ヴーゥ、ヴーゥ、ヴーゥ


うるさい。……バイブレーション、携帯か。
耳元で鳴ってる……。あぁ…、
目を開けないまま手探りでバイブを止める。



…朝? かな?
だいぶ寝ていたような気がする。

何だか頭が働かない。全然ハッキリしないし、重い。ぬぼーってする。
ついでに身体も重い。重りが付いたみたいに動かしづらい。

何かぬるっとしたものに纏わり付かれてるみたいな抵抗を感じつつ、
寝ている体を起こしてみる、けど……

…………どこだ、ここ?
黒い。暗い。何も見えない。

のっぺりと眼球にへばりつくような黒と透明感があって奥行きのある暗闇が半々あるような場所だ。


いつの間にこんなとこ来たんだろ。てかどこだよここ。どこ?
一応、地面らしきものはあるらしい。浮遊感は無い。
手探りで這いつくばって辺りを探ってみる。



何も無い。
固いような柔らかいようなよく分からない感触の地面しかない。

え? んん?
はて。ほんとにここは何なんだろう。意味が分からない。
どうしてこんなとこに?


え、だって、昨日は宴会があったじゃん、

それで浮かれてハシャイで呑んでいっぱい呑んで…

呑んで……、

…そこからの記憶が無い。
記憶が飛ぶまで呑んだんだっけか?

んー、あー、ああ、そうだ。そのくらい呑んでたかもしれない。



でも、
じゃ、何で今こんなとこにいるんだよ。

理解できない。僕はただお酒呑んでただけだったよ、昨日は。
記憶飛んでる間に何があったのか…



…………………………。


だめだ。わからん。


こういう時は…どうすればいいんだろ?
山で遭難した時とかみたいな……、

その場から動かない?
…そもそも助けが来るかどうか分からない。

じゃ、動いて帰り道を探す?
…運が良ければいいけれど、もし運悪く変な方へ行っちゃったら……。


いや、賭けだ。運を信じろ。
こんなとこじゃ多分助けも何も来ないだろ。

とりあえず歩こう。何かあるかもしれない。
携帯をポケットに入れて、やけに重い身体を立ち上げてやっとこさ歩き出す。





なんなんだ、ここ。
手持ちのライトで照らしてはいるんだけど、全く明るくならない。

しばらく歩くと、変な黒い壁みたいなのがあって前へ進めなくなった。
…右手法を使うか、迷っちゃいけないし。
壁に手を付けてその方向へ歩き続ける。


なんだかここ、…んー、あー…あれだ。ポケ○ンDPのバグで行けるなぞのばしょみたいな雰囲気だ。

あのバグ、不気味だよな。
バグ技でしか行けない場所なのに「なぞのばしょ」なんて名前が出るし。
適当に進むとフリーズしたり動けなくなったりデータ飛ぶし。

あと、あれはあの世だって考察もあるよな。
なんでも…作品内のそういうあの世っぽい設定と妙にリンクしてるって言うし。
雰囲気とかも全部不気味だし。

あの世、死後の世界……、


もしかしてここ、そう?
なんかやけに雰囲気ていうか感じが似てるし。
いやまさかね。

あ、また壁がある。
今度はどっちへ行こうかn……






眼。

目の前に急に見開いた眼が















走る。逃げる。走る。
何 何 怖い怖い怖い怖い怖い

な、何なの何なの
目ぇ?

