土樹良也一生のピンチに見舞われている。
 いや、僕は不老不死だから、一生という表現が少しおかしいような気がするが、とにかく空前絶後のピンチに見舞われている。

 今現在いる場所は、妖怪の駆け込み寺こと命蓮寺だ。
 聖 白蓮さんが建立した寺で、その人柄と、妖怪の建築物であるのに珍しく人里の交通の便に優れている立地条件により、妖怪、人問わず沢山の人が訪れるスポットである。

 僕は涙目になりながらも、白蓮さんのところに来て、助力を求めた。

「はあ、それで、どういった助けが必要なのでしょうか?」
「いや、もうそれが大変なことになっちゃって……」

 白蓮さんはくせ者揃いの幻想郷に置いて、かなりの人格者だ。
 まあ、それでも幻想郷の住人であるからして変わったところもあるのだけれども、とにかく、助けを求める人は見捨てることはしない。

 僕が引き起こしたトラブルというのは、少し、というか、相当ヤバイものだ。
 いくら白蓮さんが人格者だとはいえ、もし引かれたらどうしよう、という心配がある。
 寺の奥……僕が頼んで他の人の目のない部屋にまで来ても尚、踏ん切りが付かないで居る。

「大丈夫ですよ。どんなことであろうと、私は口外はしません」

 そんな僕を心配してか、白蓮さんは微笑みながら言ってくれた。
 別に仏教を強く信仰していない僕にも、白蓮さんは分け隔て無く接してくれる。
 その優しさに後押しされてか、それともただ単に諦観が押し寄せてきただけか、僕は白状することにした。

「じ、実はですね。昨日、魔法薬の調合をしていたんですが、そのときちょっと失敗しちゃいましてね」

 本当はちょっとどころの失敗じゃなかった。
 失敗、といっても僕の過失があったわけじゃなくて、悪戯好きの光の三妖精が悪戯をしかけてきたせいだった。
 調合の配分をメチャクチャにされたあげく、何かよくわからないものを混ぜられて、それに気づかず調合した後、後ろからわっと脅かされて、薬を手足にかけてしまったのだ。

 まあ、光の三妖精はその後、酷い目にあったから……酷い目どころじゃない目に遭わせてしまったが、自業自得として勘弁してもらおう……いや、やっぱりちゃんと謝って、何かを送らないと駄目だろうな……。

「調合が失敗したあげく、僕の手足に引っかけちゃったんです」
「……別に手足に何か変わったところがあるように見えませんが?」
「あ、いや、それは僕の能力を使って擬装しているからです」

 本当のところは、白蓮さんよりもパチュリーや永琳さんに頼った方が最善だと思っている。
 だけど、ちょっとした事情でそちらの両方ともに訪問することを挫折せざるを得なかったのだ。

「では、見せてください。
 魔法薬というのは専門外でありますが、多少の心得はあります。
 何かの役に立てるかと思います」
「い、いや、見せるのはちょっと……」

 僕の体は魔法薬のせいで変容してしまった。
 本来、蓬莱人である僕は、こういう体の変容が起こってもすぐに治るのだが……魔法薬が特殊であったせいか、一晩経っても治る兆しがないどころか、悪化しているのだ。
 治そうと思っても、特殊な材料と怪しげな製法、そして三妖精の悪戯によって偶然生み出された魔法薬の解毒薬なんて僕に作れっこなかった。

 それはともかく、変容してしまった姿、というのが……表現するのが難しい変化をしてしまった……。
 というのも、まあ、なんというか……その、すごく、アレなんだ。

「見せて頂けなければ、協力しようがありません。
 大丈夫、私は良也さんがどんな姿になっていても、驚きませんから」
「いや、なんというか、多分、白蓮さんが想像している以上……というか想像している方向が全く違う方向に変化しちゃっているので……」

