第六話「カリスマがログインしました」 〜side 雪夜〜 人間、生きていれば色々と妙な状況に陥る事だってある。 例えば、齢12歳にして引き篭もる事を余儀なくされたり。 例えば、ジョジョを読もうとして幻想郷に連れて来られたり。 例えば、空の上で簀巻きにされたまま目を覚ましたり。 例えば、炎の妖精理論で空を飛んだり。 例えば、両手を縄で縛られたまま吸血鬼を名乗る少女の前に突き出されたり。 「……で、貴方が侵入者?」 物凄く怖い目つきをこちらに向ける吸血鬼幼女。 今にも取って食われそうだ。 「ええと、とりあえず事情を説明したいんだけど」 「却下よ」 即答!? 「いやいやいや! 事情くらい聞こうよ!」 「事情なんて些細な事。今重要なのは侵入者で暇潰しができるという事だけよ」 「恐ろしい所だな幻想郷!」 まともな人が一人もいない。いや、僕が話したのは魔理沙とこの吸血鬼幼女だけなので、まだ幻想郷全体に評価を下すのは早計かもしれないが。 というか、今この幼女は暇潰しと言った。 理不尽すぎる。 「その反応からすると、貴方は外来人みたいね」 「……よく分かったね。僕は各務原雪夜、外来人の十八歳引き篭もり」 「そこまで聞いてないわよ。しかし、引き篭もりとは良也みたいね」 また良也という名前が出てきた。 だから何者なんだよ、良也さん。 「で、君の名前は?」 「……何でその状況でそんなに余裕があるの?」 そんな事、僕にも分からない。多分、一周回って落ち着いたとかそういう感じだと思われる。 「まあ良いわ。私は『永遠に幼い紅き月』、レミリア・スカーレットよ」 「よろしく、レミリアちゃん」 突如としてレミリアの手に出現した巨大な槍が僕の白髪を掠めて飛んでいった。 後ろの壁が洒落にならない位に壊れている。 「よく聞こえなかったわね。もう一度言ってみなさい」 「レミリアたん」 殴られた。 痛かった。 吹っ飛んだ。 死ぬかと思った。 「何をするだァ―ッ!」 「こっちのセリフよ! そもそも、何でそんなにピンピンしてるの!?」 知らん。ギャグ補正が実在したのだろう。 「もう良いわ。貴方と会話しても埒が明かない」 頭を押さえながら言うレミリア。 カリスマは既に半減している。 「本題に入るわ。貴方には、今から鬼ごっこをしてもらうわよ」 ……鬼ごっこ? 鬼ごっこは、日本の伝統的な遊びの一つである。かくれんぼと並んで子供の屋外遊びとしては最もポピュラーなものである。鬼は子を追いかけ、子は鬼から逃げるという単純な図式は、多くの派生した遊びを生み出している。古くは鬼事(おにごと)とも呼ばれた。(wikipediaより抜粋) 「……何で鬼ごっこ?」 「暇潰しよ」 「いや、暇潰しって」 吸血鬼という位だから、見た目は幼女でも実年齢は300以上、とかいうのを想像していたのだが。 所詮は幼女というところだろうか。 「もちろん、ただの鬼ごっこじゃあないわよ。名付けて、『弾幕鬼ごっこ』」 「…………」 また、何か嫌な予感のするワードが出てきた。 弾幕ごっこについては魔理沙から聞いて知っているため、物騒な気配しかしない。 「ルールは簡単。私達が追うから、貴方は殺されないように逃げなさい」 「デンジャラスッ!?」 やっぱりロクなものじゃなかった。殺されないようにって。 「貴方の勝利条件は……そうね、私達に一撃入れれば勝ちでどう?」 「それはもはや鬼ごっこですらない……え? 『達』?」 「入口に待機させているメイドの十六夜咲夜、図書館にいるパチュリー・ノーレッジ、そして私の三人よ。どう? 燃えるでしょう?」 「難易度が上がった……」 無理ゲー臭が漂う。 そもそも、一介の外来人でしかない僕が吸血鬼に一発入れるという時点で既に不可能だろ常識的に考えて。 「それじゃあ、ゲームを始めましょう。精々、私を楽しませなさい」 「いや、せめて縄だけでも解いてうおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!?」 妙な声を上げてしまったのは、突如として現れた紅い光弾が、さっきまで僕が居た地点を通過したからだ。 超危なかった。 もう少しで当たる所だった。 「外来人にしてはいい反応ね。