土樹良也は、ごくごく普通のありふれた人間である。
一般と違う点は、多少魔法を使えて、空が飛べて、かつ不老不死というだけである。
よって彼は他人に好かれもすれば、他人を好きになったりもする。
そしてこれは、そんな土樹良也を巡る二人の女の、血で血を洗いそうだけどそうでもない争いの物語である。



「先生は私と守矢神社で暮らすんです」
「あら、それは駄目よ。彼がいないと博麗神社の家事一切は誰がするの?」

博麗神社の境内で、巫女装束を着た美少女が二人、にらみ合う。
いつもは何人かの人間や妖怪やらがいる博麗神社だが、今は二人しかいない。
傍から見れば絵になりそうだが、対立の理由は簡単である。

土樹良也が、どちらの神社で寝泊りするか、ということだった。

「そもそも、貴女は先生が来る以前にここに住んでいたんでしょう?だったら、家事なんて一人で出来るじゃないですか?」
「それで?私には妖怪退治っていう仕事があるの。家事に時間を割くなんて、とてもとても」
「第一、先生をこき使ってるだけの人のところに先生を住まわせるなんて出来ません!」
「でも貴女のところである必要もないわよね」

真っ直ぐにぶつかっていく早苗と、飄々としている霊夢。
対照的な二人がぶつかり合って、既に何度目か。
決着を良也に委ねようとしたところ、彼は紅魔館に逃亡してしまっている。

「私は、外の世界でも先生と付き合いがありましたし」
「あら。この幻想郷では私が一番付き合いが長いはずよ」
「・・・・こうなったら、先生が帰ってきてから決めてもらいます」

自分の不利を悟ってか、早苗は折衷案を持ち出す。
霊夢自身もこのままではジリ貧だと解っているのか、「仕方ないわね」と同意してみせる。
そうとなれば敵対者の前にいる理由は、早苗にも霊夢にもないわけであって。
早苗は博麗神社を立ち去り、霊夢はいつもどおりに昼寝を始める。




その頃、紅魔館では。
何やら嫌な予感がした良也が身震いを何度も繰り返し、一緒にいたパチュリー、フランドール、レミリア、咲夜に心配されて、一晩を紅魔館で過ごすこととなる。


なおこの事件が、後に幻想郷をも揺るがす大事件に発展したとかしなかったとか。


オワレ。



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