僕は今、博麗神社の居住区の中にいる。
霊夢が「寒いから中に戻る」と言うので、ついてきたのだ。
…なんか未だに信じがたいけど、事実なんだよ。コレ。この状況。
試しに自分の頬をつねってみる。…あ、痛い。マジ痛い。

神社の内装はやっぱり質素だったけど、中にはしっかり炬燵があった。
霊夢と紫さんはすぐ炬燵でくつろぎ始めた。
僕も何も言われないので取り敢えず入ってみる。寒いもん。
……ああ、ぬくぬくだぜ…。
こう、美少女二人と一緒に炬燵入るなんて、男の夢だよなぁ…。

「何でアンタもいるのよ」
と霊夢。
紫さんはしれっと、
「外は寒いですもの。それにまだ話は終わっていないの」
と言いつつミカンに手を伸ばす。

「貴方もどう?」
「あ、頂きます」
受け取ったミカンを手早く四等分してから一つずつ分解して食べる。
「あら、珍しい食べ方ね」
「前にテレビでやってたのを見よう見まねで……あむ」
静岡ミカン農家流の食べ方らしい。やってみたら便利なのでそのまま使っている。ああ、美味い。
「そう、でもこうして普通に剥いて食べる方が私は好きね」
「そうですか。便利なのに…」
「じっくりゆっくり剥いていくのも中々趣があるのよ」

「勝手にミカン食べるのは構わないけど、ひなたくんに話があるんじゃなかったの?」
あんまり興味もなさげに霊夢が言う。
「ああ、そうだったわね」
紫さんはミカンを食べる手を止め、
「ねえひなた。どうやってここまで来たのか、覚えてる?」
「いえ、全く。………いやでも、あー…確か…」

僕はここに来る前は地元の神社にいた。
初詣をし終え、帰りの参道の鳥居をくぐるところまで覚えている。
でも意識が飛んだりした訳じゃない、普通に歩いている感覚でいて、気が付いたら目の前に博麗神社があった。
…という感じなのだ。

「鳥居をくぐったのね。それは何回?」
「??  確かあの神社は、階段越しに二つ鳥居が続いていたから…」
「二回、ね」
やっぱり、とでも言うかのように紫さんは目を細める。
何で回数なんか聞いたんだろう?

「貴方がさっき帰れなかったのはこちらの常識を知っていたせい、と言ったわよね」
「ええ、確か」
そんなことを先程言われた。それで霊夢も失敗したと。
「でも、理由はそれだけじゃないの」
えっと、誰かが邪魔をした、とか?

「貴方の、能力のせいよ」

僕、フリーズ。
ノウリョクですと?
濃緑? 緑色のことですかい?
確かに濃い緑色のジャケット着てるけど…
因みにこれはアラスカの米軍基地でも使われているぶ厚いやつだ。マイナス30℃だって耐えられるという。

「そうじゃなくて…貴方の持ってる力のことよ」
軽く流された。
いやだって、信じがたいじゃん。自分がそんな能力持ってるなんて。
外の世界でそんなこと言ったら頭オカシイ人とか思われるレベルの事だし。
中二病乙とか、黄色い救急車呼べとかそんな感じ。



………あれ。ホントなの? ホントにホント?
紫さんは至って真剣な表情で僕の方を見ている。
「…本当、なんですか」
「ええ」
………マジカヨ。

「で、ひなたくんの能力って?」
なにやら興味を引かれたのか霊夢が聞いた。…いや手持ち無沙汰だったからなんだろうけど。
因みに僕は衝撃の事実に思考停止中でございます。いやいや能力って…、能力て……

紫さんが口を開く。
「私の見たところなんだけど、簡単に言えば『所属を変える程度の能力』ね」
「何それ」
「言葉の通りよ。その物の所属を変えるの。神社から別の神社、干渉から不干渉、というようにね」
「ふーん、だから私の力でも干渉できなかったのね」
ここでようやく僕の思考が追いついた。

「…つまり僕は、元の世界からこの世界に所属を変えたってことですか?」
「そんな所ね。既に幻想郷の住人という所属になっていたから、霊夢でも送り返すことができなかったのよ」
「僕、そんなことをした憶えはないんですが…」
「きっと無意識に暴発したのよ、今まで溜め込んでいたストレスとかで」
何という僕得…もとい傍迷惑なことをしてくれたんだ僕の能力は。

(ついでに言うと、貴方が別の世界の住人だったから、というのもあるかしら)
またテレパシーが頭に直接響く。霊夢に聞かれたくない話なんだろうか。
というかそれはどういう意味だろう、外の世界から来たのなら別の世界から来たという事に…
(ならないわ。だって、貴方の元いた世界には幻想郷なんて無かったのでしょう?)
幻想郷が実際にあるなんて認識は確かになかった。あったとしたらきっと大変なことになってるさ。
(そうでもなくて……。貴方の世界では幻想郷は文字通り、ゲームという幻想だったのでしょう?)

