酷く高鳴る鼓動に、フランドールは困惑していた。 目の前でパチュリーと魔法のいろはを復習している良也を見るたびに、どうしようもない独占欲と、しかし嫌われたくないからと自制心が反発しあう。 わざわざ自分のために外界の絵本を持ってきてくれた青年は、一度博麗の巫女と結婚し、そして死別している。 現在は独り身でお菓子売りに戻ってはいるが、博麗の巫女を守り続けた実力は本物だし、相変わらず能力は強力だし。 「あら、新しい符を作るのかしら?」 「うん、そろそろ新しいのを作ってみたくてさ」 「良也、新しいスペルカードを作るの?」 こっそりと机の上に顔を出したフランドールに、良也はうなづいてみせる。 「じゃあ」 「でも、弾幕ごっこはしないからなっ」 「えぇー・・・」 フランの期待を裏切るような良也の声に、フランはむくれる。 「確かに良也はまだまだ発展途上だものね」 「そうなのパチェ?」 「フラットラインなのは相変わらずだけど、突き詰める段階まで行ってないもの。相当の努力は必要だけれど、まだ伸び代はあるわよ?」 まぁ元々ゼロから始まったようなものだから、とパチュリーが付け足すと、良也は複雑そうに、でも「だから、もっと後になるってさ」とフランに言い聞かせる。 「代わりに、また本をたくさん持ってくるからさ」 「じゃあまた絵本を読んだりしてくれる?」 「普通の少女マンガになるけど・・」 「じゃあ約束ね!」 良也のひざの上に陣取って、子猫のように甘えてみる。 だけれど良也は嫌がる素振りも見せず、仕方ないなぁ、と苦笑するだけで。 結局良也が帰るときまで、フランは良也の膝に陣取り続けていた。 それから、一週間。 フランドールはパチュリーと一緒に図書館で良也を待ち続けたが、良也が来る様子は全くなくて。 彼だって暇じゃないでしょう、とパチュリーに窘められはしたが、しかしフランはイライラするしか出来なくて。 その日の夕方すぎに良也が紅魔館を訪れたときには、パチュリーやレミリアの制止も聞かず、『良也が泊まってくれないと、怒っちゃうんだから!』などと言い出して。 やっぱり苦笑して仕方ないなぁ、と言ってしまった良也がレミリアに怒られたりしたが。 結局フランドールには甘いレミリアが折れて、良也は一晩だけ紅魔館で過ごすことになった。 「良也も紅魔館に住めばいいのに。そうすれば、良也といつでも会えるのに」 「レミリアが駄目だっていうだろ?」 「あら、私はかまわないわよ?」 相変わらずの豪勢な食事に、レミリアとフランドールの前のワイングラスには良也の血が注がれていて。 良也と、レミリアと、フランドールと、パチュリーの四人が一緒に夕食を食べる。 「そもそも良也がここに住めば、私とフランはいつでも好きなときに血を飲めるわけだし」 「フランはずっと良也に遊んでもらえるよね?」 「あらあら。モテるわね、良也」 「少しは師匠に助けて欲しいんだけど」 「いいんじゃないの?住むのは無理でも、たまに泊まるぐらい」 パチュリーの悪戯気な声に、フランドールは目を輝かせて頷く。 「良也が泊まるときは、フランと一緒に寝るんだよ!良也に絵本を読んでもらながら寝るの!とっても楽しみ!」 「・・・・何があったのか知らないけれど、本当にフランは良也が好きなのね」 「うん!良也はフランの王子様なの!」 「絵本に感化されたのかしら?」 「だって良也は、幽閉されてた私を見付けて外に連れて行ってくれたんだもの!」 私の力がぜんぜん効かないたった一人だもん、とフランは嬉々として良也に抱きつく。 パチュリーとレミリアが苦笑するのは全く同じタイミングで。 「なら、良也はフランの旦那様ね。私が良也の義姉になるのかしら」 「話が飛躍しすぎだって!」 「フランね、いつか良也と一緒に住むの!立派なメイドさんを雇って、二人でずぅっと一緒にいたいなぁ」 慌てたような顔の良也の膝の上に座ったフランドールは、向日葵のような笑顔を見せて。 その姿を、パチュリーとレミリアに冷やかされた良也は、顔を真っ赤にしたり。 良也と同じ部屋で、フランドールは久しぶりに幸せな眠りについたりして。 その日から、フランドール・スカーレットは『暴君』『悪魔の妹』と呼ばれなくなった。 紅魔館で大好きな人を待つフランドールを、人々は『お姫様』と呼ぶようになって。 そして今日も、王子様を待つフランドールは、紅魔館の図書館で絵本を読んでいる。 |
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