どうしてこんなことになっているのか、どこで何を間違えたのかわからないが、俺は久しぶりにピンチを迎えていた。 そのピンチとは現在に生きるまであまり気にすることもなかったようなピンチであった。 周りにいる里人たちから送られる視線を受け流しながら周りを見回してみるが、どこもかしこも初めて見る顔ばかりで、見知った顔はどこにもなかった。 つまりだ、何が言いたいかというとだ。 「霊夢と許斐はどこだ?」 人里の中心で俺は二人とはぐれてしまった、つまり今迷子の状態である。 なにげに結構人里が大きいということは空から見た時から理解できたし、許斐が迷子になるんじゃないかと思っていたらまさか自分がなってしまうとは。 「なんとも言えない状況だね〜」 さてと、ずっと道の真ん中で立っているのもあれであるから、そこらへんのお休み処にでも腰を下ろすとするか。 幸い、お金は霊夢から頂いているわけで、昼飯をどうにかするくらいの金額はある。 まぁ、動かないほうが身のためだし、それに探すほうも楽だろうな。 「しかし、やっぱり目立つみたいだなこの格好」 さすがに周りの人間たちから見たらこの格好は珍しいというよりも不思議な格好だろう。シャツにジーパンという周りの男たちとはまったく違う格好をしているわけだから、そりゃ歩いてる人間から目を向けられることもあるだろう。 現にはぐれる前まで許斐も同じような視線を頂いていた。 まぁ、大半が男ばかりだったことが印象に残ってるけどな。 「あのボリュームをシャツ一枚で隠そうってのが間違いだろ?」 しかし、他に着ていくとなるとやはり巫女服に褌で行こうとするのだろうからそれはなんとしてでも阻止せねばならないことだ。 あの格好は見た目が超が付くほどの美人であったとしても、倒れた拍子に後頭部にぶつかるもっこり感で男だと認識してしまった警官くらいの衝撃がある。しかも、向こうは男だったがこっちは女だけに性質が悪い。 しつこいだろうが褌の女を好む奴なんて早々いない、これは賭けてもいいね。 「褌ね、真昼間から変なことは言わないほうが良いぜ兄さん」 「……………へ?」 やばい、もしかして口に出してたか、周りをキョロキョロと見回すと数名ほど話を聞いていたらしい男女がそれぞれリアクションをとりながら俺のほうを見ている。 まぁ、女はなんて話してるのかしらっていう顔だけど、男のほうはそりゃ確かにないなって顔をしてる。 その表情に弱冠救われてる俺だけど、それよりこの声の主は誰だ。 改めて声のした後ろに顔を向ける。 「それにしても兄さん、変な格好してるな、この頃流行ってんのかい?」 魔法使いがいた。もう見た目からして魔法使いと言っても過言ではないほどに魔法使いっぽいというか、まんまRPGに出てくるような格好の少女がそこにいた。 見た目は許斐や霊夢と同じくらいで、大きな黒い三角帽子に隠れた金髪がとても似合うそんな少女だ。 手に持っている箒が魔法使いの感じを更にかもし出しているといえるが、どうも子供だましな魔法使いにしか見えない。 「お〜い、人の質問にはちゃんと答えるべきだぜ兄さん」 「あっ、えっと、すまんもう一回言ってくれるか」 「その格好、流行ってんのかって聞いてるんだぜ」 う〜ん、あまり流行とか詳しいわけじゃないからな。まぁ、幻想郷の流行からは確実に外れてることだけは理解できるけどな。 しかし、それを言うならあんたの格好も結構すごい格好だと思うけどね、黒尽くめに白いエプロンとか何ですかね。これでスカートの下がドロワだったりしたら、ジ○リ作品以上の魔女っ子だぞ。 「何か言いたそうな顔してるぜ?」 「べ、別になんでもないぞ、この服装はあまり流行ってないと思うぞ」 なんて鋭い奴だ。良くわからんがこいつからは霊夢と同じような雰囲気が漂ってるな、なんか鋭い辺りとかな。 「ふ〜ん、でもそんな服を扱ってる店なんて見たこと無いぜ。ひょっとして外から迷って入ってきた奴か?」 鋭いってもんじゃない、かなりのやり手じゃないか、ここまで的確に予想できるのもすごい気がするが、しまったちょっと顔に出てるかもしれん。 