―Attention―
 今回のお話はあくまでIFの物語であり、東方奇縁譚本編とは多分関係ありません。
 あと魔理沙についてかなりキャラ崩壊している可能性があります。
 以上をご理解の上で作品をお楽しみください。 


「魔理沙ーっ!お前またパチュリーの所から本持って行っただろう!」

 ノックも無しに魔理沙の家に飛び込む僕。
 そして、迷うことなく寝室のドアを開け放った。

「くそう、気持ちよさそうに眠ってるよ」

 ベッドの上では魔理沙が気持ちよさそうに眠っている。
 脇に山積みになっている本があるが、それがさっきパチュリーに怒られる原因になった本だろう。

「とりあえず、これを持って行けばいいのか」

 寝ているなら好都合と、本を回収しようと手を伸ばす。
 が、その手は本を掴む前に別に手に掴まれた。

「……りょ〜や、なにひとのほんをかってにもっていこうとしてるんだ?」
「勝手に持って言ったのは魔理沙の方だろう。今朝、本を返しに行ったらパチュリーにすっごく怒られたんだぞ」

 そう言うと、魔理沙の手が渋々といった感じで離れていった。
 同時に恨みがましい声が布団の中から聞こえてくる。

「なんだよ、パチュリーの奴、態々良也に文句言うなんて……」
「しょうがないだろう、確実に返ってくる方法が見つかったんだから」

 本を纏めながら魔理沙の独り言に答える。
 そう、僕に言えば魔理沙に取られたものが返ってくるようになった。
 理由は、

「なんだよ、お前は私の母親かよ」

 勿論、僕は母親ではないのでこれは理由ではない。
 本当の理由は、

「恋人だよ、不本意ながらね」

 こういう理由だからだったりする。


 
 僕と魔理沙がこういう関係になった切欠はもう三年ほど前になる。
 ある日僕が幻想郷に来ると、博麗神社に居た魔理沙が突然、

「良也はよわっちいから、私が守ってやるぜ」

 とか言い出したんだ。
 何のことか解らずにとりあえず僕はその提案を受け入れた。
 確かにあの当時は本当に弱かったからその申し出は大変ありがたかったし。

 ところが、その申し出を受けてから僕の幻想郷での生活は一転することになった。
 兎に角どこへ行くにしても魔理沙が付いてくるようになった。
 人里だろうと紅魔館だろうと冥界だろうと永遠亭だろうと守矢の神社だろうと、どこへ行ってもだ。
 さすがに気になって一度聞いてみたこともあったが、

「私は良也の専属ボディーガード、良也あるところに私ありだぜ」

 なんて、満面の笑みで言われてしまい、何も言えなくなってしまった。
 しかもこの後も魔理沙の行動は加速していく。
 霊夢の所に泊まるとなれば魔理沙も泊まっていく。
 初めのうちは霊夢と一緒の部屋に寝ていたものの、時間が経つにつれて僕の寝室へと近づいてきた。
 そしてある朝、目覚めたときに一緒の布団に入っていたのは驚きを通り越して失神に達するほどだった。

「酔ってたから部屋を間違えたぜ」

 とは本人の談だが、この後も同じようなことが続いた。

 さすがにこのままでは不味いと、ボディーガードが必要ない程度まで力をつけようと言う結論に至った僕は修行に明け暮れることになる。
 幻想郷に居る時間で商売の時間以外の殆どを図書館で過ごし能力の開発と魔法の勉強に費やした。
 当初は美鈴などと一緒に弾幕ごっこの特訓を行ったりもしていたのだが、

「良也を傷つける奴は許さないぜ」

 とか言って魔理沙がいつも乱入してきて修行はいつも中断。
 最終的に美鈴は僕との修行を避けるようになってしまった。
 
 しかし、人間必要になればどんな苦労も何とかなるもので修行を始めてから二年程である程度の力をつけることが出来た。
 今のは余のメラだ、と言える程の力……かな。
 ここに来た当初の僕と比べると魔王と村人ほどの差がある……と思いたい。
 少なくとも、チルノやリグル、ルーミアと戦っても勝てる程度の力をつけた……はずだ。

 そのことを魔理沙に告げると、

「私に一撃当てることが出来たら卒業だぜ!」

 とか言い出して。
 開始と同時にマスタースパークを放ってきた。
 能力開発で壁の強度を上げてなければ間違いなくやられていただろう。
 逆に耐えられるほど強度を上げれたことの方が驚きだったけど。
 兎に角、弾幕曲げの要領でマスタースパークを曲げることに成功した僕は驚愕の表情を浮かべていた魔理沙に零弾をぶつけ終了となった。

 あの時の魔理沙の顔は未だに忘れられない。
 初めて見たんだ、服の裾を握り締めてボロボロと大粒の涙を流す魔理沙を。
 僕の知る魔理沙はいつも笑顔だったから尚更それが堪えた。

