「でさー、やっぱり何だかんだ言ってDI○様のカリスマは凄いよ、第一部の頃の小物具合はなんだかなって感じだったけどさ」
「だよなぁ、でも僕はああいう感じも好きだよ。人間味があってさ」

オタク談義。いやぁ、いいねえ、こういうの。
彼とはなかなか趣味が合ってよかったよ。
お酒を呑み呑み、肴をつまみつつ語り合う。

辺りは結構明るい。雰囲気もだけど光の明るさ的に。
夜なのに何故こんなにも辺りは宴会できるほど明るいのか、とさっき訊いてみたけどそこは妖怪とかの謎技術の恩恵だからよく分からないらしい。


まだ体には浮遊感が残ってる。お酒のせいかもしれないけどさ。
さっき僕は飛べた。飛べたけど、…でもあれは飛べたというよりは浮いた、だろうなー。
何と言うか、言葉ではなく実感として解った。ただ浮いただけ。
その後勿論もう一度試してみたけど、何度やっても浮かぶことはできなかった。何故だろう。

結局飛べなくて諦めて、二人で呑み始めて、互いの趣味が判明し、いつの間にかオタク談義となったわけだ。

「そんでぇ、スト○ンはさぁ、ただの媚び媚びの萌えアニメじゃあないんだよ。キャラが可愛いのは勿論、ストーリーも深いし武器兵器の描写もこだわってるしで、二期の戦艦大和はもう脳汁全開だったよ」
「そうなのかぁ…、ひなた君ってミリオタ?」
「そうだよー。軍事物なら大体イケるクチ」
「僕、軍事系は詳しくないけど、今度見てみようかなぁ…」
「オススメするぜー。パンツじゃないから恥ずかしくないもんは伊達じゃないから」

結構それなりの時間話している。酔いも相当回ってきてる。
まだ正気を失うほどじゃあないけど。


……ん。酒が切れた。新しいお酒貰ってこなきゃ。
「んー、じゃ僕が貰ってくるよ」
「ああ、よろしく」

立ち上がる。…ふらつく。しかし気合でなんとかする。
なんだか視界もハッキリしないよーな。脳が処理落ちしてる感じ? 意識が若干飛び飛び気味?

まあいいや。とりあえず何か貰ってこよう。
どこか余ってるだろ。多分。













…と探しに出たはいいものの、
無いぞ。どこにあるんだお酒。

そりゃね、嬉しいですよ。妖怪神様いろいろ会えて。感無量ですよ。素晴らしいですよ、本当に。
だけども。貰えるお酒無いですよ。この呑兵衛どもめ…。

いやお酒自体はあるんだけど、誰かの呑みかけとか貰っちゃうわけにはいかないし、
半分くらい減ってる瓶とかも、持ってったら何かありそで怖いし、

酔った勢いで手に入れたコミュ能力も役に立ちやしない。
良也に頼めばよかったかなぁ…。


「お酒ならあるわよ」
お酒!?
僕のお酒レーダーが感知した方へ全力で振り返るっ!

「…!?」
いない…?



「残念。こっちよ?」
「うわっ!?」

真後ろに…。びっくりしたぁ…
溜息をついて胸を撫で下ろす。

「やっぱり面白いわね、貴方。いじりがいがあって」
幽々子だ。扇子で口元を隠してるけどその裏で絶対ニヤニヤしてる。
「む…、もう驚かすなっていったじゃんかよぅ…」
さっきの人魂ほどじゃないけど心臓の鼓動やばい。ばくばくしてる。

「あら、貴方が言ったのは能力を使って驚かさないで、よ? 約束通り能力は使ってないわ」
「つ、使ったじゃんかぁ、一瞬で後ろに回り込んでさあ」
どう考えても能力を使った以外考えられない。速過ぎ。

「能力じゃないわよ。ただの体術。長く生きてると色々あるのよ」
「死んでるじゃん…」
…無反応。僕の虚しいツッコミはどうやら届いていないようだ、…と、

「そうだお酒、あるの?」
おさけおさけ。今の僕はお酒に飢えている。
「勿論あるわよ。宴会が始まってから、ずっと貴方を探してたのよ? 大事な話もあるから、一緒に呑まないかしら?」

