「みんなして置いていくことはないだろ?」
 
 完全に命尽きるその時まで意識を失っていた俺ではあるが、気づけばなんとも悲しく誰一人として待っていてはくれなかった。
 いったい何が起きたのか、それを考えなければならない気がしているが、多分首元を大きく切り裂かれたであろう大量の出血の跡があり、記憶の片隅にあるルーミアの台詞を思い出せば容易に想像できてしまう。
 周りを見たところで特に誰も倒れていないところを見るとルーミアだけが俺の死体を目撃したことになるだろう。おまけにやっぱりルーミアはすこしばかり頭のねじが抜けている。

「これを辿ってけば多分追いつけるだろうな」
 
 ご丁寧に血の跡が点々と廊下の奥へと吸い込まれるように続いているわけで、この先に多分大所帯な人数が待機していることになるだろうし、多分霊夢と許斐にも追いつけるだろう。
 しかし、なんだろうか、この先に行くと面倒なことに100%巻き込まれる気がしてならない。
 主に死ぬという問題である。一緒に戦うとかそういう友情活劇的な面倒じゃなくて死という名の面倒なことにだ。
 だが、ここは早く後を追いかけて誤解を解かなければならないだろう。そうしないと胃に穴が開きそうになる。
 館の中を点々と落ちる血の跡をのんびりと追いかける。この先はあまり戦闘も行われなかったようではあるが、どうやらすでに先行していた二人が色々とやっていったらしい跡が見て取れる。
 妖精メイド達がバタバタと倒れて、窓ガラス突き破ってるし、壁紙剥がれてるし、絨毯破けてるし、色々と挙げればきりがないほどに壮絶な状況が出来上がっていた。

「これ、弁償することになったらいくら必要なんだろ」

 まぁ、なぜかニートなのに巨万の富を持ってる許斐にでも任せればいいだろう。俺は全く関係ないはずだから、はずだよな。
 関係がないということを若干祈るようにしながら、その赤い点々の後を追っていくとある場所でそれが完全に途切れる。
 目の前には開け放たれたというよりはマシンガンの銃弾を喰らったかのように窓枠ごと吹き飛んだ窓の後、そして少しばかりだが聞こえてくるなんとも言えない発射音の数々。
 この先以外の説明文がいらないこの状況に俺は正直なところ踵を返して神社に帰りたいとさえ思った。
 だけど、一応ここまでは来てしまったし、そんなラスボス目前で踵を返して最初の村まで戻ろうなんて猛者はあまりいないだろうし、ゲームなら許されるが現実なら完全なヘタレじゃないだろうか?
 もうなるようになれ!
 そんな思いとともに俺はぽっかりと空いた穴から外へと飛び出す。
 そこは時計塔の真下で、その爆音はどうやら真上のほうから聞こえるらしいということだけが理解できて、すぐさま上に向かって上昇を開始する。
 壁の至る所に空いた穴を眺めていると、一つだけ本当に大きい穴があってそこに小さな光がともっているのを発見する。

「あ、市ノ川だ〜」
「動かないで、口についた血がとれないわ」
「むぐぐぐぐ…………」

 そこには、汚く料理を食べた子供の口元を拭くように今さっきいたメイドの咲夜さんがルーミアの口をハンカチで拭く姿と、奥で魔導書を開きながら雑談をするノーレッジ、魔理沙、そして小悪魔さん、さらに氷を作ってはそれを使って見事な彫刻へと変化させているチルノ、美鈴、大妖精たちの姿があった。
 どうやら誰一人としてあの爆音の風上に行くつもりなどないようで、ことの成行きをのんびりと見守ろうという魂胆になっているようだ。

「あの〜、みなさん。上には行かないのですか?」
『………………』
「市ノ川だけ行けば〜〜〜」
 
 唯一返事を返したルーミアに、わかったとだけ呟き、俺はその穴の人たちに別れを告げる。
 ああ、どうやら俺の誤解が晴れることはもうちょっと先のようだ。人の噂も75日、二ヵ月と二週間くらいはもう変態呼ばわりされることを覚悟して、上へと昇る。
 そして、時計塔の天辺が見えるかというところで。
 ひゅんという音と共に頬を何かが掠り飛び去っていった。
 今のは何だ、一体何なんだと思いながら上を見上げれば、これが三次元の弾幕だと言わんばかりの弾幕が広がっていた。
 縦横、全方位にわたって赤い玉がうねるように動き、その中を見知った二つの人影と、黒い羽根を生やした白い影が可憐に踊っている。

「なかなか、やるわね」
「まったく、そんな昼間も幻想郷歩きたいからって、こんな異変を起こされるのは迷惑なのよ!」
「う〜、この子可愛い!」

 一人ばかりこの弾幕光景に似合わないセリフを吐いているが、おおむねこの三人の戦闘は長く続いていたらしい。
 どうやら霊夢の持っているお札もそろそろ終わりを迎えようとしているようだし、飛びまわっているロリの手から放出される赤い玉の数もだんだんと少なくなっている。
 というか許斐はなんであの中を優雅に動き回ることができるんだ?
 俺でもまぁ、それなりに動き回ることはできるが、どうしてそんな玉擦れ擦れで避ける。
 避けている最中の許斐の恍惚な笑みが少々危ない気がするも、そろそろ決着がつきそうだなと思いながらその状況を観戦を続ける。