あ。言われてみれば。
幻想の幻想郷が存在する世界と、実際の幻想郷がある世界が重なる訳がないだろ。
幻想と実体として二重に存在するなんて。なんかしっくりこない。

(中々鋭いわね。つまり貴方は二重に所属を飛び越えたのよ。鳥居の数を訊いたのもその為。所謂ワープゲートみたいな役割ね)
なんだか本当に凄いことを起こしたらしい、僕は。
多分、最初の鳥居で幻想郷のある世界に飛んで、次の鳥居で博麗神社に飛んだんだろう。
ほら、確か博麗神社の鳥居って前後逆向きに建ってるじゃん? だから出口から入口に繋がったと。
…いや、今思いついた適当な理由だけどさ。大体こんな感じなんだろ、きっと。
紫さんも何もテレパシーで言わない(?)し。

にしても、だ。世界二つ分飛ぶなんて…。
よくもまあこれまで溜め込んだもんだよホント。
って、アレ? ということは、

「僕って昔から能力持ってたんですか?」
「何言ってるの? 今説明したばかりじゃない」
「いえ、そうではなく。持っていたなら溜めるんではなくて使いたかったなーと」
色々できたハズだ。テストの赤点を及第点にしたりとか。
…ちと違うか。

「潜在的に能力を持っている人間なんていくらでもいるわよ。ただ貴方の場合は少し毛色が違うみたいだけれど」
「毛色が違う?」
「ええ、具体的には…そうねぇ。貴方、死に掛けたことはあるかしら。それも何度も」

えーと、確かにある。
小さい頃、重度の肺炎で生死の境を彷徨った事がある。
確か、体温計がエラーになったんだっけ。どうして生きてる今の自分。
その後も42℃とかの熱が出るような病気に数年おきに罹ってきた。
そのおかげか今ではそんな熱が出ても歩いて病院まで行けるくらいに熱には耐性が付いた。
あと他にも、走行中の車から落ちたり、プールで溺れかけたりとか。色々。
…本当に我ながらよく生きてるな。

「死んだりなんだりすると能力が目覚める、なんてテンプレな話ではあるのだけど…。全く、近頃の人間の間では死んで能力を身に付けることが流行ってるのかしら」
「…そんなことは全く無いと思いますが」
「貴方、結構凄い事してるわよ。その能力が無ければ、とっくに死んでいるわ」
「………」

きっと褒められてるんだろう、これは。
いやしかし、本人のあずかり知らぬ能力で自分の生死が決まっていたなんて…
恐ろしいにも程がある。
…って、待てよ

「近頃の…って、他にも誰かいるんですか?」
流石に東方の作中で語られていない幻想郷の日常については知らない訳だが、単に興味だ。
「ええ。とは言っても最近では数年前に一人いたっきりなのだけれど」
「一人だけですか。じゃあ流行とは言え…」
「ちょっとした方便よ」

ま、そんなとこかしらね。と紫さん。
どうやら話したいことは終わりらしいのだが…

なんだか、未だに信じがたいんだよな。
夢にまで見ていたものに、手を伸ばせば触れられるというこの状況。
実はこれ明晰夢だったりして。現実みたいにリアルな夢だというアレ。
うーむ、と僕が唸っていると、あ、そういえば、と霊夢。

「ひなたくん、ウチに住むんでしょう? なら手伝ってほしいことがあるんだけれど」

























シャク、シャクッ、とスコップで雪を削る音。
参道の上の分は既に除けられてはいるが、これだけ積もってれば流石に重労働過ぎる。

…そうさ。雪かきさ。それも僕一人で。
今夜、ここで新年正月の宴会をするらしいのだが、御覧の通り雪が積もっていると。
本当ならば雪かき係に任命された奴がやるハズだったのだが、どうにもその人物の到着が遅れていてどうしようかと悩んでいたらしい。
はてさて、その人物とは誰だろう。…まあいっか、来たら手伝ってもらえばいいだけの話だし。

そして、手伝いって言葉はどこへ行ったのやら、霊夢は炬燵でお茶を飲んでいる。
ぬくぬくしやがってぇ…このぅ…。
まあ、家主に逆らってもアレなので取り敢えず雪をかく手を進めることにする。