その調子よ」 「褒められても全く嬉しくないね!」 笑顔のレミリアがさらに光弾を放つ。 手加減しているのか弾速はそれほどでもないのだが、密度が濃い。 ハッキリ言って、両手を縛られたまま避け続けられるような代物じゃあない。 「なら空を飛ぶ!」 意味も無く宣言して、空に舞い上がる。 これならどんな体勢だろうと関係ないし、何より躱すスペースが多い。 実際、さっきよりも段違いに楽だ。 これで五分。 遠距離戦では間違いなく勝ち目は無いので、接近するのが有効だろう。 近付いてしまえばこっちのもの。レミリアと僕とでは、体格が違うのだ。 「あれ、貴方外来人なのに飛べるの?」 「数時間前に覚えたんだよ」 「それにしては器用に飛び回るわね。面白くなってきたわ」 運命に狂いは無かったみたいね、と呟くレミリア。 「じゃあ、これでどうかしら?」 何が、と聞こうとして驚いた。 数メートル先にいたはずのレミリアが、目の前にいたのだ。 「なっ!?」 「それ」 間の抜けた声と共に繰り出された蹴りによって、僕の体は吹き飛ばされた。 レミリアの小柄な体のどこにそんな力があるのかは分からないが、一つ分かった事がある。 僕はレミリアに、接近しても勝ち目が無い! 「が、はっ!」 壁に叩きつけられ、肺の中の酸素が全て絞り出される。 それでも、骨が折れた感覚が無いあたり、まだ手加減してくれているのだろうが。 「あら、その程度なの? だったらもう食料にするけど」 「冗談。まだ僕は死なないさ」 普通に戦って勝てないなら、逆立ちしてでも勝ち目を掴む。 幸いにも、僕は『一撃入れれば勝ち』なのだ。策に嵌め、罠に掛けてでも一撃を入れる。 「……その為には」 その為には、この縄が邪魔だ。地上よりマシにしても、体のバランサーである腕が不自由だと飛びづらい。 レミリアが余裕をかましている間に、何とかしてこれを解く。 「死なない? 私には、貴方は今にも死にそう……いえ、『殺せそう』に見えるけど?」 「僕は結構、痛みには慣れてるんだよ」 「引き篭もりの癖に?」 神経を集中しろ。 縄を抜けるんだ。 「うん。それに、たかが幼女に蹴られただけじゃないか。知ってる? 僕達の間では、こういう時に言う、お約束の言葉があるんだよ」 解ける縄をイメージする。 イメージ通りに実行すれば、多分解ける。 「お約束の言葉?」 集中。 注意を逸らすための会話は長く続かない。早く縄を解かなくては。 「うん。『我々の業界ではご褒……あれ?」 馬鹿な会話の最中に、気付いた。 縄が、解けている。 「あら? いつの間のその縄を解いたのかしら?」 「いや、いつの間にか……」 「会話で注意を逸らした隙にとは、中々侮れない男ね」 聞けよ。 「さあ、両手が自由になったところで、仕切り直しといこうかしら。それとも、まだ何か策があるの?」 「策……ああ、あるよ」 この返答は予想外だったのか、目を細めるレミリア。 「何ですって?」 「たったひとつだけ策はある」 「たったひとつだけ……?」 「ああ、とっておきのやつだよ」 「とっておき?」 「行くぞ! 息がとまるまでとことんやる!」 「息が止まるまでだと? どういうことだ!」 「フフフフフフ」 ここで僕はくるりと方向転換して、策の内容を告げた。 「逃げるんだよォォォーーーーーッ!」 全速力の飛行で逃げ出す僕。あんまりな展開にレミリアはしばし呆然としていたようだが、やがて 「……何なのよそれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!?」 紅い館に、主の絶叫が響き渡った。 あとがき どうも、進学校に入学しても勉強せずに小説を書いている辛味です。 うん、ホント申し訳ない。最後、面倒臭くなってネタに逃げてしまいました。次回からはちゃんと書くのでお許しを。 それにしても戦闘描写って難しい……よし、描写の学習のためにFateをやろう。学校の勉強?そんな物は知らん。 次回は、良也視点の話です。もう少し詳しく言うと、良也が酷い目に遭う話です。なんだいつも通りじゃないか。 それでは。 |
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