「いてて、少し手加減してくださいよ」
「すいません。でもこういうので手を抜いちゃうとお嬢様に怒られてしまいますので手が抜けないんですよ」
「だからって始まってすぐに距離詰められたら何もできないじゃないですか」
「そうですよね〜」
「ですよね〜って」
「それにしてもよく生きてましたね。あのパイルドライバーなら完全に首を根元から圧し折れるはずなんですけど」
「HAHAHAHAHA、悪運が強いんですよ」

 実は死んで生き返ったんですなんて言える訳が無いだろうが。
 あのパイルドライバーで俺の首は完全に圧し折れていたわけだ。まぁ、今回は復活が異様に早かったのが気になるところではあるが、違和感無く話が通じるのでとても心地よい。
 しかし、美鈴は恐ろしいほど武術に長けているようだ。なんでも気を操る程度の能力とか言ってたけど、遠距離からの攻撃よりも接近戦のほうが向いている感じだ。
 それに美鈴の格好は漫画とか映画で言うところの戦う美女って感じだしな。

「それにしても最初に取ったあの形って何なんですか?」
「あ〜、あれは我流です」
「我流ですか」

 嘘です。漫画で見たことのある形です。

「すごいですよね、両手を上げて片足を上げるんですから、最初なにかが飛び出してくるのかと思っちゃったじゃないですか」
「だから一気に間合いを詰めたのか?」
「そうです。私はあまりそういう弾幕って呼ばれる戦いに向いていないことを自覚しているので、それに私自身も生身での格闘のほうが好きな性質ですから」
「なるほど、弾幕を張られる前に元を絶っちまおうとしたわけだ」
「そうです」

 いや〜、にこやか笑顔での返答ありがとうって言いたいとこなんだけどさ、それで上空へとぶっ飛ばされた挙句に、レンガ地面へパイルドライバーとか冗談にならないよ。
 あと、俺には自分がパイルドライバーを受けている姿が見えたんだよね。不思議なこともあるもんだ。
 と、そんなことを話していると何やら頭に重みが感じられるようになった。

「市ノ川〜、美鈴とばっかり話してないでよ〜」
「うわわ、ルーミア頭に乗るんじゃない」
「だってぇ〜、つまらないだもん、おなかすいたぁ〜〜〜〜」
「ばか、ここに食べていいものは無いんだから少しくらい我慢しろ」
「ぶーぶー」

 まったく、今は飯が無いんだから我慢しろってんだ。
 すると今度は背中に何やら重みが感じられる。

「人間〜、あたい疲れたからおんぶ〜」
「うわっ、冷た! ってなに人の許可も得ずに背中に張り付いてやがる!」
「だって、退屈なんだもん〜」
「だからって人の背中に勝手に乗っていいってわけじゃないだろ」
「ルーミアは頭の上に載ってるから、あたいは背中に乗ってるの〜」
「どんな理屈だ。っていうか、ルーミアも降りろ!」
「おなか減ったぁ〜」

 俺の意見は一向に無視したままに二人は俺の体を蹂躙していくわけである。
 それに二人とも飛行することすらやめて俺に全体重を任せているような状態だ。
 正直重たいって言いたいけど、一応そういうことは言わないようにしてるんだ
 それが原因で一度死ぬことになったことが昔あったからさ。

「もうつまんない! 氷飛ばして遊んでる!」
「チルノちゃん、ここは人のお家だからやめなよ」
「やだっ!」
 
 大ちゃんの言葉に反対してチルノは、少しばかり小さい氷を作り出してまだ見えぬ暗闇の先へと高速で放った。
 ちゅどおおおおおおおおおん。

「な、なんだ!」

 いきなりの轟音に俺はまじめにびびった。
 だって、暗い暗闇の先からいきなり轟音が響いてきたのだから当然だ。
 それは美鈴も同じらしく、その頭に被っていた帽子がジャンプするくらいだ。
 うわ、帽子がジャンプする人っているんだなんて思っていると、一番ビビッているのが背中に乗っている奴だということに気がついた。

「なになになになになに!」
「知るか」
「もしかしてあたいの氷がこんなさいきょーになってたなんて!」
「チルノちゃんそれは違うと思うよ」
「どうやら、この先で何かが起こってるみたいですね」
「おう、戦車のキャタピラ理論でここまで追ってきたわけだが、結構爆心地は近くなってきたってことか」

 説明しよう、戦車のキャタピラ理論とは、戦車が通った後にはキャタピラの跡が残るといことだ。
 つまり、俺たちは紅魔館の中の破損状態がひどい場所を通っているわけである。
 その結果、今いるのは図書館と呼ぶべきなのだろうかというくらいに広大な広さの図書館である。
 ここはヴワル魔法図書館というらしい、ここに入った時に美鈴に教えてもらったのだ。
 そして、今まで通過してきた場所は本棚がなぎ倒されてたりといろいろ大変なことになっていたわけである。