「良いのがいるじゃない」
 
 そんな不吉ワードが届いたのである。主に俺の耳、距離3mくらい、あれ、今さっきまで20mくらい離れたところで戦闘してたはずなのにって思いながら顔を戻せば、何やら赤い鉄拳が俺に向かって飛んできているわけで……………
 拳はそのまま直進して俺の左肩を抉ってそのまま一緒に空へと連れて行く。今の状況を端的に説明すれば、肩骨でひっぱりあげられている状態であり、つまり失神するくらいに痛い。

「!#!%$#!!!!!!」
「圭介さん、神社に帰ったんじゃなかったの?」
 
 真面目に痛いのでその台詞に対して言葉を返す余裕がないし、今さっき鉄拳をくれた少女はすでに後ろに回り込んでいるわけだ。
 盾としての役割というわけではないようで、少女の舌舐めずりする音が聞こえてくる。

「ふふ、あんたらの友人みたいね」
「ケイちゃん!」
「ちょっと、ルール違反してんじゃないわよ。今すぐ圭介さんを放しなさい」

 霊夢と許斐の叫ぶ声が聞こえるが、どうもこの肩を抉られている以上に凄惨な状況が広がる筈で、できればそれは見ない方がいいって言おうとするがやっぱり口が開かない。
 これならいっそ殺してくれというものだが、多分それはすぐ叶うはず。

「関係ないわ、これはあなたたち二人との真剣勝負であって、このかわいそうな男とは全く関係ないもの」
 
 その言葉とともに首筋に当てられる爪先。いや手全体で首の横筋を掴むような感じに包んでいる。
 ああ、これは痛いぞ。真面目に痛いぞ、肩の痛みはもう言葉にできないけど、これは肩を超えるぞ。

「ごめんなさいね、首にわざわざ歯を立てるのめんどくさいから、垂れ流しにさせてもらうわね」

 いや、ごめんなさいって言うならすぐにその行為をやめていただき―――
 バギャ……………
 首が取れそうになる、完全に首の皮膚と筋肉を失って俺の首筋が完全に削げ落とされる。
 痛いってもんじゃない、すぐに死ねないこともあってその痛みに目が大きく見開く、すでに後ろにいた少女は正面に回って首から垂れ流し状態になっているその血液をゴクリゴクリと飲み干していく。
 目の前が紅く染まっていくにつれて首から流れ出る血がなくなって、肩を抉っていた手が抜き取られる。

「おいしかった」

 おいしかったじゃないだろ。
 そんな言葉もむなしく俺の体は重力に従って落ちるわけで、同時に意識も消える。
 というか疲れた。

「って、すぐに眠れる状況じゃないよな!」

 すぐさま復活してもう一度空へと昇る。
 いやはや、いきなり首を切断されるとは思わなかったぜ。
 空へ昇ると案の定、少しばかり放心状態な許斐と、何か火が付いてる霊夢と、俺の血を吸ってそれなりに元気になった吸血鬼の姿があった。
 
「おい、そこのロリ!」
「なっ、私をロリって呼ぶなって、あれ、あんた?」

 華麗に飛んでくる札を避けながら俺を見てあるぇ〜って顔をするそのロリ。
 いくらなんでもそのあるぇ〜顔はやめてもらえないだろうかね?
 そして俺の登場に動きを止めたのは霊夢も同じで、攻撃をやめて俺を凝視する。

「ちょ、ちょっとまて。なんで圭介さんいるのよ!」
「おっす!」
「おっす!じゃないわよ」

 うわぁ、あの霊夢が取り乱してるよ。
 これはこれでいいものを見れている気がしてきた。
 と、いきなり横腹に誰かからタックルをかまされる。

「ケイちゃん!!!!!!」
「うぐ、なんでタックルする許斐」
「だってだって、すごいことだよ。私知らなかったんだもん!」

 なんだ、この目をキラキラさせている許斐は。
 そしてこいつはこんなことを言った。

「ケイちゃんがマジックできるなんて。今のあれだよね、解体マジックって奴だよね!」
「…………」

 俺はいま、多分だけど恐ろしい顔をしていると思う。
 なんだこの天然、普通あれがマジックに見えるわけがないだろう?

「ってことはあの子もグルってこと? 知り合いなの?」
「いやまて、あのロリとは初対面もいいところだし、第一あった瞬間に首もぎ取って血を吸う奴がどこにいる!」

 あってすぐに食い散らかすルーミアという知り合いは確かにいるが。
 あれはあれで先天性な食いしん坊なだけだろうしな。
 と、そこで全く話に付いていけてない二人の視線に気づく。
 その顔は本当に呆れた顔をしていて、ロリに至ってはあんたと知り合いなわけないじゃないという顔さえしている。
 そして、もうこっちに顔を向けるのは疲れたのか、二人は何やら話しあいを始めていて。

「で、どうしようかしら?」
「そうね。興醒めもいいところだし、じゃんけんで勝敗決めない?」
「いいわねそれ、私が勝ったら一週間この異変を継続させてちょうだい。スペルカードの戦いは、癪だけどあんた一枚も使ってなかったから私の負けでいいわ」
「あらそう? それじゃ私が勝ったら明日にはこの異変を解決させてちょうだい」
「わかったわ」

 なにやら、とてつもなく重要なことをとても簡単なことで解決しようとしている気がするのは気のせいか。
 でも、なんだその前にっと。

「はいはい、もういいだろ許斐。早く離れる」
「あ、ごめんちぃ」

 変な台詞を吐きながら離れる許斐。
 くそ、許斐の発言のおかげでなんかとても寂しい終わり方したじゃないか。

「それじゃ行くわよ!」
「来なさい人間!」
『じゃんけ〜ん…………』





 



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