これは…! フラグかフラグの匂いか。
「の、呑みますっ! 是非是非!」
これは男として受けざるを得ないだろう。

「何を期待しているのか知らないけど、貴方の能力とかについての話よ?」
とニヤニヤしながら言われた。なんか少しだけむかつく。

って
「能力…?」
それは余計に期待せざるを得ないけど
「取り敢えず、向こうで呑みましょうよ」
背を向けて歩き出す幽々子。…っとそうだよ、

「あの、実は良也って人待たせてあるんだけど…」
「あら、そうなの? なら丁度良かったわ、連れてきなさい」
うん。知り合いだったのね。大体予想はついてたけどまあ……また負けた気分…。
「彼にも話があるの」
ニコリ、というよりはニヤリという効果音が似合いそうな微笑みを浮かべる幽々子。
…嫌な予感しかしない。

「ここで待っているから、呼んでいらっしゃい」
「じ、じゃあ呼んでくるよ…」
しかし僕がそんな幽々子に逆らえるわけもなく、呼びに行くこと決定。

場所は…、大丈夫だ。ちゃんと覚えてる。
距離的にもすぐ近くなんだけど、宴会の騒音のせいで声がなかなか届かない。

「良也ー! 幽々子と呑みに行こーよー!」
出来る限り声を大きく。場がしらけない程度に。
「え? いいけど…、幽々子? なんで?」
「話?があるとかなんとか。取り敢えず呼んで来いって」
「んー、まあいいか、幽々子のとこならいい酒ありそうだし」
おお、それはいいことを聞いた。いいお酒とな。へへ。

「じゃあ一緒に行こうか、美味しいお酒呑みに」
「よし、行くかぁ」
よっこらせ、と良也も立ち上がる。
…何故ふらつかない。僕より呑んでいたというのに

気にはなっていたんだけど、ホント何者なんだろう、この人。
うーむむ。幽々子の話ついでに訊いてみようかな。



幽々子の所へ戻る…と、
「ちゃんと連れてきたのね」
ニコニコした笑顔で迎えてくれた。…何か裏がありそうな感じしかしない。

「久しぶりね良也、貴方と呑むなんて何時ぶりかしら」
「こないだぶりだろ? 久しぶりって程でもない気がするけど」
「いいの。個人の感覚の自由よ、私が言うんだから久しぶりなのよ」

やれやれ、と頭をかく良也。
…一体彼はどれだけの面子と顔見知りなのだろうか。
これから聞いてみるんだ、すぐわかるだろう。

向こうで妖夢が色々と用意しているから、ということでそっちへ。
そっち、とはいっても神社の境内だからすぐ近くだ。

「あ、ゆゆこさまぁ、おかえりなさいませれす」
既に出来上がってる妖夢。立ち上がって出迎えようとするもふらついてすぐに座り込んだ。

「ただいま、妖夢。ちょっとお願いがあるのだけれど、ひなたに貴方の剣舞を見せてあげれないかしら」
「わかりましたぁ」
またフラリと立ち上がって両手に剣を持って…危なくないこれ?

「え? 酔ってるのに長物振り回すのは危ないんじゃ…」
「平気だって、ああ見えて妖夢は一応剣の達人なんだからさ」
いや、確かに見とれるような演武だけどさあ…
時々足元が千鳥足気味になってるのが怖いんですけど…

「まだ半人前よ。けど…妖夢なら慣れてるから大丈夫よ」
サラリと何でもないように言う幽々子。
酔いも大分醒めてきたぜ…ひやひやする。
…多分これ妖夢には内緒的なお話って感じなのかな。

「さてと、話の前に先ずはお酒ね。…どうぞ」
杯を渡されお酌をしてもらう。

これ、いいお酒なんだろうなぁ。一応幽々子ってお嬢様なんだし…
「じ、じゃあ頂きます…」

ごくり。


うま、 美味いぞ。これ
さっき萃香に呑ませて貰ったお酒にも引けを取らない味だ…。
「ほぅ…、おいしい…」
さっきのお酒は度が強くて色々混ざった?ような美味しさだったけど、これはなんというか、すっきりした美味しさ…なのかな? まぁとにかく美味しい。美味し過ぎる。

「じゃ、本題に入りましょうか、貴方の能力について」
お、やっと僕の能力の秘密が明らかになるのかな? 
その秘密を何故幽々子が知っているのかは謎すぎるけど。紫さん経由かな?

