「やあ、良也 久しぶりだね」 広畑先生に呼び出されて書類整理から席を外すと、職員室の中に設置された来客用のテーブルには高校時代のクラスメート、黒桐幹也がいた。 「黒桐じゃないか、どうしたんだ?」 「ちょっと近くに来たからね、声をかけとこうと思って」 ……? なんでまた、わざわざ職場に来る必要があるんだ? 「式の事、覚えてるかな? 彼女、意識が回復したって言うから」 「式って……両儀か? 驚いたな黒桐、お前まだあいつに惚れてたのか?」 「惚れてたって……僕と式はそんな関係じゃないよ」 黒桐は大袈裟に呆れてみせると来客用に机に置かれていたコーヒーに口をつけた。 「君、式と仲良かったろ? 教えておこうかと思って」 「仲が良いって……冗談だろ? むしろ殺されんじゃないかって視線で睨まれた覚えしかないよ」 「誤解だよ、式は人に懐かない所はあるけど、そうおっかない子じゃないよ」 「そう言うもんか?」 適当に返事をしながら学生時代を思い出していると腕時計を一瞥した黒桐が立ち上がった。 「っと、そろそろ行かないと」 そう言って足元に置いていた花束を持ち上げた。 どうやら両儀の見舞いに行くらしい。 「っ、ちょっとまて黒桐」 そう言ってポケットから財布を取り出すと5000円札──運悪く、それしか紙幣が入ってなかった──それを出すと黒桐に渡した。 「まあ、こう言う義理は果たしておかないと。それで見舞いの品買ってくれ」 「うん、式によろしく言っておくよ」 そう言って受け取るとにこやかに去っていった。 「しかし、式−−両儀 式か」 学生時代に全く気にも止めなかった名前が、今は酷く気にかかった |
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