「しっかしまぁ・・良也もしっかりしないといけないぜ?」 「いいのよ、今のままの良也さんで」 「・・・馬鹿にされてるような、褒められてるような・・・」 幻想郷は、今日も平和だ。 良也と霊夢、そして魔理沙が博麗神社で茶をすすりながら談笑する様が、それを如実に現している。 普段と違うといえば、霊夢と良也が隣り合っている、その距離ぐらいなのだが。 懇ろになって、結局霊夢に迫られるままに結ばれて。 「褒められてると思うかい?」 「しっかりしてる良也さんなんて、それこそ良也さんらしくないわよ」 「ま、そりゃそうなんだけどさ」 魔理沙が苦笑混じりに茶化して、霊夢はいつもどおりにそれを受け流す。 相変わらずといえば相変わらずの三人ではある。あるのだが。 「でもな、霊夢。・・幾ら恋人だからってどこでもイチャつくのはやめたほうがいいぜ?」 「あら。ただ手を繋いで買い物をしたり、二人で散歩したりしてるだけよ?」 「そうそう。そこまでベタベタしてるわけじゃない、と思うんだけど」 その手を繋いで買い物とかが問題なんだよな、と魔理沙は思う。 特に今まで霊夢がそこまでした相手がほとんどいなかった、いても仲の良い同性だけだったから、余計に。 それでも、自分の一番の親友が幸せそうなのが嫌というわけではない。 むしろ祝福してさえいるのだ。心底では、だが。 「まぁ、二人が幸せならそれでいいと思うけどな?」 「なら問題ないわ。そもそも誰が邪魔をするってわけでもないでしょ?」 「うんうん。僕を好きになる女の子がそうそういるわけでも無し」 「・・・良也、それは地雷だぜ?」 魔理沙とて、良也を慕う女の子が霊夢以外にも数人いることを知っている。 単に仲がいいとなれば、それこそ数えるのが面倒なほどにいることも。 彼と外界にいた頃から親しいと聞く守矢の巫女も、なんだかんだで彼を慕っていると。魔理沙はそんな予感さえ抱いていたし。 「良也のことを気に入ってるってやつは結構いるんだぞ?」 「それでも、良也さんは私の恋人だもの。慌てることもないわ」 「・・・霊夢、もし良也が別な女の子を襲ったりしたらどうするんだよ?」 「おーい、僕はそんなことしないぞー?」 「そうね。良也さんはまかり間違ってもそんなことはしないわ」 自信満々に言い張る霊夢と、それに追従するようにコクコクと頷く良也。 そんな二人の姿が自然過ぎて、魔理沙は思わず苦笑する。 「へぇ、信頼してるんだな」 「当たり前よ。私と初めて結ばれるときも、必死で先延ばしにしようと逃げていたのよ?別の娘に力ずくで、なんてする力もないし、しようともしないでしょ」 「・・・・・・・・・・・・情けないぜ」 あぁ、途中までは良かったのに。 霊夢はなぜこうも持ち上げては叩き落すような真似をするのだろうか、と魔理沙は思う。 ただ、この霊夢と良也だからこそ上手くいっているのも、また事実。 魔理沙には理解しがたいが、この二人にはこの二人なりの絆があるのだろうと、そこまで考えて。 ―――――黒白の魔法使いは、考えることをやめた。 いや、正確にはやめたわけではないのだ。 少し眠いわ、と霊夢が良也に視線を送って、良也が苦笑した―――たったそれだけの仕草の後。 すぐに良也が霊夢が寝やすいように座り方を変えて、そして霊夢が良也のひざ、というか太ももを枕にして、甘えるように横になる。 それだけをみて、―――あぁ、この二人は確かに変わったと、そう実感した。 その実感はため息になって。 素直にこの二人を見守ろう、見つめていこうと、そういう考えに至らしめたのだった。 ――――――――――――――――――――――――― 「はぁ。全く世話が焼けるなぁ・・」 良也は大きくため息をつくと、背を後ろに倒し、寝転がる。 動きたくても動けないのは、両足を枕にされているから。 紅白の巫女と黒白の魔法使いが幸せそうな顔で寝ているのを邪魔するつもりはない。 寒すぎず暑すぎず、寝やすいように自身の世界の温度を操りながら。 「幸せ、なんだよな・・・」 数年前。否、数ヶ月前までは予想もできないし、考えられなかった光景。 だけれど、今はっきりと目の前にいる少女が、自分の恋人なのだ。 可愛い妹のように見たこともあったし、手間のかかる友達のように感じていたこともあった。 自ら迫ってくる積極性を知ったときには驚いたが、しかし流されることも嫌ではない。 「可愛いな、霊夢は・・・」 ふわふわの黒髪を撫でてやると、くすぐったそうにして。 そんなさりげない仕草の一つ一つにさえ、心を奪われる。 これが本当の恋なのかな、なんて思いながら。 「霊夢も魔理沙も、気持ちよさそうだな。よし、・・・僕も少し寝よう」 まだ太陽は高いけれど、たまには昼寝をして過ごす日も悪くない。 良也は陽気に包まれながら、二人の少女と同じように瞳を閉じ、そして穏やかなる睡眠に身をゆだねる。 これが、騒がしいことが多い良也の幻想郷での日々の中でも珍しい、穏やかな一日の話だったという。 |
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