幻想郷に住む少女たちは、須らく可愛い。 それは良也が数年に渡る幻想郷での生活の中で知ったことの一つである。 外界にも美少女の知り合いはいるにはいるが、良也的には別格と考えていいぐらいだと思ってもいた。 で、そんな良也は今、地底の古明地家にいたりする。 「ご馳走様でした」 「はい、お粗末さまでした」 出された料理をきっちりと平らげた良也は、満足そうに笑う。 手作りの料理を出されること自体が稀有だった彼にとって、時折家を訪れるたびに手料理を振舞ってくれる少女――古明地さとりの存在は、まさに神々しいものだ。 博麗神社を筆頭に、守矢神社でもそうだったし、紅魔館にいたっては自分を食料にしようとしたりもする(血液的な意味で)。 さとりを女中の如く考えているわけではないが、こうやって普通の客人扱いして貰えるのは素直にうれしいのだ。 「やー、さとりさんのご飯はいつも美味しいね」 「それは良かったわ」 「それにしても・・・」 さとりの割烹着姿が、妙に可愛い。 何もなしで可愛いのに、割烹着などを着ているのだ。 可愛さも二倍である。 「・・いや、なんでもないです」 「こういうとき、貴方が何を考えているのか知りたくなるわね」 「いや、割烹着姿のさとりさんも可愛いなーと思って」 「あら、そう?」 にこりと笑って、くるりと回って。 それだけでもさとりの可憐さが際立とうというものだ。 「心が読めるのは便利だけど、読めない相手といるほうがやっぱり楽しいわ」 「何回も聞いたけど」 「そうね。でも、何回でも思うもの」 さとりは、満足そうな、幸せそうな笑顔で良也に語りかける。 「みんな、心を読まれることを恐れて私から離れる。だけど、あなたは違うわ」 「・・・・・いや、まぁ僕の世界の中にいれば心を読まれることもないんだけど」 「それでも貴方がいることが条件じゃない?」 「あー、まぁそうだね」 良也とさとりが食事した後の食器を片付けるさとりの背中が、まるで新妻のようで。 「(っ・・・・何を考えてるんだ、僕は)」 自分が心を読まれない能力持ちで良かったと、良也は一瞬思う。 読まれていれば、間違いなく弾幕のフルコースだったはずだ。 ・・だが。 「ねぇ。今、何か変なことを考えなかったかしら?」 「ちょ、え!?」 「それぐらいは雰囲気で分かるわ。・・・ところで」 ところで、と振り返ったさとりの笑顔に、良也は嫌な感じを受ける。 しかし逃げ出すわけにもいかないし、答えないわけにもいかない。 「ど、どうしたのかなぁ・・・さとり、さん?」 「貴方、いっそこの家に住まない?」 「・・・・・え?」 「そうよ、それがいいわ。外界や地上への移動に関しても制限はつけないし、毎日朝と夜にここで一緒に食事をすればいいのよ!」 「何言ってんですか」 これぞ名案!とばかりに言い出すさとりに、良也は思わず突っ込む。 だが、さとりは笑顔のままで。 「地上の巫女よりも好待遇よ?それに今なら可愛い妹一人にペットも二人いるわ」 「いやいやいや」 どうやら良也がさとりを常識のある人だと思ったのは勘違いだったらしい。 幻想郷でこの手の相手はもう慣れきったとばかりにため息をひとつ吐く。 「確かに地底の人たちと仲良くしたいとは思うけど。でも、やっぱり僕は外界の人間だから」 「あらそう。残念ね、貴方ならいつ来てもいいわよ?歓迎するわ」 どうやらさとりの気分を害したわけではないようだ。 まずそのことに一安心した良也は、今度はそっちに話題が向かないように話をそらすことにした。 その考えは功を奏したらしく、さとりが二度そのことを迫ることはなかった。 ――――――――――――――――――――――――― 地上に帰った良也を待っていたのは、地底での会話のことを執拗に迫る巫女二人で。 二人の巫女に迫られながら、地底のほうがいいかも知れないなどと思う良也だった。 |
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