〜注意!〜
・この小説は東方奇縁譚の二次創作であり、そういったものが苦手な人は回れ右を推奨します。
・この話には所謂『EXルーミア』と呼ばれる非常に二次創作要素の強いキャラが登場します。そういったものを受け入れられない方も回れ右を推奨します。
・筆者は素人です。他の作者様方の様な素晴らしい文章力は期待しないで下さい。
・原作OR奇縁譚本編におけるキャラのイメージを著しく害する恐れがあります。特にルーミアは題材からして別人格になってしまいますし。本編のような良也君を書くことも難しいです。

●上記の点を理解した上で読んでやろうじゃねぇか!という奇特な精神の方はこのまま下へ、それ以外の方はブラウザバックを推奨します。

 本編この先↓














































 僕が外での英語教師土樹良也としての人生を終え、幻想郷に永住してはや数十年が経った。博麗神社の巫女も霊夢から次代の巫女へと移り行き、僕はスキマや博麗の巫女たちに協力して幻想郷の維持に尽力しつつ、外と中を行き来して行商人のような事をして暮らしている。

 スキマに紹介された外での仕事で外貨を稼ぎ、それで菓子や雑貨を買い、中で売り払い日々の糧を得る。

 そんな事をもうずっと続けている。

 ちなみに僕の幻想郷での家は、博例神社と人里の間にあり、神社と人里の中継点の様な役割を担っている。

 僕の能力の応用し、人里と神社の間を結界の張られた参道で繋ぎ、結界内部では僕が許可しない『戦闘』は出来ない様にしてある。

 そのおかげで人里の人々も安心して神社へ参拝できる様になった。

 先々代の博麗の巫女……博麗霊夢にせがまれて構築した術式だ。意外に高性能で使い勝手がよく、彼女が引退した後もこうして後進の巫女たちの為に結界を張り続けている。

 こうして、安全になった参道を行商荷物背負って帰宅する。この話の始まりは、そんな日々を続けていたある日のことだった

 ***

 う〜ん、今日も土樹雑貨店は好評だったな。

 外から買って来た雑貨や菓子が満載されていた背中のカバンは、今は空っぽの状態で背負われている。いつものように雑貨店は満員御礼、全品売り尽くしで在庫ゼロ、気持ちの良い事だ。

 カバンと一緒に気分まで軽くなり、僕は今上機嫌で参道を帰宅している。

 のんびり歩いているうちに次第に人里から離れ、僕の家まであと少しといった所に到達した時、突如傍の草むらから影が飛び出してきた。しかしその影は、僕に飛び掛る寸前で何かに邪魔されたかのように停止する。参道の結界が効力を発揮したのだ。

 参道で僕に襲い掛かってくる妖怪は久しぶりだな。

 長年の暮らしでこの様な襲撃は慣れたもので、僕はあせらず懐からスペルカードを取り出し、発動した。

「風符『シルフィバースト』」

「がはっ……!?」

 スペルカードの発動により圧縮された空気の塊を展開し、停止していた影のどてっぱらに叩きつけて吹き飛ばす。長年の研鑽のおかげで僕の魔法も大分強力になった。この魔法もスペルカード戦でないなら、そこいらの妖怪の命を一撃で刈り取れるくらいの威力はある。

 でもこれはスペルカードルール用の非殺傷設定魔法なので、圧縮された空気弾は炸裂せず、吹っ飛ばした相手を木々にぶつけるだけで消えた。本来ならぶつかった相手ごと爆散するエグイ技なんだけどね。

