-注意!-
・これは「良也と栞」の後編でございます。先に前編、中編をお読みになってからおこしください。
・前中編をお読みになったうえで、最後までよんでやろうじゃねぇか!という奇特な精神の方のみ先へお進みください。


↓以下後編





































良也と栞 後編



心身衰弱し、弱りきった良也が職員室のデスクに座っている。ひとしきり唸った後に、ちらりと卓上カレンダーを見るとまた顔色を悪くする。目線の先には丸で囲った日付の隣にこう文字が書き込まれている。

●月×日『文化祭』


タイムリミットは、近づいていた。

***

『先生、急にすいません、でも、後悔だけはしたくなかったんです』
『こんなこと、すぐには返事を返せませんよね……』
『そうですね……文化祭の時、もう一度返事を聞きます。それまでに、考えておいて下さい』

***

あの告白の後、文化祭まで考える時間をもらった良也は、突如勃興した(と本人は考えている)フラグにどう対応すべきか悩み続けていた。

良也は栞の事は憎からず思っているし、顔や性格も好みだ。しかし、二人は教師と生徒、この選択如何によっては、良也の人生は大きな転換を強いられるのは間違いなかった。せめて栞が高校を卒業していれば……と考えたのも一度や二度ではない。

常識的に考えれば返事は否しかあり得ない。しかし、それを自分は後悔しないか?といわれれば、良也は答えに窮してしまった。

優柔不断のヘタレボクネンジン、今の良也を形容するならこんな所だろう。引くにしろ、進むにしろ、覚悟が足りなかった。

良也を一応擁護するなら、漫画やゲームでしか見たことのない告白というイベントを急に受けてしまったのだ。それまでに栞の気持ちに気付けよと言えばそれまでだが、良也は基本的に常識人だ、妙に懐かれている感は確かにあったけど、それは二度ほど彼女の危機を救ったことによる信頼みたいなものと解釈していた。自身を幾度となく『勘違いするなそれではイタイ奴みたいだぞ』と戒めて来たのである。まさかこんな展開になるとは思ってもいなかったのだ。

いままではそれでよかったのだ。だが、その良也の幻想はそげぶされてしまった。もう決断しなくてはならないのだ。が、この期に及んでまだ良也は悩んでいた。

しかし、良也がいかに悩んだ所で時間が止まる訳ではない。良也は三年の担任なのだ。殆どの生徒がエスカレーター式に進学する故に負担はそこまで大きくはないとはいえ、それでもそれなりに進路相談も受けるのだ。

結果、堂々巡りに突入した思考のまま日々の忙しさに忙殺され、ズルズルと時間は浪費されていく、現在は9月半ばである。本格的に文化祭の用意がそろそろ始まってしまう。

「文化祭も近いですねぇ」

上の空の良也は、無意識のうちにバッサバッサと砂糖をカップに放り込んでいる。

「お、おう……もうそんな時期か……」

中年太でそろそろ糖尿が気になるらしい男性教諭は、そんな良也を信じられない物を見るような顔で見つめている。

「いったいどんな出し物をやるんですかねぇ……」

砂糖をさんざん放り込んだあと、これまたたっぷりとミルクを流し込み、コーヒー をかき混ぜる良也。

「そ、そうだな……例年なら喫茶店とかかな、お化け屋敷やら、何かの展示会をやるクラスもあるぞ」

みているだけで胸焼けをおこしそうな目の前のコーヒーの様な何かが気になって仕方ない男性教諭は、大丈夫なのか?と言いたげに良也を見ながら、相づちを打つ。

「楽しみですねぇ……」
「おう……そ、そうだな」

正面の席の男性教諭は、テストの採点をしながらも良也に目を向ける。

完全に混ざりきっていないだろうそのコーヒー風味の砂糖汁を良也は口元に運ぶ。

グイッと勢いよく流し込まれたそれに、体が拒否反応を起こしてむせ変える。

「アバァ(甘ぁ)!?!?」

ブシュウッ!!っと噴霧されたコーヒーは、男性教諭と採点中の答案に降りかかる。

「があぁぁぁぁあ!!??目が!!??目がぁ!!!??」

砂糖混じりのコーヒーを目に受けた男性教諭は、もんどりうって椅子から転げ落ちる。

コーヒーが血痕の如く降りかかった鈴木さんの渾身の答案は、字が滲み「金本」と改編されてしまった、哀れ、鈴木さん。

「土樹ィ!!なにしやがる!!」

怒り心頭の男性教諭は、今だむせかえる良也に詰め寄る。

「ゲホ……すいませ……ゲホ……ウエ……」

涙目の良也のあまりに情けない姿をみた男性教諭は、はぁ……と深い溜め息を吐くと怒りを沈めた。

「ああ……もういいよ……早く片付けろ……」

そう言いながら、教諭は、ハンカチで顔のコーヒーを拭う。

「あ〜……落ちるのかこの汚れ……」

「ゲホ……本当にすいません……」

良也も掃除道具庫から雑巾をとりだし床を拭く。

『続いてのニュースです』
「お、昼のニュースだ」

職員室のテレビからアナウンサーの平坦な声音が響く。

『最近失踪事件が相次いでおり、老若男女を問わず、忽然と姿を消す事例が後を断ちません。周囲の人に聞いても、生活環境等にこれといった問題などなさそうな人ばかりで、失踪する理由をさがす方が難しい人との事です、警察は事件、事故の両方で捜査を進めています。』
忽然と姿を消すと聞いて、良也の脳裏に胡散臭い妖怪の姿が思い浮かんだ。

(……まさかスキマの神隠しか?いや、スキマならこんなあからさまな事はしないはず、なら幻想郷は関係ないな)