ち、t、ちょっとなnなんなの
変な汗がだくだく出てくる。

めちゃくちゃデカかったけど。

ちょっと眼ってな



ぎょろり

また眼が。



回り込まれた
おいおいまじかよなんだよそれなんなんだよ

右に、曲がる。全速力で逃げる。


…また壁か、次は左に……、


おい、どゆことだ
動けない。
曲がるどころか戻ることもできない。いつの間にか壁に囲まれてる。

は、ははははは、まるっきりなぞのばしょじゃん

自然と乾いた笑いが出てくる。
なぜか身動きがうまく取れない。
締め付けられるような圧迫感も感じる。


怖い。怖い怖い怖いいやだいやだ
何なんだよ畜生。畜生。

また目の前に現れる眼。本能的な悪寒を感じる。
それが僕を食い入るように見つめてくる。

…この、何だよ畜生。何なんだよ一体! この!
叫ぶ。けど、声が出ない。

だんだんと眼の周りの空間が裂けていく。
裂けて開けた向こうには、さらに無数の眼が、見てくる。

いやだ何だよいやだいやだ嫌だなんだよ何なんだよ
死にたくない。


身体に巻き付いてくるような恐怖。
逃げたい。今すぐ逃げたい。

しかし前に進めない。
脚が、体が動かない。

焦って嫌な汗が出てくる。

この……、
動け動け動け、進め、進め、進め、進め!

進め!!



体が冷たい風を感じる。
…進んだ?


いや、…落ちてる。
馬鹿野郎、わけわかんねえよ畜生。
まっさかさまに落ちていく。

全身を包むリアルな感触。
遊園地のフリーフォールみたいな感覚。

なんて考えてる場合じゃ…
おお、落ちる!

辺りがだんだん明るく…、
下に地面が見えてきた……地面? 死ぬ!?

いやだいやだ死にたくない 怖い 死にたくなんてない
死にたくない 死にたくない


あああああ、ああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああ




























「あああああっ!!」






………………。

静かだ。


自分の叫び声で目が覚めた。

なんだか変な夢を見てた。
悪夢だ。それもとびきりの。やけにリアルだった。怖えよ。
たまにあるよな、リアル過ぎて起きた後混乱して変な感じになる夢。
まだ体に感覚が残ってる。寒気が…、全身がすげー汗べたべた。
久々にこれは飛び起きるレベルの悪夢だった。あー…怖い…。


…で、また違和感。
いつもの布団じゃない。
それに見覚えのない天井が。知らない、天井だ、なんてお決まりのネタを…

……。
妙に静かだ。あと寒い。汗が冷えてめっちゃ寒い。

そして、ふと横に顔を向けるとむこうに寝転がる霊夢の姿。
霊夢? え?……ああ、何だ、これも夢か。夢中夢か。

うん。例え夢とはいえ霊夢がいるんだ。じっくり眺めてでもいよう。今度はなんて素敵な夢なんだ。
そんな霊夢はさっきからずっと不機嫌そうな表情で寝てる…と、

「うるさい」

飛んできたお札が布団に直撃した。


「ふわっ!」
幸い、必死に飛び退いたおかげで被害は布団だけで済んだ。けど、
当たった布団は悲惨な事になってる。
臓物をブチ撒けろ!状態。…避けれてよかったぁ

嫌な汗が流れる感触。
なーんかまた妙にリアルだけど……


…はて。
これも夢じゃなかったのか。

記憶を辿る…。

さっきの嫌な悪夢は取り敢えず置いておいて、

ええと、
昨日は確か初詣で神社に行って…
参拝したら霊夢が出てきて…
紫さんとか幽々子とかルーミアとか…
宴会とか…

え。何だ?どっからが夢だ。
参拝…初詣行ったのは確かだ。予定も前日から組んであった。
霊夢が出てきたのは……、
…アレ? 僕参拝、二回した? あれ?


悪夢のせいで大分感覚が曖昧になってるけど、
……待ってこれ。夢じゃなくない?
え、だって服装昨日のままだし。上着は枕元に畳んであるし。
参拝した以降の昨日の記憶がそれっぽいのしかないし。
チョコバー一本無くなってるし。辺りの状況とか見ても。


あ、そうだ携帯
ポケットから出して確認を……



駄目だ。電池切れてる。ウンともスンとも言わない。画面が黒いまま。
充電しなきゃ、確か携帯充電器も持ってきてたハズ…
…これも反応無し。くっそ、日頃からちゃんと充電してればよかった。