『参道では人に襲い掛かるな』そう妖怪たちに注意しているが、こういう手合いはやはり居る。そういう輩にはこうやって身をもって理解してもらうしかない。
 
 僕は吹っ飛ばした相手に近づき、どんな妖怪なのか確かめる。

「……!?」
「う……あ……」

 そこに居たのはルーミアであった。かつて僕がまだ弱かった頃、幾度も僕に襲い掛かり、喰らおうとしてきた人食い妖怪だ。

 だが、僕が強くなるにつれ次第に出会う頻度も減り、最後に戦ってからもう何年も会っていなかった。

 目の前のルーミアは当時と全く同じ格好、同じ髪色であった。しかし、その瞳に力は無く、顔には濃い隈があり、ゲッソリとしていて、まさに満身創痍といった様子だ。

「おい、どうしたんだルーミア……!?」

 僕の問いに対して、ルーミアは力の無い眼差しをこちらに向け弱弱しく語る。

「おなかすいた……もう……何ヶ月もろくにたべてないの……残飯でも何でもいいから……ご飯食べたい……」

 その姿は、もはや人食い妖怪でもなんでもない、唯の欠食児童そのものだ。感じる力も弱々しく、最後の力を振り絞って僕に襲い掛かり、撃退されたのだと分かる。
 ルーミアはそこまで語ると力尽きたのか意識を失った。

(いくら人喰い妖怪だとしても、こんな弱った少女をほっとくのは無理だ……)

 僕は初歩的な回復魔術でルーミアを軽く治療し、同時にある程度僕の魔力を移したあと、行商荷物入れのカバンをそこいらに放置して背中にルーミアを背負った。

 とりあえず僕の家に連れて行こう。そして何か食べさせてあげないと……
 いくらか魔力を移したとはいえ、しっかり栄養を取らないとすぐに必要エネルギーとして使い切ってしまうだろう。

 僕がそう思って背負ったルーミアは、とても軽かった。見た目相応の人の少女より、なお軽かった。
 下手をすればガラス細工より簡単に壊れてしまいそうなほどはかない印象を受け、僕はこんな死に掛けの少女を魔法でぶっ飛ばしたのかと罪悪感を感じ、早く休ませてやろうと帰路を急いだ。

 その間ルーミアは、僕の背中にぎゅっとしがみついていた。

 ***

 自宅に着いた後、僕はルーミアを布団に寝かし、風呂を沸かし、大急ぎでご飯の用意をした。

 風呂釜に水符と火符の合成符を突っ込み自動で湯を生成し、風符で釜を圧力釜状態にし、僕自身はおかずを作る。普段はここまで魔法で横着しないが、今日は仕方が無いだろう。

 とにかく栄養抜群で、病人でも比較的食べやすいを条件に、ガンガン料理を作る。時間加速も併用したのでとにかく早い。

 15分もしないうちに部屋中に良い香りが漂い、ご飯は用意できた。

 居間に敷いた布団で寝ていたルーミアがふらふらと起き出す。

「うぁ……良いにおい……」

 布団から出てきたルーミアの目線は食膳に釘付けだ。ふらふらと危うい足取りながら、吸い寄せられるようにこちらにやってくる。途中、案の定バランスを崩したルーミアを支えてあげた。

「大丈夫か?」
「あう……ありがとう……ねぇ……あれは……食べても良いご飯……?」

 ルーミアはそこでようやく僕の存在に気付いたらしく、僕に料理を食べても良いのかと確認を取ってくる。こんな状態でも確認を取ってくるあたり、実は育ちが良いのかもしれない。