『聞き込み調査によると、失踪の前後で見覚えの無い黒服の男の目撃情報が相次いでおり、警察はこの男の素性を探っているとの事です』

「最近は物騒だな……うちの生徒に被害が出ないように注意喚起しておいた方が良いかもしれんな……」

行方不明者には青少年も沢山いると知った男性教諭は義憤に眉を歪め、テレビを睨みながらそういった。

「そうですね、僕も生徒たちに注意しておきます」

良也もまた自身の生徒たちと行方不明者の姿を重ね、難しい顔をしてテレビを見つめた。

***

無難に、順当に、文化祭の出し物は喫茶店に決まった。以後クラス皆ははそれにむけて準備を進めていく事となり、授業の合間合間に話は先に進む。

時が止まればよいのに、だれしも青春の時そう思うものだが、良くも悪くも時間は有限で、流れる時間は止められるものではない。

故に素晴らしいのだと、そう思える人は幸運である。なぜならば、そう思うに足る経験を積んでいるのだから。

しかし、青春の一ページを謳歌する青少年に混じって悶々とする良い年の男が一人、先ほど時間が有限だといっておいてなんだが、この男にとって時間は無限に等しいものである。故に悩む、悩んで悩んで悩みとおす。幾度となく迷い込んだ思考の袋小路をいったりきたりしながら、前にも後ろにも進めずに停滞している。

言わずと知れた我らが主人公、土樹良也である。

無限の存在でありながら有限の世界を生きる彼には、世の流れは少々早すぎる。日々の生活に忙殺されている内に、あっという間に月日は過ぎる。

やがて訪れる文化祭当日、良也は数日にわたる文化祭の最終日に、ほとんど人のいない学校の端にある校舎の屋上へと呼び出された。

ついに、栞よりもらった猶予に刻限がやってきたのだ。

良也は、なんども行ったり来たりしてきた思考の渦の中で、もっとも正解に近かろうものを回答するつもりであった。すなわち……

『教師と生徒という建前をおしだして断ろう』

という、社会的に最も模範解答であろうそれを伝えてしまおうというものである。自身の気持ちを伝えるわけでもなく、栞の気持ちに答えるわけでもない、なんとも優柔不断で玉虫色の回答でお茶を濁そうというのだ。だが、それは数万回にわたる思考の右往左往の中で無理やりはじき出された回答らしきものでしかない、故に確固たる信念に裏打ちされた否定に非ず、もし栞にずずいと踏み込まれたら、その段階で良也は押し負けてしまうだろう。

つまりは、この状況に持ち込んだ時点で、既に栞の勝ちなのである。本気になった栞の攻勢をこの程度の張りぼてで凌ごうなどとは笑止千万である。恋する乙女は最強なのである。具体的には生徒以上、恋人未満の位置を卒業までキープしながら将来の恋人、未来のお嫁さんへとそのままスライドできるだろう。へたれで不器用な癖に割と身持ちの堅い良也が、そのような立ち位置の女性をキープしながら他の女性と関係を持つのは不可能である。自然と女性関係は栞に集約されるはずである。後は流れに任せてしまえば勝手に外堀も内堀も埋まってしまうだろう。

栞がここまで考えているかは別として、栞はこれからグイグイと押していくつもり満々である。流れに流される事には定評のある良也である。何事もなければ良也はそのまま流されていくだろう事は間違いない、そう、何事もなければである。

IFの話をしても意味はないが、後に良也は思うのだ、あの日、あの時、もうすこし栞に注意を払っていれば、もう少し周囲に注意していれば、ずっと栞の隣にいれば、と。そうすれば、もしかしたら普通の恋人として幻想郷に行ったり、学校生活を送れたかもしれなかったのに、と。

運命のあの日、文化祭の最終日に、『高宮栞』は死んでしまったのである。

***

文化祭最終日、楽しい時間の終わりに一抹の寂しさを感じさせる空気の中、栞は、どきどきと暴れる胸を押さえながら、屋上へ向かうべく学校の廊下を歩いていた。良也から告白の返事を聞く為だ。

もし断られたとしても、話の持っていきかた次第では、より親しく成るための取っ掛かり位は手に入れられるかもしれないとは思っていた。実際栞の手管と良也の押しの弱さから見て、それくらいのダメージコントロールは効くだろう。

そんな浮わついた気分故に栞は、普段なら気付いたであろう異変に気付くのが遅れてしまった。

「え……?」

校舎の自身のいる棟から待ち合わせしている別の棟へ移るために一端一階に降り、別棟への道を歩く。普段から人通りの多い通りではないが、文化祭の日で有りながら、不自然なまでに自分以外に人が居ないのである。まるで、なんらかの力が働いているように。

「……っ!」

それに気付いた時、栞は言葉に出来ない不安を感じて、駆け出した。幾度も裏世界の事件に触れてきた栞の危機察知能力は、自身のこの情況に凄まじい警鐘を鳴らしたのだ。脱兎の如く、駆け抜ける。目指すは一ヶ所、良也の所だ。この判断は正しい。栞の周囲でもっとも強く、頼りになるのは間違いなく良也だからだ。

