東方奇縁譚・閑話 三次創作 『土樹偵察作戦 Ver3.8』




「今こそ我々は例の作戦を実行する時が来た」

 とあるマンションの一室。
 窓はカーテンで塞がれ、電気もつけていない暗い室内で田中が宣言する。

 田中の正面にいる高橋は無言でうなずく。

 それを見た田中は手元にあるファイルから一枚の紙を取り出す。紙の一番上には大きく『土樹偵察作戦 Ver3.8』と書かれていた。

 高橋に冊子を渡しファイルから自分用の冊子を取り出す。そして一呼吸。

「それでは当日の詳しいスケジュールを云う。手元の資料を見よ」
「田中大佐、暗くて資料の文字が見え難いであります。電気をつける許可を」
「……許可する。電気をつけよ、高橋一等兵」

 田中に指摘され田中も資料を見ると、確かに暗くて文字が見え難い。
 こういうのは雰囲気が大事と、雰囲気を出すために部屋を暗くしたのだがさっそく駄目になってしまった。

 まあ所詮雰囲気作りだ、とあきらめる田中。

 高橋が電気をつけて戻ってくると田中は改めて云い直した。

「それでは資料を見よ。ターゲットである土樹 良也は我々の知らないところで多くの美少女と密会している。数は少なくとも十人以上である。
 土樹だけがそんな良い気分を味わえるなんて不公平である。我々も味わって良いはずだ!」

 テンションがあがる田中に乗って高橋が「そうだそうだ!」と相槌。

「そこで我々は今週の土曜、つまり九月十三日に密会に行くであろう土樹 良也の尾行を決行する。
 集合時間は0800、場所は駅。資料通りに土樹が動くのなら0900頃、土樹は駅に到着」
「その後尾行開始、密会場所を特定したら偶然を装って合流」

 続きの言葉を高橋が云う。
 田中と高橋の目が合い、同時に頷く。その目はこの計画は完璧だと語っていた。

 その後は当日の注意点と互いの熱意の確認をして解散となった。





 土曜の朝、駅へと走る田中は焦っていた。時間は既に八時半を過ぎていて、高橋との待ち合わせには完全に遅刻である。

 昨日、前々から欲しいと思っていたフィギュアが手に入り、それを飾るために部屋の模様替えをしたのだ。

 模様替えが終わったのが午前三時。その後寝てしまったようで田中が気付いた時には既に八時十五分。そして現在に至る。

 駅に着くと既に高橋は集合場所に待っていた。何かを見て時間をつぶしていた様だった。

「……おせーよ」

「すまん、寝坊した」と云いながら何があるのか、と高橋の視線のあった場所に目を向ける田中。


 絶句。


 そこには小学生の女の子が数人、ベンチに座って楽しそうに雑談。
 田中は、本気でいつか捕まるんじゃないか、と心配になった。

「で、良也は?」
「まだ来てない」

 今は高橋のことより土樹 良也である。どうやら最悪の事態だけは避けられたようだ、と田中は気を休めるのであった。



 それからしばらく田中と高橋は駅の入り口の見える位置で土樹 良也を待っていると、のこのこと駅に現れる土樹 良也。

「来た。時間は九時七分か」
「くくっ、時間通りだよ」

 田中と高橋は土樹 良也に気付かれないように、慎重に後を付けていく。
 土曜日ということもあり駅や電車の中は人が多くいたので、土樹 良也を見失わないようにすればよかった。

「ふっ、しかし土樹もまさか尾行されてるとは思わないだろうよな」
「そりゃそうだろ。考えても見ろ、高橋。何もないのに尾行されてるなんて思う奴なんて、ただの馬鹿じゃねぇか」
「確かにそうだ」

 ちょうどその時に電車が駅に止まり、騒がしくなる。
 そこでいったん話は止まるが電車が動いてからしばらくすると高橋は田中にまた話かけてきた。

「ところで田中はあの子達のところに着いたらどうするんだ?」
「どうするって……まずはアリスって子のところに決まってる。趣味が合いそうだからな。
 お前は……決まってるか、フランなんとかって子のところだろ」
「あったり〜、っと良也がおりるみたいだぞ」
「意外と近いな」