 わかっている。
 わかっているとも。
 助けてもらうには、結界の擬装をとかなきゃならないことを知っている。
 だけど、この姿を他人に見られるのはあまりにも辛すぎる。
 この姿を知っているのは、諸悪の根源である三妖精と僕と、あと鈴仙と美鈴だけだ。
 五人も知っていることですら、僕の胃をキリキリ痛ませるのに、これ以上増やしてしまうことの精神的な辛さは言葉で表現できない。

「安心してください。良也さん」
「あっ、ち、近寄っちゃだめです!」

 白蓮さんが僕を安心させようと、僕の近く寄ろうとしてきた。
 ぐに、と僕の手……というか手であった部分に何かが触れる感触があった。

「!!」

 白蓮さんは少し驚いた表情を浮かべた。
 しかし、すかさず、僕の手だった部位を掴んだのは『流石』というべきか。

 ただ、僕の方から言わせて貰うと、その『流石』はいらなかった。

「は、離れてください。僕の意思とは無関係な動きをしてしまうので……」

 なんだか掴まれたままだと、決して出してはいけないものを出してしまいそうになってしまう。

「わかりました。見せます。
 ですが、ちょっと心の準備をさせてください。
 ものすごく、ヴィジュアル的に駄目というか……公衆の面前に出すことはできないんで。色んな意味で」

 はい、わかりました、という白蓮さんは流石に落ち着いている。
 こういった経験を何度も経験しているからこそ、出せる余裕だろう。

 僕の方は、こういうシチュエーションにあったことないので、心の動揺を未だに抑えきれない。

 ただ、ここでずっと白蓮さんを待たせているわけにもいかない。
 ええい、南無三、と心の中で小さくつぶやいて、僕の能力による擬装を解いた。

「……」
「……」

 流石の白蓮さんも驚いていた。
 口を開いたまま、僕の変異してしまった手足を見ている。
 僕としても白蓮さんに何も言うことができない。
 言いたいことはたくさんありけど、そのうちほとんどは恥の上塗りをするだけの言葉だからだ。

「……えっと……その、ご、ご立派ですね?」
「フォローはいいです。返って辛くなるので……」

 右腕は手首の先から。
 左腕は肘のところから。
 右足はつま先から。
 左足は太ももから。

 それぞれ途中で何本も何本も分岐してしまっている。
 分岐している一本一本は元々のパーツとはかけ離れた変化を遂げてしまっている。
 ぐねぐねとした肉が何本もうねり、僕の意思とは無関係に蠢いている。

 言葉で表現しても、いまいちよく伝わらないだろうから、業界用語で一言で表そう。

 所謂、『触手』というやつになってしまっているわけだ。
 しかも、その触手はご丁寧に先端が非常に卑猥な造形をしており、昔の話になるが、銀色のシールが貼ってあるパソコンゲームによく出てきた触手仕様になっているのだから、笑えない。
 いや、普通の触手仕様でも十分笑えないけど。

 大抵の実力者が女性のこの幻想郷で、こんな姿になることがどれほどの地獄か。
 想像するに難しくないだろう。

 もちろん、足がこんな状態になっているので、地面スレスレを飛んでいる。

「なんでまた……何の薬を失敗して、このような……立派なものになってしまったんでしょうか?」
「いや、それは話せば長いんですが……」

 といいつつも、話はそんなに長くない。
 人里のとある人から、精力剤の調製を頼まれた。
 そんなことは永琳さんに頼めばいい、と僕も思ったが、どうやら通常の精力剤では駄目らしい。
 うんと強力で、枯れてしまった精を取り戻すほどのものが欲しいらしく、それを要求するのは永琳さんや、あるいは人里で薬を販売に来る鈴仙に頼みづらい、ということで魔法使いの弟子の僕にお鉢が回ってきた。
 それでまあ、永琳さんから用途は秘密にして分けて貰った薬の原料や、パチュリーの図書館からこっそり借りてきた怪しい魔道書なんかで魔法薬を作製しようとして……それで後の顛末はさっき語ったとおり、妖精に邪魔をされてこのざまになってしまった。