うー…ん。
とりあえず自分の頬をつねってみる。


ぎゅう。
痛い。

でも、これだけじゃあ証拠が薄いよな。

持ち物、確認。
財布…携帯…携帯充電器…ハンカチ…あとポータブルオーディオプレイヤー……、
…でも充電できないのか。残ってるのは音楽だけ。大事に聴こう。

あと、チョコバー残り二本と、フラッシュライト…、だけか。
ライトも電池があるしな…
でもルーミアにあげるチョコはまだある。
…えへへへ、あぁ、昨日は楽しかったな。
呑んで騒いで、
色んな話をして、
それで…だ、えーと



やっぱり記憶が曖昧だ。
うっすらと思い出せるのは、悪い事考えてる顔の幽々子が何か…こう、してるとこまで。

うん? 待てよ、
確かその前に何か言われてたよな僕。

死…




え。

まさか記憶が飛ぶって、
もしかしてお酒のせいだけじゃなくない?

つまり今、目が覚めるまでずっと死に掛けてたの? 僕。






苦しい。
息が苦しくなる。
急にさっきの悪夢が実感になって押し寄せてくる。

胸に手を押し当てる。
どくん。どくん。どくん。

生きている証拠が欲しい。




温かい。心臓の音が感じれる。


よかった。
僕はちゃんと生きてる。

いくら幽々子の能力が死を「操る」程度の能力だったとしても、実際、…物凄い恐怖だ。
幽々子のことだから失敗は有り得ないだろうけど、
関係無い。充分、怖い。




はぁ……

…あーうー、そうだよ能力だよ。
能力だよ。僕の。

やっと現状確認できた。
確認というより、認識かな?

これ、夢じゃない。

昨日あれだけ嬉しくてはしゃいだんだ。しかもたった今生きてる実感を得たとこだ。
夢なハズがない。
そうそう、昨日のことをやっとハッキリ思い出せた。


さて。
ちゃんと使えるようになってるかな?
昨日あれだけ脅されて死に掛けたんだし。
どれほど出来るようになってるんだろう。

何事もロマンだロマン。
思い立ったが吉日。折角死に掛けたんだ、早速挑戦してみないと。
…まだ恐怖心は残ってるけど。変な夢見たせいもあって余計に。

上着を着込んで…、
立てるよな? 腰なんて砕けてないよな?
がんばれ僕。
よいしょ、と立ち上がって、靴を履いて外に出る。

風が冷えるなぁ…
影の具合から見て、正午くらいか。真上にお日様がある。
けど寒い。お日様もっと頑張れ。

…まぁ、仕方ないやね、冬だし。
さぁて、じゃあ早速。




………………何しよう。


所属を変える程度の能力って言ったって何ができるの?
その辺分かってないもんなぁ…。

今の所把握してるのは、
世界間移動と浮遊、かぁ…。

世界間移動は…、難しそうだから後回し。何か恐そうだし。


じゃ、まずは昨日できた浮遊から。やってみようか。
目を閉じて、昨日の感じを思い出す。
所属を意識?してみて……

…浮け!




浮いた。

なんとまあ、あっさりと。
浮いてる。五十センチくらい。

これまた凄い感動はするけど、感動はするけどやっぱりこれただ浮いてるだけだよ。

前進は…どうやるんだろ。歩いても走っても平泳ぎしてみても進まない。
うーん…浮くのと同じような感じでいけないかな。感覚で。

…進め!
前進してるイメージを自分の身体の感覚に合わせていく感じで……
進め、進め、進め、進め…



進んだ。
…何だよ、これ、簡単じゃん。

拍子抜けするくらいに簡単だ。
この飛んでる感覚が分かりさえすればいくらでも飛べそうな感じ。
意外とすいすい飛べる。思った通りに高度も速度も自由自在だ。
こんな簡単ならどうして今まで飛べなかったんだろう。スゲー楽でスゲー楽しい。