 高橋に云われて田中が良也の方を見ると、良也はドアのところに立っていた。

 電車が駅に着くと土樹 良也が電車を降りる。土樹 良也が遠くに行くまでドアの近くで待つ田中と高橋。

「さぁ楽園までもうすぐだ」

 もう大丈夫と判断したのだろう高橋が電車を降りて良也を追う。
 後どれぐらいかは知らないだろ、と心の中で高橋に突っ込みながら田中も土樹 良也の後を追った。





 山のふもとの道、古びた石段の階段が山の中へと続いている。
 目の前のそれを見てる田中が、隣で同じように階段を見てる見てるだろう高橋に確認する様に問うた。

「ほんとにここか?」
「そうだよ、確かに土樹はこの階段を上ってたよ。」
「楽園は?」
「この上にあるんだよ、きっと」

 ほんとにこの階段の先に美少女がたくさんの楽園があるのだろうか、と高橋に気付かれないようにため息をつく田中。

 田中は腕時計を見ると時間は既に午前十一時。
 土樹 良也が電車を降りた後、土樹 良也は駅の出口に向かわず別の電車に乗ったのだ。その後も土樹 良也は何回か同じように乗り継ぎをして田中たちをいらつかせた。

 ようやく駅を出たとおもった後もバスで一時間、雑貨屋の外で三十分待機、そしてその結果が高橋田中のこの古びた石段の階段である。
 実は土樹は尾行に気付いて自分たちをだましているのでは? と田中が考えていると階段を上り始める高橋。

「いざ行かん! 桃源郷の美少女が俺らを待っている」

 そうだ、あの写真の子達が俺を待っているんだ、そう考えると田中は気力を取り戻し、高橋を後を追って階段を上がり始めた。
 



 おかしい。

 田中がそう思い始めたのは階段を上り始めて三十分が経過した頃だった。

 始めはどういう理由をつけて土樹 良也と合流するかの話やアニメの話していた田中と高橋だが、十分もすれば話すネタも尽きはじめる。

「フ、ラ、ン、ド、ォ、ル、ちゃ、ん、フ、ラ、ン、ド、ォ、ル、ちゃ、ん……」

 話すネタがなくなった高橋は子供が階段でよくやる遊びのようにフランドールの名前を云いながら階段を上がっていた。

 そんな高橋を見つつ、田中は階段を上りながら途中からの階段の段数を数えていた。だが、それすら面倒になった時に田中の脳裏に一つの疑問が浮かぶ。


 三十分かけても上り終えない一直線な階段。
 

   そんな階段は存在するのか?


 そんな疑問が浮かぶと田中の足は止まる。
 田中の耳に聞こえるのは木のざわめきの音と高橋の声と足音だけ。
 

   あったとしてもこんなところにあるのか?


   何故今まで気付かなかった!


   高橋は不思議と思わないのか?

 
 心拍が速くなるのを田中は感じた。。


   今はどの辺りなんだ?

 
 その言葉が頭を流れた時、咄嗟に田中は振り返った。

「………っ!!」

 田中は声にならない悲鳴を上げる。

 田中に見えたのはさっきまで上っていた階段。


 そして三、十、分、前、に、高、橋、が、高、橋、と、一、緒、に、階、段、を、見、て、い、た、道、がすぐそこにあったのだ。


 さっき速くなったと感じた田中の心拍が上限知らずの様にさらに加速。
 思考は停止状態、激しくなる息。

 はっ! とすぐに思考停止状態から戻る田中。

 とにかく高橋にこの異常を知らせなくては、と階段の少し先にいるはずの高橋の方へ振り返り。

「おいっ、たか……」

 田中は続きを云うことができなかった。振り返った先に高橋はいなかったのだ。

 もう田中の頭の中は理解不能なことばかりでパンク寸前。
 もしや先に行ったのでは? と田中は足を動かそうとするが体は云うことを聞かない。

 田中がやっとの思いで一歩を踏み出した瞬間、ガラリと変わる空気。

 寒くなったとか暑くなったとかそんな次元ではない、まるで世界が変わったかのようだった。

「ふ、ふふふ……ふふふふふ………」


 どこかで聞いたことのある笑い声、そして冒涜的な笛の単調な音色がどこか遠くの方から聞こえてくる。

「……ふふふ………ふふふふふふ………ふふふふ……」


 そしてその音らはどんどん近づいてくる。


   逃げろ 逃げろ にげろ にげろ にゲろ ニゲろ ニゲロッ!! 


