エルヌアーク調査報告。

 アースラスタッフにより発見された管理外第7番世界の中規模次元震動現象。
 同世界にて管理外世界97番のピラミッドと言われる建造物の出現を事の発端とした、今回の詳細をここに明記する。

 回収されたエネルギー結晶体と文字の刻まれたモノリス。

 モノリスの文字は古代ベルカ言語に非常に似ているため、聖王教会に非公式ながら解読の要請をかける事となった。現在の解読で解っている事柄は、回収した結晶がプロトクリスタルと呼ばれている物で、全部で8種ある。
 回収できたのは光のプロトクリスタル。他に土、水、風、炎、氷、雷、闇、が在ることが解った。

 特徴として名前を冠する属性のエネルギーをため込む性質があり、その量は現在認定されている第一級捜索指定ロストロギアの数百倍とされている。使用目的は未だ解読を待つ状態である。

 
 ミルズヒューディ捜査官。フェイト執務官補佐が遭遇した二人の人物に関して。文字が刻まれた同型のモノリス画から、まるで浮き出るように実体化したのを武装隊員が証言している。
 二名はそのまま局員を数名殺害し逃走。気になる言動を局員が聞いているので明記。

「封印が解けたのか?」

「なら、他の奴らも同じようにもどっているかもね」

 等の会話がされたらしい。


 二名の身体的特徴と名前も戦った二名より判明。

 一人目:自らを七罪の番人。大食のグラトニーと名乗った男。180cmほどの背丈であり、剣と盾を巧みに使いこなす様子。

 二人目:エウリュトスとよばれた者。中性的な容姿で180cm位の背丈。緑色の長髪と同色の弓を所持し上位転移魔法の使用が確認されている。

 ミルズ捜査官の話によると強奪されたプロトクリスタルは色からして闇のプロトクリスタルではないか? との事である。

「ふう」

 本局執務部で報告書を書いていたクロノは溜息をついた。

 あの後。応援部隊と交代でこちらは本局に戻った。現在は整備補給中。いちおう休息指定のはずなのだがクロノは落ち着かないので報告書の作成なんかをしていた。

「そろそろ、時間か……」

 クロノ・ハラオウンは執務官室の壁時計をみて報告書作成を中断し部屋をでた。ミルズとの話合いの為に指定された場所に向かった。





「コーヒーでいいな?」

 ミルズはクロノに答えを待たずにカップを渡す。クロノはそれを受け取る。
 二人がいる場所は本局医局のレストルーム。コーヒーを飲みながらクロノが切り出す。

「話しと言うのは何だ?」

「今回の捜査なんだが、私も最後まで関わらせてくれないか?」

 クロノの問いかけに、今までの担当した捜査案件を思い出すように目を閉じるミルズ。

「ロストロギア回収のスペシャリストなんて言われてはいるがその実。探査調査の初動扱いのみで最後まで関わった事件なんて一つもない」

 クロノはミルズを見つめながら考えていた。ここ2年程のつきあいではあるが、ミルズが保有する希少技能。
 物体魔力解除『ディスペルマジックオブジェクト』は探査回収捜査向きで戦いに向いてはいない。だからこその広域特別捜査官でもありクロノ自身も初動捜査だったのでミルズを使った訳だ。

 回収が済んだらサヨウナラをするつもりもないのだがミルズから嘆願してくるのも初めてのことだった。

「肩の怪我はどのくらいでなおるんだ?」

 コーヒーを飲みつつミルズの容態を確認をする。

「4、5日もすれば平気だとは言われたけどね」

 ミルズもコーヒーを飲みながら応える。

「アースラの出航は一週間後だ」

 今の返事を継続させる答えとしたものの、クロノはミルズに質問する。

「君に質問だ、回収をメインに動いてる君が、何故今回は最後まで続けたいんだ?」

 ミルズはクロノに真剣に答える。

「たまには、ケジメをつけてみたいんだよ」

「……そうか」

 報告書の残りがあるから失礼する。そう言ったクロノは笑ってレストルームを後にした。クロノを見送ったミルズの表情には陰りが見える。

(もし、本当の事を伝えたら……クロノ……君は私を恨むだろうな……)
 
 彼はクロノに本当の目的は伝えなかった。
 
(エルヌアークを探し出すのに時間が掛かったのが痛かったな。まさか管理外世界になっていたとは)

 一人レストルームに残ったミルズはアースラでモノリスの文字を解読していた時のことを思い返す。
 彼が読み取った解読内容はクロノやリンディには伝えていない。

(モノリスに刻まれた文字は間違いなく生まれ出る命に関係しているものだ。解読した内容のとうりだとしたらその日が近い……)

(番人も復活しているし『彼女』との連絡もとれない。番人が生まれ出る命を見つける前に何とかしないといけない、そのために私は管理局に入ったのだから……王女……あなたの想い必ずや……叶えてみせます)

