「へぇ〜、あなたがここに来ているなんて知らなかったわ」

 そう言いながら俺の横を飛ぶのはパチュリー・ノーレッジ、この紅魔館の図書館。
 前回のヴワル魔法図書館の住人であるというのがこの紅魔館に住む者の認識であるわけだが、俺は違う認識を持っている。

「俺もおまえがここにいるなんて知らなかったし、っていうか予想するのが不可能だって、90年くらい前に別れて以来だろ?」
「それでよく私だってわかったわね。っていうかなんであんた生きてるのよ。自己紹介じゃただの人間とか言ってたくせにね」
「うるせ〜、あんな場所で意味不な発言したら、実験台にされかねねえんだよ」
「そうかもしれないわね、あの頃の私だって放って置かないわよ。まぁ、結果的にあんたとペアを組むことになったわけだけどね」

 含んだ笑いを見せながら俺を見下すノーレッジ、その何というか何を考えているかわからない笑みは正直な所、昔から変わっていないわけだ。
 このまま昔話に花咲かせたいところではあるのだが、今はそんな呑気なことをしていていい雰囲気ではないのである。
 なにせ、この廊下は完全なるメイドinヘブンとなっているからである。
 
「ううううう、も、もうがまんできにゃい」
「ルーミア、あともう少しの辛抱だからがんばれ」

 すでに空腹が臨界点に近づきつつあるルーミアは下にあふれる食卓の嵐に負けそうな雰囲気である。
 全く、今日はとことんいろいろな奴と会うことになるなと思いながらも、そのまま進行を続ける。
 ちなみに今のパーティーは、もしも俺を勇者とするならば、美鈴が格闘家、チルノは遊び人、ルーミアが盗賊、ノーレッジが魔法使い、小悪魔さんがやっぱり魔法使いなのかな? 
 しかし、大ちゃんだけ何なのか思いつかない。あの性格とあの容姿からじゃ囚われているお姫様役が適任かもしれない。
 そんな空想ドラフタ(ドラッド・ファンタジア)の内容を考えながら進んでいくと、なにかとても嫌な予感が近づいている感じがした。

「中々にやるみたいねあの三人」
「これって全部咲夜さんのナイフですよね」
「結構本気な量ですね」

 紅魔館の住人三名がそう淡々と言葉を漏らす壁、その壁にはなんというか何十本ものナイフが刺さりまくっていた。
 状況を説明すると、今からこの先の空間にはナイフが一杯散らばっているし………

「うおっ!」

 とっさに体を捻って奥から飛んできたナイフを避ける。
 つまりはそういう空間だということさ。
 
「流れ弾ならぬ、流れナイフね」
「当たったら痛そうですね」
「あたいはさいきょーだから当たらないけどね!」
「う〜、ナイフは食べられないからいらない〜」
「本当、咲夜さんナイフの投げる速度速いから」
「本当に危ないですね」

 そんなことを言いながら俺の真後ろへと避難する五人、ちょっとまて俺はゴーレムでもなければモノリスでもないんだぞ?
 それにあの速度を食らったら間違えなく一度死ねるぞ?
 できればまだルーミア以外には俺が不死に近い人間であることを告げたくはないんだよ。
 だってノーレッジあたりは絶対俺を実験台に遊ぶつもりだからさ。

「ほら、さっさと進みなさいよ。レディーを守るのは男の使命なんでしょ?」

 くそ、また懐かしい話を振り出しやがって、あとで覚えてろよ!
 覚悟をきめていざ奥へと進んでいく。
 時々本格的にやばい速度で飛んでくるナイフを避けると、後ろにいるみんなも同じように避ける。
 たぶん真正面から見たら恐ろしい光景だと思うが、今はそんなことを考えている暇はな――ー

「ぐぎゃあああああ、腕に刺さったぁぁぁぁ!!!!!」
「ざんね〜ん」
「痛そうですね」
「ふふ、やっぱりあたいこそさいきょーね」
「うう、血のにおいがするぅ〜〜。たべもにょ」
「さっさと進みなさい」

 そろそろお腹も精神もパンパンになってはち切れてしまいそうなのですが、もう仕方がないのですよ。
 このまま胃に穴でもあいたらどこかで自殺してやる。

「おほ、おもしれぇ〜、あんた面白い攻撃してくるな」
「うるさい、今度こそ落ちなさい」

 すると、奥のほうから何やら二人の声が聞こえてくるわけで、その片方が聞き覚えのある声であることに俺は少し安堵する。
 その代り、後ろにいる方々の顔が少しばかり暗くなったのは疑いようのない事実であるが。

「俺が殺されるかもしれない」

 背中に感じる刃物のような感覚に身を震わせながら、声をかける。

「おーい、魔理沙〜」
「なに、援軍。先に落ちなさい!」

 そう言ってその魔理沙と対峙している人物、これまた本当にメイドって感じの人が俺に向かって一本のナイフを投げてきた。
 しかも激で遅い、これは軽く避けられると思ったら、いつの間に後ろに待機していたはずの六名がその姿を消していた。

「あれ? みんなどこ?」

 その瞬間、目の前にあったナイフの数が一気に増えた。
 本当に一瞬だった。どれくらい一瞬だったかというとすまんうまいたとえが見つからない、っていうかそんなことを考えている場合じゃねえ!

