「パチュリー」
「何?」


 図書館にて、相変わらず魔道書を読んだりして研鑽を積んでいる時、ふと疑問が出た。


「僕って遅いんだろうか?」
「頭の回転?」
「飛ぶ速度だよ!」


 そう、飛行速度である。この前、天子を懲らしめに行く道中、霊夢に少しも追いつけなかったのを、ちょっと気にしていたのだ。


「飛行速度は純粋な出力と指向性、空気抵抗に依存するわ。一定以上になればそれに耐えうる肉体や術式が必要になってくるけど、それだけよ」
「となると、風の術式の改良かな?」
「そうね、私も飛行はそれに頼っているわ」


 僕も流石に風で安楽椅子を作ろうなんて思わないけどな。今だから何となく分かるけど、あんな繊細な術式を本を読みながら編むなんて僕には不可能だ。
 アリスもそうだけど、分割思考とかを習得しているからこそ出来る妙技なんだろう。


「とりあえず、やって見ましょうか」
「ん? 手伝ってくれるのか?」
「ええ、また面白いものが見れそうだし」
「……危なそうなら事前に教えてくれよ」
「善処するわ」


 YESと言わない所に不安を感じるのは気のせいだろうか?









 で、やって来ました門の外。ここも人里から離れているせいかかなり広い。
 ここで、風の魔法を使って空気抵抗を減らそうとしているのだが…………。


「む、難しい」
「やっぱり、頭の回転が鈍いわね」


 いや、回転って言うか、本当に細かすぎて感覚が掴めない。
 今回のは、ただ速く飛ぶだけじゃなくて、普通の飛行で使えるような改良がしたいのだ。
 スペルカードとして作る訳じゃないので、ほぼ無意識で出来ないと意味が無い。


「誰かの後ろで風圧を減らすとか。鳥みたいに」
「1人で出来ないことに意味があるの?」


 そうですよねー。言ってて思った。


「とりあえず、能力で何か試してみましょうか」
「やっぱ、そうなるよなぁ……」


 正直、能力を使うと、厄介な目に会うことが多いので遠慮したいんだけど……。
 パッチェさんがヤケに嬉しそうなのも何か鬱だ。

 と、思ったその時、救世主は現れた。


「お〜い、何やってるんだ? 私も交ぜろ!」
「おお、良い所に来た! 実はだな……」


 魔理沙に事情を説明する。こいつも、速さに掛けては一家言ある奴なのだ。
 幻想郷最速を賭けて何度か射命丸にも挑戦したらしいし。

 後ろで美鈴が微妙に寂しそうなのは可哀想だけどスルーする。


「速度もパワーだぜ」
「お前に聞いた僕が間違いだった」


 このパワー主義者め。それが出来ないから苦労してるんだろ。


「まあ、そう言うな。とりあえず、“浮遊”するんじゃなくて“飛翔”するイメージでやればいいんだよ」
「飛翔?」


 何か微妙にニュアンスが違うのは分かるけど。


「皆、基本的に“浮かんで”から飛んでるだろ? パチュリーも浮かんでから風で移動させるしな。でも、それだと完璧にポテンシャルに依存しちまうから、最初っから方向を決めて“自分を飛ばす”んだよ。そうすれば、少なくとも直線速度は格段に上がる」

 成る程、そういえば魔理沙は直線的な移動が主だよな。


「でも、いいのか? そんなコツを人に教えて」
「誰でも考え付くことだしな。それに、誰でもその出力が出る訳じゃない」
「駄々漏れで効率は悪いけどね。良也も霊力だけは人間離れしてるから、何とかなるんじゃない?」


 実は魔理沙より多いとか、あんまり信じられないんだけど、こいつは魔法の茸でその辺を補ってるらしい。
 僕も兵糧丸的なものを作れるようになろうかなぁ……。


「でも、問題はどうやって飛翔するかだな」
「魔法でやればいいじゃない。それぐらいなら、あなたの思考リソースでも出来るでしょうし。風と炎で爆発しない打ち上げ花火のイメージが良いんじゃない?」
「爆発オチは勘弁だ」


 たぶん、ジェットエンジンと考える方がいいだろう。もちろん、手加減はするけど。


「まあ、とりあえずやって見よう」


 イメージはまんまエンジン。炎に風を入れて強く激しく燃えさせる。そして、力を後方に後方に…………今だ!


「おおおおぅ!?」


 予想以上に勢い良く飛び出した。Gがかかって変に苦しい感じだけど、速度は結構出ている。
 少なくとも、あの時の霊夢と同じぐらいは確実に出ているだろう。

 そして、とりあえず、200mぐらい飛んだ所で止まり、元居た場所に普通に帰った。


「良い感じじゃないか。直立姿勢なのがなんか変だったけど」
「何か風圧で自然とそうなっちゃうんだよ」


 一番風圧を受けない姿勢と言うか何と言うか。
 それにしても、ちょっとふらつくぐらい風圧がきつかった。


「なら、後は風圧を下げる魔法ね」
「二重にやるのは、ちょっと無理かなぁ……」


 速度は確かに出るんだけど、それが解決できないと長距離飛行は無理っぽい。残念だ。


「そこで、能力の出番ね」
「何でパチュリーはそんなに能力を使わせたいんだよ!?」


 何でそんなにワクテカしてるんだ!?


