あれはぼくがまだ小さい頃、夏祭りの夜のことだった。
 その日ぼくは、一緒にお祭りに来ていた家族とはぐれてしまい、気が付いたら知らない場所にいた。
 泣きそうになるのをぐっとこらえて、ぼくはあてもなくさまよい歩いた。


 やがて、石造りの階段が眼に入った。
 誰か人が居るかもしれないと思い、ぼくは必死に階段を上った。



 階段を上りきった先に、小さな神社があった。
 神社の縁側には、変わった格好をしたきれいな女の人がいた。とても不思議な感じのする人で、ぼくは声をかけるの
を忘れて思わず見入ってしまった。
 「あらあんた、どうしたのこんなところに?」
 その女の人は、ぼくにいきなり声をかけてきた。
 ぼくは驚いて声がまったく出なかった。
 「どうしたんだ霊夢?」
 男の人の声がした。
 声のした方を振り向くと、なんだか親しみやすそうなお兄さんがいた。
 「里の子だと思うんだけど、迷い込んできたみたい。」
 「そうなのか?なあ坊や、名前は?」
 男の人はそうぼくに尋ねてきた。
 「雄太。」
 「雄太っていうのか。何でこんなところにいるんだ?」
 「お祭りでみんなと離れて、気が付いたら知らないところにいて、それで・・・。」
 ぼくの言葉に、良也さんは少し考え込み、
 「なあ霊夢。この子、着物着ているけど多分里の子じゃないぞ。里の祭りは少し前に終わってるし。
  里の子供なら大抵ぼくの事を知ってるけど、この子は知らないみたいだし。」
 「そうなの?じゃ、送り返さないといけないわね。」
 二人が言っていることは、ぼくにはよく解らなかったけど、どうやら家に帰れそうだということは何となく解った。 
 なんだか安心したせいか、ぼくのお腹の虫がぐうと鳴った。
 「なんだ、腹が減ってるのか。」
 土樹さんはちょっと待ってろと言って神社の中に入っていき、すぐに戻ってきた。
 「売れ残りだからやるよ。」
 土樹さんはそう言って、ぼくにポテトチップスをくれた。



 それからしばらく、ぼくは神社の縁側に座ってポテトチップスを食べた。
 お腹が空いていたから、それはとても美味しく感じられた。
 「それじゃあ、そろそろ送り返すわよ。」
 ぼくが食べ終わるのを待って、霊夢さんはそう告げた。
 「目をつぶって。家のことや家族のことを思い浮かべて。」
 ぼくは目をつぶって言われたとおり、父さんや母さん、それに妹のことを考えた。
 「もう迷い込んで来るんじゃないぞ。」
 土樹さんの声がした。
 「それじゃあね。」
 霊夢さんの声がして、ぽんと軽く背中を押された。
 何かすごい勢いで、ひっぱられるような感じがした。



 目を開けると、屋台の並ぶ通りに居た。
 通りの向こうから、家族がやってくるのが見えた。
 あれは夢だったんだろうか。そう思って顔に手をやると、ポテトチップスの食べかすが手についた。



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