 飲み干したコーヒーのカップを握り潰したミルズには悲壮なる決意の表情が浮かんでいた。







 第61管理世界スプールス。数多くの希少生物や植物が存在する世界。

 時空管理局自然保護隊が派遣されるような世界である。ここの生物が次元世界においてかなり貴重な存在だと言う事が理解できるだろう。

 スプールスでの移動手段は管理局によって規制されており次元港を除くエリアでは馬車か騎乗馬に乗っての移動、もしくは徒歩となっている。

 その為、馬が一日で走破できる距離には必ず宿場町が設けられ、スプールスに住む人々はこの世界に訪れる観光客が落としていく資金で日々の生活を送っている。

 ある場所の宿場町。その観光宿の一室には一人の男が滞在していた。

 エルヌアークでフェイト達と戦闘をした大男グラトニー。彼はあの後61世界に転移したようだ。もう一人の男もこの世界に居るのであろう。

 グラトニーの姿は無骨な全身鎧姿ではなく、いたって普通の格好である、特徴としては大柄な体格、重い武具を扱う為に養われた筋肉が目立つ、一言でいうならマッチョマンと言うところか。



 現在彼が何をしてるのかと言うと、彼と同じくモノリスの封印から解かれた男、エウリュトスとなにやら通信している様である。

「ふむ、この世界に風のプロトクリスタルの波動を感じるのは間違いは無いんだが」

「グラトニーが言うなら在るんでしょうけど……私では波動を感じる事ができないんですよね……」

 エウリュトスの泣き言に近い返事にグラトニーは困ったものだという表情を見せたが、すこし考え意見を述べた。

「まてよ、確か……この世界には風竜がいたな? 奴ならプロトクリスタルを手元に置きたがるのではないか?」

 グラトニーが言う風竜とは、この世界の象徴とも言える存在であり、名をリンドピオリムという。
 彼等が探しているプロトクリスタルという存在は竜族と呼ばれる種族が好む波動を出している。この事を思い出したグラトニーの発言であった。

 リンドピオリムは普段一般人が到底入る事ができない夢幻の回廊という場所におり、ごく稀にスプールスの大空を飛ぶ。

 グラトニーの意見に通信相手である緑髪の男はなるほどね、というニュアンスの返事を返してきた。

「つまりそいつから奪って来いと言うんだね? グラトニーも人使いが荒いよね。まぁいいや行って来るよ」


 エウリュトスは通信を切った。通信が切れると筋肉の大男は今まで座していたベッドから立ち上がり、地図を手にしてつぶやいた。

「まずは、ラースの行方を探さんといかんな……」

 ギシッ! と部屋の床板が彼の体重を支えきれないよ、と言うような悲鳴に近い音をあげた。


 七罪の番人、大食のグラトニー。

 彼は1日歩き続け彼が封印されていた同形のモノリスがある所に到着していた。その場所とは、管理局によって立ち入り禁止に指定されている森林の奥深い場所。迷い家の森。

 辺りはすっかり暗くなっており大男はランタンを手に持ち二つのモノリスを見つめていた。彼の表情はとても穏やかなものであり微笑んでいるとも取れる感じだ。

「フフ……相変わらず。仲が良いのだな」

 モノリスに描かれている画。一つ目は小さな少女がほぼ全裸に近い状態で胸の中央にハンマーと思えるペンダントがかけられている画。

 もう一つの方は少年で、少女の画と同じようにほぼ全裸に近い状態で右手に湾刀状の剣を握っている。

 かなりの時をこの場所で過ごしてきたのであろう。モノリス自体に蔓や草が絡みつき部分的に苔まで生えていたりする。その邪魔な物を丁寧に払いのける筋肉男。

「ラースにグリードよ……今おこしてやる。長い休眠は終わりだ」

 グラトニーが指先に魔力を込めると、右の人差し指が金色に光り出す。

 ブツブツと魔法の詠唱をしだす筋肉男。やがて詠唱が完了したのかモノリスに六角形の魔法陣を器用に描いていく。

 モノリスが金色に輝き始め、描かれていた画が立体化して出てくる。モノリスから分離をした二つの立体は完全に人と言える状態になる。

 男の子はそのまま倒れこみ。女の子の二人は静かに閉じていた両目を開いてか細く声をだす。

「ここは……どこですわ?」

 女の子が喋るとグラトニーは二人にマントをかぶせて話す。

「ラース、今は喋るな、後でゆっくり話してやる」





 夢幻の回廊では、風竜の無残な死体が転がっていた。緑髪男の手によって命を絶たれたのであろう。

 リンドピオリムの体各所には弓矢で射抜かれた跡が多数あった。弓士エウリュトスの壮絶な技をその身に受けた為に出来た跡から絶え間なく赤い血液が流れ出しているのが痛々しい。

 絶命した風竜の真上でエウリュトスは座している。右半身に大きな緑色の弓を抱えてグラトニーと通信をしていた。

「ああ、グラトニーの言う通り、風竜(リンドピオリム)が持っていたよ」

 貴方のご推察の通りですという返事をしながら弓士は回廊の最深部に存在している緑色の水晶体を見つめていた。

 風のプロトクリスタルは、こうして七罪の番人の手に入った。



    ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼 Distant Worlds――
              
             第三話 スプールスの光景













あとがき

久遠天鈴の皆様、初めまして南透(みなみとおる)と言う者です。

ここまで読んで下さり誠に有難う御座います。

私自身、此処の読者として皆さんの作品を読ませて頂いています。
管理人さんを筆頭に素晴らしい一人称を書かれる方が沢山いらっしゃる中で三人称(と呼んでいいものかどうか)を主体に書き投稿したHではありますが。
地の文等、至らない所が多々あるかと思います。それらを含めご意見感想等を頂けると嬉しく思います。


東方二次の方も書きますので皆さんどうぞよろしくお願いいたします。

(東方の人物達の設定等を色々教えてくださると助かります)

それでは次回お会いしましょう。



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