それは、いつも通り何の前ぶりも無く現れたスキマの、これまた唐突な言葉から始まった


「霊夢、あなたそろそろ結婚しなさい」
「ぶふぉアっ!」


 ヤバ、お茶噴いた! 鼻、鼻が痛い!! ふ、拭くもの拭くもの!


「……何でよ」
「何でも何も、あなたも結婚適齢期に入ったでしょう? 子供を産むには十分に成長したわ。」


 のた打ち回っている僕を完全に無視して会話を続ける結界コンビ。ちょっとは労わって欲しいとは思うが、いつもの事なので僕は気にしない。
 僕は黙ってポケットティッシュを取り出した。

 だが、確かにそうだ。年齢は未だに知らないが出会ってから約5年。中身に変化は無くとも、立派に女性と言えるぐらいには霊夢も丸みを帯びてきた。
 華奢なのは相変わらずだが、背もグッと伸びて、悲しいぐらいになかった胸だって意外と出てきた。
 最近では無防備な仕草にドキッとさせられることすらあるぐらいだ。

 割と一緒にいるからあんまり意識はしてないんだけど、よく見るとすっごい美人なんだよなぁ……。


「別に養子でも構わないけど、出来れば次代の博麗はあなたの子である方が望ましいの。あなたの子なら潜在能力は間違いなく高いだろうし、箔だって付く。それに、新しく探してくるのはかなり面倒なのよ」


 理論立てて言ってるけど、最後のが一番の理由なんじゃないかと思うのは、僕じゃなくて、スキマの普段の行いが悪いからだろう。
 と言うか養子でも良いって博麗の系譜が血筋によるものじゃないって言うのが驚きだ。

 そういえば、霊夢の両親って知らないなぁ……。
 まぁ、年齢すら聞いていない僕が、普通に聞きづらい不在の両親についてなど知っているはずもないんだけど。

 それにしても結婚か。唐突な気もするけど、霊夢だって女の子だ。幻想郷での結婚適齢期は外界よりも割りと早い。
 スキマの言う通り、考え出すにはちょうど良い時期だろう。
 
 ああ、でもずっと見守ってきた女の子がそうなるのってすごく感慨深いけど、複雑だなぁ……。
 それに、霊夢に旦那さんが出来たら、神社でこうやってのんべんだらりと過ごすことも出来なくなるのか。
 ……やっぱり複雑だ。これは嫉妬心だろう。うん、こんなに美人の奥さんを貰える男は幸せ者だと思うし。
 すごく苦労するだろうけど、悪い奴じゃないんだ。僕が保障する。


「じゃあ、良也さんでいいわ」


 何と、相手がいるのか。男なんて僕と森近さん以外に影も形も見当たらなかったのに。
 そうか、良也っていうのか。平凡な名前だな。名前的に良い人だけどそれ以上はいかなさそうっていうか……。


「って、僕かよ!!」


 意外すぎて自分の名前を平凡とか言っちゃったよ! 良い人止まりとか悲しいこと言っちゃったよ!!


「ええ、ちょうどいいでしょ。適齢期同士」
「ちょっと待て霊夢。その理屈はおかしい」
「そう?」
「疑問系!? 」


 お前の中では正常な思考だったのかよ! え、冗談の類じゃないのか!?


「スキマ! スキマ!! いいのかスキマ!!」


 我ながらスキマに助けを求めるのは間違っている気もしないではないが、場合が場合だ。
 お前の相棒(?)が、こんな適当に結婚を決めようとしているぞ!!


「そうね、幻想郷は全てを受け入れる。運命を無視する程度の人間ぐらい、何とでもなるでしょう」
「いいのかよ!!」


 マズイ、このままだととんとん拍子で僕の人生が決まってしまう!!
 考えろ、考えるんだRyo!……じゃなくて僕!!
 何かないか。何かこの状況を打開する言い訳はないのか!?