しかし、もう遅い。

曲がり角を曲がって、目的の校舎の棟が視界に入ったとき、目の前に黒ずくめの男が立っていた。

「あ……」
「よぉ……」

その男が、思い出したくもない黒ずくめの呪術師の男が

「久しぶりだな……!」
「……!先生たすけ……!」

栞の意識を刈り取った。

***

「……!」

ぐしゃりと、良也は手の中の手紙を握りつぶした。

栞を待っていた良也の前に、以前見た呪術師の傀儡がたっている。その傀儡から受け取った手紙には、栞をさらったことが書かれていた。

栞を助けたくば、良也が、一人で、傀儡と共にすぐにやって来ることが条件に指定されていた。もし妙な真似をすれば傀儡を通してすぐにわかる、そうなれば栞の命はない。

「くそ……!」

ギリッ、と奥歯を噛み締めながら、良也は目の前でついてこいとばかりに歩き出した傀儡の後を追った。

***

「あ……」
「お目覚めかい?お嬢ちゃん」

栞が目を覚ますと、見覚えのある、因縁深い排工場に居た。目の前には、あの呪術師がいる。

「……!」
「くくく……そう心配するな、まだ妙な真似はしていない」

栞が目覚めると、両隣の傀儡が、栞を立たせた。もちろん、両手は押さえられており、逃げ出せない。

「貴方の目的は一体なんなんですか!なんで私をさらったんですか!」

答えてもらえるとは栞も思ってはいない、それでも聞かざるをえない。

「あの良也とかいう男を殺す事だ」

しかし、答えは来た。ある意味、自身の進退以上に栞にとって衝撃的な返答であった。

「あの男が現れてから全てが狂った、俺は小娘一人殺せぬ役立たずとして裏世界を干されてしまった。地位も名声も失ってしまった!金はある、既に死ぬまで遊べるほど稼いだ!だが、あいつに煮え湯を飲まされままでは、俺のプライドは満たされん!」

目の前の男は、既に正気では無かった。元々呪術という冥府魔道を行く身である。一度心に隙を見せれば、そこから腐るのは早かったようだ。

良也を呪い、それが効かないから更に呪い、どんどんどんどん呪いだけが溜まって魂が腐り落ち、腐臭を放っている。

狂気に溢れた呪術師が、栞の方を向く。

「いや、殺すというより、正確には、『壊す』が正しいな」

その微妙なニュアンスの違いに、栞は違和感を抱いた。

「それってどういう……」
「おっと、話はここまでだ」

そう言いながら、呪術師は栞を呪術で棒立ちにすると、左手を栞の肩に回して首筋にナイフを当てる。鈍いその輝きに、栞が恐怖で息を飲む。

「あいつが来た」

呪術師と栞の視線の先に、傀儡に伴われた良也の姿があった

***

「久しぶりだな、土樹良也」

栞の首筋に刃を当てた状態で、呪術師は良也に声をかける。

「おっと、其処で止まれ、妙な真似をすればこの刃をこいつの喉に押し込む。俺もどうせ長い命じゃない、地獄の道ずれにしてやる」

狂気に満ちた呪術師の目に、この男が本気だと感じ取った良也は、其処で足を止めた。

「そうだ、それでいい」

栞を人質にされ動けない良也に、無言で呪術師は、脳天に一発、胴体に三発銃弾を打ち込んだ。銃弾は貫通し、体から地肉が吹き出す。

「ヒッ!?」

目の前の余りに凄惨な光景に、栞は息をのみ目をそむける。

しかし、呪術師により、無理矢理顔を前に向けられる。

「見ろ!目をそむけるな!」
「嫌……嫌……先生が……先生……が……?」

目の前で、確かに死んでいる筈の良也の傷が、仄かに光を帯びて再生を始めた。その不可思議な光景に、栞の思考が停止した。

やがて光が収まると、良也の傷は完治しており、呻きながら顔を上げ、此方を向いた。

「お前は一度見たことがあるはずだ!あいつが撃たれたのに生きていたことを!あいつは不死の化物なんだよ!」

呪術師の言葉に、栞は以前こうして捕まった時に、良也が銃で撃たれた事を思い出す。あの時は、運良く弾がかすっただけだったんだと思っていたが、違ったのだ。その事に、栞は思い至った。

「調べてみて驚いたよ、最初はどんなトリックを使われたのかと思たが、不老不死の本物の化物だったんだからな!」

その言葉を実証するように、もう一度良也を撃ち抜く。栞の目の前でもう一度傷が再生した。呪術師の言った不老不死の化物という言葉が実感として染み込んできた。

「半端な術じゃ倒せない上に、倒せても不死だから生き返る、だまって封印されるほど弱くない、手詰まりかと思ったが、ここに来て明らかな弱点が出てきたんだよ」

そう言いながら、呪術師は栞の首筋にペタペタと刃をあてる。

「お前さんだよ」

その言葉に、栞は思考が現実に引き戻され、血の気が引く。

「流石の化物も教え子は可愛いと見える、本当に止められるかは賭けではあったが、現にこうして動きを封じられている。お前さんのお陰で、やつを労せず封印できるよ」

そう言いながら、呪術師は哄笑する。良也の意識が戻り、呪術師を睨み付けながら立ち上がった所で、良也に見せつける様に栞の首にナイフを押し付ける。少しだけナイフの切っ先が刺さり、血が滴る。栞の顔が恐怖にひきつる。

「ひ……!」
「やめろ!」

口内に溜まった血を吐き出しながら、良也は叫ぶ。その行動が、良也にとって栞がどういう存在なのかを雄弁に語っていた。

「さて、この女の子の命が惜しいなら、さっさとその周囲を覆っている結界を解きな、三秒いないにだ!」
「……!」

良也は、自身を護る『世界』の存在まで看破されてる事に驚愕した。

「気付かないとでも思ったか!お前は俺の結界を常に塗り潰しながら其処に居るんだよ、ナニか張ってるしか考えられねぇ……ほら、さっさとしな。いーち……にーい……さー……」
「くそっ……!」