「うん、これはルーミアのために用意したご飯だから、好きなだけ食べて良いよ」
「ほ、本当に……?」
「うん、さ、ここに座って」

 ルーミアを膳の前の座布団に座らせ、僕も自分の膳の傍に座る。そして僕が両手を合わせると、それを見たルーミアも手を合わせる。

「いただきます」

 僕が食べ始めたのをみたルーミアは、ゴクリと喉を鳴らし、しばし逡巡した後、続いた。

「い、いただきます」

 ルーミアはゆっくりと白米を口へと運び、一口頬張る。そして一口、二口と、かみ締めるように白米を食べる。

 数秒間、時が止まったかのようにルーミアは動きを止めた、すると突然、ルーミアの両の目から、ボロボロと雫があふれ出した。

「ルーミア……?」

 僕の言葉に、ルーミアが再び動き出す。

「美味しい……美味しいよ……こんなに美味しいご飯、初めてだよ……」

 溢れる涙を拭おうともせず、ただ白米をかみ締めるルーミア。一体、どれほどひもじい暮らしを続けていたのだろうか……

 ルーミアはゆっくりと、一口一口を大切に味わうよう膳を平らげていく。そして、米粒一つ残さずきれいに平らげた。

 ***

「「ご馳走様でした」」

 一緒に手を合わせて食べ終わる。僕はルーミアに食後のお茶を差し出し、ルーミアと対面する。

「さて、とりあえず落ち着いたかな?」

 僕がそう問うと、ルーミアはこちらを真直ぐ見つめてきた。 
 その瞳にはしっかりとした光が宿り、先ほどの消えかけの危うさは無くなっている。

 ルーミアは湯飲みを置くと両の手を床につけ、正座の状態から深々と綺麗にお辞儀をした。

「重ね重ね、御世話になりました。襲い掛かり、喰らい付こうとしたのにもかかわらず、こうして治療し、休ませ、食事まで振舞ってもらい、その温情、深く深く痛み入ります。その厚恩に報いたいのですが、私の持ち物はこの身一つ、あげられる物は有りません。つきましてはあなた様の下女として、傍に仕え、雑事全般を引き受け、恩返しをさせていただきたいのですが」

 そのルーミアの言動に、僕は唖然とした。

 なんだ?この違和感は……

 妖怪連中は、往々にして見た目と年齢が一致しない。見た目が少女でも、何百年も生きているなんてザラだ。しかし、大なり小なり肉体に引きずられるように精神年齢も下がる。
 普段威厳たっぷりに振舞っても、時折ふっと見た目相応の顔を出す。しかし、ルーミアは逆だ。

 まるで、普段は精神が肉体に引き摺り下ろされていて、ふと肉体の束縛が緩んだ瞬間に精神の本当の顔が出てくるかのようなちぐはぐさを感じる。

 見た目は小学生程度の少女にしか見えないのに、一瞬、そこに教養に富んだ妙齢の女性が座っているのかのように錯覚した。

 僕はその姿に見惚れ、言葉を返すことが出来なかった。

 数拍の後、ルーミアは僕の返答があるまで頭を下げたまま動かないつもりであることに気付き、僕は再起動した。

「る、ルーミア?頭を上げてくれるかい?」

 僕の言葉にルーミアが頭を上げる。

「とりあえず、ルーミアは僕にげ……じゃない家政婦として雇って欲しいって事で良いんだよね?」
「家政婦と違って御給料など要りません。軒先にでも寝泊りするので、年中無休で馬車馬のごとく使ってくれてかまいません」

 そういうルーミアの目はどこまでも真剣で冗談の欠片もなかった。

「あと、あなたが里と神社の橋渡しをしていることは知っています。ですのでその看板に傷をつけぬよう、金輪際人は食べません。まぁ……最後に食べたのもいつだったか思いだせないくらい昔なんですがね」

 ルーミアはそういって自嘲気味に笑う。確かにあの様子では、相当何も食べてなかったのは間違いないだろうな……

「で、返答はどうなのです?」

 僕はその問いに少し考える。もし僕がこの申し出を断れば、またルーミアは元の浮浪児のような暮らしに戻るのだろう。

 思い浮かぶのは、先ほどの食事の光景、美味しい美味しいと泣きながら米を頬張る姿……

 下女云々は抜きにして、このがりがりの少女が、寄る辺無く、食事もとれず、この先どこかで行き倒れるであろう未来を想像する。

 なんというか……とても……とても嫌な気分になった。そんな最悪の未来に行き着く前に、僕の眼の届く位置できちんと食事を取らせて健康的な暮らしをさせるべきではないだろうか?

