夏の到来をほのかに感じさせるような、ほんの少し暑くなってきたある日。今日も今日とて、僕は幻想郷にいた。場所は博霊神社の縁側である。しっとりと汗をかきそうな陽気の中、常時エアコン完備な僕は快適な幻想郷ライフを過ごしていた。じめじめとした湿気もなんのその。設定はドライなので湿度も完璧なのだ。なので僕の周りはいつも、清く正しい僕らしく爽やかだ。 「どの口が言ってんのよ。」 どうやら口にだしてしまっていたらしい。そんな僕に辛辣な言葉を投げかけた霊夢が僕の横に腰をかける。 当然、盆にお茶とあっちからもってきたようかんをのせて。 「失礼な。僕のどこがそうじゃないって言うんだ。」 「能力の名前からしてすでにダメじゃない。」 それはスキマが勝手につけたんだよ! とは言えない。最近自分でもぴったりだと思い始めちゃってるし……。 「あぁ〜、そういえばさ〜」 分が悪そうなので話をそらす。呆れたような目でこちらを見てくるがキニシナイ。 霊夢が手をパタパタと風を自分に送るようにする。それを見た僕はなにも言わず僕の世界を広げた。すっ、と霊夢が気持ちよさげに目を細める。 「あ〜、良也さんがいるとこんな日でも熱いお茶が気持ちよく飲めるから便利ね。」 便利とかいうな。 「冷たいお茶を飲めばいいじゃないか。」 いや、僕も熱いお茶は好きだけれども。 「分かってないわね。お茶ってのは熱くないとダメなの。例え汗だくになっても 私は熱いお茶を飲むわ。」 変なところにポリシーを持つやつだな……。 霊夢はお茶をすすりながらようかんに手を伸ばす。僕もそれにならう ようにようかんを食べた。うん、うまい。 それからはいつも通り、とりとめないことばかりを話す。 最近どこぞのパパラッチがゴシップ話を載せていて、その記事をみた完全で瀟洒な従者がそのパパラッチを追いかけ回していただの。いつもカエルを凍らせて遊んでいる氷精がついに土着神率いるカエル軍団に逆襲にあっただの。話題はつきない。 それにそれた話題は僕の家族の話に移っていた。 「ってなことがあったからうちの爺ちゃんも知ってるんだよ、ここのこと。」 「へぇー。なんというか。血は争えないわね。」 全くもってその通りだ。スキマに対して苦手意識をもっていることも。なんとかギャフンといわせることはできないのか。 ……無理ゲーすぎる。 「あ。でも、爺ちゃんは武術は強いからそこら辺は似てないなぁ。ていうか僕の家族は強い。妹にも勝てないし。」 そりゃ、幻想郷の規格外な住人達と比べちゃいけないけど。 「妹さんがいるの?」 「いるよ。僕に似ずアウトドア派。」 「それはよかったわね。」 「どういう意味だよ!」 「言葉どおりにとってもらってかまわないけど?」 あいかわらず歯に衣をきせない言い方で真っ平らな僕の心を抉る。 「霊夢さー、もうちょっと、こう、やさしい返し方があってもいいんじゃないか?そんなんじゃお相手が見つかんないぞー。」 抉られた所を埋めなおしながら、仕返しにちょっと言ってみる。 「その言葉、まんま良也さんにおかえしするわ。」 「ぐっ!」 カウンター。こうか は ばつぐん だ。 僕の心はより深く抉られえてしまった。ふ、ふん。残念だったな。僕は彼女がいたことないけど嫁はたくさんいるんだよ!二次元での話だけど。 な、ないてないよ!これは心の汗だよ!! そんな僕を尻目に霊夢はお代わりのお茶を注ぎながらなんでもないように言う。 「だけど、そうね。そういうのも考えないといけないのよね。良也さん。私なんてどう?」 「……はい?」 思考停止、とまではいかないが驚いた。これは僕を案外気に入っているとおもってもいいのだろうか? 素直にうれしいと思った。美少女である霊夢。そんな子にこんなことを言われてうれしくないわけがない。性格的なことはともかく。 「なんか失礼なこと考えなかった?」 「いえいえ。」 相変わらず勘がいいなぁ。でもあくまで僕の霊夢に対しての認識はすでに家族、というか妹のようなもの。あまりそういうことを考えたことはなかった。 「ふーん。」 またしても口に出してしまっていたらしい。どれだけ僕の口は軽いのだろう。実は日常的に独り言をいってしまっているのだろか?欝である。 沈んでいく気分をもどすためにお茶をすすって気を落ちつかせる。 「妹、ねぇ。」 傷ついた様子もない霊夢。ただ単におもいついたことをしゃべっただけなんだろう。それはそれでまた複雑だ。 と、霊夢はこちらを向き、ニヤリ、と子悪魔じみた笑顔をうかべた。 ……いやな予感がする。 「お兄ちゃん♪」 「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」 思わずお茶を噴き出した。 こいつなんて凶悪なことを!!いや、ね?僕にも妹はいるわけでお兄ちゃんとはよばれなれているんだけど!これはそういうのとは意味合いが違う!なんというか実の妹には萌えずに義理の妹には萌える的な? 「うわっ、汚いわね。なにしてるのよ。」 「お前のせいだよ!!」 「良也さんの言葉に傷ついた私からのささやかな仕返しよ。」 「やめてくれ……。」 もってきてある布巾でこぼしたお茶をふきながら懇願する。 「いいじゃない、お兄ちゃん?」 無視無視。気にしない気にしない。 そんな僕を見てなにが楽しいのか口に手をあてながらクスクスと笑う霊夢。 「顔赤いわよ。」 「夏だからだろ。」 「まぁ、そういうことにしといてあげるわ。」 ……泣いていいかな? こんなことも普段ならその日限りで終わる話なのだが、ところがどっこいそれだけではすまなかった。 その日から霊夢は僕を「お兄ちゃん」と呼ぶようになるのである。 またそれをどこから聞いたのかフランも僕のことをそう呼ぶようになるのだがそれはまた別の話だ。 ……もう勘弁してください。 |
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