反撃の芽を尽く摘まれ、世界を解除する良也。最早、『詰み』であった。勝利を確信した呪術師は、笑みを浮かべた。

「良くできました!」
「ぐあっ!?」

呪術師は右手で栞の首に刃をあてたまま、左手の銃で良也の両足を撃ち抜く。膝を破壊され、立っていられなくなり倒れ伏す良也を前に、呪術師は呪術を起動する。

「さて、数百年の旅をプレゼントしよう!精々楽しんでくれよ?」

良也を封印の術式が覆い始める、奥歯を噛み締めながらも、良也は耐える。

「ふん……たった数百年だ、耐えきれるさ!栞ちゃん、僕は大丈夫だから……」
「おっと、まさかただの封印だと思ってるんじゃないだろうな?」

その時、封印が明らかに空気を変える。どす黒いなんて言葉では生ぬるい、深淵の闇めいた気配とともに、禍々しい鎖が良也に巻き付く。

「な……なんだこの呪いは!?人の作れる呪物の桁を超えているぞ!?」

ギチギチと自身を締め上げる鎖に驚愕の声を上げる良也。一度、諏訪子が見せてくれた祟り神の呪いよりも、それは雑多でどす黒かった。

「たっぷり楽しんでくれよ?なにせこの術式を作るためだけに百八人の人間を生け贄にしたんだからなぁ!? 」

怨念にまみれたおぞましい術式が良也を苦しめる。肉体ではなく魂と精神を破壊する封印術、百八人のコドクから作られたあまりに強力な封印に、良也はなすすべもなく封印されていく

強力な魔法使いであり、高い抗魔力のある良也であるが、天然の結界である「世界」の護りも無い状態では、百八人もの人間の命をもって作られた呪いに抗する事は出来なかった。

「ぐぅぅ……百人の生け贄……?」

その言葉を聞いて、良也はとある事件と今回の件が一本の線で繋がった。

***

『最近失踪事件が相次いでおり、老若男女を問わず、忽然と姿を消す事例が後を断ちません。周囲の人に聞いても、生活環境等にこれといった問題などなさそうな人ばかりで、失踪する理由をさがす方が難しい人との事です、警察は事件、事故の両方で捜査を進めています。』
『聞き込み調査によると、失踪の前後で見覚えの無い黒服の男の目撃情報が相次いでおり、警察はこの男の素性を探っているとの事です』


***

「ああ……ああ……!?最近巷を騒がせていた連続失踪事件はあんたの仕業か!?あ、あんた、こんな事の為に百八人も殺したのか!?」

驚愕に目を見開く良也に対して、呪術師が笑う。

「その通りだ、全ては貴様に生地獄を味会わせる為にやったことだ!貴様のせいで私は呪術師としての地位も名声も失ったのだからな!貴様にも同じ目に会わせてやる、家族も知り合いも誰も居ない数百年後の世界をさ迷え!」

誰がどう聞いたところで逆恨みに相違無いが、逆恨みをしている当人にとっては自身の行動は正当な復讐であった。

「ぐぎぃぁあ……!!」

苦悶の声を上げる良也、不死の良也といえど、このままでは魂が壊れてしまうだろう。

良也のそんな姿を見て、栞は覚悟を決める。

(このままじゃ、先生が壊れちゃう……私も……恐らく……)

自身の首筋に刃を当てる呪術師が、このまま自分を『無事に』解放するとは、栞には微塵も思えなかった。精神的にか、肉体的にか、あるいは呪術的にか……何れにせよ、『ナニか』をされるのは間違いない。

(ずっと私を助けてくれた先生が……私のせいで壊される……そんなの、絶対に嫌……!)

栞は心を奮い立たせるべく、ぎゅっと、胸元の御守りを握りしめる。すると、今までろくに動かなかった体に、力が戻り始めた。

(今度は私が……先生を助けないと……!)

栞の覚悟が、定まりかけた運命をひっくり返す。

『良い覚悟だ、少しだけ、背中を押してやるよ』

栞は、厳しくも優しい女性の言葉が聞こえた様な気がした。

その瞬間、栞の中に勇気とも闘志とも言える力が溢れ、バシュッ、という何かが消え去る様な感覚と供に、体が動いた。
自身の運命と戦うという栞の覚悟が、御守りを通して増幅され、掛けられた呪術を弾いたのだ。

栞は、声も枯れよとばかりに力を込めて叫ぶ。

「先生!」

目の前で苦しむ良也を助けるべく。栞は、恐怖に震えながらも、自身を奮い起こして思いを伝える。

「私の命を救ってくれてありがとうございました!いつも、私を助けてくれてありがとうございました!お休みの日まで家庭教師の様なことまでしてくださって、ありがとうございました!部活の顧問をしてくださってありがとうございました!私は……私は……」

栞は、胸の中の全てをぶちまけるべく、息を吸い込んだ。

「貴方のとこが……好きでした!」

誰もが、呆然として、栞を見つめる、呪術師も、良也も、栞を呆然と見つめた、思考が停止し、一瞬の空隙が生まれた。故に……

「先生!今までありがとうございました……!さようなら……!」
「……!?まてっ……!」

栞の体を縛る呪術が消え去っている事に呪術師が気付いた時には、もう手遅れであった。首筋に当てられたナイフで自ら喉を裂いた栞を、誰も止めることが出来なかった。

パッと、赤い花が咲いた。

裂けた喉から流れ落ちる紅、飛び散る鮮血が、栞の服を染め、床を染め、良也の足元まで浸食していく。

崩れ落ちる栞が、一瞬だけ良也の方を向いて、血で化粧をされた顔で、微笑む。

『ダイスキ』

吐血し、声にならない口の動きで、そう言っていたのが、良也にはわかった。

***

(ああ……)

消える

(ああああ……)

消えていく

(ああああああああ……)

目の前で、教え子の、大切な女の子の命が消えていく。

(あああああああああああああああああああああああああああああああああ……!!!!!)

