朝。そう、良也が幻想郷で迎えた数年ぶりの朝である。
昨夜博麗神社に泊めて貰った見返りに、良也は朝食を作って。
そして、まだ寝ぼけているであろう霊夢を起こしに行って――肌蹴た寝巻き姿の彼女を見て、顔を真っ赤に染めてたり。

――それが霊夢の企んだこととは露とも知らなかったが。

「それで、良也さんは帰るのね」
「ああ。確かに幻想郷の生活も懐かしいし、楽しいけどね」
「それなら無理は言わないわよ。・・・・紫ー?」

朝食を終えた二人は、縁側で並んで話し合う。
確かに良也も霊夢も成長しているが、今までと違う感じは全くない。
きっと霊夢と結婚しても、こういう関係のまま、こんな姿の二人のままなんだろうな、などと良也が思っていたら。

「あらあら。昨夜は二人でお楽しみだったみたいね?」
「・・・出たなスキマ」
「えぇ、久しぶりに会えてよかったわ。有意義な時間を過ごせたと思うもの」
「そう。・・なら、一つ提案があるのだけど、どうかしら」

スキマから顔を出す八雲紫と、明らかに嫌悪するような顔で彼女を見る良也。
妖怪賢者だのと言われているらしいが、良也に取っては疫病神もいいところである。

「それより。誰かが僕に会いたいって言ってたけど、嘘だろ」
「いいえ、嘘ではないわ。ねぇ霊夢?」
「・・・まぁ、久しぶりに会えて楽しかったのは認めるわ」
「ほらみなさい。・・で、私の出す提案は一つ。簡単なことよ」

にやにやと笑いながら、スキマ妖怪は言葉を続ける。

「一週間に一度、私が良也をここに連れてくるの。最初は戸惑うだろうし、人によっては怒るかも知れないけれども、そんな些細な問題、気にしなくてもいいわ」
「気にするって。週に一回僕が幻想郷に来て、何をすればいいのさ」
「それも簡単なこと。霊夢と一緒にいるなりなんなり、好きにしていいの。・・・良也が、幻想郷にいるってことが大切なのよ」

したり顔でそういう紫だが、驚くことに霊夢までそれに同意するかのように微笑む。
・・・良也は、不覚にもそれに見惚れてしまった。

「魔理沙も早苗も、永遠亭のウサギ達も、地底の連中だって良也さん目当てに神社に来たりするんだから。時々でいいから会ってあげてもいいんじゃないかしら」
「・・・・ほんっとうに週に一回でいいんだな?」
「えぇ。嘘は言わないわ」
「なら、いいけど」

良也の渋々と言った返答に、しかし霊夢と紫は満足そうな顔になる。
週に一回とは言え幻想郷に再度訪れることができる様になったのだ、良也とて嫌な気にはならない。
・・・但し、また霊夢たちと中の誰かと結婚させられそうになったら、逃げ出しそうなのだが。

「心配しなくてもいいわよ」

良也の心を読むかのようなタイミングで、紫が声をかける。

「力ずくで結婚させようなんてしないわ。互いの合意と、何より愛がないといけないものね」
「・・胡散臭い」
「あら、なら力ずくで結婚させられてもいいの?甘んじて受けるのかしら?」
「そうじゃなくて。・・スキマがそういうことを言うのが珍しいっていうの」

昔と変わらぬ良也と紫のやり取りに、霊夢は頬を緩める。
一晩一緒にいただけでは実感が沸こうはずもなかったのだが、ようやく安心したのだ。彼が帰ってきた、それを理解できて、実感できて。

「とにかく、今日のところは帰らせて欲しいんだけど」
「そうね。外界での生活に支障が出ても困るでしょうし。・・紫」
「はいはい。・・・じゃあ、また迎えに行くわね」
「うん、わか・・・わぁぁぁっ!!?」

地面にばっくりと開いたスキマに飲み込まれる良也をぼうっと見ながら、霊夢は小さく微笑んだ。
また、幻想郷に騒がしい日々が戻ってくると、そう確信して。



その様子を見ていた‘四人目‘がいることに、全く気付かなかったのは、霊夢と良也の不幸ではあったのだが。


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白河ななかは、朝の並木道を歩いていた。
桜の花びらが舞い散るこの道を歩いていると、辛いことも悲しいこともかき消してくれそうな気がして。
最も、それは自身が持った能力に拠る所が大きいのだが。
他人に触れると、その人の考えているというこの能力は、確かに便利ではある。
便利なのだが、それ以上に辛い。
他人の下心や悪意までが流れ込む感覚は、何度味わっても慣れられるものではない。否、慣れたら人として歪んでしまっていると考えてしまうのだ。
もうすぐ春休みも終わって、学校が始まる。
そうすれば、きっとまた楽しい日々になるのだろうか。
大好きだった桜内義之は既に小恋の恋人だけれど、また別の恋に出会えるのだろうか。

そんなことを思いながら歩いていたら。

――――――空から男の人が降ってきた。

「え?え?え?えぇぇ!!?」
「うわぁぁぁぁ、っとっ!!」

――――――あまつさえ、その男の人が空を飛んだ。

「って、先生!?」
「え、もしかして、その声・・・」

空にいる男――無論良也だ――とななかの視線が交わり。

「先生、空、飛んでるの・・・?」
「う・・・まさかバレるとは・・」

苦笑しながら、良也は地面に足を着く。
一度だけポーズとして『スキマー、しゃべるぞー』と言っておき。

「・・実は、僕は魔法使いなんだ」

良也の小さな声に、ななかは驚きの顔を見せる。
絶対に他の人にはないしょだからな、と良也は注意を促して。

――そして、事のあらましを事細かに説明した。




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