「良也さんは立派になったわね」
「霊夢も、綺麗になったと思うけど」
「あら、お世辞を言っても何もないわよ」

和気藹々、とは行かずとも、気の合う二人が数年ぶりに再会して楽しくないわけがない。
良也が数年ぶりに見た霊夢は、成程小町や美鈴ほどではなくとも布を押し上げるだけの胸があり。
かつての少女としての可愛らしさよりも、女性としての色気が先立っていた。
もっとも、真っ白な無垢さは失われていないようだったが。

「それでさ、スキマに幻想郷がどうのって連れて来られたんだけど」
「別に異変も起こっていないし、平和よ?」
「ちっくしょう、騙された!」

こうなると理不尽というものを感じずにはいられない。
理由もなく、自分が過去に負い目を持ったような所に連れてこられたのだ。
いや、責任をスキマ妖怪に着せること自体が良也にとっては逃げなのだが。

「ふぅん、何か事情がありそうね。・・で、これからどうするの?」
「んー・・・考えてないかな。スキマが出てきたのも突然だったし」
「なら、またここに泊まっていく?明日の朝なら紫も来るでしょうし」
「でもなぁ」

相変わらずマイペースな巫女に一安心しながら、しかし。

「ほら、僕は前からだけど、霊夢ももう立派な大人なんだろ?」
「・・・・・・・・・・・良也さんが、大人?」
「一応年上なんだし。・・それは置いといて。・・ほら、僕だって男なんだ、霊夢を襲いたくなるかもしれないじゃないか」
「襲ってもいいわよ?」
「ぶっ!?」
「その代わり、スペルカードのフルコースになるけど」
「・・・ですよねー」

霊夢の本質が変わっていないことに、良也は思わず息を吐く。
だけれども、相変わらずの霊夢に安心する自分がいることにも気付いて。

「・・・・本当に変わってないんだな、霊夢は」
「えぇ。体は成長しても、心はいつまでも私のままよ。魔理沙も早苗もそう」
「へぇ、東風谷のこと、呼び捨てにしてるんだな」
「良也さんが来なくなってから、必然協力することが増えたもの」

そして霊夢は満足そうに喋り続ける。
以前良也がいたころにも、こんなに饒舌な霊夢はみたことがなかった。

「だけど、良也さんは変わったわ」
「あぁ。弱くて、逃げてばっかりの意気地無しだからさ」
「でも、本当に立派になったもの。今なら結婚も考えてあげるわよ?」
「ははは、いまさらだよ。今更僕が霊夢と結婚なんて言ったら殺されるよ」

からからと笑う良也の姿からは、以前のような切羽詰まった感じはない。
むしろ余裕さえ感じさせる姿に、霊夢は少しだけ寂しさを感じた。

「それじゃあ、僕は外界に帰るよ。明日も手続きとかで忙しいし」
「そう。・・で、次はいつごろになるのかしら?」
「分からないよ」
「また来るの?」
「多分、いつかね」
「そう。そのときは私も良也さんも結婚しているのかしら」
「僕はないと思うけど、霊夢は結婚してるんじゃないか?」
「良也さんとでもいいわよ?」

まるで恋人同士が別れを惜しむかのような、刹那の時間。
しかし、そこで良也は重大な事実に気付く。

―――自分が移動用のスペルカードも、財布も置いて来ているということに。

ぶらぶらと散歩している最中、八雲紫に拉致されたのだ。仕方がないのだが。

「・・・どうやって帰ろう」
「紫が来るまで待っていく?構わないわよ?」
「んー・・・」

ポーズとしてではなく、良也は割と本気で悩む。
自分は霊夢から、ひいては幻想郷から逃げるように生きていたが、霊夢が嫌いなわけでも幻想郷が嫌いなわけでもない。
実際に再会した瞬間は間違いなく心が躍ったし、美しく成長した霊夢を見て目を奪われたりもしたし。
だが、万一霊夢と一緒にいて、幻想郷が恋しくならないとは限らない。
そうすれば以前のように自由に行き来出来るわけではない良也自身は、ジレンマに悶えることになるだろう、と。

一方霊夢は、良也がスパッと一泊することを決めないのに焦れていた。
そして、ここで別れたら関係が二度と修復できないような、深い溝が出来るかも知れないとも思っていた。
何故かは分からないが、良也とほんの少しでも長く一緒にいたいと思った。
――――それが恋心の類なのか、それとも懐かしさからのものかの判断は、残念ながらまだ出来ないようだったが。

「うん、よし。決めた」
「どうするのかしら?」
「一晩だけ、泊めてもらうよ。仕事もあるし、明日の朝にはスキマに帰らせてもらうけど」
「なら、早く入りましょ。朝御飯の用意ぐらいはしてもらうわよ」

何の気もない振りをして、霊夢は神社の中に入っていく。
そして、慌てたようにそれを追いかける良也。
久しく忘れていた関係を思い出して、霊夢は小さく、しかし可憐に微笑んだ。




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