良也の内から激情と共に、今まで感じたことのない様な力が溢れ出る。良也の成長を押し止める最期の壁が音をたてて崩れていく。あれだけ重く感じた体に纏わり付く怨念の縛鎖が……

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

絶ち切られた。

バギンという鈍い音と共に怨念の鎖が弾け飛ぶ。

驚愕に眼を見開く術師を睨めつけ、生涯でもっとも激しい憎悪をのせて良也は叫んだ。

「お前だけは!お前だけはあああああああああ!!!!」
「く……!?」

封印を断ち切った良也が凄まじい勢いで突っ込んでくる。術師は、手に持ったナイフに術を込めて迎え撃つ……が。

「絶対に許さないっ!!!!」

良也は、未だに体にまとわりつく怨念を自身の世界に取り込み、それを拳に収束した。

『仇を打て!』
『応報せよ!』
『君達を殺したのはアイツだ!』

良也は霊力で怨念の意思を統一し、本来の仇へと百八人分の莫大な呪いをたたき込んだ。

重い、あまりに重すぎる呪いを載せられた拳は、術師の張っていた障壁を一瞬で食い破り、ナイフを砕き、胴に突き刺さった。

「オゴォ……!?」

呪いを全て叩き込まれた術師は、撃ち抜かれた勢いのまま、壁まで吹き飛び叩きつけられて停止した。

「あ……が……!?」

瞬間、術師の体内を百八人分の呪いが駆け巡った。

『オオオオオオオオ!!イタイ!!!イタイ!!!』
『よくも苦しめて殺してくれたな!!絶対に許さんぞ!!』
『私の体を返せ!!!返せ!!!かえせ!!!カエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセ』
『この恨みはらさでおくべきか!地獄に堕ちろ!!!』
『妻と娘に会わせろ!!!クソッ!!!クソッ!!!』
『地獄へ道連れだ!』
『パパ!!!ママ!!!うわあぁぁああぁあ!!!!』

「あ……!?ぐぎぃぃい……!?ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」

術師は、魂を食い尽くされる激痛に叫び声をあげ、天を仰ぎながら膝をつく。その姿は、決して赦される事の無い罪を神に懺悔する罪人めいていた。

『アアアァァァ……』

やがて、術師が事切れ叫び声が止むと、上を向いた顔の孔という孔から黒い何かが溢れだし、術師の足元に黒い水溜まりを作り出していく。口や鼻以外の眼窩などからも黒い何かは溢れ出しており、呪術師の眼球はその何かに沈み込み、まるでしゃれこうべのようにそこには黒い孔と成り果てている。

その水溜まりが術師の足元を完全に覆うと、術師の体が沼に沈むようにその黒い水溜まりの中に沈みだした。否、引きずり込まれていると言った方が正しいであろう。物理法則を無視してコンクリートの上に作り出された沼からは、無数の腕のような不可視の何かが伸びており、呪術師の体にまとわりついている。

その黒い沼は、闇の黒ではなく、この世の全ての色を混ぜた様な底の見えないおぞましい黒であった。覗きこめばそのまま吸い込まれてしまいそうな、深淵めいた黒い孔。

それはやがて呪術師を完全に飲み込むと、地面に染み入る様に面積を減らし、後には何も残らずにこの世から消滅した。

人を呪わば穴二つ、邪法を極めた呪術師は、己の産み出した余りに深い穴の中に消え去った。

***

良也は術師を殴り飛ばすと、すぐに栞の方へかけよった。血の海に沈む栞を抱き起こし、良也は必死に呼びかける。

「栞ちゃん……!ねえ……栞ちゃん……!」

良也の呼びかけに、栞は薄く眼を開き、生気の薄い青白い顔で、微笑んだ。もう話す気力もないのだろう。

栞は血に濡れた手で良也の頬に触れる。ゆっくりと良也の頬をなで、数瞬見つめあった後、急速に瞳から力が抜けていく。

「栞……ちゃん……」

栞の瞳が閉じられ、手が、良也の頬に血の軌跡を残して地に伏す。栞の命の灯火は、今、消え失せようとしていた。

(ああ……消えてしまう……栞ちゃんの命が……)

良也の掌から栞の命が滑り落ちていく……

(何か……何か方法は……)

『覚えていきなさい、良也』

その時、良也の脳裏に師の言葉がよぎる。

『使い魔には幾つか種類があってね』

***

『その中で最高峰に近い使い魔は、己の命を共有する半身としての使い魔でね』

『悪魔でも、動物でも、妖怪でも……或いは人間でも、互いが真のパートナー足り得るなら使い魔足り得るわ』

『主人が死ぬまで、一度使い魔と成れば共に在ることになる』

『伝承によれば、死にかけた怪物を使い魔にすることで助けたなんて話もあるわ』

『貴方が次の位階に進んだら、生涯の半身となる使い魔を作るのも良いかも知れないわね』

***

(あぁぁぁぁ!!そうだ!!使い魔契約!!!)