「うおおおおほほほほほほ」

 どこかテンションがハイになっちゃってる自分に、少しばかり恐怖しながらも、弱々しい霊弾をピコピコとナイフへと発射する。
 しかし、どれもこれもナイフに力負けして消え去ってしまうのであった。
 そして10本中、3本が俺の腕に着地した。

「ぬぎゃあああああああ、真面目に痛い!」

 流血中!
 もう右腕が使い物にならない状態になっているが、一応避けきったぞ!
 そう思って顔をあげてみると、何かが横を通り過ぎた気がした。

「圭介イイところにきたぜ」
「げっ、魔理沙。なんで俺の真後ろに回るんだよ」
「何言ってんだよ。ナイトはクイーンを守るものだろ? というわけで盾だぜ」

 そう言って俺の真後ろに待機しつつ、魔理沙は何やら準備をこなしているようだけど、俺のことを睨みつけてきてるそのメイドさんはもうナイフを投げる気満々で、こんな避けられない状態でまた投げられたら死ぬ。
 
「これで終ね。秘技『殺人ドール』」

 そう言って懐から何かカードのようなものを取り出してって、あれが俗にいうスペルカードって奴か?
 そんな考えをすぐに捨てざる負えない事件が起きる。

「よし、準備できたぜ」
「ちょ、ちょっとまて魔理沙。俺の背中に何を押し付けている!」

 目の前からはすでに発動されたスペルカードのナイフが大量に押し寄せ始め、一瞬だが、何か船が見えた瞬間にそのナイフの方角が隙間なくびっしりと広がり襲い掛かってくる。
 だが、目の前のナイフより俺は怖いものがある。
 それは魔理沙が俺の背中に押し付けている何かである!

「魔理沙、冗談だよな? 俺達友達だろ?」
「ああ、友達だぜ」
「だ、だよな?」

 やばい目の前から迫ってくるナイフ以上に背中が怖い、どれくらい怖いのかっていうと初めて殺されると思ったときと同じくらい怖い。
 だって、もう嫌な予感しかしないんだ。

「友達だから友達のピンチを救うんだぜ!」
「いや、ま――」
「恋符『マスタースパーク』」
「やめてぇぇぇえぇ」

 その瞬間背中に猛烈な熱さと光を感じて、俺は消失することになるのだが、消失する瞬間、メイドの姿が見えてそのよくわからないけど、何か柔らかいものにあたった気がしたのだった。



 生き返り完了。
 改めて思うのはここが今さっきの廊下だったのかということである。
 まるでこの廊下くらい大きい掘削機が通っていったかのように壁紙も剥がれ、シャンデリアもランプも落ちてしまったこの場所が今さっきまで激闘を繰り広げた廊下だとは思えなかった。
 そして俺の目線の先にはメイドさんがいてですね。はい、これはつまりどういう状態でしょうか?

「圭介、大丈夫――」
「てめぇ、むちゃくちゃし過ぎじゃこらぁ!」

 しかし、今さっきの出来事を思い出した瞬間に俺の怒りは一応頂点からすごく下のあたり位まで爆発したわけである。

「いや〜すまんすまん。でも圭介ならどうにかなると思ったんだよ」
「そうかいそうかい、どうにかならなかったらどうするつもりだったんだよ」
「その時はその時だぜ」

 こいつ、いい根性してやがるじゃねえか。
 まっ、いっか。それより魔理沙はなんで俺のことをそんな変質者を見るような顔で見るかね?

「それより圭介。お前は女性の敵だ。女性の敵は成敗しなくちゃならない」
「はっ、何言って…………」

 そこでふと何か柔らかいものに触れているような気がしてきて………
 そこで俺の右頬に誰かの渾身のナックルが食い込み、俺はきりもみ回転しながら近くの壁に激突したのであった。

「咲夜さんに気安く触るな変態」
「美鈴いい仕事するわね。これなら紅魔館の未来も安泰だわ」

 ノーレッジの台詞と美鈴の台詞を交互に聞きながら、俺はその体に鞭を打ちながらも力強く立ち上がる。
 それにしても美鈴のあの反応速度、やばいし。実は殴られた瞬間に一回死んでたりするんだよね。

「はっ、私は何を?」

 しかも本能的な反応だったのかよ。
 そんなことを思いながらも、目線を向ければなんていうか俺とみんなの距離が精神的にも現実的にも遠ざかっているような気がしてですね。
 あれ、なんでこんなことになってるんだ?

「大ちゃん、あの人間には気をつけたほうがいいよ」
「うん、チルノちゃんもね」
「パチュリー様、本当に圭介っていう人間と知り合いなんですか?」
「どうだったかしら、他人の空似かもしれないわね」
「咲夜さん大丈夫ですか、何かよくわからないですけど、危険は私が排除しましたから」
「まったく、圭介は節操なしだぜ」

 みんなが俺から距離を取っていた。
 すると俺の背中をポンと叩く人影があってそれが残りのルーミアであることは一目瞭然だったが、なんというか肩に乗せてある手の感じがあれですね。
 すごく力強い。

「それじゃ、私たちは先に行ってるからよろしくね」

 えっ、先に行ってるってどういう意味?
 そんな俺の考えを読み取る気もない先を行く者たちが廊下の奥へと消えた瞬間。
 俺の首は大きく裂けて鮮血が吹き出して、なんかボリボリって音がして、最後にルーミアのやっぱり市ノ川はおいしいなぁ〜って、それ誤解されそうだからやめろって何度言ったら……………

 



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