フランドール・スカーレットは、天に舞い上がるような気分でいた。
土樹良也、彼が数十年ぶりに紅魔館にやってくるという姉の一報が、それほどにうれしかったのである。
咲夜が土樹良也を連れてきて屋敷に入った瞬間、以前と全く変わらぬ姿の彼を見付け、思い切りに抱きついたのは、その親愛の情の表れであると姉に言われもした。
自分を抱きとめた良也の慌てたような顔は、今でも思い出せる。
嬉しそうで、でも恥ずかしそうな微笑。

『久しぶり、でいいのかな?こんにちわ、フランドール』

その声を聞いた瞬間、フランドールの時は再び動き出したのだった。


【暴君の恋心〜ちょっと違う感じだが、気にしたら負けだと思っている〜】

フランの朝は、吸血から始まる。
自分が陣取った良也の隣のポジションで、いつもどおりに首筋に牙を突き立てて。
その痛みで目を覚ます良也は困った顔をするが、怒ったりしないのは相変わらずなのだろう。
博麗の巫女、それも稀代の能力者と結ばれたということは伝え聞いていたが、再会したその日に一口血を飲んだだけで過去のそれとは全く違う味わいを知ってしまったのだ。
姉が言っていた『童貞でなくなれば味に深みが増す』の意味を理解したと同時に、フランドールがその味の虜になってしまっていた。
良也を独占したいと思ってしまう自分、良也を独占してはいけないと思う自分の葛藤。
どれだけの夜を苦悩の中で過ごしただろうか。
その苦悩の末に、フランドールは一つの結論を導きだした。

即ち、結婚してしまえば独占したことになるのでは、と。

良也に、結婚しよう!と伝えたとき、その場にいた人々は盛大に驚いたものだ。
咲夜を初めとし、常に冷静であるはずのレミリアも、パチュリーもが大声を上げて驚いていた。
その後多くの質問などの後で、(無論良也の意思は無視されたが)見事に二人は夫婦と相成ったのである。

ちゅうちゅうと音を立てて血を啜るフランの頭を撫でながら、いつもと変わらない微笑を見せる良也。
そんな彼に、フランはいつも力いっぱいの笑顔を返して。

「ね、今日はどんな本を読んでくれるのっ?」

幼い少女は、幸せな未来を小さな手に掴み。
今もとある洋館で二人、家族と共に仲睦まじく過ごしているという。



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