博麗神社には永き刻に渡り、博麗の巫女を継ぐ乙女たちの父として住む男がいた。
その名を、土樹良也。
百余年の過去に生霊として幻想郷に訪れ、稀代の巫女である博麗霊夢を初めとした有力な人間、妖怪、幽霊、妖精などと交友関係を築いたとされる、ある意味での『大物』。
死地にて目覚めたとされる能力は、通称『自分の中に引きこもる程度の能力』。
幻想郷の多くのものが恐れるとされるスキマ妖怪、八雲紫さえもが恐れたというトンデモ能力である。
生霊から人間に戻った後も幻想郷を訪れることが出来、その特徴を生かして外界のものを幻想郷で売るという仕事をしており、それは今でも変わらない。
月の姫の従者にもらったとされる薬を飲んだことで不老不死となったが、それを重大視せずにいた。
また元来からの穏やかな性格がそうさせるのか、不死であるにも関わらず、人里でも恐れられない稀有な存在である。
やがて多くの妖怪たちの妨害などを乗り越え、博麗霊夢と結婚。
彼女と死別する際にも泣き顔は見せず、穏やかな笑顔で送ったという。
その人柄から娘である先代の巫女にも、孫である現在の巫女にも大いに慕われている。


それはそんな彼の、再婚に関する物語。

幻想郷の名立たる妖怪、幽霊、妖精などと広い交友関係を持つ良也を慕うものは数多い。
その中でも最も仲がいいといえば、恐らく誰もが魂魄妖夢の名を挙げるだろう。
良也が幻想郷に初めて訪れた際に世話をしていたためか、その心配癖がいつまでも直らないという欠点はあるものの、霊夢と死別した良也を心底心配し、毎日のように博霊神社に足を運び、彼の仕事から生活まで全てのサポートをしていたという。
今も博麗神社に足繁く通っては世話をし、場合によっては泊まったりもしている。
妖怪たちは口々に「良也は妖夢と再婚すべきだ」と囃し立てるが、妖夢が恥ずかしがって乗り気にならないことが最初の問題だった。

しかしそこは幻想郷。
八雲紫と西行寺幽々子の二人の煽動で、土樹良也と魂魄妖夢を結婚させようとするべく集団が結成され。
やたらと細かくなるので詳細は省くが、口先八丁で魂魄妖夢を誑かして。

そして、その結果。

「私を良也さんのお嫁さんにしてくださいっ!」
「・・・・・へ?」

酷く間の抜けた声を出して、隣に座る妖夢の顔をまじまじと見つめる良也。
顔を真っ赤にしながら、しかし良也から視線を外さない妖夢。
昼下がりの博麗神社の軒先でゆっくりとお茶を飲んでいる最中の告白に、良也はポカーンとしている。

「えっと・・・・妖夢?」
「やっぱり駄目ですか?」
「あー、いや。駄目とかじゃなくて、どうして突然そんな・・・」

良也の知る限り、妖夢は唐突にこんなことをいう娘ではないはずなのに。

「確かに妖夢は可愛いし、散々面倒を見てもらってるけど・・」
「けど?」
「僕なんかより、もっと相応しい人がいると思うよ」
「いえ、私が良也さんでないと駄目なんです」
「・・妖夢も変わってるなぁ」

良也は表情を変えず、茶を一啜り。
妖夢の心臓は破裂しそうなぐらいに激しく高鳴っている。

「確かに妖夢がずっと一緒にいてくれると、僕もうれしいよ?」
「だったら!」
「その代わり、一つだけお願いがあるんだ」
「・・・お願い?」
「そう。・・・・妖夢は、突然僕の前からいなくならないで欲しいんだ」
「それは、大丈夫です」

妖夢が良也にもたれ掛かると、良也はそれをそのまま受け止める。
穏やかな日差しが二人を包む中。

「妖夢、僕と結婚してくれるかな?」
「はい。良也さんのお嫁さんにしてください」

あまりに拙く、幼く、しかし純粋な約束を結ぶ良也と妖夢。
しかし出会ってからの道程の長さは、そのまま相手への信頼となって。


それから、土樹良也と魂魄妖夢はささやかながらに式を挙げて、幽々子の好意もあって二人は白玉楼に住むこととなる。
しかしここから先は、また別の物語である。



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