すいすい。
何だか飛行機にでもなった気分だよ。
顔に当たる風が凄く冷たいのは仕方がないとして。
空を自由に飛ぶことは人類の夢だ、うん。


さて、大体高度二、三十メーターまで来たところで、
はっはー、エースコ○バットやフライトシム系ゲームで磨いた空中戦闘機動のお披露目だいっ。

ぐるりと回って、ループからのシャンデル、バレルロール、インメルマンターン、クルビット、
etc,etc,……

やべ、超楽しい。ジェットコースターみたい。体感Gが凄い。寒さも吹っ飛ぶ。
すごい自由だ。最高。びゅーりほー。

あとはここに敵機とか弾幕があればいいんだけどなあ。
なんてね、あるわけないか。あっはっはっはっ






「それじゃあ私が弾幕を撃ってあげましょうか?」
…はぁ、……しまった。これはフラグだったか。

この声は、…紫さんか。
全く神出鬼没で油断も出来ないな、って、

うぁっ!
後ろから横を掠めていく光弾。

「ちょっとぉ!? 当たったらシャレにならないでしょう!?」
「なら当たらなければ良いじゃない」
だから、その理屈はおかしいってのぉ……

こ、心の準備が…
こっちゃまだ飛び慣れてすらいないっていうのに、弾幕ごっこかよっ!
しかも僕弾幕撃てないし。てか当たらなきゃいいて
こっち来てから理不尽過ぎるよぉ…(泣)

びゅん、と光の弾が束になって、こっちめがけて飛んでくる。
すごい迫力だ。風を切る音まで聞こえてくる。

「こ、のお」
飛び回って必死に避けていく。
東方を意識してできるだけ、小回りで。
まだなんとか弾幕の形が見える。ん…、これ紫さんの通常弾幕かな?
ゲームに比べれば密度とか随分緩めだけど。それでも十分……

…思えば、これ3Dなんだよな。立体。三次元。
ネットで3Dモデルで再現した動画とかは見たことあったけど、
まさかこんなにも…、
弾幕って実際はこうなってたのか、なんて素直に感動してしまう。
花火みたいだ。めっちゃ綺麗…。

って、考え事してるとっ、あ、当た、あ、危なっ、
紫色、というよりは濃いピンク色の光弾が左足に当たりそうになった…、怖いよ。

ゲームとは違って前後上下左右どこにでも避けれるから、音を上げるほどキツイ訳ではない。
けど…主観視点だから奥の弾が重なって隠れて見えにくい。よく当たりそうになる。
しかも慣性がかかって進行方向の切り替えしがゲームみたいにスムーズにいかない。
てか小回り無理。余裕がそんな無いのもあるけど、飛び慣れないせいかなかなか上手く飛べない。
本当の弾幕ごっこってこうなのか。これはなかなか…。

「ほらほら、いつまでも反撃してこないと、いずれは当たるわよ?」
弾幕に隠れて顔はよく見えないけど、声から分かる。
めちゃくちゃ楽しそうだよこの妖怪……。

「反撃、って、僕、弾幕、撃てない、んだけどぉっ!」
避けながら喋るのも一苦労だ。

「あら、そうだったわね」
紫さんの攻撃の手が止んだ。
……ふぅ。やっと一安心だ。

「自力で飛べるようになったのなら、弾幕くらい撃てるものだと思ったのだけれど」
とても残念そうな表情をされた。
「ちょっと、冗談じゃないですよぉ…」

百歩譲ってさっきの奇襲攻撃は許そう。
多分、かなり手加減してくれていたとはいえ取り敢えず僕が怪我すること無かったんだから。

でも無抵抗の人間にそのまま弾幕撃ち続けたのはなあ…。
弾幕なんて僕、そんなん撃てへんて。
空を飛ぶのと弾幕撃つのじゃあレベルが違……あれ?

違うのか?
昨日までの価値観で言ったらどっちも有り得ない事だよな、
んー? でも実際今僕、弾幕なんて撃てる気がしないし、
昨日浮けたから飛べるって自信があっただけで、
んんー…?