「断続的に音が聞こえてますね」
「誰かが戦ってるみたいだな。音を聞く限りじゃ一対一かね」
「ひどい、私のときは二人でボコボコにしに来たのに!」
(う〜)
「なんだその、美鈴に掛ける時間は無いって思われたんだろうな」
「それはもっとひどいです。これでも私門番なんですよ〜。ちゃんと戦ってもらいたいですよ」
(う〜〜〜う〜〜〜)
「くんかくんか、おいしいにおいがする〜」
「ルーミアは、そういう考えから少しばかり離れろ!」
(う〜〜〜う〜〜〜〜〜〜)

 そういえばなんか変な音が聞こえてるな。なんだろ口元に何かが当たってて声が出せないときに出る声みたいな。
 向こうの爆音か何かかな?

(う〜〜〜〜〜〜う〜〜〜〜〜〜〜〜)

 う〜ん、気のせいじゃないっぽいな。
 下を見下ろしても見えるのは本でできた川だけであるが、こういう状態で誰かがこの濁流に飲み込まれているんじゃないかと考えるのは不思議なことじゃないだろう。
 でだ、俺の視線の先にはこれまた妙なものが写っていた。
 羽である。蛾とかの昆虫的な羽じゃなくて、デビルビームとかデビルイヤーとかの技を持ってるヒーローが持ってるようなあの黒い羽だ。
 よくわからないが痙攣しているようである。
 調べに行く前に………

「ルーミア、そのおいしそうなにおいっていうのは?」
「真下〜」

 どうやらあの羽のことのようだ。
 さて、これで面倒が増えたことはもう疑いようの無い事実だろう。
 しかし、困っている人間を放って置くこともできないわけで、徐々に高度を落とすパーティー達、これ以上人数が増えたら馬車が必要になるかもしれん。

「ぷはぁ〜、助かりました〜」

 そう言って本の濁流から開放されたその少女はすぐさま俺たちのほうを向いてきた。
 尻尾が見える。

「美鈴さん、こちらの方たちは?」
「あっ、私の客人で市ノ川圭介さん、ルーミアさん、チルノさん、大妖精さんです」
「客人ですか? お嬢様に怒られるんじゃないですか?」
「うっ、そう言われるとそうなんですけど」
「まぁ、そのことは今は置いといて、圭介様でしょうか?」

 そう言ってこちらに顔を向けてくるその少女。
 頭にこれまた羽を生やしてるし、これはもう見た目から悪魔と思っていいんでしょうか?
 しかし、こんな絵にかいたような悪魔っ子がいるなんて、幻想郷のコスプレか何かか、いや、すでにチルノや大ちゃんっていう羽が生えた存在がいるんだからもう気にする必要もないか。

「様って、様はいいですよ」
「されでは圭介さん。助けてくれてありがとうございます」
「いやいや、当然のことだから別に礼を言われる必要はないから」
「いえいえ、助けてもらえたのですからお礼くらいしないと」

 やばい、今まで会ってきた人種の中では一等にまともな人だ。礼儀正しいし、優しそうだし。
 美鈴はパイルドライバーの件でまともな人おかしい人にランクダウンしたばっかりだし。
 さて、それよりももう確定事項のようなものだから聞いてみるが、まさかこの質問でランクダウンなんてことはないよな?
 そんなことを思いながらもいざ質問タイム!

「えっと………」
「小悪魔といいます」
「それじゃ、小悪魔さん。ここを黒いのと紅いのと、妙に楽しそうにしてる女が一人通りませんでしたか?」
「通りましたけど?」
「ごめんなさい!」
「え? あのどうして謝るんですか?」
「それ俺の知り合いです。本当に申し訳ありませんでした!」

 小悪魔に土下座する俺、この頃ある意味で謝ってばかりの生活を送ってる気がする。
 なんていうかこの頃男としての威厳が無いんなんじゃないかな。
 そんなことを考えているところで小悪魔さんが声をかけてきた。

「え、えっと、顔を上げてください」
「は、はい」

 恐る恐る顔をあげてみればそこには何ともやさしい笑みを浮かべた小悪魔さんがいて、俺にそっと手を差し伸べてきてくれる。
 これはあれか、女神か、女神なのか!
 今までこれほど俺にやさしくしてくれた人がいただろうか、まぁ、いるにはいるけどさ。あれはあれであれだから違うと思う。

「許す許さないは後にして、今はちょっと私についてきてもらえませんか?」

 それって、つまり許さないってことなんじゃないのか?なんて言葉を口に出すほど私は無粋じゃございません!
 今はその言葉だけでも十分ですから、これ以上俺に絶望なる不安を与えてくれないことのほうが嬉しいです。

「それって許さないってことなのか〜」
「…………」

 ちょ、ちょっと、なんでそこでだまるん? 今さっきまでのやさしい笑みはどこへ行った?
 そのなんか歯切れの悪い笑顔はなんなんだー!