考えるより速く体が動いていた。

良也は指を噛みきると、栞の額に、使い魔契約の術式を書き込み、詠唱を開始する。しかし、彼が知っているのは一般的な低位の使い魔契約であって、彼が行おうとしている栞の命をつなぎ止め得る高位の使い魔契約ではない。故に良也は、術式を『構築しながら詠唱を行う』事とした。

「●●●●●」

一般人には聞き取れない難解な詠唱を良也は紡ぐ。

「●●●●●」
魔法使いとしての位階が上昇し、ついさっきまでならとても出来なかったであろう複雑な詠唱を良也は続ける。

「●●●●●」

栞を助ける、ただその一心で良也はかつて無い異常な集中力を維持し、今まで蓄えてきた知識を元に使い魔契約の術式の構築を行う。なんとも無謀、なんとも浅はか、魔法使い達が悠久の時の中で生み出す術式を今この場で作り出し、行使する、師であるパチュリーが此処に居るなら、良也を愚か者と罵っただろう

「●●●●●」

だが、その無謀でさえ、良也は成し遂げていく。限界を越えた能力のオーバーフローが、良也の思考速度のみを数千倍、数万倍に引き伸ばす。この瞬間のみなら、良也は、幾千万の魔法使いの幾千年の営みと同程度の力を引き出していた。師のパチュリーの能力すら凌駕しているだろう

「●●●●●」

体感数千年分の思考加速の中で術式は形創られ

「●●●●●!!!!」

そして、詠唱が終わる。

良也は、栞の顔を両手で掴むと、口を重ねた。甘酸っぱさなど欠片もない、血の味のするファーストキス。

(逝くな……!逝くな……!戻ってこい……!)

契約の儀式である口づけを起点に、二人を魔法の輝きが包む。

(僕の側にいてくれ、栞……!!)

魔法が発動し、二人の姿をかきけした。

***

ーエピローグー

スーツを着込んだ良也が、墓石の前に佇んでいる。墓石に刻まれた名は「高宮栞」というかつて良也の生徒だった少女の名。

「……」

良也は無言でお墓を見つめている。しばし佇んでいると、良也はふうっと息を吐く。

「あれからもう、数年たったのか」

高宮栞の葬儀が終わってからもう数年がたった。多くの人に惜しまれ、涙に塗れた葬儀であった。

「あんときは……辛かったな……」

多くの人が号泣し、肩を震わせる中、『泣くのを堪えるフリをして笑いを堪える高宮さん』を見て同じく吹き出すのを堪えていた事を良也は思い出していた。

「先生?何がつらかったの?」

良也が振り返ると、『背中に小さな羽を生やした高宮栞』がたっていた。

「いや、ほら、君の葬式のことを思い出してね」

ハハッと、良也は栞に笑う。

「ああ……あの時の……」

栞は合点がいったというように同じく笑う。

「まさか自分のお葬式にでることになるなんて思いませんでしたよ」

***

数年前、良也のぶっつけ本番のオリジナル術式で、栞は文字通り使い『魔』として、転生してしまった。栞が意識を取り戻した時には、傷は綺麗に塞がっていたが、背中からはちょこんと小さな悪魔の羽が生えており、もはや人ではなくなってしまっていた上に、栞は良也からあまり離れることが出来なくなっていた。

焦った良也は栞をつれて急いで幻想郷のパチュリーの元に向かった。二人を一目見てパチュリーは事の経緯を察し、無知・無茶・無謀三拍子そろった使い魔契約に大激怒。

喘息の発作で動けなくなるまで良也をボコボコにしたあと、パチュリーは良也のいろんな意味で無茶苦茶な術式を解析して過呼吸を起こしてひっくり返った。

『なんなのよこの無茶苦茶な術式は……!?即興……!?ハァ……!?馬鹿なの!?死ぬの!?よくこんな術式発動出来たわね!ちょっとでも制御ミスったら二人共廃人だったわよ!?おまけに足りないところを良也の能力と魔力で無理やり補ったせいで栞さんの魂と精神が良也の精神に無茶苦茶に絡みついてるわよ!?そりゃ離れられないわよ!!一回死亡したせいで生命エネルギーの生産が途絶えて、良也を供給源にしているんだから離れたら死ぬわ!!!ああああああこの馬鹿弟子がああああくぁあwせdrftgyふじこklpl!!!!』バッタン
『パ、パチュリー様お気を確かに!医者!医者を早く!』

その後、パチュリーにこの状況はどうしようもないと告げられ、現代での暮らしを捨てざるをえなくなった栞。良也はアリスに協力を仰ぎ、栞そっくりの人形を葬式のダミーとして用意し、高宮祖父に事情を説明。栞は誘拐時の傷が元でこの世をさったという設定で葬式を行った。

良也から殆ど離れられない栞は、透明化した状態で葬式会場の良也のそばに鎮座しており、そのことを知っている高宮祖父は笑いを堪えるのに必死であった。
それをみて良也も笑うのを堪えていたのだが、ふと何かを思いついたらしい栞が自身の死体のダミーの向こう側に寝転び

『ゆうたいりだつ?』

とかやってくれたせいで、良也は吹き出した。幸いにして、即座に隠し持っていたボールペンを体に突き刺して呻きながら下を向いたお陰で、周囲からは泣き崩れ嗚咽をもらす担任の図にしか見えなかったが。

***

「あれはきつかったよ……」
「いえ、あれはあんまりに暇だったものでつい出来心で……」

使い魔化して茶目っ気の増した栞は、あはは、と照れくさそうに笑った。


「そういえば、あの術師に殺された人々はどうなったんですか?」

なんの落ち度もなく命を奪われた百八人の顛末を栞は知らなかった。

「実はわからないんだ、知り合いの閻魔様に話を聞いたら、地獄より深い闇の底へ堕ちていったらしいよ。」
「……そうですか」

理不尽に奪われた命たちの救いのない顛末に、栞は胸を痛めた。

「……まぁ、被害者の方々は、いずれ御釈迦様が闇の底から救い上げてくださるさ。今生で苦労なされた分、来世では幸せになれるさ。因果応報ってのはそういう事だよ」

沈痛な面持ちの栞に良也は続けて言う。

「百年先か、二百年先かはわからないけど、今度生まれ変わったとき彼等が幸せになる事を祈ってあげればよいさ。僕らにできることはそれくらいしかない」
「……わかりました」