「能力の名前は知っているわね?」
「『所属を変える程度の能力』、だっけ?」
「そうよ。しっかり覚えておきなさい。名前って貴方が思ってる以上に大事な物なんだから」
「う…、はい…」

名前、ねぇ。一応そういうのは知ってるよ? 某子供魔法先生とかで読んだし。名前に含まれる魔術的な意味合いとか。
しかし漫画で知った理論が実際に役立つなんていきなりは思えないって。
…しっかり覚えておくか、言われたからには。

「あれ? そういえばひなた君と幽々子って顔見知りだったの?」
目をぱちくりさせる良也。
そりゃそうか、宴会開始直前に仲良くなった、なんて知ってるわけないもんな。

「おー。知り合い知り合い」
「ええ、とは言ってもこの宴会の直前にちょっと会話しただけなのだけれどね」
「…会話だけじゃないでしょうに。人にあんな非道いことしといて」
「あら、とっても愉快だったじゃない」
「だからそれは幽々子だけだって何度言ったら…」
こんな調子じゃまた何かされそうだな…、用心しなくちゃ。

「あー…、ご愁傷様ひなた君。とりあえず大体分かったよ」
ご愁傷様て。てか今の会話だけで分かったって事はもしかしてあなたも被害者か…
「何よご愁傷様って、別にいいじゃない。それに良也にも話があったから呼んだのよ?」
よろしくなんか…幽々子を言い負かせられそうにないから思考中止。もういいです…。
「僕にも話?」
「ええ」
居住まいを正す幽々子。

「まず結論から言わせてもらうけれど…」
僕もそれにならって身構える。
隣の良也もそれとなく聞き入る体勢になる。
さて一体どんな素敵イベントの話を聞かせてもらえるのやら。


「ひなた、一度死になさい」


…え?

はい?

ナンダッテ?



「…なんですと?」

…聞き間違いかな? いやそうだよねえ? そうに決まってる。ああそうだ。
いくら性格に難ありな幻想郷のメンツだからといってそんな突拍子も無い事を…

「死んでみなさい。自分の能力を自由に使いたいなら」

…説明プリーズ。どうやら聞き間違いではないようだ。

なんかこんなことばっか言われてない僕? ルーミアにも食べていい?とか言われたし。
てか死ねて。 …えーと、それは本気ですか? 本気と書いてマジと読むの?

ていうか、うん。いきなりそんなこと言われても他人事みたいにしか受け取れないですよ。
隣の彼も目をパチクリさせて
「え? 死? ええ?」
みたいな感じで固まってる。 そりゃそうだ。

「…取り敢えず説明を続けるわね。ひなたの能力はまだ不完全で」
「ってストップ、幽々子。ひなた君が死ぬって何だよ?」
お、おうありがと良也。僕固まってたヨ。何故僕が死なねばならぬのだ。折角幻想郷に来れたのに。

「もう…仕方ないわね、その理由を今から話すのでしょう? ちゃんと聞きなさい」
何故か怒られた。

「もう一度言うわね」
こほん、と軽く咳払いをする幽々子。
「ひなたの能力はまだ不完全なものなの。完全には能力が発現しきっていないのよ。…それで、人間って大体は死ぬ時に能力が発現するってよく言うでしょう? だから…」

「だから僕に死ねって訳だね。 あー、なるほど。…っておいおいおい」
納得できるはずがない。てゆーか能力の為に死んだら元も子もないじゃん。死ぬってなんだよ。

「だからって死ぬのはないだろ。そんな簡単にポンポン死んでいいものじゃない」
と良也。この幻想郷に来てから心配してくれる人って貴重で凄い嬉しい。

「そういう良也は結構ポンポンと死んでるって聞いてるのだけど?」
…え゛。なにそのトンデモ発言。なんだそれ。
「う、うっさいな! それは不可抗力だ!」
何度も?死んでる…? …うーん、1UPする茸でも食べてるのだろうか。

「もしくは黄色い小銭を百枚集めると残り人数が1増えるとか?」
「えーっと、ひなた君? 僕は別に配管工のひげおじさんって訳じゃないんだ。僕は…」
「蓬莱人、でしょう。私、蓬莱人って死なないから苦手ってことになってるのよね」
「前にも聞いたぞそれ。絶対ウソだろ」
「さあ? どうかしら」

蓬莱人。…ほうらいじん?
って、アレか? 輝夜とか妹紅とか…、所謂不老不死ってやつ…?

えっ…と、 どういうこと?
蓬莱の薬を呑んだの?
え? 死なないの? 歳取らないの? すげえ。

「蓬莱人…、なんだ……」
てことは薬を輝夜とかに貰ったってことで…
………僕そんな話は知らないですけど…
謎すぎる。

「もしかして、蓬莱人って言って分かるの?」
また驚いてる良也。…驚きたいのは僕の方もだよ。
「うん。早い話が不老不死なんでしょ?」
「そうだけど…」

「はい。本題に戻るわよ」
ぱん、と手を鳴らす幽々子。

「いい? ひなた。 別に本当に死ねって言ってる訳じゃないの。死に掛けるとか、死ぬような状況になればいいだけの話よ」
………あの、それあんまし変わってないです。
死に掛けろて。苦痛がある分余計辛い気が…