 田中の本能が叫ぶ。しかし体は動かない。

「…ふふふふふふ………ふふふふ………ふふふ………あはっ、あははははは……」


 近づく笑い声、大きくなる笛の音。田中はもう限界だった。

「……あっ、ああ、あああああぁぁぁぁぁぁーーーー」

 田中は悲鳴を上げながら階段を駆け上がる。
 駆け上がる、駆け上がる。震える手足を精一杯動かし駆け上がる。

「……はっ、はっ、はっ………」

 必死に階段を駆け上がった田中は階段を上りきる。そこは古ぼけた神社だった。
 心臓は既に破裂寸前。しかし笑い声と笛の音は聞こえない。

「に、に逃げ……切った……のか?」

 助かった、とその場で尻餅をつく田中。

 しかし田中は次の瞬間、逃げ切ったはずのその声を聞くのであった。


「残念でした」


 耳元で。

そして暗転―――





 その後、目覚めた田中は自分の部屋の床の上だった。

 時間は午前八時、つけたままのテレビから今日が月曜日であることを知る。

 あれ? と田中は土日の記憶がないのに気付く。
 隣を見ると隣には高橋が寝ている。

 どうやら高橋と一緒にはしゃいでそのまま寝てしまったらしい、と田中は推測する。

「おいっ、起きろ高橋。大学に遅刻するぞ」

 田中は高橋を起こすため声をかける。しかし高橋は起きない。

「う〜ん、フランドールちゃーん……んにゃんにゃ……」

 そんな寝言を云っているので田中は高橋を蹴飛ばす。
 ぐえっ、と声を上げ起きた高橋。それを見た田中は大学に行く準備をする。

 田中は二枚の紙が机の上においてあるのに気付く。

 そして田中は自分たちが土日になにをしていたのか思い出す。

「そっか、これを考えていたんだ」

 田中は納得して準備を再開する。


 机の上の紙の一番上には大きく『土樹偵察作戦 Ver3.9』と書かれていた。






≪あとがき≫


 田中はSAN値判定に失敗した。(ピンゾロで)

 
 今回は田中が主役(?)でホラー風味。いや、はじめはギャグのつもりだったんだけどね。ついヤっちゃった。

 無限ループは最後の最後で思いついた。Ver3.8とか何も考えずに書いてたんだ。ごめん。


 今回いろいろな作品をまねてみた。

 書き始めは赤川次郎の『死者の学園祭』。
 台詞で始まる始め方。

 先生が生徒に子供生ませて校長が仲人で結婚って時代を感じるよね。今じゃ絶対捕まるよね。


 謎の笑い声(ゆかりん)の書き方は綾辻行人の『緋色の囁き』からインスパイヤー。
 HTMLタグを使ったんだけどうまく表示されるかなぁ?

 あの(めりー……       ……くりすます)は思わず本を閉じたほど怖かった。


 あとは笑い声(ゆかりん)とともに聞こえた笛(フルート)の音、これはかの有名なラヴクラフト神話のナイアルラトホテップから。

 ほんとはぐぐもった狂おしい太鼓の連打も聞こえるんだが。ほら太鼓は居ないだろ。
 それにネクロノミコンにも笛が聞こえる時もあるって書いてあるが太鼓は書いてないんだ。

 しかしラブクラフトのナイアルラトホテップは読みやすい。だって6ページだぜ。
 ついでに私はZUN氏は現代のラヴクラフトだと思ってるんですよ。
 


 次回はゲームのらきすたの話でもやりたいな。
 MMORPGに入る話か学園迷宮の話
 思い出せ! 思い出すんだ、私! 

 いや、普通に東方のキャラ出せるの書こうぜ、私。

 追記(2009.3.15)  すみませんでした。どういうわけか田中と高橋の境界がいじられていたようで、逆に書いておりました。
 それと我らが主役の良也を『土樹 良也』で統一。外伝→閑話に修正。
 なんで間違えてたんだろ?



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