そこで、この話題は終わった。

そうして、しばらく二人で墓の前に佇んでいると、栞がつぶやく。

「ねぇ先生」
「うん?」
「私はもう人には戻れないんですよね?」

その問に、良也は言葉を返せなかった。

「ええ、わかってます、わかってますよ。人だった私はもう死んで、この墓で眠ってるんだってことくらい」
「……」

二人の間に沈黙が落ちる。

「……栞ちゃんは、僕の事を恨んでいるかい?」

良也は、ずっと聞きたくても聞けなかった問を、栞に投げかけた。

「恨んでいますよ」

栞は、サラリとそう答えた。それを聞いた良也の体が硬直する。そんな良也をみた栞は、クスリと笑って続けた。

「なにせ、お嫁に行けない体にされたんですからね」

ニコリと、冗談めかして栞がそう続けると、良也は鳩が豆鉄砲をくらったような顔になった。

「ですので」

栞はぎゅっと良也の手を握るといった。

「わたしをこんな体にした責任、とってくださいね、先生♪」

良也にむけられた栞の笑顔は、一点の曇りもなかった。

栞と良也 完



あとがき
 どうも、お久しぶりでございます、ジャムでございます。

 今回は良也くんと高宮栞のカップリングで話を書かせていただきました。
 しかし、両方が久遠氏のオリキャラという都合上、設定を多分にねつ造して書かざるを得ないところが多く、その上にモチベーションの都合から、書いては中断、書いては中断を繰り返した結果、起草から完成まで一年近くが過ぎてしまいました。その途上、栞編の続編などで高宮父の設定が出てきたり、書いている途中でどこからどこまでが本編の設定だったか、オリジナル設定だったかわからなくなったりと、右往左往しながら書いたせいで、おそらく奇縁譚本編設定との乖離が激しい話となっております。良也くんの能力解釈の所も大幅にねつ造しておりますので(汗)。
 
 しかも、話が膨らんだせいで今回は4万字越えでございます。前回3万字でおいおいとおもったのに、今回は4万字でございます。このペースなら次回は5万時越えでございますな!(やけくそ)

まぁ、とにもかくにも完成した以上、楽しんで頂けたなら幸いでございます。それでは例によって例のごとく、裏設定などに触れていきたいと思います。多分にネタバレを含みますので、いらっしゃらないとは思いますが、本編未読の方はそちらから読んだ方がよろしいと思います。その上で、その様なチラ裏の蛇足は不要!という方はブラウザバック推奨でございます。

●元ネタ
 一応元ネタは奇縁譚特別編の栞ルートの最初の栞の告白の所を拡大、超解釈してそれに至る前日譚とIFのIFルートのねつ造でございます。栞が告白に至る過程を大幅な設定改変を含ませて描いております。結果はかなり変わりましたが。
 故に本編とは多大な差異が複数ございますので、設定に齟齬があっても許していただければ幸いでございます。

●本編テーマ
 一応、この話では前回の拙著、「良也とルーミア」同様、恋愛物を主題として話を展開しております。ただし前作と違うのは、前作が基本的に良也君が終始主導権を握っていたのに対して、今回は基本的に終始周りに主導権がとられっぱなしだという事でございます。良也君の意志の外側で話が進行し、栞や藤崎、後ヒロインではありませんが、ラスボスの呪術師のストーリーに終始良也くんは振り回されております。故に奇縁譚本編の一人称ではなく、三人称で物語は進行しております。
 多分この話を良也くんの一人称でやると、ある日突然藤崎に泣かれ、ある日突然栞に告白され、ある日突然栞がさらわれます。あれ?特別編の良也くんとそんなにかわらn(検閲)
 裏テーマとしては、人生というものもあります。栞と藤崎と呪術師の三人はそれぞれ対照的な人生感をいきております。今の愛に没頭する栞と、未来へと進む藤崎、過去の復讐に耽溺する呪術師の三人はそれぞれ対照的な人生を生きております。良也くんは永遠世界の住人でございますので、その本質は不変、停滞、刹那的でございます。栞はその良也君の世界の住人となり永遠に今をいきていきますが、後の二人は未来と過去、逆ベクトルを生きていきます。
 
●栞について
 本編特別編においては、栞は人として良也と結ばれましたが、今作では使い魔として転生し、良也の世界の中で永遠を生きていく事となりました。
 老いないとは言い換えれば永遠に成長は出来ないという事でございます。無論精神経験の蓄積で変わってはいきますが、本質的には二人は変わらず、永遠を生きていくでしょう。
 このさきの話は多少考えておりますが恐らく書きません、少なくともこの二人はいつまでも幸せに暮らすでしょう。永遠に変わらずに。

 設定上の改編としては、かなり芯の強い子であるという認識で書いております。高宮祖父がかなりの傑物であるのは間違いないので、その孫娘なら根っこはかなりの物に違いないという理論で、藤崎の発破による覚醒後はかなり的確に良也を追い詰めます。本編でも覚悟を決めると割と強かな子だと思っていたので、そこを押し出しました。当初は父母とは死別している設定だったのですが、まさかの父母公式登場で御破算に、プロットの大幅転換が発生しました(泣き)。

 栞は公式でもう十分いちゃいちゃしていたと思ったので、今作ではあまりいちゃつきませんでした。話も良也と栞の関係が定着する段階まででしたからね。私に甘いいちゃいちゃをかく力量がないというのも大きな理由のひとt(検閲)