「まぁ、付いてきてください」
「………はい」

 少しばかり重い口調を俺に投げかけながら小悪魔さんは空へと旅立っていく。
 ああ、胃が痛くなってきたんだけど、どうにかならないものかね?
 そんな思いを秘めた目を後ろで待機している四名に向けてみると、まるで闘牛士が闘牛をかわすかのように華麗な動きで目線を逸らした。
 おまえら、意思疎通早すぎるだろ。それともこれが女性という生き物なのか、シンパシーを感じてるのか?
 そんなこんなで前を先行する小悪魔さんの真後ろを俺たちは浮遊する。
 時間にして約5分といったところだろうか、目の前に異様なる光景が広がっていた。
 あれはドロワーズという奴だろうか、犬神家のドロワーズVerを見る日が来るとは思ってもいなかったが………
 ちなみにそれを天然記念物を見るような眼で見ていた俺は横腹に美鈴から拳を一つ受け取ったばかりで、今その光景は見えていない。
 だって、かなり異質な光景ジャン。人生で見られない光景ベスト100には入るんじゃないかな?

「圭介さん、破廉恥です」
「市ノ川えっちぃ〜」
「これ以上まじまじと見るつもりならその首を軽くへし折りますよ?」

 美鈴に至っては明らかに女性の敵を見る目になってるし、チルノと大ちゃんはなんていうか、その哀れな男を見る目で俺を見ないでください。
 正直横腹の痛みと蓄積してきた精神的な苦痛でお腹いっぱいなんです。

「???」
「どうかしましたか?」
 
 その光景を見ていなかった小悪魔さんとルーミアはきょとんとした目線で俺を見ている。
 少しばかりそのきょとんとした視線に助けられながら俺は両足に力を入れて立ち上がる。
 どうやら骨が折れているようではないが、打撲クラスのダメージを受けていることは確かである。
 それより、あの犬神家を救出しなければならないな。

「それじゃ圭介さん、パチュリー様を助けてあげてください」

 そう言ってなぜか動き出そうとしない小悪魔さん。あれ、なにこの『お前の一打ですべてが決まる。頼んだぞ』って10回裏ツーアウト満塁の最期を宣告されたようなこの感じ。
 いやいや、相手は犬神家になっているとはいえ、レディーですよ。女性ですよ。少女ですよ。もしかしたら女の子って外見かもしれないんですよ?
 しかも本に埋もれて触るところがそのドロワーズから下の下半身しかないとか、これを助けなさいってちょっと………

「おねがいしますね」
「………はい」

 だめだ、これはもう自らの覚悟を決めないければならないだろう。
 その犬神家の下に近づき、まずは声をかけてみた。

「だ、大丈夫ですか?」
「む、むきゅきゅ…………」

 むきゅ?なんだその新生物のような言葉は、でも言葉が返ってきたということはまぁ、それなりに大丈夫ってことなんだろう。
 しかし、声が若干辛そうだ。早く出してあげなければ。
 そう思ってどうにかこの下に埋もれてるパチュリーと呼ばれる方がにダメージがないように本を静かに崩して………
 そう思っていたら、直立不動だったその犬神家が突如、俺の頭めがけて踵落としを決め込んでくれた。
 よくわからないけど結構な勢いで…………

「うごっ!!!」
「ぷはぁ、あ〜、もうなんだっていうのかしら」

 そう呟きながらその倒れていた主は立ち上がり、倒れたままの俺を踏み台、いや踏みつけていった。
 しかも今さっき殴られた横腹だし、痛いってもんじゃない痛みで俺は少しの間のた打ち回る羽目になった。
 
「パチュリー様、お怪我はありませんか?」
「パチュリー様、大丈夫ですか?」

「市ノ川〜、死んでるなら食べちゃうよ〜」
「今さっき破廉恥な目で見てた罰です」
「氷にして遊ぼうかな〜、なぜならあたいはさいきょ―だから!」
「ぐ、ぐぐぐぐぐぐ、チルノちょっと俺の頭に乗って横腹に手を当ててくれ、真面目に痛いから」

 頭と横腹に残った痛みをチルノヘルメットとチルノハンド装着でどうにか和らげながら立ち上がり、三人のほうへと顔を向ける。
 そこにはローブ、正直俺にはパジャマにしか見えないような服を着た紫色のロングヘアーの少女が一人立っていた。
 その紫色の瞳が俺のことを見つめて止まる。
 そして俺もそのパチュリーと呼ばれていた少女を見て止まった。
 その異様な長い見つめ合いに周りのみんながなぜか意味深な視線を向けてくるが、俺は構わず口を開く。

「まさかだとは思うが、ノーレッジか?」
「まさかだと思うけど、あなたイチ?」

 再び幻想郷には知り合いが多いこと実感することになってしまったようだ。



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