「いや、でもホラ。僕も就職してるしさ。いくら、ここから近いって言っても、ここに住むことになったら住所とかどうすればいいんだ? 誤魔化し続けるには無理があるし、最初から別居って言うのも困るだろ」


 ちなみに、ここから割りと近い私立高校で教師をやっている。科目は英語。他にも現国の教員免許を持っているが、それは置いておこう。
 元々、勉強は嫌いじゃないし、バイトで塾の講師をしていて、先生もいいかな何て思ったのだ。
 二年の時にその半分を無駄にして留年したが、その分だけ時間があったので、取得は楽だった。


「本当は外界と縁を切って、完全に幻想郷の住人になって欲しい所だけど、特別に表の博麗神社を使えるように手配しておきましょう」


 あの荒れた神社のことか。ある場所が同じなのは分かるんだが、それってどうなんだ?
 その前に、そんなことをスキマが出来るとは……いや、出来ても不思議じゃないって言う感じがするな。
 むしろ出来ない方がおかしいか。コイツはコイツで、外界にも色々なコネがあるんだろう。


「掃除する場所が増えるわね」


 霊夢が何か言っているがスルー。


「家族にもどう説明すればいいか……っ」
「灯也もいるし大丈夫でしょう。中々、理解のありそうなご家族じゃない」


 た、確かに。幻想郷ほどじゃないけど、あんまり常識的な家族とは言えない。
 でも、爺ちゃんももう歳なんだからあんまり心臓に負担を掛けてやらないで欲しい。


「しかも、ほら。あれだ、僕、蓬莱人だし」
「生まれてくる子供は普通の人間のはずですわ」


 そ、そーなのかー。いや、本当は意識した事なんてなかったんだが。


「…………」


 マズイ。反論材料が消えてしまった。


「嫌なの?」


 霊夢がそんな事を聞いてくる。これが、上目遣いで不安そうだったら、僕も困ったのだが、いつも通りの表情だった。
 真意を掴めない。そして、空気のように透明で、掴みどころが分からないぐらいに曖昧な、いつも通りの表情だった。


「嫌って訳じゃ、無いんだけどな……」


 だから、僕もこんな煮え切らない答えになってしまう。
 うん、不思議なことに嫌とは思わないんだよな。でも、こうホラ、この状況は間違っていると言うか。


「でも、そうね。突然だし、良也よりも波風立たない人の方がいいのは確か。ここは運命に決めてもらいましょう」


 そう言って、スキマはスキマに手を突っ込んでゴソゴソやり始めた。
 そして、ずるずると出てきたのは、えらくでかい蝙蝠の……羽? おいおい、まさか。


「じゃじゃーん! (蝙蝠の翼付き)くじ箱〜」
「紛らわしいわ!!」


 運命なんて言うからレミリアが出てくるかもとか一瞬、思った僕が馬鹿だった! つーか、絶対に狙ってたよなソレ!!
 そんな事したら、あんまり冗談じゃなく戦争が起こりそうだけどな。吸血鬼のプライドは鬼に輪をかけて高いし。

 それに、じゃじゃーん! は無い。年齢的にアウト。


「考えてる事が顔に出る癖、直さないといつか酷い目に会うわよ?」
「酷い目に会うのはいつものことだけどな。あと、いくら何でもふざけ過ぎだ。くじ引きはないだろ、くじ引きは」
「何が出るかな? 誰が出るかな?」
「話を聞けよ!!」


 もう、何かノリノリで箱に手を突っ込んでかき回すスキマ。


「あら、すごいのが出たわね。確かに独身だけど」
「だから!」


 ちょっと本気で怒ってる僕に、見てみてー。と言って目の前に開いた紙を見せるスキマ。そこに書かれていたのは――



【土樹灯也】



「スキマァァァァァァァッ!!!!!」


 僕は生まれて初めて妹以外の女性に本気で殴りかかった。当然、返り討ちだった。



 まぁ、当然この話はお流れになったのだが、僕も甘かったと言わざるを得ない。
 お流れにはなった。確かにこの話はお流れになったのだ。すくなくとも、“僕たちの間”では。