 そう、結論づけると、僕の中にストンと考えがまとまった。

「よし、じゃあルーミア、僕は君の申し出を受けようかと思う」
「感謝いたしま「ただし!」」

 強引にルーミアに割り込む。

「僕はあくまで君を『雇用』する!一日三食しっかり僕と食事を取り、きちんと風呂に入り、家の中で布団で寝てもらう!毎月給料も出す!文句は言わせない、これが君を雇う最低条件だ!あと、むず痒いからそこまで丁寧に放さなくていいよ!」

 こうでも言わないと、絶対にこの少女は本当に軒先で寝泊りし、身を削って馬車馬のように働きかねない。そんな予感がした。

 ポカンとした表情でこちらを見つめていたルーミアは、クスリと笑った後、花が咲くような笑顔でこういった。

「了解したわ、これからよろしくね。『旦那様』」

 その笑顔に、僕は何かを打ち抜かれたような気がした。

 ***

「旦那様、掃除終わったわよ」
「ありがとうルーミア、休憩しててくれ」
「了解したわ」

 ルーミアが僕の家の家政婦になってから一月程がたった。

 その間ルーミアは甲斐甲斐しく働き、掃除、洗濯、料理と一流の家政婦として十分通用しそうなほど働いた。
 やはり昔誰かに教わった事があるのだろう。どれも教えるまでも無く十分に出来ている。

 当初懸念していた体調はどんどん改善していった。
 
 僕の家で過ごすようになってから、ルーミアは日増しに血色が良くなり、汚れや痛みで輝きを失っていた金髪は元来の物であろう蜂蜜色の輝きを持ち、顔からも隈らしきものがなくなった。

 体調が改善したことで、ルーミア本来のものであろう魅力が溢れてきたように思える。

 今では、ガリガリでほとんど餓死寸前の様相だった体にも、見た目相応最低限には肉が付き、少女らしい丸みを帯びた体つきとなってきた。

 もはやあの死に掛けの少女の面影は無かった。

 こっそり治癒促進、疲労回復、精神安定等のの魔法をかけたり、長年の生活で(教師としての職務や人里で人生相談をうけたりして)培った精神面でのサポート技術を駆使してルーミアのストレスがたまらないように気を配ったりした甲斐もあってか、心身ともに良好な状態を保っている。

 一仕事終えたルーミアは、今は休憩がてら僕の分まできちんと紅茶を淹れて、持ってきてくれた。
 ルーミアは基本的に自分の為だけに紅茶を淹れたりしない。僕が出かけている時は、いつも好きに飲んでかまわないと言ってから出かけるのに帰ってきた時茶葉も茶菓子も微塵も減った様子がない。

 ここまで尽くしてくれるなんて正直予想外にも程がある。

「旦那様、お茶が入ったわ」
「ああ、ありがとう」

 ルーミアの淹れてくれた紅茶を啜る。茶葉の風味が良く引き出され、淹れた人物の確かな技量を感じる紅茶だった。

 僕がほうっと一息つくと、ルーミアは安心したように自分の分に口をつける。どうやら僕の口に合ったことに気付いて安心したようだ。

 ルーミアお手製の紅茶とクッキーを楽しみつつ僕は考える。

(そういえば、明日はルーミアが家政婦になってから丁度一月だな)

 目の前で幸せそうにクッキーを食べるルーミアを見て思う。

(こうやってルーミアと同じ家ですごしていると、神社に住んでいた頃を思い出して、救われるような気がするな)

 不老不死の蓬莱人、人であって人でないバケモノ、周りの人々は自分を残して消えていく。ほとんど不老の妖怪たちや、同じ蓬莱人の友人たちも居るが、どうしても周りから友人が消えていくことに対して寂しさを感じてしまう。

 こんな辺鄙な場所に住居を構えたのも、自分を残して消えていく人々の中で、あまりに深く食い込んで生きるのが、少々辛すぎたからだ。

 かといって離れすぎてもまた辛い。そういうわけでこの微妙な距離感の家で暮らしている。

(一人暮らしはもう慣れた気で居たが、やはり僕も寂しかったんだな)

 ルーミアをあの状況から助けた気で居た自分だが、本当に助けられたのは自分だったのだろうか?分からない。

(まぁいいや、僕の人生は長いんだ。いずれ答えも出るでしょ。長い人生を生きるコツは、楽しむべき時に楽しむことだ)

 僕は答えの出ない思考を打ち切り、明日の記念日をどう過ごすかに思考をシフトさせる。

(せっかくだしおいしいご飯でも食べに行くか。久しぶりに人里の料亭にいって高級料理を一緒に食べようかな……いやまてよ、先にルーミアにどんな系統の料理が食べたいのか訊いた方がいいかな?)