「だから、私の能力を使うのよ。余計に苦しまないように」
………。
うまい事話が進んでくなぁ…。本当に他人事みたいだなー、あはは……ハァ。
幽々子の能力死を操る程度の能力。シャレにならんておい。

「あの…、即死ですか? …それとも黒いノートよろしく心臓麻痺とかですか?」
思わず敬語にもなる。

「ふふ、まあそれもいいのだけれど…、貴方に本当に死なれると困るのよねえ。だから、」
僕に悪戯を仕掛けた時の笑顔だ。妖艶、って感じの。
「私の能力は死を操る、よ? 死に掛けさせる程度出来ない事もないわ」

出来る…のか? 幽々子の能力は正直情報が無さ過ぎてよく分からないけど…。
本人がそういってるのならできるんだろ、うん。深く考えないことにする。

「…でも結局死に掛ける…んだよね?」
「ええ」
逃げ場無し。

「宴会の後で、じっくり、してあげるわよ?」
ふふふ…と含み笑いの声。……うう、そんなに面白いかこのぅ…
…あ、涙出てきた。

「…それで幽々子。 僕を呼んだ理由って言うのは?」
頭を抱えつつ話を訊く良也。一緒に呼ばれた理由、とか僕も知りたいな。
ただ今はひたすらに僕、精神安定剤が欲しいです。この後死に掛け決定とかもう。呑んで忘れたい。

「ちょっと呑み相手が欲しかったっていうのと、あとは…そう、ひなたに関係のある話をね」
「ああ、呑みの相手ならいくらでも構わないけど、その話って?」
僕の話? 気になる気になる。自分の能力が使えるって永遠の浪漫じゃん? その話は凄い聞きたい。

「ひなたの能力なのだけれど、発動が上手くいかないのは良也が近くにいるせいだと思うのよ」
?? はてな? それは一体?
「…ってことはもしかして僕の能力が邪魔してる? ひなた君の能力を?」
「恐らくね」

また話が進んで行く…。能力持ってるんですか…。固有のやつ…。
「ひなたの能力は概念的なものも含んでるの。だから貴方の能力が邪魔をする」
「そうか…、だからさっきも上手くいかなかったのか…」
若干落ち込む良也。お心遣い嬉しいです。

それで…
「因みにその良也の能力っていうのはどんなのなの?」
勿論気になる。僕の知らない新しい情報だもん。

ちょっと焦りだす良也。なにか変な事訊いちゃった僕?
「あっ、僕の能力は『世界を創る程度の能力』っていう…」
「つまりは『自分だけの世界に引き篭る程度の能力』でしょう?」
即座に突っ込みを入れた幽々子。

ひ、引き…
なんていうか、その…
名前のインパクトが強すぎて、あの…
「駄目よ? さっきも言ったけど、名前って本当に大事なんだから。ちゃんとした名前で呼ばなくちゃ」
「う、そうだけどさぁ…、ちょっとは格好つけてもいいだろ?」
「駄目。私が面白くないじゃない」
がくー、とうなだれる良也。痛いほど分かるその気持ち。

しかし、まあ、どんな能力かはよく分からないけど…
「えーと、引き篭りなの?」
「…違うけど合ってる」
「平たく言えば部屋ごと移動してる引き篭りよ」

世界を創る?篭る?移動式の引き篭り……、引き篭り?
僕の能力の邪魔をする? 概念? …概念の阻害? 移動してて?
移動する世界…
「うーん、なんとなく分かったかも。つまり良也の周りに何か能力場みたいなのがあるってことでおk?」
伊達にオタクやってるわけじゃない、こういう考察なら大得意さっ。

「あら、話が速くて助かるわね」
当たり? やったぜ。流石僕。
感心したような笑顔になる幽々子。いつもこんななら可愛いのにな。ね。うん。

「凄いな…よく分かったねひなた君」
「へへへ、もっと褒めれ」
なんだか少し照れくさいぜ。

しかし能力持ちなのかー…、さっき境内の掃除で使ってたのは魔法って言ってたけど、
…こっちは固有能力?って言うんだっけ?
まだ慣れないな、なんか不思議な感じ。
夢見心地というか…まあ多分これも
「酔ってるせいでしょう?」

「ひ、人の心読まないでよ!」
「心なんて読んでないわ、ただ貴方が顔に出やすいだけよ」
事もなげにお酒に口をつける幽々子。
なんか納得いかない。たとえその姿がお上品だとしてもだ。

…そんな僕顔に出やすいかな。
自分の顔をぺたぺた触って確かめる。

「で幽々子、話の続きは?」
ほっぺをぐりぐり…
…なんだい良也。僕見ながら苦笑いするんじゃない。

「続きは無いわ、ちょっと気をつけなさいって言いたかっただけ。ま、全部紫の受け売りなのだけどね。…でもそうね、ひなたが能力を使う練習の手伝いでもしてあげたら?」

「それだけかよ…、まぁひなた君の手伝いは勿論するけどさ」
「まぁまぁ、呑みましょうよ」
ん? 顔いじるのに夢中で話半分だった。 手伝い? 僕の?