「珍獣がいたら調べるのは当然じゃない。あなたが自分の能力に無関心過ぎるだけよ」
「実験対象か!」
「観察対象よ」


 似たようなもんだろう。それに、よりによって珍獣って……。


「でも、能力ならイメージだけで何とかなるんでしょ?」
「まあ、そうだけどさぁ……」


 そう、イメージだけで軽い時間操作とか出来ちゃうんですよ。この能力。


「う〜ん、あんまり気が進まないんだけど」
「いいから、とりあえず風圧を無効化するイメージをしなさい」
「そんなポンポン新能力が出る訳じゃないんだけどな……」


 イメージイメージ……。空気抵抗を弱める弾頭形状の壁……、ん? 空気抵抗か。摩擦とか無くならないかなぁ……。


 つるんっ!


「でっ!?」
「おおっ! 何も無い所でこける奴ならともかく、何も無いのに突っ立ったままこける奴は初めて見たぜ!」


 煩せえよ。しかし、何で転んだんだ僕。


「すごいわ。一瞬だけど摩擦を0にしたのね」
「あ〜、やっぱりそれか」


 やっぱり適当だこの能力。ついでに使えない。何か1つでも、ちゃんと使える能力が欲しい……。


「何はともあれ、これで解決だな。これで空気抵抗も大丈夫だろ。一回やって見ろよ」
「……まあ、いいけどさ」


 何だか釈然としないが、流石に普通に立ったままやると転ぶので、ちょっとだけ浮く。


「ああ、やるなら向こうを向いてやりなさい」


 パチュリーが指差したのは湖の方角。指先が何だかそこからず〜〜っと先の妖怪の山を指しているのは気のせいだろうか?


「何で?」
「広いでしょう?」


 まあ、そうなんだけど。何だかな〜、嫌な予感がするんだよな〜。
 何か、何かを忘れているような気が……。


「やるなら早くやりなさい」
「……わかったよ」


 パチュリーに急かされて術式を編む。炎に風を巻き込んで増幅させる魔法式ロケットエンジン。

 そういえば、空気の摩擦力っていうのは、猛スピードだと発火するぐらいすごいものらしい。
 流れ星なんかは、隕石がそれで燃えているから輝くんだそうだ。

 ……待てよ? これって実はマズくないか?

 しかし、気付いたときにはもう遅く、術式を起動した後だった。

 マズ、苦しいぐらいの空気抵抗を受けるスピードを出してくれる術式なのに摩擦が無い状態でそんなことしたら――

 ――カチリ

 その瞬間、僕は文字通り“発射された”。


「ポーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……………………………………!!!!!」


 ――――――――――――……………………。















「…………飛んだな」
「ええ、飛んだわね」


 私は魔理沙と2人、文字通り良也が飛んでいった妖怪の山を見やった。
 あれはスゴイ。天狗がスクープを見つけたときの速度より速かった。本当に、無駄な所でスゴさを発揮してくれる男だ。
 この力をもっと効率的に使えば、それこそ幻想郷の中でも有数の実力者になれるかも知れないのに、本当に勿体無い。


「幻想郷最速はこれから良也のものね」
「私だって流れ星より速くなろうとは思わんよ」


 これには、流石に魔理沙も呆れ返っているようだ。


「幻想郷の外まで飛んでいったんじゃないか?」
「大丈夫よ。この角度なら妖怪の山の中腹に突き刺さってるでしょう」
「知っててやったのか?」
「ええ、もちろん」
「………………」


 それから私たちは何も言わず、しばらく良也の飛んでいった方角を眺めていた。









 後日、《怪奇! 守矢神社の階段に突き刺さる謎のヒトガタ!!》というタイトルが文々。新聞の一面を飾り、それを見たレミィが鼻から紅茶を噴いたが、一応は別の話としておく。















 あとがき

リクエスト板より仁さんのプロットを使わせて頂きました。短いですけど、自分的には上手く纏められたような気がします。
つか、中盤からプロット無視し過ぎてますね。自分なりに面白そうな方向に持っていった結果ですけど。
う〜ん、しかし描写を少なくしすぎた気もします。もっと増やすべきか……。まあ、その辺はおいおい考えて行きます。
また、リクエスト板に何か面白そうなのがあったらSS化するのでよろしくですー。

感想は批判絶賛ともに受付中。ここが変、とかそんなんでも言いですからアドバイスを頂けるとマイマイの文章力が向上するかも知れません。




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