 僕は一旦机に紅茶を置き、ルーミアに訊ねる。

「なぁルーミア」
「どうしたの、旦那様?」
「ふと思ったんだけど、ルーミアってどんな料理が好きなんだ?」

 一瞬ポカンとした後、ルーミアは答える

「私は基本的に好き嫌いはないというか、食べ物全般が好きよ?」
「それでもなにかない?これが食べたい!とかどんな料理が気になる!とか肉より魚!とかパンより米!とか何でもいいから」

 僕がそういうと、ルーミアはうーんとうなった後、急に顔を赤くして、もじもじしながら訊いて来た。

「な、なんでもいいのかしら?」
「おう!なんでもいいから言ってみて!いってみるだけだと思って気にせずいってみてほしいんだ」
「わ、分かった……」

 そういうと、赤くなったルーミアは意を決して言葉をつむぐ。

「だ、旦那様の……」
「僕の?」

「手……手料理が食べたい……の……」

 ルーミアは蚊の鳴くような声でそういうと、顔を真っ赤にして家から飛び出してしまった

 ***

「参った、なんて破壊力だ……」

 さっきのルーミアは……反則的に可愛かったな

「いかんいかん……一瞬新しい世界に目覚めそうになった……気をつけないと」

 僕は○リコンじゃないぞ!?

 閑話休題

「しかし僕の手料理か……」

 まさかそうくるとは、その発想はなかったわ。

「……ルーミアが食べたいってんなら、僕が作るか」

 ***

 翌日、今日は家政婦は休みだと言い渡し、ルーミアを引き連れ人里へ繰り出した。

 着物屋に行ってルーミアに着物を仕立てたり、洋服屋に行って店員にルーミアに似合いそうな服を見繕って貰ったり、

 喫茶店に連れて行ってお菓子を食べたりした。

 途中で知人にからかわれたり、変な疑いをかけられたりしたけど、なんだかんだで楽しかったな……

 その後、僕らは晩御飯の食材を買って一緒に帰宅した。

 帰宅後、ルーミアが風呂に入っている間に僕が料理を作る。

 前は魔法を只早く料理を早く作るために使ったが、今度は少しでも美味しく作るために魔法を使う。美味しくなれ、美味しくなれ、そう思いながら料理を作る。

 よく料理は愛情などと聞くが、あれはあながち間違いではない。料理を作る相手を思い、喜んで欲しいという気持ちを持つと、ほんのすこしずつ料理の行程に手間暇がかかり完成度が上がっていく。それが積み重なり、料理の味が一段高まるのだ。

 だから、一生懸命気持ちを込める、精一杯尽くしてくれるルーミアの為に。言葉にするのは恥ずかしい気持ちも、料理に込めるなら恥ずかしくはない。

「よし、完成した」

 目の前にはたっぷり料理が並んでいる。これだけあれば、健啖家なルーミアでも満足出来るだろう。

 膳を用意していると、ルーミアが風呂から上がってきた。

「お風呂お先に頂いたわ、旦那様」

 風呂上がりのルーミアは、見た目不相応に色っぽい。健康的に赤みを帯びた白い肌に、濡れた金髪が張り付いている。今日買った寝間着(部屋着)用の浴衣から覗く鎖骨は、正直目に毒だ。

「ああ、了解。ルーミア、その浴衣の着心地はどうだい?」
「う、うん、とても肌触りが良くて、清涼感があり、火照った身体にもちょうど良いわね……旦那様、本当にこんな高級なもの貰ってもいいのかしら?」