魔法使いっぽい少女に顔を向けると、案の定なんかニタニタと笑みを浮かべている。その少しばかり少女の容姿からは想像できない子供っぽい笑みから、精神年齢はあまり高くないように見えた。 「図星みたいだな、外の人間なんだな」 「まったく、初対面の人間に対してそんなことさらって言えるものかね」 「初対面でも面白そうな奴なら大歓迎だぜ。ちなみにアンタのことを面白そうだと思ったのは私のカンだぜ」 カンだろうが、念動力だろうかはどうでもいいことだが、しかし、なんともいえない雰囲気があるなこいつ。 そのまま俺の真横に腰を下ろす少女って、いきなり隣に座りますか。 「いや〜、兄さんみたいなのに会うのは初めてだぜ。こんなにも顔に出やすいのも問題だぜ?」 「うるさい、あまり嘘をつくのは苦手なんだよ。おばちゃん、団子頂戴」 「おっと、私にも団子一つだぜ」 お前も喰うのかよ、まぁ、俺が金を払うわけじゃないから別にいいんだけどさ。 あれ、なんか俺おかしな事を言ってる気がするな。 「それよりも兄さん、外の世界ってどんな世界なんだ?」 「あのさ、俺は兄さんじゃない。市ノ川圭介って言う名前があるんだよ」 「じゃあ、圭介。外の世界ってどんな世界なんだ?」 初対面なのにいきなり名前呼び、ますます霊夢と同じ人種に思えてきた。 しかし、なんか外の世界のことを聞いてきたのはこいつが初めてだな。実際ほとんど霊夢といたから人との交流がなかっただけかもしれないけど。 でも、俺ってあまり外の世界のこと知ってるわけでもないんだよな。 毎日やってることといえば許斐のお守りばっかりだったし、ゲームばっかしやってからな、あとはバイトくらいしかって………… 「やばい、バイト忘れてた、飯島怒ってるだろうな」 飯島とはバイト仲間である。説明は割愛する。 「なんだ圭介バイトしてるんだな」 幻想郷でもバイトって言葉は使われてるんだな、しかし、魔法使いの口からバイトという言葉を聞くのは何か違和感があるけど。 しかし、幻想郷に入って一週間、バイトのことなんてすっかり忘れていた。確かここに入り込んだ次の日から四日間連続でバイトあったはずなんだよ。絶対クビになってるだろうな。 「はぁ〜、次のバイトどうすればいいんだろ」 「そんなことより外の世界ってどんなところなんだ?」 「そんなことって、まあいっか、もう仕方ないし」 「そうだぜそうだぜ」 なんか良くわからないが、つまりそんなことより外の世界のことを話せということだよな。 まぁ、霊夢たちのことを探しに行く気なんてほとんどないから別にいいか。 「わかったが、その前にお前の名前を聞いてないぞ」 「ん、霧雨魔理沙、よろしくだぜ」 「よし、では魔理沙。外の世界というのはだな」 「つまりコンビニは愛想笑いを売る場所ってわけだな」 「その通り、客は神様仏様ってな」 「仏じゃ死んでるぜ」 まったく持ってその通りだ。 だけどどんなことがあっても営業スマイルを崩さないことが重要なわけだ、これ接客業の常識なんだってさ。 「そんな理不尽な客なんてマスタースパークで粉々だぜ」 「粉々にしたら捕まるって」 「外の世界ってのは厳しいもんだな」 「まったくだ」 『わははははははははははは、あ、団子追加』 やばい、なんか久しぶりにこんな風に笑ってる気がするぞ。 あの神社じゃのんびりと縁側に座ってぼけ〜っとすることしかできなかったからかもしれん。 追加で団子がやってきて、仲良く食べる。 食べてる間もなんか笑ってられるのが平和だ。 「なんか良くわからないけど魔理沙とはうまい酒が飲める気がするぞ」 「おっ、酒飲むのか。なら今すぐ飲ませてくれよ圭介」 「いやいや、飲める気がするってだけで今ここに酒はないぞ」 ここ団子屋だし、もしここに酒が置いてあったとしてもかなりの金額のはずだ。今追加した団子で霊夢から預かったお金は空っぽになったしな。 