「出来るわよ。現に貴方は今、能力を使わないで空を飛んでいるじゃない」
???
「え? 僕能力使いましたよ? ……てかナチュラルに心読まないで下さい」
「いいじゃない、別に」
「良くないっ!!」

僕の精神衛生的に非常に悪いですってば。
…それはともかく、最初、浮くのにも進むのにも意識して使った覚えがある。

「最初は、よ。人間は元々、必要になれば空を飛べるようにできてるの。飛べるようになれば自然と飛べるはずよ」
??????
変なセリフだけど、頭痛が痛いみたいな言い回しとは違うの?
うん?

試しに少し旋回してみる。
ぐるっと。少し遠心力が効いてて爽快だ。
…おお。そういや確かに能力とか何も意識してないぞ。

いや、動く意識はしてるんだけど、何ていうか。
うーん、自然な感じと言うか、単に体を動かすのとあまり変わらない感じというか。

「能力を使ってない?」
「ええ。飛べるということはつまり霊力の制御もできるということ。その様子じゃ、弾幕くらいすぐに撃てるようになるわ」
紫さんに言われると妙な自信が湧いてくる。
撃てるんだろうか、弾幕。


撃つ?
……どうやって撃つのかイメージが全くつかない。
手の平とかから? 周囲の空間から? それとも目からビームとか?
さっきの紫さんなんかわけわからなかったし。撃ってるようにすら見えなかった。

えー…と。
取り敢えず手を突き出してみる。
弾幕、だよな。さっき躱してたような弾を撃つ…。
…………こうかな?

「はぁっ!」


出ない。


「はああぁぁぁっ!」


…出ない。



「それじゃただ腕を突き出してるだけよ。最初は自分のイメージのし易い撃ち方をするという発想は合っているのだけれど」
あ、そぅですか。これじゃダメと。
何も出ないのにこのポーズするの恥ずかしくて変な汗出てきちゃう…。

えーと、
イメージし易い、ねぇ。
撃ち易い…、弾幕…、撃ち方…、撃つ…、
…ミリオタなせいかミリタリーなイメージしか出てこない。
そりゃ弾を撃つ感覚はエアガンとかで分かるけどさ…

一応、指鉄砲を作ってみる。
手の平に拳銃を握ってるイメージで、
適当な空間に狙いをつけて、
引き金をイメージで、…引く。


ドン



……出た。

やった。

青みがかった光弾が森の方へ飛んで行った。
結構適当な感じでやったのに、撃てた。
中々感慨深いものがある。感動凄い。
男の子の夢だよ、これも。


「指鉄砲、ね。何処ぞの兎みたいだわ」
えー何ですかその投げやりな感想。
もっと喜んでくれると嬉しいな…って紫さんに期待する方がおかしいのか…?
で、兎って、…鈴仙? かな?
そっか、指鉄砲、お揃いかぁ……
なんだか少しだけ嬉しくなる。

調子に乗って撃ちまくってみる。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン。



これは楽しい。いいストレス発散になりそうだ。
でもまだ連射が効かない。二挺指鉄砲にしても一度に毎秒六発二秒間が限界だ。
それも単発のみ。2wayとか3wayとか同時撃ちはできない。
これじゃ弾幕なんて張れないな…

…拳銃がダメならライフルでどうだ?
ライフルの構えを……、

あぅ、これもダメだ。ライフルが無いもん。
エアギターならぬエアライフル。
拳銃は手で表現できるけど、ライフルはできない。
何か見た目間抜けな感じになる。

ライフルがあればいいのに、
電動のやつなら実家にあるんだけどなぁ、
どうしたものか。


「なら、持ってくればいいじゃない?」
「…はい?」
いやいやいや、持ってこれないからこうして悩んでる訳でして、

「もう忘れたのかしら。元の世界に戻りたいなら貴方の能力と努力が必要だって」
「……?」
それとこれが一体どういう…?
第一、世界が違うって聞いたのにどんなことをすれば持って…