 ルーミアは赤みのかかった顔を更に紅くしながらこちらを見ている。

 ルーミアは藍染の可愛い浴衣を気に入ってるいるようで、その顔には浴衣を貰うことへの恐縮と喜びがないまぜになっている。

「良いんだよ、お給料、現金だとルーミア受け取りにくそうだったし。」
「だとしても貰いすぎよ、この浴衣一着で里の大店の奉公人への半月分の給料位の価値があるのわよ。その上、他に高価な着物や洋服までもらっては……」

 そこまで言ったルーミアの頭の上にポンと手をおく

「気にすんな、金は使ってこそだ。懐具合にまだ余裕はあるし、僕だけだと使い道に困るんだ。あんまりため込むと閻魔様が五月蠅いしねぇ?」

 笑いながら続ける

「それに、女性への贈り物をケチるわけにはいかんでしょ。それとも趣味に合わなかったかい? だとすると僕は持ち主なしの女物の着物抱えて呆然としなきゃいけないねぇ……」

 そう軽くおどけてルーミアに言ってみる。するとルーミアは慌てたように

「滅相もない!この浴衣も、着物も、洋服も、すごく嬉しかった!文句なんかあるはずないわ!」

 そう言った。

「なら何の問題もないね。いやはや贈り物が無駄にならなくてよかったよかった」

 僕はそう言ってポンポンと頭を撫でながらこの話題を打ち切った。こうなればルーミアもこの話題を今後出せまい。
 ルーミアが何か言いたそうだったので、話を変える。

「さあ、ご飯出来てるよ。今日は腕によりをかけたからね。早く食べよう!」

「あう……昨日あんな事訊かれた時に薄々予想してたけど……本当に作ってくれたんだ……」
「バレバレだったか。まぁ、思い付いたの昨日だったしね?」

 どれだけ歳くってもこの辺のスキルは全然上がらないなぁ……まぁ、経験値無いしなぁ……大魔法使いは伊達じゃないぜ!

「フフフ、旦那様は正直者ね」

 ルーミアは笑ってくれた。どうやら好意的に受け取ってくれたらしい。

「はは、じゃあ飯食おうか?」
「わかったわ……旦那様」
「何?」

 そこでルーミアは一拍置いて続けた

「これからもよろしくお願いします、旦那様」
「こちらこそよろしく頼むよ、ルーミア」

 僕らは互いに笑顔で言い合った。

 良也とルーミア 中編へ続く


 ***

〜おまけA 人里の喫茶店にて〜

 ここは僕が幻想郷に来た当初からある幻想郷では珍しい外の様式の喫茶店だ。今は初代店主のお孫さんとお孫さんの娘さんが店主として店を経営している。

 この店にくるたびに僕がヒトの流れから逸脱している事がよくわかる。

 赤ん坊だった人間が結婚し、子を成し、その娘がまた成人し、代を重ねていく……今じゃ里のみんなが僕の甥や姪みたいな気分だ。特に良くここには食べに来るからその感覚が強い。現店主も、娘さんも、ハイハイしてる頃から知っているし、昔はお兄ちゃんお兄ちゃんとよんでしたってくれていたもんだ。

