ここは永遠亭。 月を追放された姫と、その教育係、そして地上と月の兎が暮らす(ある意味では)楽園である。 傍目にだけ見れば美少女ぞろいな上、幻想郷随一の薬師もいる。 この楽園に踏み込みたい男は星の数ほどいるらしいが、今ここに住む男は、残念ながら一人だけである。 その幸運な男は、土樹良也。 かつて博麗の巫女と結ばれたこともある、後天的蓬莱人であった。 【良也と輝夜と永遠亭】 「おはよう良也。今日もいい天気みたいね」 「・・・・」 朝の目覚めに、輝夜の声が良也の耳に響く。 布団の中には二人分のぬくもりがあって。 「輝夜、また僕の布団に入ってきたのか・・・?」 「あら、悪いかしら」 「そりゃあね。てゐや鈴仙ならともかく、輝夜だと・・なんていうか、洒落で済まなくなりそうだしさ」 「褒め言葉として受け取るわ」 ふわぁ、と欠伸する姿さえ美しい少女に、良也は一瞬だけ見惚れて。 「さて、僕もそろそろ起きないと」 「そうね、確か博麗の巫女の墓参りだったかしら?」 「うん、久しぶりだからね。霊夢と会うのも」 「私も行っていいのよね?」 「構わないと思うけど。一応孫には言い聞かせてあるし」 あぁ、あの娘ね、と輝夜は興味なさげに欠伸をもうひとつ。 一度討伐とかいって幻想郷の大物や有名人のところに喧嘩を売りまわっていた孫を思い出すと、良也も少しだけ恥ずかしくなる。 巫女としてはそれが正しいのだろうが、自分が散々に駆け回り、和解やらなにやらでようやく保てるようになったパワーバランスを崩されるのは好ましくない。 最後には良也が文字通り身を張って止めて、直謝りに謝りまわり、そうして ようやく現状まで持ち直してはいるのだが。 「輝夜様、良也ー、朝食が出来ましたよー」 「あら、おはよう鈴仙。ほら良也、行きましょう?」 「ちょっと待て、着替えだけはしていくから先に行っておいてー」 「分かったわ」 鈴仙の隣で歩き出す輝夜が流し目を一つ。 それを直視することに慣れた良也でも、しかしときめきそうになるのだから恐ろしい。 「取りあえず・・・」 良也が孫に博麗神社を追い出されたとき、真っ先に助け舟を出してくれたのが永遠亭の輝夜と永琳だった。 もっとも理由は至極簡単、自分たちが渡した蓬莱の薬のことがなければ、孫に追い出されることもなかったのに、ということだが。 「朝食に行くか」 私服に着替え、布団を片し、居間へと向かって。 良也のいつもどおりの一日は、無事に始まった。 良也が永遠亭に住むに至り、最大の問題は鈴仙のことだった。 初対面のときの悪印象と、鈴仙の元来の性格とを鑑みれば、どうみても嫌われ続けるのに違いなかった。 ただ彼女が心を開いたのは、真摯な態度で孫の失態を謝罪する良也の姿だった。 それまで確かに冷たかったし、あの異変以来態度が軟化しているのも事実。 ツン期が異常に長かった分、そのデレ期の破壊力には想像を絶するものがあった、とは良也の談である。 ともかく、現在彼は隠れた楽園の住人であり、数名の美女たちと暮らしており、現在も、そして未来までも幸せでいるのだろう、ということだった。 【以下おまけ】 〜冷血で潔癖な博麗の未熟な巫女〜 博麗嬰夢EimuHakurei 職業:博麗の巫女(但し未だに未熟) 能力:他者の力を増幅する程度の能力 住んでいる所:博麗神社 代々博麗大結界を守護する博麗の巫女の今代。 ユルく、良くも悪くも平和を愛した先々代、過剰なまでのファザコンだった先代と違い、冷血かつ潔癖症。 妖怪、亡霊などの存在を許せず、また許そうとも思っていない。 蓬莱人である祖父を毛嫌いしており、神聖なる場所と信じて疑わない博麗神社から追い出した張本人である。 かつて幻想郷から妖怪・亡霊・妖精などの人でないものを全て消そうと画策、一人で幻想郷の名だたる猛者に戦いを挑みまわっていた(※1)。 【性格】 前述のとおり過度の潔癖症で、冷酷・冷徹。 妖怪などに対しては過剰気味の制裁を行うこともあり、幻想郷での仲間や友達は皆無。 また人間であっても蓬莱人になったりしたものに容赦は全くなく、祖父などを毛嫌いしていることからそれは察することが出来る。 現在永遠亭に住んでいる祖父の厚顔さに呆れてもいる。 また生活能力がほぼない上、人里の人々にも嫌われているため、食料などは需給自足をしている。 なお守矢神社を敵視しており、現在は参拝客のほぼ全てが守矢神社に向かうことを疑問に思いつつも、自身の性格が問題とは思いもしないようだ。 【能力】 スペルカードは先々代、先代と遜色ないものを行使しており、また自称が「幻想郷史上に残る巫女(※2)」であることは嘘でない程度に実力は高い。 但しその個人として持つ能力が致命的であり、自身が存在する場所から一定範囲の『自身以外』が力を増幅するという、所謂ブースターである。 この能力は自身の望む望まないに関わらず発動する(※3)ため、基本は集団戦闘のアシストとして利用されるべき能力。 幻想郷を見回してもこのような特異な能力はほぼおらず、稀有といえば稀有である。 なお弾幕ごっこに関しては、低級〜中級の妖怪を追い詰めたりは出来る程度。 追い詰めると必ず邪魔が入るため、とどめをさすことは出来ない。 【人物評】 多くの妖怪や亡霊、妖精たちが名を出すだけで嫌な顔をする程度。 誰も語ろうとはしなかった。 ※1 通称「巫女の反乱」。 人間と人畜以外の全てを幻想郷から消し去ろうと考えた博麗嬰夢が、幻想郷の大物と思われる人々(?)の所へ出向き、問答無用で弾幕勝負を挑み、消滅させようと企んだ異変。 結果としては嬰夢が全てのものに敗北し、逆に追い出したはずの祖父に庇われて終わった。 ※2 「祖母は蓬莱人を夫にしたし、母は実父であり蓬莱人である人を愛していた。そんな程度の貞操観念のものは巫女として未熟であり、真の巫女ならば率先してその蓬莱人を追放すべきなのだ」とは博麗嬰夢の言葉。 ※3 八雲紫曰く「自身の能力を自分で操れない段階で良也以下ね。身の程を知るが良いわ」とのこと。 |
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