もしかして、
「…………僕の能力で取り寄せる? とか?」

「正解。丁度、貴方が一度帰る練習にもなるじゃない? 一石二鳥よ」
まるで自分のことのように当たったことに喜ぶ紫さん。

「練習…ですか」
世界を越えて……、
ってまさにいかにもな大技って感じだけど
「難易度とか…、尋常じゃない感じがしますけど、大丈夫なんですか?」
心配だ。特に今はまだ能力初心者わかばマークだ。自動車も乗れないのにそんな……

「じゃあ貴方、ぶっつけ本番で帰るとして、もし失敗したらどうするの? 何処とも知れない世界の狭間を漂う事になるかもしれないわよ? …まあ私が助けてあげても構わないのだけれど、それじゃつまらないでしょう?」
「僕は助けてほしいですけど」
「私がつまらないのよ」

これはひどい。いい加減ひど過ぎるぞ幻想郷。
それに、別に今じゃなくても慣れてきた頃に練習すればいいじゃないか。

「貴方ねぇ、もしさっき突然弾幕を撃ってきたのが私じゃなくてその辺の普通の妖怪だったらどうするつもり? その指鉄砲で抵抗でもするのかしら?」

う…。
それを言われるとな。
さっきは紫さんも手加減してくれてたけど、本気で僕を喰いにかかって来てる妖怪は手加減なんてしてくれないだろうし…。

「…やります」
「それが賢明ね」

命は惜しい。
今朝、あんな悪夢を見たんじゃ余計にだ。

「所属を意識する感覚はもう分かるでしょう? 貴方のいつも通りをやればいいわ。…ちょっといつもよりそれが疲れるだけよ」

アドバイス有難うございます。
さっきから随分と優しい紫さんだ。何か企んでるんじゃないだろうか。
怪しい……けど、僕の自己防衛手段の方が先決だ。



うし。
集中するために目を閉じて、両手を突き出す。
そして自分の家、いつもいた自分の部屋を強く意識する。
……。
…。




「っはぁ…」
駄目だ。上手くいかない。
意識するだけなのに、凄い疲れる。短距離走を全力疾走するくらいに。
身体は疲れていないのに精神だけこんなに疲れるのは初めての体験だ。心拍数が…

それと指先の方が凄く冷える。手の方へ少しづつゆっくりとその冷たさが広がっていく。
血の気が引くような、悪寒みたいな寒気がするような、何かが失われて冷えていくような感覚だ。




もう一回…
ん……、
それでも段々薄ぼんやりとイメージが視えてくる。
僕の部屋…を…、思い……
…できた。間取りから内装までしっかり把握できる。
その部屋の中の、…あった、これだ。
所属を変えるんだよな。
えー…っと、……心拍数が怖いくらい速まって来てる。
僕の部屋の中から、僕のところに、
来い、来い、来い、
中々上手く掴めない。
………………。
掴んだ、
来い!







ずしり、
と両腕に感じる重みと圧迫感。ひやりとする金属の冷たさ。
目を開けて確認してみると……

……間違いない。僕のだ。
M4A1ライフル。
それなりにお金をかけて魔改造してあって、結構ゴツい見た目になってる。
そんな愛着のある銃なん…だけ…ど、


……これは、…まずい。
苦しい。疲れた。寒い…、とてつもなく酷い眩暈が、する……



…………あら?
飛んでいられない…落ちる……?


意識が…また……











「世話の焼ける人間ね。…でも、上出来だわ」
















 あとがき

また六話七話で前後編みたいな構成になります。

六話で起こった出来事の詳細補足は七話であります。

軍事の専門用語も出てきますけど、雰囲気で大丈夫なレベルで抑えます。

本物の弾幕ごっこってどんな感じになるんでしょうね。

出来る限り僕の妄想エンジンをフル稼働させて想像しましたけど、実際本気の弾幕ごっこの相手になるとしたら相当な迫力と恐怖と興奮を感じるんでしょうね…。

一度ぜひ体験したいですねハァハァ










戻る?