 カランカラン

「いらっしゃーい」
「いらっしゃいま……あら、良也お兄さん」
「や、こんにちは」

 僕らが入店すると、初老の店主に続いて、年頃の娘さんが挨拶してくれる。

「良也さん久しぶりねぇ」
「良也お兄さんは相変わらずですね……うん?後ろの方は?」

 僕の後ろに続いて入店したルーミアに娘さんが気付く。

「ああ、紹介するよ。内の家政婦やってくれてるルーミアだ」
「土樹家の家政婦をつとめているルーミアです。はじめまして」

 普段の砕けた口調ではなく、きちんと丁寧に話すルーミア、外ではいつもこんな感じだ。

「え!?家政婦さんなんか雇ってたんですか!?」
「あらあらまあまあ、そんな幼い子を家政婦にねぇ?」

 娘さんは驚愕し、店主さんはニヤニヤと、こちらを見てくる。

「うふふ、なかなかお似合いのカップルね、良也さん?」

 店主さんは悪戯っぽくそう言ってくる。

「か、カップル……」

 その言葉にルーミアは顔を赤くしてうつむいてしまう。

「店主さん、あんまりルーミアをからかわんでやってくださいよ……? ルーミアは先月から家で雇いだしてね、今日でちょうど1ヶ月だからお祝いってことで食べにきたんだ」

 店主さんにからかわれて真っ赤になったルーミアに助け船を出す。

「ふーん?でも女の子と二人で喫茶店なんて、まんまデートよね」
「まぁ……そういえばそうなるのかな」
「あう……」

 ニヤニヤとこっちに話してくる店主に同意するとルーミアがさらに赤くなる。

 かわいいなぁ……ハッいかんいかん。

「だ、旦那様、恥ずかしい……」
「旦那様……?お兄さん、やっぱりそういう趣味が……」

 娘さんの視線が痛いです。これは下手に言い訳すると逆効果だな。

「ま、まぁこの話はいいや、窓際あいてる?」
「ええ、こちらにどうぞ」

〜席にて〜

「ねぇあれ土樹さんよ」
「三十年前に菓子買ってた頃と全然変わらないね……って同伴の娘だれだろ」
「金髪ロリ美少女だと……」
「全然結婚しないと思ったらあんな趣味が……」
「うらやま……けしからん」
「あれ人喰い妖怪じゃないか……あんな娘なら喰われても別に……」
「良也おめぇ……」
「爆発しろ」
「娘を菓子屋に送るの控えようかしら……」

 ヒソヒソヒソヒソと、強くなるための訓練で強化された聴覚のせいで、四方八方から囁きが聞こえる……周囲が全員顔見知りって辛いな……かといって外に連れて行くとタイーホフラグが立っちゃうしな……

「旦那様旦那様、こういう店初めてだから何頼めばいいかわからないんだけど……」
「え?ああそうだな……」

 僕がルーミアの質問に答えていると……

「旦那様……?」
「旦那様だって……」
「旦那様……」
「旦那様だと……けしからん……」
「夫婦プレイ……だと……」
「爆発しろよマジ……」
「旦那様とかワロス……モゲロ(ボソッ)」
「娘に近付かないよういっとかないと……」

 もうだめだ、おしまいだぁ。完全にそういう趣味の人だと噂になるぞこれ……

 目の前には、僕を無自覚の内に社会的に抹殺しかけている(僕の思慮不足ともいう)天使のような悪魔が、メニューをみてうなっている。

 SAN値が、SAN値がガリガリ減っていく……

 そうこうしているうちに、注文がきまり、店主を喚ぶと……

「あの……」
「なんだい?」
「まだなにも頼んでないというか、頼む予定もないもの出されても困るんですが……」

 僕らの前にはデンっと一つのコップが鎮座している。頼んでいないと言う点を除けばそれ自体は問題は無い。しかし問題は、そのコップのストローが、ハートの形を描きながら枝分かれしているということだ。

 所謂恋人御用達のあのストローだ。

「サービスだよ」
「いやだから……」
「サービスだよ」
「だからね……」
「サービスだよ」

 い、いかんオウム返しによるドラクエ式強制選択ルートだ……

 りょうやはフラグからにげだした

 しかしまわりこまれてしまった

 フラグからはにげられない!

 ルーミアがあらわれた

「だ、旦那様……?」

 ルーミアはなにかをきたいするようなうわめずかいでこちらをみている。

 つうこんのいちげき!

 りょうやにこうかバツグンだ!

(ええい、毒を食らわば皿までだ!ままよ、南無三!)