 そう、大変なことになったのだ。幻想郷を揺るがす程でなくとも、他ならぬ僕が永遠に語り続けるであろう異変に。
 具体的に言えば、普段から愛が足りない愛が足りないとほざく、いよいよ持って部数が厳しくなってきた最速馬鹿のせいで。




















 あれから、とりあえず一週間が経った。
 つまり、僕は今週も幻想郷へ行くために、表の博麗神社に立っている訳である。しかし――


「……気まずい」


 そう、気まずい。幾らなんでも気まずい。
 いつもは休みの前日、仕事が終わってから博麗神社に泊まって、次の日の昼ぐらいにお菓子を売りに行くのだが、今回は当日の朝から家を出て、現在は昼になる手前ぐらいである。

 そう。何度も言うが、気まずかった。前回のことがあった手前、ふらふら〜っといつも通りに泊まるというのが、どうにも憚られたのだ。
 だって、そうだろう。よくよく考えてみれば、あれは一種のプロポーズ。それも結構、直球だった。
 ストライクど真ん中というより、直撃ビーンボールだったような気がしないでもないけど。

 まあ、すぐに流れたんだし、軽口の類と取っても問題ないんだろうけど、それでもなぁ……。


「ん、いかんいかん。これじゃあ、まるで僕が意識しているみたいじゃないか」


 そうだ。そんな事は断じてない。諏訪子(カミサマ)に誓っても良い。(一個か二個ぐらい)命を掛けたってOKだ。どこにも問題はない。突っ込みも受け付けないぞ。


 そんな益体もないことを思いながら、僕はいつも通り、幻想郷に足を踏み入れた。
 スルリ、とトンネルを抜けたような感覚とともに、純度の高い自然の空気が顔を撫でる。
 ハラハラと、桜色から緑色に様変わりした葉桜が僕の頭上を横切っていった。


「このまま人里に……って訳にはいかないよな。やっぱ」


 うん、それはない。神社に居ないことは、確かにあるが、それでも、神社に居るときに挨拶をしないなんて失礼だ。
 気まずいとか、そういうので疎かにしていいものじゃない。
 これでも、礼儀を説く職業についている手前、その辺はきっちりすることにしているのだ。

 とりあえず。境内にはいないようなので、縁側へ。
 掃除をサボっているときは、大抵そこでお茶を飲んでいるからだ。


「霊夢ー。いるかー?」


 返事はない。どうやら、縁側にも居ないようだ。
 所定の位置に座布団がしいてあるので、少し席を外しているだけだろう。
 ……裏手に回ってみるか。そう思って、縁側も横切ろうとすると、襖の隙間から、部屋の中に何やら色々置いてあるのが見えた。


「何だこりゃ」


 不振に思って覗き込んでみると、どうやら贈り物のようだ。酒に始まり、湯のみやハンカチなどの小物が適当に並べられている。
 何かのお祝いか? いや、結構、通ってるけど、宴会以外のお祭りはやったことがない。

 そもそも、食材ならともかく、日用雑貨が贈られること事態が珍しい。
 霊夢が適当に考えた神事じゃ、人が物を贈ったりはしないだろうし。

 しかし、やけに二つ一組のものが多いのが気になるな。
 二つ一組……。二つ一組?
 待て、何か物凄い厄介なフラグなんじゃないかこれ――


「あら、良也さん。今回は遅かったのね」
「おわぁっ!」
「きゃっ!」


 ばっと翻って何故かファイティングポーズを取る僕。いや、だって本当にビビッたんだもん。


「……それは弾幕ごっこのお誘いかしら?」
「滅相もない」


 じと目で放たれた死刑宣告に否を唱える。まだ、チルノとライバルをやってる僕じゃ、霊夢は無理ゲーなのだ。
 そんな僕の様子に呆れたのか、霊夢はふぅ、と溜息を吐いた。


「まぁ、いいけどね。良也さんはこれから人里?」
「あ、ああ。ちょっと、遅れてるしな。すぐに行くつもり」
「そう。あ、そういえば良也さん……って、何つけてるのよ」
「ん? 目やにでも付いてるか?」