あれ、昼飯代としてだっけ、なんか俺も食材を手に入れなくちゃいけなかったような気がするけど……… 「まぁ、霊夢からは昼飯代としても使っても良いっていわれてたし、別に良いか」 「そう、つまりあんたはこっちが食材探しをしている間、ここで女と団子を食べていたと」 「そうそう」 「お金はほぼ使い切ってしまって、次の団子を頼むお金も無いと」 「そうそう」 「つまり私に殺されたいと?」 「いやいや………ぐへっ!」 あう、背中が、背中に何かが刺さってる。痛い、真面目に痛い、痛いです! 手をジタバタと背中へと振って、その刺さっているものを抜いて地面に放る。 串だ、団子のやつ、俺が食べてたやつだと思うっていうか、誰だ! 思いっきり振り返って背中に串を刺した奴を見つける。 紅い服、あ、巫女服ですね。それとそのオーラは何ですかね、その笑顔もなんか怖いです。 許斐はー、あーいますね。物陰に隠れてますね。怖いんですね、わかります。 その視線を直に浴びてる俺はもっと怖いです。もしかして霊夢って特殊な人間じゃなくて、ただの妖怪なんじゃないのかね? 「それと、魔理沙。その団子はもちろんアンタのお金よね」 「あったりまえだろ、まぁ、霊夢の友人だってわかってれば奢ってもらうつもりだったけどな」 「え、なに、二人とも知り合い?」 どうりで魔理沙に霊夢のような雰囲気を感じ取れたわけだ。 「まぁ、そうなるわね」 「そういうことだぜ圭介」 「これは私が貰っておくわね」 ああ、俺の団子だぞそれ。 今さっき頼んだ団子を頬張る霊夢、どことなく幸せそうな顔をしているのが憎いですが、一応機嫌よくなってるみたいだ。 単純な奴だな。 「ケイちゃん、霊ちゃんもう怒ってない?」 「ああ、機嫌直ったみたいだ」 「霊ちゃんって………」 「許斐! その呼び方は今しなくても良いでしょ!」 「うわぁ、ごめんなさい」 「霊ちゃんっておもしれぇ〜〜〜〜」 腹を抱えて笑うのはなぜだ魔理沙、まあ、知り合いの前でいきなりその呼び方はないよな〜 「それにケイちゃんって言うのも結構すごいぜ」 ぬおおおおおお、そういえば俺もあだ名で呼ばれてたぁぁっぁ! 「魔理沙、そのあだ名は今すぐ忘れなさい、良いわね!」 魔理沙の胸倉掴んで脅しに掛かってるが、その真っ赤な顔では説得力ないし、もう魔理沙に至ってはニタニタ笑ったままでなんとも言えないね。 まぁ、俺はもうあれだ。否定したって許斐が延々とこのあだ名を言い続けるだろうからなにも言わないよ。 別に俺に大きな被害があるわけじゃないしねぇ〜。 「忘れてやっても良いけど条件があるぜ」 「な、なによ、言ってみなさい」 「えっとな、ゴニョゴニョゴニョ」 なんか話し合ってるみたいだけど俺には関係ないぜ、さてと団子の代金払うか。 「こういうことか」 「何のことかしら圭介さん?」 「けっ、とぼけて、ぐあっ!」 「ん、どうした圭介?」 「な、なんでもないぞ」 ちゃぶ台の下、伸ばしている足を思いっきり霊夢に踏みにじられているなど言えるわけも無い、っていうか言おうとしたら足を圧縮されてしまう気がする。 しかし、魔理沙がしてきた条件が夕食を食わせてくれというものだったのには驚いた。 何気に魔理沙の奴も食料に飢えているタイプなのかもしれん。 「しかし悪いな〜、朝昼晩と飯を一週間提供してもらうっていう約束を押し付けちまってよ〜」 「え、今日だけじゃないのか?」 「そうだぜ、というわけで料理長よろしくな。できれば団子が欲しいぜ」 どうやら、関係がないと思っていたのは俺だけのようでした。 団子の作り方くらいは一応知ってるけど、成功するかな。 どうにかこうにかちゃぶ台の中から脱出して台所に向かう。 居間を見ればすでに笑いながら会話している少女が三人、そして何気にこいつらが結構食べるときた。 さて、あと一週間持たせられるかね? そんなことを思いながら俺は団子を作る準備を始めたのであった。 あとがき こんにちは、まずはここまで読んでいただきありがとう御座います。メリィー&ジェムです。 魔理沙登場です。私の魔理沙のイメージはこんな感じかなって感じの魔理沙になった気がします。 さて、次はどんな話にしようかな? |
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