 本作後の栞は簡単に言うと良也のスタンド状態になります。ただし、実体化・霊体化が自由自在で、不老不死の良也君を母体にしているため、間接的に不老不死状態になります。良也君のエネルギーの大半を吸い上げているので、ぶっちゃけ良也君より強いです。

破壊力:A
スピード:A
射程距離:E
持続力:A
成長性:E

 良也君の莫大な魔力を一身に集めているので身体能力は莫大で、不老不死なので持続力は無限、つよい(確信)
 ただし、良也から殆ど離れられず、不老不死故経験蓄積以外に成長しません。これでほぼ完成形です。

●藤崎について
藤崎はこの話のキーパーソンの一人です。彼女がいなければ栞と良也は恋仲にはなれませんでした。良也君は相手が押し込まなければ落とせないので、彼女が発破をかけないと栞の覚悟がかたまらず、話が前に進みませんでした。栞ルートへの分岐点は彼女の存在できまります。
 藤崎は、栞が今を生きる存在であるのと対照的に、未来へむかって進む成長や前進、変化の存在として描いております。笑い、悩み、泣いて、そしてまた前をむいて歩いていく普通の人間の代表です。寿命が桁違いな妖怪連中や、不死者の良也くんでは絶対に出せない生きる人間の魅力に溢れています。そういう意味では幻想郷の魔理沙と良い友人になれるでしょう。彼女より本来の意味で普通の人間ですが。
 良也への恋慕は、そんな未来への道程の一ページとして彼女の歴史におさまりました。おそらく今作本編中で一番成長し、一番魅力的になった人物でしょう、私自身書いている内に好きにになって設定がポコポコ生えて軌道修正にこまりました。あれ?もともとどんな娘だったかn(検閲)

●呪術師について
 呪術師ですが、本編ではかませでしたが、おそらく現代世界有数の呪術師なのは間違いありますまい、粛清されそうになった間一髪のところを呪術で身代わりをつくり脱出、以後地下に潜ってひたすらに復讐の機会を探っておりました。
 この人物は、ひたすら過去を向き続ける人物として描いており、不可逆の流れに逆らい、呪詛を吐いて、吐いて、吐き続けて精神まで呪詛に染まりきって精神を腐らせてしまいました。クトゥルフ的な表現をするなら、SAN値ゼロの狂信者です。
 本編同様かませと言えばかませなのですが、溜りに溜まったヘドロのごとき呪詛は、栞の守屋謹製の退魔の護符すらしりぞけ、復讐を遂げます。封印には失敗しましたが、進むべきレールを盛大に破壊して良也と栞の人生を脱線させたあたり、過去に一矢は報いたのでしょう。彼がいなければこの話の帰結は本編特別編に近いものとなっていたはずでした。(そのかわり100倍になって自身に帰ってきましたが)
 実をいえば、本当に初期のプロットでは、本編登場の呪術師ではなく、良也が討った呪術師に恨みをもつ別の呪術師というオリキャラ設定だったのですが、逆恨みの自暴自棄な破滅思想からくる展開は、あまりに救いがないので没になり、それなら本人でよくね?という事で御登場いただきました。初期プロットの残滓は狂気に染まって自身の復讐に無関係な人を大勢巻き込むあたりですかね?

●良也くんについて
 今作では良也くんの設定が多分に改編されております。その最たるものは良也くんの能力設定です。
 今作では良也くんの魔力は生来のモノをだんだん取り戻しているという設定で書いております。死にかけて亡霊化するまで異能を発現しなかったのは無意識のうちに封印していたからという設定ですね。
 私、べただなんだと言われても、仲間の危機に成長の壁を破るというのは大好物でございます。でも良也くんは蓬莱人でございますし、急激な成長というのも違和感がありこのような形と相成りました。
 なお、今作後の良也君はスペックの8割を栞の維持に費やしているため強さは殆ど変りませんでした。そのかわり栞はかなり強いのでタッグを組めば遠近両方で戦えます。

 三人称視点で良也くんをしっかり描くのは初めてですが、これだとヘタレキャラの部分が強調されてしまいますね、いや、栞ちゃんに告白させるまでの道程を三人称で描くと朴念仁にするしかないっていう事情もあるのですが……今度話を書くときはかっこいい良也くんを書いてみたいですね(書けるといいなぁ……)。

●最後に
 毎度の事でございますが、創作活動の場として奇縁譚を貸していただき、誠にありがとうございます。私も木端とはいえ物書きの端くれでございますれば、時々小説を書きたくなるものでございます。そんなとき、奇縁譚はとても書きやすく、突発的に筆を走らせてしまうことも多いです。故に私のファイルには十個ほどの完成体に近い奇縁譚二次創作が冬眠しております。そのなかで完成にこぎつけたのは久しぶりでございますので、投稿させていただきました。

 その中で気づくのは、やはり最初から完成した短編ではなく、連作形式で継続して投稿している方々のすごさでございます。私など短編ひとつ書くのに、何度プロットを修正し、書き直したか思い出せません。久遠氏のように何年にもわたって一人のキャラで一本筋の話を書くというのは並大抵の事ではないのだというのが身に沁みます。

 次はどんな話を書こうか今から迷いますが、その次をここに投稿するのはいったいいつになりますのやら(汗)

 最後にもう一度、小説を書く上で多分に影響をうけた他の二次創作の作者様と、ここまで読んでくださった奇特な読者様と、奇縁譚作者様と、原作のZUN氏に最大限の感謝を、ありがとうございました。



2014年9月某日 ジャム  







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