 顔は毎朝ちゃんと洗っているんだが。それはかなり、恥ずかしい。


「そんなもの付けてたらお払い棒で殴ってるわよ」


 その時だ。細く、柔らかいものが頬に触れた。目を擦っていた一瞬のことなので、反応が遅れた。
 慌てて目線を戻すと、霊夢が僕にゆっくりと顔を近づけて来るところだった。


「ちょっと、じっとしてなさい」
「え? ちょ――っ」


 甘い息遣いさえ分かる距離で、美麗な大和撫子を地で行く端正な顔に上目遣いで咎められ、情けなくも、僕の思考は完全に停止してしまっていた。
 化粧もしていない癖に滑らかで白磁のように白い肌、眠たげなくせにクリクリと動く長いまつげを讃えた瞳。
 ふと香るお茶の匂いに、近づけば触れるであろう、つるりと艶かしい桜色の唇。

 そこから漏れる甘い吐息に吸い寄せられるように僕の――――


「取れたわよ、桜の葉っぱ。そろそろ梅雨だものね、良也さん。……良也さん?」
「――――……何だイ? れーむ」
「いや、良也さんこそ何なのよ。冬眠前の諏訪子みたいな声だして」
「諏訪子は冬眠しないけどネ」


 言えない。理性がクラッシュしてたなんて絶対に言えない。
 ヤバイ。これはヤバイ。具体的に言えば、瞑るだけであの桜色の唇がちらつくぐらい。むしろ危ない。
 もう一秒あったら僕は、取り返しの付かないことをしていたかも知れない。

 あ、でも、これだけは言わせろ。諏訪子は冬眠するんじゃなくて、冬の間中、炬燵から出てこなくなるだけだ。
 受け答えはちゃんとするし、飯だって食べるんだ。神様だから生理現象は何とでもなるらしい。


「良也さん。あなた、本当に変よ? ちょっと顔よこしなさい。熱を測ってあげるから――。って逃げないの!」


 とりあえず、背中を向けてダッシュした。阿呆か! 今、そんなことされたら何をするかわからないぞ!!
 ヘタレヘタレと連呼されているが、僕だって健全な男子なんだ。不死性は半端無いけど我慢強さは無い!!


「い、行ってきます!!」


 まぁ、端的に言えば、逃亡した。










「ふぅ……酷い目(?)にあったぜ」


 遠目に人里が見えて来て人心地ついたせいか、僕の口からそんな言葉が漏れる。
 世の男性人の大半を敵に回すような台詞なのは分かっているが、許して欲しい。
 元から、無いに等しい余裕ゲージにエンプティーランプが点きっぱなしなのだ。。

 おかしい、短いが故に戻りやすい性質が売りだったはずなのに……。


「……まぁ、何にせよ商売だ」


 例え余裕が無かろうが、頭の切り替えスキルを使って問題を先送りにする。
 ふふふ、僕だって伊達に幻想郷で過ごしていないさ。
 このスキルのおかげで、今では幻想郷上級者(僕主観)を自認することが出来る。
 東風谷が既に有段者(僕諦観)になっていることは悲しいことだが……。

 幻想郷に来た頃の東風谷を思い出してホロリとしながら、ずれた大きなリュックを背負い直す。
 大学生だった頃と違い、資金にかなり余裕が出来たので、商品を増やす為にリュックサックを登山用の大きなものに新調したのだ。 同時に、前は取り扱えなかった、ちょっと高価なものだって相応の代価を貰えるなら注文を聞くようにしている。