 報酬の酒に釣られて、あんな依頼なんて受けなきゃよかったと思えど、後の祭りだ。

「この手の変異は、ちょっと私の手に余りますね。
 確か、永遠亭の方に薬を処方してくださる薬師の人がいたはずですが……」
「その、実は永遠亭の永琳さんと紅魔館のパチュリーのところにはもうすでに行ったんです」
「それで、治すのは無理と?」
「いや、会う前に厄介な人に会いまして、両方とも当人に会う前に退散を余儀なくされて……」

 永遠亭では鈴仙に見つかった。
 鈴仙は能力が能力なので、僕の擬装を見破ってしまったのだ。
 僕は他人の能力を無効化することができるが、僕が能力で何かをしようとしたら他人の能力で破られる可能性がある。
 鈴仙は幻覚なんかに強い能力を持っているため、見破られてしまった。
 『ついに正体を現したな、この淫獣め』と言われて撃たれたとき、僕の心の中で何かが砕けたような音がした気がする。
 誤解を解こうとか、弾幕勝負を挑むとか、そんなことは考えずに、すぐさま泣きながら逃げた。

 弾幕勝負はそもそもできっこなかった。
 この体に変異してから、弾幕ごっこの力自体は凄く上がったと思う。
 だけど、弾幕は触手の先端から出るようになり、更に何故か白い弾が出るようになってしまった。
 別に普通の霊弾なのだが、ヴィジュアル的には確実にアウト……それも全打席スリーストライクアウトレベルにアウトなので、弾幕ごっこなんてしようとも思わない。
 光の三妖精がこの白弾幕の餌食になってしまった。



 紅魔館では美鈴に見つかった。
 美鈴は僕の擬装を見破る能力はないが、門を通過する際にうっかり触れてしまったのだ。
 僕が悪いんじゃない。
 僕の手足が変化した触手が、美鈴の体に勝手に伸びて触れてしまったのだ。
 む……あー、いや、その……体の一部に触れられた美鈴は咄嗟に僕の触手を引っ張り……勢いで引っこ抜かれてしまったが……僕の正体がそこで露見してしまった。
 一度鈴仙で心砕かれた経験が活きたのか、咄嗟に耳を塞ぎ、美鈴の言葉を聞かずにそのまま撤退した。

 同じ魔法使いということで魔法の森にいる魔法使いのところに行こうかと思った。
 が、魔法の森にいる魔法使いは一人で暮らしている。
 もしこの僕の手足の触手が、欲望のままに動いてしまったら……なんだか洒落にならなさそうだったので、やめることにした。

 迷い迷ったあげく、僕は命蓮寺に来たというわけだ。
 尼さんということで忘れがちだが、白蓮さんは歴とした魔法使いであり、他の人よりかは治す方法を知っているかもしれない、という望みにかけた。
 もちろん、僕の格好を見て逃げたり、他人に言いふらしたりしない人だということも考慮に入れた。

「切除などの方法では駄目なのでしょうか?」
「一本、力ずくで引っこ抜かれましたが、引っこ抜かれた後、同じところから三本生えてきました」

 再生したところを見たとき、心の奥底から、死にたい、と思ってしまった。
 もちろん、比喩ではなく本気で。

 白蓮さんは、うーん、とうなり始めた。
 ぽくぽくぽく、とどことなく木魚の音が聞こえてくる気がする。
 はたして、ちーん、と鳴ることはあるのだろうか。

「あー、白蓮。良也が来てるって本当?」

 突然背後から声がした。
 びっくりして振り返ったら、確か白蓮さんが「誰も入ってはいけません」と言ってくれたはずなのに人がいた。

 封獣 ぬえだ。
 命蓮寺に駆け込んだ妖怪第一号で、正体不明をウリにして人を脅かしていた妖怪だ。

「うわっ、何これ、怖い!」

 その正体不明をウリにしていた妖怪に、何これ、怖い、とか言われた。
 ますます死にたくなってきた。

「……これ、良也なの? どうしたのさ、こんな格好で?」
「ちょっとした事故で」

 余裕を見せようかと苦笑いを浮かべようとしたが、ただ顔が引きつっただけだった。
 白蓮さんが、勝手に入ってきたことで鵺を叱ろうとしたが、鵺は白蓮さんの言うことなんかどこ吹く風といった様子で、鵺は襖を閉めて、とてとてと僕の近くに寄ってきた。
 すると、それに反応してか、僕の手足が磁石で引っ張られる砂鉄のように鵺の方に動いていく。

 これがあるから白蓮さんから十分距離をとっていたというのに、鵺は遠慮無くずかずかとっ!

