穏やかな陽光に照らされ、花が咲き乱れる季節、春。 霊夢の死以降各地を転々としている良也は、今は永遠亭にいて。 そして、その日は縁側で日向ぼっこなどをしながら本を読んでいた。 「お師匠、姫様があいつの膝枕で寝ているんですが」 「あらあら。輝夜も案外本気で彼のことを気に入ってるのかしらね」 ウサギの少女と、その師匠に当たる薬師は二人で話す。 永遠亭の姫が、蓬莱人の青年に心を許しているのは知っていたけれども、と薬師は笑いながら。 「でも、あいつは既婚者なんですよ!?」 「でも妻はもういないわ」 何故だか必死になる弟子を見ながら、師匠は笑顔のままで。 「どうしたのかしら?ウドンゲも彼と一緒にいたいの?」 「ち、違います!ただ姫様があいつに何かされたらと思うと・・・」 「安心なさい。彼はそんな人間・・・いえ、蓬莱人ではないわ」 穏やかな声で、薬師は弟子に聞かせる。 それはまるで母親が子に言い聞かせるといった感じで。 「何より、彼は輝夜の唯一認めた男だもの。私たちが口を挟む余地はないわ」 「・・・わかりました」 弟子の頭の耳が垂れ下がるのをみながら、師匠は再度微笑む。 あの蓬莱人は、間違いなく永遠亭を変えたのだと、そう思って。 「今日も気持ちのいい小春日和ね」 その呟きを聞いたものは、いなかった。 「やっぱり良也の膝枕は収まりがいいわね」 「別に膝枕なんてしなくてもいいと思うけど」 「気持ちの問題よ。それに良也の近くだと、暑すぎにも寒すぎにもならないもの」 にこりと笑う月の姫に、良也は苦笑を浮かべる。 彼女の笑みには心が揺らぎそうになるが、そこは良也。 何でもない風を装って、本を読み続ける。 「それで、いつになったら永遠亭に永住を決めるのかしら?」 「まだ考えてないよ、永住なんて」 「それじゃあ駄目よ。私然り、悪魔然り、貴方を求める人がいる限り、良也はそれに応える義務があるんだもの」 「・・・僕は、まだ整理しきれないんだ。霊夢とのこと、霊夢への想いを失ったわけじゃない」 毎回吐く、同じ言葉。 それは、彼が未練の元に生きているという意味がある。 そして、その未練を断ち切れるのは、当の良也本人だけであり。 「その未練を断ち切れば、良也、貴方は貴方でなくなるわ」 「そうかも知れない。・・本当は、自分がどうしたいのかも、何をすべきかも分からないのかもしれないなぁ」 「そう、それでいいの。未練を抱いたまま、私のモノになりなさい」 今なら兎耳の美少女二人に薬師も一緒に手に入るわ、と輝夜はささやく。 確かに、魅力的な誘惑である。 ・・・であるのだが。 「んー、まだ保留で」 「また?いつまで保留で済ませるつもり?」 「分からないけど」 「いい加減にしないと、こっちも我慢してるんだから」 ふわぁ、と小さく上品に口を開けて、輝夜は欠伸をする。 それに釣られて、良也も欠伸をひとつ。 「少し眠いわね」 「寝る?」 「えぇ、少し眠らせてもらうわ」 良也に膝枕をしてもらいながら、輝夜は瞳を閉じて。 やがて、定期的な呼吸音と風の音だけが、良也の耳に入るすべてになって。 そして、永遠亭の縁側から二つの規則正しい寝息だけが聞こえるようになった頃、二人を見つめるのは、薬師の穏やかな眼差しだけだった。 |
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