「うぅ〜・・・」

額に氷を詰めた袋を乗せ、布団から出ている顔からうめき声を洩らす。
鼻水が頻繁に出るし、頭はガンガンするし、風邪としても酷い症状には違いないと、良也は勝手に自己完結していた。
つい数時間前に嬉々として問診(の名を騙った採血)にやってきた永遠亭の永琳は、きっちり処方してくれたものの、『不老不死なんだから、風邪なんかで大袈裟に言わないようにね』などと言っていたし。

「・・み、水・・」

霊夢は例によって永遠亭に居させてもらっているので、事実上彼しかいない博霊神社、なのだが。
誰もいないとわかっていながら、空の水差しを手探りで探してみる。
兎に角身体が焼けるように熱いのだ。
汗で服がベトベトになってしまって気持ち悪かったり、頭が痛いなどもあるのだが・・。
しかし、今は何より水が飲みたかった。
鈴仙が、風邪を引いたら死ねばいい、不老不死なんだから死ねば治るなどと言っていたこともあったが、良也自身死ぬことに慣れたくはないのだ。

「う・・・ヤバ・・・ほんきでキツいかも・・・・」

水差しを手探りで探すことさえ苦痛に感じ出して、良也はそのままぐったりとする。
意識が朦朧としはじめ、そのまま何かを考えることも出来ないほどに脳内が混濁して。

そして、良也はそのまま意識を失いそうになって。
口内に、冷たい水が入るのに気付いた。




「え・・・み、水・・・?」

喉を潤す冷えた水を飲み干すと、良也は首を傾げる。
この博麗神社には自分しかいないはずなのに、と。
しかし、その疑問は、横からの声で解決した。

「・・全く。世話が焼けるわね」
「え、れい・・・せん?」
「何?私がいちゃいけないの?博麗の巫女に頼まれて来たんだけど」

ツンとした態度で、しかし汗まみれの良也の顔を濡れた手拭で拭く、ウサギ耳の美少女がそこにはいた。
一向に苦しいのは変わらないのだが、一口だけでも水を飲めたことが良也の心を落ち着けてくれる。

「れいむ、が?」
「そうよ。ずいぶん心配していたわ」
「そ・・・っか・・」
「今度は氷の妖精に氷漬けにされてたのね。お仕置きとか言ってたわ」

飲みなさい、と氷を一つ落とした湯飲みに、水を入れて差し出す鈴仙。
相も変わらずつっけんどんだが、きちんと世話をしてくれる分に、(現在の体調から考えても)良也としては非常に有難くて。

「その、何回も・・・来させて・・」
「ありがとう、かしら。別に貴方のためじゃないのだけれど」
「それでも、うれしいからさ」
「・・何よ、急に」

良也が残りカスのような力を振り絞って笑顔を見せると、鈴仙は顔をカァっと染めて、そっぽを向く。
そんな鈴仙の様子に、良也は安心して。

「そろそろ、ゆっくり休みたいな・・」

そうとだけ呟くと、意識をゆっくり闇へと落とした。




「・・何よ、もう・・・」

鈴仙は不機嫌そうに呟くと、眼前で眠る土樹良也の顔の汗を、再度ふき取る。
第一印象は最悪のはずなのに、永遠亭の自分以外は、みんな彼を気に入っている。
いや、永遠亭だけではない。
幻想郷のあらゆる場所の、あらゆる人と付き合っているのを知っている。
意固地になって認めない自分が悪いのだろうか、きちんと互いのことを理解して付き合えばもっと仲良くなれるのだろうか。

(っ!!そんなことない、何でこんな・・こいつは悪なの、悪人なの!)

自分の葛藤などどこ吹く風のまま、多少苦しそうではあるが眠りについた良也を一睨みすると、また鈴仙の頭がパニックを起こす。
大嫌いだったはずの相手を、認めつつある自分。

(そう、これは師匠に言われて、博麗の巫女に頼まれてきた、仕事なんだから!)

ぶんぶんと首を振って、自問自答に力ずくで決着をつけて。
しかし、彼が目を覚ましたときのために、とりあえず傍らで待っていようと。

(仕事は最後までしないといけないもの!)

鈴仙は、良也の寝顔をじいっと見つめ続けて。

そして、そのまま彼の傍で自分も眠ってしまった。




この後、鈴仙が目覚めても良也は眠ったままだったり。
少しだけ良也に対して優しくなった鈴仙をみて、霊夢や早苗が妙な勘繰りをしたり。

色々と大騒ぎになるのは、また別の話である。




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