第7話  戦闘




「危ないッ!」
「うわっ!?」
 紅魔館を飛んで逃げていると良也の背後から弾が迫って来ていたので慌てて掴んでいた手を引っ張る。良也の体が横にスライドされ、何とか回避する事が出来た。
「あ、ありがとう」
「そんな事より、まずい事になったぞ」
 さっきの弾を放ったのはレミリアではない。少し後ろを不敵に笑いながら追いかけて来るフランだ。
「え? 何でフランドールも!?」
「きっと、面白そうだからだろ? まぁ、あいつは俺を殺そうとまでは思っていないだろう。問題は、ここの主だ」
 フランの右隣を飛んでいるレミリアは明らかに本気だ。弾幕ごっこすらする気はないらしい。ただ、俺を殺す為に向かって来ている。
「どうするの?」
「……とりあえず、逃げながら今の能力について確認する。まだ、使いこなせてないから」
「能力?」
「お前と同じ『自分だけの世界に引き篭もる程度の能力』だよ」
「はぁっ!?」
 さっき、“俺はお前で、お前は俺だ”と言ったのに伝わっていなかったようだ。
「俺はどういうわけかお前の世界の中にいるとお前と同じ能力になるんだ。能力だけじゃない。霊力から気配、何から何まで同じなんだ。まぁ、体質とか魂はさすがに変わらないみたいだけどな」
 その時、レミリアたちからスペルを発動する音が聞こえる。レミリアは紅い槍を、フランは炎の剣を召喚していた。
「お前、何が出来るんだっけ?」
「く、空間歪曲、時間操作、瞬間移動。それに薄いけど壁を作る事が出来るよ」
「……よし。試してみよう」
 丁度、フランが剣で攻撃しようとスピードを上げている事だ。
「え?」
「いいか? 今のところ、時間操作は成功してる。次は空間歪曲だ。レバ剣を曲げてくれ」
「で、でも曲がるだけだよ?」
「俺も同時に同じ方向に曲げる。それでどうなるか見てみたいんだ」
 そろそろ、フランの剣が俺たちに届く。それを見て良也は頷いてくれた。
「じゃあ、同時に振り返るぞ? 3、2、1……今!」
 掛け声と同時に俺と良也は振り返り、炎の剣に念を送る。
「方向は!?」
「左だ!」
 隣で良也が能力を使うのがわかる。それに合わせて俺も見よう見まねで能力を使用。
「え!?」
 すると、急にフランの剣が曲がったかと思えば中間あたりでポッキリと折れてしまい、消滅した。
「おお! すごい!」
 それに感動したらしく、良也が止まってしまう。
「バカ! レミリアの攻撃が来るぞ!」
 見れば、フランの陰からレミリアが槍を投げるモーションに入っているのが確認出来た。
「次は!?」
「瞬間移動。俺が良也の世界から出るか出ないかの所まで飛ぶからタイミングを合わせてお前は俺の世界に飛べ!」
「ど、どういう事?」
「とにかく、遠くに飛ぶイメージだ! 行くぞ!」
 困惑している良也を放って俺はトップスピードで紅魔館の廊下を移動する。
「今だ!」
 俺の叫びと同時に数メートル先に良也が出現。それを見て俺も瞬間移動を発動した。一瞬だけ景色が消えたと思ったら、また良也の世界の淵にいた。
「後、1回ずつだ!」
「ええ!? もう、これ以上やると後が厳しいよ!?」
「いいから! レミリアの槍が来る!」
 その証拠にとうとう、レミリアが槍を投擲した。このままでは俺も良也もあれに巻き込まれてしまう。
「くそっ!」
 状況がわかったのか良也が悪態を吐きながら、俺の世界の淵に飛ぶ。すかさず、俺も淵に飛んだ。これで少しだけ時間が稼げる。
「今度は同時に壁を作る!」
「いや! あれはベニヤ板みたいなもんなんだよ! すぐに貫かれちゃう!」
(そ、そんなに弱いのか……)
「じゃあ……時間操作! 3倍速で回避だ!」
「壁に対してフォローはないんだね!!」
 もたもたしていたらもうすぐそこまで槍が来ていた。俺と良也が同じタイミングで3倍速を発動。
「ねぇ! でも、これって3倍速より明らかに速いよね?」
「当たり前だろ! 掛け算で9倍速になる!」
 9倍速の世界で再び、良也と手を繋ぐ。どうしてか向こうは手を繋ぐ事に戸惑っているようだが、今は仕方ない。もし、俺がこいつの世界から出てしまうと2秒ほど能力変化のせいで隙が出来てしまうのだ。