「あ、あわわわっ、ち、違うぞっ! これは手足が勝手にだなっ! 僕の理性はきちんとしているっ!」

 慌てふためく姿を見て、鵺はにやぁっと笑った。
 いくら命蓮寺に駆け込んだ妖怪とはいえ、長年人を正体不明で驚かしてきた妖怪なので、こういうことに対しては耐性があるのかもしれない。

「そんなこといって、どうせ良也の溜まりに溜まった煩悩が爆発して、こんな風になっちゃったんじゃないの?
 ほら、良也はちまたでも『大魔法使い』としても有名だし」
「ほ、他の言い方ならなんと言ってもいいけど、その話と今の僕の状態とを重ねて表現するのだけはやめてくれ。
 僕の全財産を命蓮寺に喜捨してもいいから」

 しまいにゃ本気で泣くぞコラァ、と言いたかった。
 言いたかったが、どうにもこうにも生まれ持って、今まで続いてきた性質だけは変わらない。
 自分でもいらいらするほどの卑屈さで、鵺に頭を下げた。

 流石に鵺も罰悪さを感じてくれたみたいだったのが、唯一の救いだ。

「……わかりました!」

 と、突然、白蓮さんが立ち上がって叫んだ。
 いつの間にか、ちーん、という音が立っていたらしい。

「か、解決法がわかりましたか?」
「はい、それもわかりましたが、良也さんがこのような姿になった理由もわかりました」
「へ?」

 白蓮さんは生き生きとした表情で、仏教のありがたいお話をしてくれた。
 なんだか専門用語が一杯出てきたので、完全に理解できたとは言えない。
 白蓮さんはいつもは仏教の教えは誰にでも理解できるような説明をしてくれるが、今回はその配慮を忘れるくらい興奮しているらしい。
 僕も一応、ただ年を食っているわけではないので、完全に理解できなくとも少しは理解できた。

 とはいえ、結構昔に聞いた話を思い出しただけなんだけど……。

 とある偉い人が木の根本で坐禅を組んでいたとき、悪魔がやってきてその人のことを邪魔しにきた。
 そのとある偉い人は邪魔しに来た悪魔を退けて、見事、最初に悟りを開いた人になれた、という話だ。
 ちなみに、その悪魔の名前はマーラだと言う。

 ……なんだか凄く嫌な予感がしてきた。

「煩悩を断ち切るために日々修行を積んできました。
 良也さんの手足を治すことと煩悩を断ち切ることは直接関係ありませんが、悟りを開くための一歩であることは確実でしょう」
「意気込んで貰えるのはすごく嬉しいんですけど。
 魔法薬の事故でこんな風になっちゃったので、別に煩悩を断ち切っても僕の手足は治らないんじゃないかな、と思います」
「もちろん、解決法もちゃんと考えてあります。
 西洋の妖怪で、泉を守る大蛇の話を聞いたことがあります。
 その大蛇は大層強い毒を持っていたのですが、一番の特徴は首を切り落とされても三本の首が代わりに生えたのだそうです」

 この話も聞いたことがあった。
 背中に嫌な汗が大量に流れているのを感じる。

 頭の中では、警告音が鳴り響き、反響しまくっている。

「ただし、その大蛇の首を切り落とした後、たいまつの火で傷口を焼くと代わりの首は生えなかったらしいです。
 本来、妖怪であっても差別されるべきではない、と思っており、妖怪の命を奪った行為を肯定するわけではありませんが、これが最も有効な手段かと思われます」
「あ、い、いや、そ、そういえばちょっと神社に忘れものをした気がするので、僕はちょっと退散させて頂きます……」