 ちょっとした伝手もできて、値段を下げられるようになったのも大きいだろう。
 日曜の昼頃になれば、結構な人や妖怪が広場へ集まっている。
 ふいの休みがあるのは仕方ないと割り切って貰うしかないが、そこは幻想郷。僕の事情が知られているっているのもあるけど、全然、気にしていないようだ。

 おかげで、僕の商売は大繁盛である。

 一時期、溜まった貯金を見てウハウハしていたのだが、金を溜め込むなと映姫にボコされたので、それからは、森近さんに効果の高い護符の作成を依頼したり、祭りの寄付をしたりと、なるべく使うようにしている。

 実はその時、貯金は大事だろと反論したのだが、『小さな社会で必要以上にお金を溜め込むとどうなるか。あなたも勉強は出来る子なのだから察しなさい。そう、やはりあなたには自覚が足りなさ過ぎる』などと言われては自分の不甲斐なさを恥じるしかなかったのだ。

 金は天下の回り物。消費経済って言うのは大事ですよね。わかります。
 でも、弾幕説教の後に正座させられて、延々と説教される程、悪い事なのかはわかりません。口で言えば済む話じゃん。
 それでも、仮にも閻魔に地獄逝き確定と言われるのは結構キツイものがある。

 思い出して軽く鬱になりながら里へ到着。
 今日はさっさと売り切って、白玉楼で妖夢に癒されてこようと考えていたら、何かやたらと笑顔で里の人たちが出迎えてくれた。


「おめでとう!!」
「は?」


 言うや否や、わっと人が群がってきて揉みくちゃにされる。僕には何が何だか訳が分からない。
 え? 何? 今日って僕の誕生日か何かだっけ? いや、僕の誕生日は四月二十日だから、もう終わってるし。


「照れるな照れるな。まぁ、暢気な顔して良也もやることやってんじゃないか。見直したぞ!」
「え? いや、やることって何が――」
「はっはっは、良い良い! 博麗の巫女様は居ないが、あの人はあんまり里に来ないからな。とりあえず、ここで祝っとくぞ!」
「ちょっと、待って。霊夢がどう――」
「良也くん、つまらない物だけど、祝い品だよ」
「ええ!? 何でおんぶ紐!?」
「おいおい、それは、気が早いだろ!」
「わははははは!!」


 ちょっと、誰か話を聞いてーーー!!


「こらこら皆、良也くんが困っているじゃないか」
「ああ、慧音さま。これは申し訳ない」
「それは、私じゃなくて良也くんに言いなさい」


 ああ、慧音さん。僕には今、あなたが女神に見えます。すっごい癒し慧です。誤字じゃなく。


「慧音さ――」
「おめでとう。良也くん」


 妖夢ーーーー!! 助けて僕の癒し系!! この際、鈴仙でも構いません!!
 つーか、慧音さん。あんたもですか!

 救いを求めて伸ばした手をどっしりがっしり握る、すごい笑顔の慧音さん。
 しかし、僕の戸惑った表情を見て、ああ。と得心したように頷いた。絶対、分かっていない顔だ。


「ああ、そうだな。週に一度しか幻想郷に来ていないのだから、こんなに騒ぎになっているとは思わなかったんだな。それならば無理も無い」


 いや、騒ぎの内容さえ知りませんが。
 そんな事を言う暇も無く、慧音さんは近くの里人に「あれを持って来てくれ」などと支持を出している。

 いや、そんなことよりも、この騒ぎの理由を教えてください。と言おうとした瞬間、慧音さんが手に取った“あれ”であろう紙束を見て、僕のアラート機能が炎上した挙句に山火事に発展。妖怪山の火山に火を着けた。
 大噴火だ。住居が燃えたはずなのに、大喜びで射命丸が写真を撮っている。最悪だ。色んな意味で。


「あの天狗もお節介だが、黙っていた君も少々、薄情なんじゃないか?」


 そう、慧音さんが広げたのは新聞紙。それも、毎度おなじみのお騒がせ天狗、射命丸 文が書く文々。新聞。
 そこに書かれている見出しを見て、僕は全てを理解した。


【博麗の巫女、非幻想の菓子売りと婚約!!】


 “!?”ですらねぇ!?










