法があるんです」

 ミルズは心から心配するフェイトに笑顔をみせる。

「全員散開!」

 ミルズが叫ぶ。全員その指示の元に各所に散っていく。
 彼は立ち上がり、ベルカ式魔方陣を形成し残ってるカートリッジをすべてロードする。

「グラットン! センチネル発動!」

【Sentinel set】{センチネルセット}

 グラットンが発声すると一部の甲冑がパージされ両腕がさらけだされる。
 それと同時に多角面体のケージ状のバリアが、ミルズの周りに形成されていく。ミルズはグラットンソードを構え、迎撃の態勢をとる。

「それで、なにができるっていうんだ!」

「わっちをなめるなですわ!」

 グリードとラースがミルズに迫る。

「そうだ! こっちに来い!」

 自分を標的にさせることで、なのはを砲撃に集中させるミルズ。フェイトもザンバーを再起動させて長大な魔力刃を作り上げる。
 なのはもエクセリオンモードを起動させ、足元にミッド式魔方陣をつくる。ユーノはなのはの周りにシールドを幾重にもはる。

「サイドワインダーショット!」

 海の方から声が聞こえ緑の一矢がミルズに向けて放たれた。前方に集中していたミルズはそれに気がつかない。

 緑の砲撃はかなりの威力でミルズを包んでいたセンチネルを崩壊し、なおも威力の衰えない砲撃がミルズを貫く。三人はそれをみて叫ぶ。

「ミルズ!」

 前方のラース&グリードに意識の大半を向けていたミルズは魔法の直撃を食らい、そのまま海に墜落していく……。
 ラースとグリードはフェイトに狙いを変えた。フェイトはミルズに気を取られていたため、反応が遅れる。

「しまった!」

「フェイトちゃん!」

 なのはも親友の名を叫びエクセリオンバスターの態勢に移るのだが。間に合うか微妙だ。
 






 なのは達の斜め上の空に彼女達に気が付かれていない人物が一人いた。
 番人と管理局の戦いを見ていた人物はフェイトに迫る番人に攻撃をしかける事を選んだ様だ。

「ツインピークス。ワイルドファイア」

【ok Wildfire】{了解、ワイルドファイア}

 ツインピークスと呼ばれたデバイスから青い光が発射されグリードとラースにむかって飛んでいく。
 威力も先のサイドワインダーに引けは取っていない程の魔法の光。その光はフェイトに向かっていた少年と少女に容赦なく襲い掛かる。

「何?」
「ですわ?」

 二人はワイルドファイアの直撃を受け二度目の海への落下を体験する。

「何者だ!」

 エウリュトスが叫び、その場に居た全員は光が打ち出された方をみる。




 満月の光に鮮やかに映しだされ長い髪をたなびかせ、黒い羽をいくつも生やし右手にはバズーカを持った黒い色のボディースーツとミニスカートを履く成人女性。

 なのははその姿をみて愕然とした。いやフェイトも同じだ、過去に見た事があるいでたちなのだ。

 二人は同時に声を出す。

「リィン……フォースさん?」

 確かにリインホースだ姿はそっくりだ。
 リィンフォースといわれた女性は海上に浮いたミルズを救い上げ抱きかかえると、バズーカをなのはたちに向けて構え、砲撃を放った。
 しかも声までそっくりである。

「ツインピークス。ヒールバースト」

【yes】
 
 彼女のデバイスから放たれた白い光がなのはたちに向かっていく。

 そして光が分散し三人を包み込む感じに広がっていく。
 効果を確認すると、ミルズを背負った女性は転移魔法を使い出し何処かに消えていく。

「あれは!」

 フェイトはその刹那の瞬間にみた。ミルズの右手首にある十字架状の痣を。
 白い光が消えるとリィンフォースも七罪の番人も消えており、三人だけが残っていた。

「今のは、回復魔法?」

 ユーノが自分の魔力が回復してる事に気がつき。

「なんで、リンフォースさんが?」

 なのはが半年前に見送った人物の登場に混乱し。

「どうして……ミルズに……あの痣が……」

 フェイトは速人と同じ痣を持つ、ミルズ・ヒューディーという存在に困惑する。
 


 その日、月は満月だった。









 ミルズが撃墜された。ミルズを連れ去ったリィンフォースに酷似した女性の消息も掴めず数日がたった。

 なのはも巻き込まれた形となった今回の事件。管理局は七罪の番人関係を『セブンギルティアサルト』と呼称する。

 番人達は現在。蒐集行為を次元世界を渡りながら巻き起こしており管理局はその対応に追われていた。
 神出鬼没でいたる世界に現れては蒐集を繰り返す。闇の書事件でシグナム達が行ったものが可愛く見えるほどだった。

 クロノ達アースラ組はまだエルヌアークから戻ってはいない。

 フェイト達も連日の対応に日々を送っていたが、今日は休みを貰っていた。
 さすがのフェイトたち優秀な魔導師といえど、たまには休みを取らないと体が持たない。
 それに今日は約束の日でもある。そう速人との。

「それじゃ、今日の夜には戻れると思うからフェイトもしっかりね?」

 リンディは通信を切る。義娘となったフェイトからの定時通信を済ませ。彼女は少し微笑む。

「フェイトがデートか。なにか微笑ましいわね」

 リンディスペシャルティーを飲み干すリンディ。家が近いのでリンディも飛鳥姉弟とは顔見知りであるし速人の事を少しは知っていた。

(あの子となら、いいわよね)

 母親としては多少なりとも素性のわかる人物との逢瀬は、なにも知らない人物のソレよりは安心ができるのであろう。



 通信を終えたフェイトはミルズにあった十字架状の痣が気になっていた。

(もし、ミルズが速人だとしたら。私はどうしたらいいんだろう……)

 フェイトは考える。



 速人がミルズならリンカーコアを、それもAA+クラスの強いのを持っているはず。
 それに念話も受信できるはずだ。仮に応答しなくてもチャンネルが繋がれば私には解る。

 今しがた、義母さんと話した魔力光とリンカーコアの色の話し……人の性格と一緒でこの二つは一生変わることが無い。
 私が金色なのはが桜色であるように。

 速人がミルズなら、黒いはずだ……。

 私は今日。それを確かめることにする。

(でも……できれば)





――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼 Distant Worlds――
          第七話 満月の月の下で




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