異変が終わり早一週間が過ぎる。
 そして俺は一人門の前でいつもどおりに花の手入れをする。
 この一週間のうちにいつも通りとなったと言ってもいいのだが、最初の二日くらいはメイド服を着ないようにしていた。だがその度に首を切断されては体が持たなくなるので今はメイド服だ。

「あ、ケイさん」
「ん、あ〜、マリーさん」
「今日もいつもどおり花の手入れですか?」
「まぁ、そんな感じですよね〜」

 今話しかけてきたのは妖精メイドのマリーさんである。少しばかり特徴的な跳ねているアンテナ髪に、俺より一回りくらい小さい身長の完全にロリっていう感じの人だ。
 いつも屋外周辺の見回りと花の仕事に携わっているわけである。
 いやはやそれにしても紅魔館で勤務しているメイドさんたちは全体的にレベルが高すぎる気がするんだよね。でも妖精って自然の具現だから、所謂理想のメイド象っていう奴なのかもしれないな。
 で、そんな中俺は何でメイド服で作業しているのだろうと時々考えるようにはしている。
 だってさ、もしもこれが普通って考えた時には俺、身も心も女の子になってるんじゃないかって思えるからさ。

「ケイさんが来てから門の周りの御花がとてもよく咲くようになりました。本当にありがとうございます」
「いえいえ、まだ一週間くらいしか経ってませんし、それに俺一人でこんなにできるわけないじゃないですか」

 そうだそうだ、マリーさんの方が花の世話はうまいだろうし、なにより花の世話が楽しくて仕方がないっていう顔してる。
 俺はというと、まぁ現にこの紅魔館での作業は楽しくて仕方がないわけだ。
 だってさ、あの神社でやることといったら飯作って、掃除して、里に出かけて、遊んでくらいで正直朝と夜以外にすることなんて何もなかったしな。
 いや、まぁそれが楽しいっていうのもあるけどさ、それはそれ、これはこれだろ?

「それよりもケイさんて本当に男性なんですか?」
「あの〜、その質問、毎日一回は聞いてる気がするんですけど?」
「だって、とっても可愛らしくて、花を世話している姿なんて本当に絵になるんですもの」
「うわ〜、男としての威厳が全くないな俺」

 そんなに似合っているものだろうかと一瞬考えてはみるが、それはつまり今の自分の姿を第三者から見た感じにするわけで、自身が女装している姿など想像したら頭痛がしてくる。
 もしもこれでかわいいとか思える奴はナルシストに決まっているが、まぁそんな奴そうそういないだろう。

「女の子だったら、モテモテなのにね〜」
「女の子だったらって表現はやめてください、本当に」

 朝起きたら男の勲章が消滅していて女の子になっているなんてことがありそうで困る。そう感じてしまうのがこの幻想郷の一番怖いところだ。
 お、茎曲がってるし、ちょっと枝を添えて補強しとくか。
 
「よっしょっと、よしこれでここは終わり」
「お疲れ様です。でも働くのもいいですけどそろそろ朝食をとってはいかがですか?」
「あ〜、もうそんな時間?」

 そう思って顔を上げれば時計の姿、時計の針は朝の9時を指しており、そろそろ俺の飯の時間というわけだ。
 この後はマリーさんに引き継ぐ予定だったし、ぱっぱと飯を食べに行くとするか。
 
「それじゃ御言葉に甘えさせてもらいますね」
「はい、どうぞごゆっくり〜」

 そう言ってマリーさんはどこぞへとふらふら歩きに行ってしまう。
 少しばかり天然が混じった性格をしているせいかもしれないなどと思いながらのんびりと食堂へと足を運ぶ。










 さて、俺の飯は確かに用意されているのだが、なぜこいつがいる。

「グッドモーニング圭介」
「なんでレミリアがいるんだよ。まだ寝てる時間じゃないのかよ」
「あらあら、そんな露骨に機嫌悪くしなくてもいいじゃないの、可愛いわよその格好」
「くっ!」

