世の中には同じ顔の人間が三人いる。
 世間は意外に狭い。
 今回はそんなお話。

 (やっぱ人違いだよな。・・・・・でも、よく似てるなあ。)
 講義が午前中で終わり、とりあえずあてもなくぶらぶらしていると、道端で何かを探している女の人が居た。
 ピンク色の髪の、幽々子そっくりの女性である。
 (最初に見た時は、なんで幽々子がこっちにと思ったけど、なんか雰囲気というか気質が違うもんな。)
 亡霊である幽々子は、死人の気配というようなものを纏っているが、この女性はそれがない。見たところごく普通の
人間である。

 「あの〜、私に何か用かしら?」

 僕がそんなことを考えていると、いきなりその女性が話しかけていた。

 「い、いえ、何か探してらっしゃるのかなあと思いまして。」

 見ず知らずの女性をガン見していたことをごまかすために、思わず敬語でしゃべってしまうぼく。

 「ええ、実はお買い物をしようと思ったんだけど、お財布をどこかに落としたみたいなのよ。」

 のんびりとした口調で女性がそう口にする。

 「何でしたら、僕も探すのを手伝いましょうか?」

 「ありがとう。助かるわ。」


 それから一時間ほど近くを探し回ったが、結局財布は見つからなかった。

 「本当にこの辺りで落としたんですか?」

 「う〜ん。そうだと思うんだけど。」

 困ったように女性が答える。

 「ひょっとしたら、家においてきたのかもしれないわねえ。」

 「はあ、そうですか。」

 女性の言葉に、ぼくはどっと疲れてしまった。

 「ねえあなた、お名前は?」

 「僕ですか?土樹良也と言います。」

 「そう、良也君ていうの。私は高良ゆかり。手間をとらせたみたいだから。
  うちでお茶でもいかがかしら。」

 「ええ!いや、でも」

 いくらなんでも見ず知らずの女性の自宅に男が上がりこむのはどうかと思う。

 「大丈夫よ。私の他にも娘がいるし。」

 高良さんて子供さんが居るのか。人は見かけによらないなあと思い、僕はご自宅にお邪魔することにした。


 「あれ〜、リョウじゃん。」

 高良さんの自宅(セレブな豪邸)におっかなびっくり入っていくと、何とそこには見覚えのある幼児体形の少女――こ
なたがいた。

 「何でお前がここに居るんだ?」

 「何でって、私はみゆきさんちに遊びに来ただけだよ。リョウこそなんでここに居んの?」

 ぼくはかくかくしかじかとこれまでのことを説明する。

 「へえ、探し物を手伝ってフラグたてるなんて、リョウもなかなかやるネ。」

 何のフラグだ。何の。そんなことを言い合っていると、高良さんと一緒に、女の子が紅茶を持ってやってきた。
 
 「どうぞ。」

 そう言って紅茶の入ったカップを丁寧に渡してくれる女の子。
 なんというか、今までぼくの周囲に居なかったタイプだ。
 それに、どことは言わないが身体の一部が凄い。こなたとは関東平野と富士山くらい違う。

 「ふふン。みゆきさんに見とれているようだネ。それもしかたあるまい。なにせみゆきさんは、歩く萌え要素と言わ
  れているくらいだからネ。」

 どうせお前がそう言ってるんだろうが。こなたの言葉に、女の子(みゆきさん)は顔を真っ赤にしている。
 なんというか、新鮮な反応だ。

 「紹介するわね。この子がわたしの娘の高良みゆきよ。自分で言うのも何だけど、本当に良い娘なのよ。
  良也くんのお嫁さんにどうかしら?」

 「ぶッ。」

 「お、お母さん。」

 いきなり高良さんがとんでもないことを言ってくる。

「だってみゆきったら、年頃なのにちっともそういう話がないんだもの。
  良也くんなら良い人そうだし。みゆきをまかせられるかなあって。」

 「会ったばかりでよく知りもしないのに、結婚も何もないじゃないですか。」

 「・・・あの、そのことなんですが。」

 おずおずとみゆきさんが口を挟む。

 「実は土樹さんのことは、こなたさんやかがみさんから伺っていたんです。とても楽しい方だと。
  今まで私だけお会いしたことがなくて、それで今日お会いできたのはとても奇遇だとは思うのですけれど、
  いきなりお付き合いと言うのは、その・・・。」

 しどろもどろになりながらそんなことを言うみゆきさん。いったいどんな話をされたんだろう。

 「や、ぼくもそんなことは考えてませんから。」

 「・・・そうですか。」

 ほっとした様子で胸をなでおろすみゆきさん。
 そんな彼女にぼくはあらためて自己紹介をする。

 「ぼくは土樹良也。大学生でこなたとはネットを通しての知り合いです。」

 「私は高良みゆきと申します。高校三年生で、こなたさんやかがみさんとは同じ学校のおともだちです。
  よろしくおねがいいたしますね。」

 「よろしく、みゆきさん。」

 「あ、あの。」

 「なんですか?」

 「私より土樹さんの方がお年が上なわけですし、さん付けというのは。」

 ああそっか、こなたと同い年だもんな。落ち着いてるからとてもそんな風にみえないけど。

 「それじゃあ、みゆきちゃんで。」

 「はい、それでかまいません。」

 「ぼくのことも、土樹さんじゃなくて良也でいいから。」

 「はい、それでは良也さんとお呼びさせていただきます。」

 「ムム、初対面から下の名前で呼び合うとは、リョウめ、あなどれぬ。」

 「これはなかなか面白いことになりそうねえ。」

 ・・・好き勝手言ってる二人はほっとこう。

 こうして、ぼくと高良みゆきさんは出会ったのだった。




 「逆に考えるんだ。外伝にみゆきさんが出ないなら、三次で書いてしまえばいいじゃないか。」
 そんな感じのお話です。
 みゆきさん単体で良也と絡ませるのは難しかったので、名前が「ゆかり」で幽々子似のお母さんに出張ってもらい
ました。



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