「れええぇぇぇぇぇぇぇいむぅぅぅぅぅぅっ!!!」
「煩っ! 一体、何なのよ良也さん」
「何なのよじゃない! こ、これはどういうことだ!!」


 お祭りムードな里の人たちの説得を諦め、商品と売り子を阿求ちゃんに押し付けて文字通り、飛んで帰って来た僕は、相も変わらず縁側でサボっている霊夢に例の新聞を広げて見せた。

 それに対し霊夢は、驚くでもなく、ああ。と頷いた。


「天狗が書いたのね」
「分かっとるわ!!」


 そんな事は分かっとるわ!!


「そうじゃなくて! 霊夢はこれを知ってたのか!?」
「新聞は読んでなかったけど、あれを持ってきた妖怪たちが教えてくれたわ」


 そう言って、背後にある贈り物の数々を指差す霊夢。
 やっぱり、厄介なフラグだったか!!
 何で二つ一組なのか良く考えればよかった!!


「何で来たときに教えてくれなかったんだよ!?」
「さっさと行っちゃったのは良也さんでしょ。だいたい、言おうとした時に葉っぱなんか付けてるのが悪いのよ」


 あの時か! あの時なのか!?


「うぅ、何て説明すればいいんだよぅ……」
「いいじゃない。そのままで」
「お前は人里に行かないからそんなことが言えるんだ!!」


 今は里に置いてあるリュックの中にあるけど、色々と貰ってしまったんだ。
 話を聞いてくれない上に、僕がへたれなので突き返せなかっただけなんだけど。
 ああ、帰りにはさらに増えているに違いない……。

 つーかね、いくら里へ行く機会が少ないからと言ってそのままで良いとか、適当過ぎる……だろ?
 あれ? 何か警報が来ましたよ?


「は〜い、良也。お久しぶりね」
「そうか、スキマ接近警報だったか」
「……顔に出すのもそうだけど、言葉にするのはもっといけないことだと教えてあげないといけないのかしら?」
「いいや、もっと恐ろしいフラグのような気がするんだ」
「最近、本当に舐めてるわね。それとも、それは弾幕ごっこのお誘いかしら?」


 それは、遠慮させて下さい。つーか、こいつらコンビで同じ事を言いやがる。


「まぁ、いいわ。今日は私もお祝いに来たんだし、無粋なことはやめましょう」
「待て、何故お前が祝う」
「焦り過ぎて口調がワイルドね。惚れないわ」
「答えになってない。なぁ、スキマ。あの話が流れたことを知ってるお前が何故、祝う?」


 大噴火どころか、溶岩が流れ出て僕の警報世界は完全に火の海だ。
 あ、最速馬鹿が燃えた。飛んで火に入る夏のパパラッチ。いい気味だ。


「だって、もう幻想郷中がお祭りムードだもの。今さら後には引けないわ」


 もう、何故とは聞かない。何となく、全ての事情を察してしまった。
 ギギギ、と未だ何を考えているか分からないお気楽巫女に顔を向ける。
 
 巫女は何でもないように言った。貰える物は貰っておくべきよ。と。


「言い訳を考えるのも面倒だし、来る奴来る奴、そうよって答えちゃったわ」


 巫女は本当に面倒くさそうだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 あとがき
 
 こんにちは、毎度おなじみのマイマイです。
 本当は1話構成だったのですが、50kbを楽々超えそうな勢いだったので、急遽『起』『承』『転』『結』の4話構成にさせて頂きました。
 見ての通り、恋愛要素皆無な奇妙な婚姻ですが、暖かく見守っていただけると幸いです。
 
 『面白い!』 や、『何だゴルァ!』などと思った方は、遠慮なく感想を送って下さい。
 感想を頂けると、自分のモチベーションが上がりますので、本当によろしくお願いします。



戻る?