 僕はルーミアに反対側から飲むよう指示し、もう一方をくわえた。

 僕らの顔が超至近距離まで近付く。
 ルーミアは顔が真っ赤だ。おそらく僕も顔が赤いだろう。

 ルーミアと目が合う。ルーミアの吸い込まれそうな深い色合いの瞳から目が離せなくなる。そのままじっと見つめ合いながらジュースを飲む。周囲の雑音が聞こえなくなり、そのまま、注文した商品が来るまで見つめ合っていた。

 ***

 良也が無意識のうちに能力で自分の世界に防音性をもたせ、文字通り自分達の世界に入り込んだ後、他の客たちはというと……

「二人とも見つめ合ったまま動かなくなっちゃったよ」
「あらあら、二人とも紅くなって、なんか付き合いたての若者みたいね……」
「完全に自分達の世界に入っちまってら」
「あれで二人とも実年齢はここにいるだれより……」
「おいやめろバカ、それは言わない約束だぜ?」
「あやや、これはスクープですね、パシャリと一枚貰っていきます」
「久しぶりにスイーツ食べに来てみれば……先生何やってんですか……」
「完全にバカップルです。本当にありがとうございました」
「あの娘どうみてもベタぼれだよなぁ……羨ましい……」
「おまえそんな趣味が……」
「あそこまで欲望に素直なんて……良也の兄貴漢だな……」

 もはや言い訳できないレベルの確定情報として良也とルーミアが『そういう仲』だという話が、幻想郷中に広まることが確定しました。

 はたして世界に入り込んで周りの声が聞こえなかった事が、良也にとって幸運だったのかどうか……

 ***

〜おまけA デートから数日後〜

「旦那様、新聞が届いたわ」
「ありがとう」
「なんか、今日は妙に急いでたわね、あの天狗」
「射命丸が急いでるのはいつものことじゃないか?」
「それはそうなんだけどね……」

 なにやらルーミアは納得していないようだったが、他の家事があるので仕事に戻っていく。

 僕は首をかしげながら新聞に目を落とした。そして、射命丸が急いでいた『理由』に気付く。

 ***


〜号外!文文。新聞!〜

『土樹良也熱愛発覚!?相手は妖怪ルーミアさん!?』

 人里と博麗神社の中間に家を作り、博麗神社と人里の橋渡しを行っている不老不死の魔法使いである土樹良也氏。彼は数少ない幻想郷の中と外を行き来できる人材だ。彼は普段、神社への橋渡しの他に中と外とを往復する行商を営み生計を立てている。
 温厚で人当たりの良い彼は老若男女問わず一定の人気がある。その上、幻想郷の各勢力との太いパイプを持つかなりの重要人物だ。
 強者特有のプレッシャーを持たない彼は、普段は里の優しい兄貴分といった立ち位置を保っており。彼を慕うものも少なからず存在した。しかし、ついぞ彼に浮ついた話は聞こえず、恋人が居たことなどないと本人も語っている。年齢相応の落ち着きや人格のある彼も、恋愛関係だけは、ヘタレ、朴念仁、奥手にも程がある、あれだけ女性の知り合いがいてなんで独身なんだ等々、よく非難されている。
 そんな彼に、とうとう『そんな関係』の女性が現れたようだ。人里のカッフェにて一つのコップで仲良くジュースを飲む彼の姿が確認された。
 その姿がこれだ!
(良也とルーミアが見つめ合ってジュースを飲む写真)
 なんとも初々しい姿である、とても齢百近い男性と少なくともそれより年上の女性には見えない。目撃者からの情報によると、二人はこの状態で少なくとも10分は固まっていた様だ。
 なお、ルーミア氏は良也氏の事を『旦那様』とよんでいるらしく、二人の関係がどの様なものなのかは想像に難くないかと思われる。

 調査班の更なる調査の結果、良也氏がルーミア氏にした『贈り物』の存在が明らかになっており。里の呉服屋で最高級の和服や浴衣を仕立てて送ったそうだ。二つの品はいずれも里の有力者が結婚式の結納品に選ぶほどの高級品で、人里でこれに並ぶほどの女性への贈り物はほとんどないだろう。

 本人はお祝いに送ったといっていたようだが……断じて唯の祝い事に贈るような品ではない。

 我ら記者団は、これからも調査を続け……以下略




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