因みにあの後紫さんに、僕はいつ帰れるか、と聞いたら
「貴方次第ね、正確には貴方の能力の錬度次第だけど」
といった答えが返ってきた。
僕の元居た世界が分からないから、境界の能力でもどうしようもないらしい。それが本当かは知らないが。

とは言ってもなぁ、自分の能力なんて自覚すらしてないし…。
使い方なんて分かりませんヨ。
…まあ地道にやっていけばいいか。地道に。



ああ、寒い。汗が冷えて余計寒くなる。
いくら寒くてもこんな運動したら汗も出るって。
それに日の照り返しが酷くなってきて目が痛いし。
やっぱこれ夢なんかじゃない。一向に覚める気配無いし、体やばい辛いし。
…あ、腰も痛くなってきた。

雪国育ちじゃないから、こんな雪かき初めてだよ。
テレビで雪かきの映像見ながら、「うわー、大変そう」なんて思ってた頃が最早懐かしいね。
マジ大変。腕も感覚鈍くなってきたぜ。

そういえば雪かきのバイトが存在するって聞いたことがあるんだけど、日給一万円以上で。
…無理だな。痛いほど実感する。実際体の節々が痛いし。


………こんな風に色々喋ってないと精神的にきついなこれ。
早く来てくれお手伝いさん…。この仕事を手伝ってくれ…。






「あーすまん霊夢、いつものお菓子が見つからなくて探してたら…おく…れ?」
気が付いたら、結構近くに知らない人が立ってた。
えーと、誰だろう、この人。
こんな人ゲームとか書籍で見たっけ? 確か人型の男性キャラは香霖堂の店主しかいなかったはずだけど。
その認識は向こうも同じらしく、不思議そうな顔をしている。

「えーっと、君は誰かな? もしかして外の世界の人間?」
「あ、ああ一応は、そんな感じで」
ん? 外の世界の服着てるよこの人。この人も僕と同じような境遇だったり?
「で、雪かきをさせられていると。…まったく霊夢の奴、迷い込んだ人間に重労働押し付けるなんて」
あれー? 霊夢さんとお知り合いなんですかー? 
…全く分からん。

「まあ、取り敢えず自己紹介。僕は土樹良也。外の世界で今は先生をやってる」
「僕は、琴川ひなた。高校三年生で受験生」
「あー受験かあ、懐かしいな…、大変だろうけど頑張れよ」
ほい、と飴玉を渡される。
「そんでこっちじゃお菓子売りなんてやってる。…って、子ども扱いしちゃったか、ごめん。いつものクセで…」
「いや、いいよ別に、疲れてたから丁度甘いもの欲しかったんだ」

そのまま包装を破いて口に放り込む。うむ、美味い。ソーダ味だ。
「ごめん、僕が遅れたせいでひなた君がこんな仕事を…」
「大丈夫、これも生きるためだから」
家主には逆らえないしねー。特に霊夢みたいな人間には。

しかし良也は何か勘違いしたのか、
「あいつ、脅迫してやらせてるのか…、全く、今日という今日は言ってやるぞ」
なんだか少し怒ってらっしゃる? 言い負かす自信があるようではない言い方だけど。
ていうか僕、年上には敬語使いなさい。
気が付いたらタメで喋ってて今さら無理だけど。

「ごめん、ちょっと待ってて、今日こそ霊夢の奴に一言言ってやるから」
「いや、違…」
僕の声が届く前に良也は行ってしまった。
よっぽど普段の積もり積もったものがあるんだろうか。



もちろんその後、逆に霊夢に怒られた良也が一人で雪かきから宴会の準備までさせられていた。

ごめん、本当にごめん。
僕がきちんと言っておけば…。


にしても宴会かぁ、オラなんだかワクワクしてきたぞ!






















 あとがき

ことかわ ひなたです。話が中々進まないのはデフォです。

良也、出ちゃいました。一応、なるべく奇縁譚ベースで進めていきたいと思います。

なんだか扱い酷くてスミマセン。これからはなるべく優遇します。先輩役みたいな感じで。

時期的には神霊廟前の正月辺りです。

リアルに状況を実況している主人公目線で書くのって難しいです。書くときののめり込み具合というか。

相変わらずその時の勢いで書いてるので、プロットも無く、大体の流れしか決めてません。

一応、原作はWin版と関連書籍を全部読んで設定とかは詰めてるつもりです。

求聞口授早く出ないかな…。

これからも努力してきりきり続きを書く予定です。

まだ暫く続きますので、よろしくお願いします。





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