空になった良也の杯にお酌をする幽々子。
「ありがと、……んで幽々子、僕がどんな手伝いをすればいいか教えてくれるか?」
「全く…そのくらい自分で考えなさい」
「やっぱりそうなるよなあ…」
そのまま杯をあおる良也。

んー………。
考えるのがだんだんめんどくさくなってきた…。
…酔いが回ってきたのかなあ。一応正気は保ってるつもりなんだけど。

ああ、正気を失くす前に訊いておかなきゃ。

「そうだ。さっきからずっと訊きたいと思ってたんだけどさあ、良也って何者なのさ」
「え? …ああそうだった、まだお互い自己紹介もロクにしてないんだったね」
なんだかんだゴタゴタしてたしなー…。 大体は僕の所為でもあるんだけどさ。…本当ゴメン。

「どうぞひなた」
幽々子にお酌をしてもらう。
「ありがと」
酔い過ぎないように注意しながら呑む。
おいしい。
今日一日で大分お酒に慣れた気がする。うん。

「それじゃ僕から改めて。僕は琴川ひなた。高三で受験生だったけど、色々あって幻想郷に住まわせてもらうことになりました。よろしく」
さて、やっとだな。さあ謎解きを始めようか。ふふふ。

















「つまり、良也は萃香が起こした異変の頃から幻想郷にいたんだね」
「そーそー、あの頃は本当に苦労したなあ… 今もあんまり変わっていない気もするけど」

うーむ。大体分かった…かな。
結構長話だったけど、良也の経歴というか、これまでのあらすじ的な話。
もちろん僕の事の話と交換っぽい感じだけど。

で、分かったこと。

この人、結構な異変に関わってて、人妖問わず結構な知り合いがいるのね。
僕の知ってる異変の首謀者全員と知り合いとかもう…、って感じだけども。

そして相当な苦労人。リアルに何度も死ぬような目に遭ってる。
異変の度に死んでるという。…しんじられん。まじで。

とりあえず、僕がここで暮らすのに心強い味方になってくれるだろう。
利用するみたいでなんか忍びないけど。


………。

僕の方の知識は出来るだけ隠しながら訊いた。
酔いのせいもあって、ボロが出てもバレずに済んだ。

この人が語ってくれた幻想郷のこれまでは、僕の知らない幻想郷だった。
大筋的には合ってるんだけど、違う部分がある。
どの異変の話にも彼がいるってことだ。



うん。これは確証をもって言える。
ここは確かに幻想郷には違いないけど、僕の知ってたものじゃあない。


昼間紫さんに言われたけど、僕は元居た世界から幻想郷へと二重の世界を飛び越えたらしい。

…でももし、その飛んだ世界が違う世界だったら?

十分ありえるよなあ…、だってさあ…

この状況がもう既に非現実的過ぎるじゃん。常識的に考えてさ。
二重跳びとか、縄跳びじゃないんだからさ。もう。

だったらそんな感じのことも十分あり得るって。多分。
平行世界があり得るなら、ねぇ。

でも彼が居るってこと以外は大体同じっぽいから安心した。
多少の違いはあっても、知ってる場所なら、無問題。安心安心。



なんて冷静に考察してる僕もいるけど、
完全に酔いが回ってる僕もいる。

…うん、呑み過ぎたかも。
なんだかろれつも回ってない気もするし。

頭の中だけやけに冷静なのが不思議な気分。

でも…



………。
無理して正気保とうとするのってほんとしんどいんだよね。
さっきまではいろいろ考えなきゃいけなかったから、頑張ってたけど、


…もぉ、いーよね?

もう、ゴールしても…いいよね…?












ごくり。ごくり。

ウマー

















「ふふ… さて、宴もたけなわになりまして…そろそろしてあげましょうか」
酔った頭で、ここで幽々子が何かしたのが見えた気がするけど、


僕の意識はここで途切れた。
























 あとがき

四話五話同時上げです。

六話以降からようやくひなた君の冒険が始まります。(多分)

プロローグでここまでかかるって…

なるべく早くて速い展開になるよう頑張ります。




戻る?