「良也さん、デートって何なのかしら?」
「・・・また、唐突だなぁ」

いつもどおりの、博麗神社の昼下がり。
相も変わらずユルい巫女と二人で茶を飲みながら日向ぼっこ、と良也が自分でもユルいと思うような過ごし方をしていたら。

「人里でちょっと聞いてね。何でも男の人のお金で美味しいものを食べたり、遊んだりするそうじゃない」
「歪んだ情報だなぁ」
「まぁ、射命丸から聞いた話だし」
「・・歪んでるわけだ」

彼女の書く記事には嘘、というか悪意さえ感じられるものがある。
それは、特に外来の人間―良也に対するものだが。

(僕は・・何か悪いことしたっけ)
「・・?良也さん?」

首を傾げる良也に、霊夢は怪訝な顔をする。

「そんなにデートっていうのは難しいのかしら」
「えぇ、そうね。難しいわ・・」
「あら、紫じゃない」

突然の来訪者にも顔色一つ変えないのは、流石というべきか。
逆にその来訪者を苦手にしている良也は、げんなりとした顔をしているが。

「デートって言うのは、最後に男女が目交合ったりするのよ」
「あら。なら恋人とするものかしら?」
「いいえ、そうじゃなくてもいい。目交合ったりしなくても、お金だけ使わせて捨てれば良いもの。簡単でしょう?」
「あぁ、そういうやり方もあるのね」
(嫌な予感がするなぁ・・・・)

このスキマ妖怪も、何でまた話を歪めようとするのか。
ぶっちゃけそこまでやりたいことが分かっていれば、対応のしようもあるのだ、困ることはないのだが。

「というわけで。良也さん、私とデートしませんか?」
「・・流石の僕も、魂胆が見え見えの話に乗るほど馬鹿じゃないよ」

湯飲みを置くと、全力で拒絶してみる。
・・・霊夢と紫の顔色が見る見るうちに変わっていくのが、良也にもわかった。

「驚いたわ。まさか断られるなんて思ってなかったわよ」
「そりゃあさっきからの会話を聞いてれば、断ろうとも思うよ」
「そうね、そこらへんはきちんと判断できるのね。見直したわ」

というか。
スキマ妖怪の中で良也はどれだけダメな人間なのだろうか。
一度そこらへんを聞いてみたいと良也は思ってみたり。

「・・流石に、私もそこまでしようとは思わないわよ。お賽銭の中からいくらか貰っていけば、食事ぐらいは出来るはずだもの」
「その台詞、昨日も聞いたんだけど」
「う」

賽銭箱を見に行こうとした霊夢が動きを止める。
ちなみに、昨日の夕方の時点でお賽銭は――皆無だった。
その状態で、今見に行っても大きく変わってるはずはない。
だが霊夢の顔色が見る見るうちに悪くなっていくのをみて。

「仕方ないなぁ。はい、これだけあげるから。今日は、今渡したうちから使ってね。流石に、これ以上は渡せないし」
「え、良也さん?」
「そんなに遊びに行きたいんだろう?」
「へぇ。なかなか良いところを見せるものね。・・はっきり言えば、驚いたわ」

驚いた、って言う割には顔色ひとつ変えないスキマ妖怪に、良也は苦笑する。
最も、良也が渡したお金に、当の霊夢本人は声を失っているようだが。

「まぁ僕は外界のものを売ってればそれで商売になるし。買うものとかもそんなにないし、たまには格好つけないといけないしね」
「・・たまにじゃなくて、出来れば週に七回ぐらい格好いいところを見せてくれると嬉しいんだけど」
「・・それ、毎日じゃないか」
「ふふふ・・じゃあ、邪魔者は退散するわね」

言うが早いか、紫はスキマへと姿を消す。
それをみて、霊夢がようやく微笑んで。

「じゃあ、一緒に人里に行きましょうか。良也さんの好意に甘えない手はないし、良也さんの気が変わらないとも限らないものね」
「うん、行こう」

で、まぁ。
色々あったけど、良也と霊夢はふたりで人里に遊びに行ったんだってさ。


―――――――――――――――――――――――――

良也と人里に来て、霊夢がまず知ったのが、良也の人気者振りである。
出店の前を通るたびに店主から声をかけられ、食べ物を一口分だけもらったり。
子供たちが遊んでいる前を歩くだけで囲まれたり(その時に飴符・キャンディレイン!と言いながら飴玉をあげる姿がどうにもしっくりこないと霊夢は思う)。

ただ、何よりも。

「五人目の彼女、ってどういうことかしら。聞かせて欲しいわ、ねぇ良也さん?」

にこりと霊夢が微笑む。
だが、愛らしいはずの微笑からはプレッシャー以外には何も伝わってこない。
少なくとも、対峙している良也にはそう感じられた。

「五人目っていうか。東風谷と一緒に来たり、妖夢と来たりしてるからなぁ」
「つまり、良也さんはみんなを恋人にしていると。そういうことかしら」
「・・・・誤解だって。第一、僕に恋人なんているはずないだろ」

良也には、過去と現在に彼女がいたことはない。
霊夢は良也の顔をまじまじと見つめて。

「・・なら、一度だけ信じます。まぁ、良也さんに恋人がいてもいなくてもいいですけど」
「・・・・・」

それなら最初から突っ込むな、と良也は苦笑する。
ともかく、折角人里に遊びに来て、こんなつまらないことで帰るのは勿体無い。

「それじゃあ、どこかに食事に行こう」
「そうね。ちょうどお腹が空いたところだったわ」

霊夢は未だに疑惑を取り払ったわけではないが、良也がいないと言い張っているのだ、それをいちど信じてみようと思う。
何故良也がほかの少女といることで自分がイラつくのか、まだ霊夢にはわからない。
だけれども、いつかその理由を知る日まで。

「今日は一日、付き合ってもらいますからね!」

この日以降、霊夢は、無性に良也に甘えるようになったという。



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