 それから、魔理沙に一撃当てることが出来たのでボディーガードは無くなったわけだが。
 僕を待っていたのは言いようの無い喪失感だった。
 何かをしててもつい魔理沙に話しかけてしまう――傍に魔理沙は居ないのに。
 いつの間にか魔理沙が傍に居ることが僕の日常になっていた。

 これが恋愛感情なのだと気づくまで時間は掛からなかった。
 だが、気づいたからと言ってどうにかする程の勇気は僕には無かった。
 ボディーガードを続けてくれれば傍に魔理沙が居たのかと思うと、あの日に戻って僕を止めたくなる。
 モヤモヤした気持ちのままで時間が経過する。
 その間、魔理沙が僕の前に現れることは無かった。

 ところが一月程経ったある日、ふらっと魔理沙が僕の前にやってきた。
 驚いて固まっていると、

「良也、私は良也のことが好きみたいだぜ」

 いきなり告白された。
 魔理沙に会えないあまりに幻を……と呟いた瞬間、箒の柄で殴られたのはいい思い出だ。
 幻じゃないと分かった瞬間に抱きついてしまった時の魔理沙の顔もいい思い出だ。
 
 その後、会えなかった一ヶ月の分を埋めるかのように魔理沙と話した。
 ボディーガードのこと――最初は本当に気まぐれだったらしい。
 続けるうちに僕のことが気になっていったとか。
 この一ヶ月のこと――ずっと僕のことを考えていたと言われた。頬がとても熱くなったことを覚えている。
 僕が強くなって嬉しいはずなのに、とても悲しかったらしい。
 その理由を考えていたそうだ。
 で、結論が出たのが昨日のこと。
 僕の傍に居れないことが嫌なのだと、傍にいる理由が無いから悲しいのだと。
 その時、初めて自分の気持ちがわかったらしい。
 思い立ったら即行動というとても魔理沙らしい信念を行動に移し僕の元へ来たという訳だ。

「そういえば、良也の返事を聞いてないぜ?」

 言われてまだ返事をしていないことに気づいた。
 魔理沙の顔を見てみるとさっきまで笑顔だったのが不安そうな顔をしている。
 けど、僕が返事を返した瞬間、魔理沙は満面の笑みで僕に抱きついてきたのは今でも忘れることはない。

 


「良也っ!」
「え?」

 魔理沙の声で我に返る僕。
 どうやら、思い返すことに集中して動きが止まっていたらしい。
 魔理沙の方を見ると布団をギュッと握り締め俯きながら――少し涙目。
 これには僕のほうが慌ててしまう。

「ど、どうしたんだ魔理沙!?」
「良也は私と付き合うのは不本意なのか?」

 そうだった、忘れていたわけじゃないが失言だった。
 付き合い始めて分かったのだが、魔理沙の奴はスイッチが入るとかなり甘えん坊だ。
 二人っきりの時を誰かに見られれば馬鹿ップルと言われてもおかしくない程だし。
 なにより、僕が離れていくことを凄く怖がるようになった。

「……」
「冗談に決まってるだろ!僕は魔理沙が好きだからな!」
「……良也ぁ」

 不安そうな目で僕を見つめてくる魔理沙に僕は本心をハッキリと言葉にした。
 その言葉を聞いた魔理沙はベッドから出てくると甘えるように僕に擦り寄ってきた。
 



「んじゃ、この本は持っていくからな」
「おう」

 あの後、ここには記せないような状態になりつつも魔理沙の機嫌をとった僕はパチュリーに頼まれた本の奪還を果たした。
 
「そうそう、魔理沙」
「ん?なんだ、良也」
「パチュリーからの伝言、
 『今度からは普通に借りに来なさい、また同じようなことを繰り返すようなら貴方の一番大事なものを奪うわよ』
 ってことらしいけど、なんかフランドールが欲しがってるらしい」
「な、なななっ!」

 その一言に狼狽する魔理沙だが、一番大事なものって何だろう?

「魔理沙、魔理沙の一番大事なもの――」
「良也、パチュリーに了解したって言っておいてくれ」
「なあ、大事なものって――」
「ほら、早く行かないと夜になっちまうぜ」

 魔理沙にぐいぐいと背中を押され家を出されてしまう。

「返し終わったらすぐに帰ってこいよ」

 少し頬を染めながらそう告げるとドアが閉じられた。
 僕は頬を指で掻きつつ、本に目をやる。

「……さくっと返して、戻ってきますか」

 そう言って、僕は紅魔館へと飛び立った。

 早く返して魔理沙と一緒にお茶でも飲もう。

 ―おしまい―



 今回の語句保管(と言うよりも蛇足)
 ・魔理沙の一番大事なもの ……最後まで読んでくれた人なら言うまでも無いですよね。勿論、彼のことです。



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