 全速力で逃げようとした僕を、白蓮さんは僕の腕を掴んで引き留めた。
 流石の僕の手足であっても、美人である白蓮さんに触れようともせずに逃げようとしている。

「大丈夫、すぐ済みますから」

 駄目だこの人。すごい、輝くような笑顔で言い放ってくれた。
 モチベーションが限界振り切っている。
 やる気満々だ。

「さあ、良也さん。法界の火でもって、煩悩を浄化しましょう」
「遠慮しておきます! なんか手足の数だけ、男として大切なものが無くなってしまいそうな気がしますし」

 結構力をこめてふりほどこうとしたのに、白蓮さんに掴まれた手は全くふりほどけなかった。
 そういえば、今思い出したけど、白蓮さんは肉体強化系の魔法を主に使う魔法使いだったっけ。
 か細い腕と白い指だが、力はどんな人間にも負けないくらい強い。

 白蓮さんは空いているもう一方の手でいつも持ち歩いているエア巻物を開いた。
 ああ、もうダメか、南無三、と僕は目をつぶった。

 ……今、気づいたが、魔法薬の影響は中々すごいものだったらしい。
 目をつぶっても、辺りの様子が鮮明にわかってしまう。
 変異した手足は、鋭い感覚器になっているようで、まるで目を開いているかのように世界が感じられる。

 白蓮さんの背後には巨大な模様が浮かび上がり、力をぐんぐん溜めていっている。
 ぬえは一足お先に安全地帯に逃げ込み、ハンカチを振り振り、達者でなー、と皮肉にしか聞こえないことを言って僕を励ましてくれている。

 白蓮さんの力は異様に肥大化し、僕の脳を揺さぶった。
 確か、このスペルカードは霊夢が法界に行って、白蓮さんと弾幕ごっこをしたときに見たスペルカードだ。
 二本の極太レーザーと、その間を散らばる霊弾が霊夢を苦しめていたっけなあ。
 あれを端から見ていたとき、あんなのを相手にするくらいだったら逃げた方がマシだ、まあ白蓮さんと弾幕ごっこをする予定はないけど、みたいなことを言っていたけど、そのときの僕が今の僕を見たらどう感じるんだろう。


大魔法『魔神復誦』


 ……ああ、僕の世界に光が満ちる。







 文字通り、僕は灰になった。
 幸いなことに、手足は元通りになっていたが、すごくやるせない気持ちになってしまった。
 帰り際に、鵺がやってきて、喜捨を求めてきた。
 僕が苦し紛れにいった言葉を覚えていたらしい。
 なんとなく、喜捨しないと鵺があらぬことを言いふらし始めるんじゃないか、という危惧を抱いていたので、全財産……とまではいかないが、結構な金額を喜捨して、神社に帰った。

 神社に帰ると、「怪奇! 謎の『チン』生物現る!」という文々。新聞の号外が出ていた。
 もう嫌だー、と魔法で洞窟を作り、入り口を岩で塞いで引きこもっていたら、萃香に見つかって力ずくで引きずり出された。
 その後、酒を無理矢理呑まされて……僕の日頃の鬱憤と今回の出来事についての愚痴を聞いてもらった。
 それで幾分か気分はよくなった。

 酔いつぶれて、テーブルの上に突っ伏しているとき、萃香が「あたしに言えばいつでもつきあってやったのに」と言っていた。

 やっぱり萃香は優しいなあ。
 持つべきものは呑み友達。
 どんなに辛いことがあっても、酒を呑んで愚痴をこぼして眠れば、なんとかやり過ごせる。
 いつでも付き合ってくれる人というのは得難いものだ。

 寝ぼけて萃香は大切な人だ、とかなんとか言ったような気がしたけど、その後すぐに眠りこけたので本当に言ったかどうかは覚えていない。




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