 朝の料理は多分咲夜さんが作ってくれたものだろう。とてもおいしい、おいしいけどレミリアがいると何か本当に味の質が落ちる気がしてならない。
 いや、別にレミリアのことが嫌いってわけじゃないぞ。ないんだけど、なんか毎度毎度いつも来ているメイド服が少し寄れていないかとか気にするんだよ。
 つまりだね、ある意味でレミリアによく見られているわけだ。

「あら、少しリボンが曲がってるわよ?」
「だから、そういうこといちいち気にする必要ないって」
「何言ってるのかしらね。ほらちょっと動かないでおきなさい」
「はい」

 首筋に爪が添えられていることを知るともう動けない。

「やっぱりリボンの形を新しいのに変えた方がいいかしらね?」
「いや、あのですねこれはこれでいいですよ〜」

 できる限り褒める。ほめておけばいい感じに事が進むはずだからだ。
 っていうかレミリアにとって俺はあれか、着せ替え人形と同じなんじゃないか?

「そう、圭介が喜んでいるのなら私のセンスに狂いがないってことね」
「あのさ、咲夜さんとかに頼めばいいんじゃないの?」
「だめよ、咲夜は従者であって人形ではないもの、あなたは人形理解できた?」
「納得いかねぇえええええええ」
「騒ぐなんてメイドらしくないわ」
「俺はメイドじゃねぇって言ってんの。てかよくよく考えれば俺は執事でもよかったんじゃないの?」
 
 その言葉にレミリアはなんともつまらないものを見る様な眼で俺を見て。

「だってそれじゃつまらないじゃない」

 そう呟いた。
 俺はお前の操り人形になった覚えはないし、この半年間の生活でお前に洗脳されようなどと考えてもいないぞ。
 まったく、最初は包容力のある心の大きい主かと思ったが、やっぱり見た目と同じでロ―――
 その瞬間、俺の首元をナイフが飛び去っていく。

「その言葉が出ないように脳みそを掻きだしてあげましょうか?」
「イエイエ、ソンナシンパイハイリマセンヨ」
「そう?」
「ええそうですとも」

 まったく、油断も隙もあったものじゃないな。今度からは心の言動にも注意を払わなければいけないね。
 そんなことを思いながらのんびりと料理を食する。
 できれば今は食べることだけに集中していた方がいいだろうし、咲夜さんの作る料理はやはり美味しい。

「それで、ここでの作業にはなれたかしら?」
「う〜ん、それなりには」
「それなりね。今、あなたをどこの部署に回そうか考えてるところだけど、あんた以外と人気あるわよ〜」
「一週間でそんな人気が出るとは思えないんですけど」
 
 そう言って紅茶を飲む。

「それがそうでもないわよ。なにせこれで男っていうことで興味心身の子が多いみたいだから」
「ぶ〜〜〜〜〜〜〜、けほけほっ!」
「ちょっと汚いわよ」

 思わず吹き出してしまった。なんだそれは、それってつまり俺はみんなから人形みたいに思われているってことじゃないのか。

「まぁ、どっちかっていうと男っていう奴に興味があるだけなのかもしれないけどね」
「はぁ、それってどういう意味?」
「そのままの意味よ。現に今回初めて男っに会った子だっているわ」

 それはそれで何か初々しい反応というものがあるはずだろうが。
 しかし俺のような奴が男の代表格になったら、里にいる猛者達に出会った瞬間泣きだすことになりそうで困る。
 
「まぁ、これも私のコーディネートのおかげね」
「ああ、それには同意しておいてやるよ」

 そう言って最後の紅茶を飲み終え、すぐに席を立つ。
 このままここにいては無駄に時間のかかる話に付き合わされそうだし、この後はノーレッジの仕事を手伝うっていう仕事があるんだ。

「ふふ、かいがいしく働くのはいいことよ」
「はいはい、それではお嬢様。私はこれで」
「ふふふ、その言い方も可愛いわよ」

 軽いお辞儀をしてから食堂を出て吐き気を覚える。
 自身が行っていたことを思い出すともう泣きたくなるくらいだ。

 さて、さっさとノーレッジの仕事の手伝いにでも行くか。
 
 



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