「これだと右に逃げられそうだね」
 ゆっくりと迫り来る槍を観察して、良也が呟く。
「バーカ。右からフランがとびきりの笑顔で突っ込んで来てるのが見えないのか」
「あ、ホントだ。じゃあ、どこに? 左は正直言ってもう塞がってるけど……」
「まだ、あるだろ」
 上は駄目だ。きっと、レミリアがこちらの様子を見ようと上昇しているのですぐに見つかってしまう。ならば――。
「下をくぐる!」
「え!? ちょ、まって!?」
 良也の制止を無視して手を引っ張り、一気に降下する。槍が良也の世界に入った。その瞬間、向こうのスピードが元に戻り、ものすごい勢いで俺たちに突進して来た。
「だから、止めたのにいいいいいい!!」
 確かに俺たちは廊下の天井付近にいたので上に向かうより下の方が遠い。それをレミリアも狙っていたのだろう。現にこのままでは槍は直撃する。だが、俺と良也を見くびっては困る。俺は良也の手を掴んでいた右腕を、ボールを投げるように引き始めた。
「え? え? ま、まさか?」
「いっけええええええええ!!」
「い、いやああああああああああああ!?」
 思いっきり、振り降ろして良也を投げた。良也はくるくると周りながら槍の下をくぐる。
(瞬間移動!)
 ギリギリのタイミングで良也の隣まで移動。まだ、悲鳴を上げていたヘタレを何とか、抱き止めた。
「ひ、酷いよぉ……」
「悪い。あれを躱すにはこれしかなかった」
「このぉ!!」
 槍を躱したのを見てフランが方向転換し、こちらに向かって来る。炎の剣も復活していた。
「良也! これを!」
 急いでスキホを操作し、博麗神社にあった良也の剣を取り出す。
「え!? なんで、これを?」
「霊夢が持ってけって! いいから、フランの剣を!」
「あ、ああ!」
 俺が放り投げた剣を危なっかしく受け取った良也は剣を抜こうと慌てて柄に手を伸ばした。
「まだだ! 居合いで行け!」
「そ、そんなの出来ないよ!」
「タイミングを言うから」
 俺の目をジッと見て頷く良也。それからフランの方を凝視した。空中で重心を低くし、鞘を体の左側へ持って行き、右腕を自分の体を抱くように柄を握る。その仕草からどうやら、剣道を齧っていた事がわかった。
「……今!」
「せいやっ!!」
 フランが剣を振り降ろすと同時に良也が居合いで斬り上げる。剣と剣がぶつかり合った。
「え!? う、嘘でしょ!?」
「これは某有名な剣のレプリカだから僕の力が弱くてもそれなりに戦える!!」
 甲高い音が廊下に響く中、良也の後ろからレミリアが迫る。
(……よし!)
 今の俺じゃレミリアには勝てない。それどころか一撃で倒されるだろう。俺が普通の人間なら。
「お前の相手は俺だ!」
「……」
 両手の爪を伸ばしたレミリアが右手を引く。
「魔法『探知魔眼』!」
 良也には魔力もあるので何とか、魔眼を発動する事が出来た。
「死になさい!」
「それは無理なお願いだ!」
 右ストレート(拳は握らず、指先を伸ばした状態)を放つレミリア。魔眼で探知していたので頭を左に傾ける事でギリギリ、回避。すぐに右足でレミリアの左膝を蹴りつける。だが、吸血鬼の身体能力で躱された。
「まだまだっ!」
 一回転して回り蹴りを首に。それは右腕でガードされる。お返しとばかりに紅魔館の主は右・左・左・右・左と連続でパンチを繰り出して来るつもりだ。魔眼がいち早く、反応してくれた。しかし、軌道を読んだ結果、避けられるのは最初の3発まで。でも、そうしてしまうとこちらのバランスが崩れてしまい、追撃を喰らうだろう。ならば――。
「やぁっ!」
 右足元に壁を作って思い切り、蹴った。その為、俺の体は普通に飛行するよりも速く左にスライド。1発目を回避。すぐさま、真上に壁を作り、手で押して急降下。2発目は俺の真上を通り過ぎた。
「なっ!?」
 俺の予想外の動きに目を見開くレミリアだったが、更に拳を突き出すスピードが上がる。それを見て、左足元に壁を作り、蹴った。
「かかった!」
 それを見越していたのだろう。左手を躱した後、目の前にレミリアの右手が迫った。このまま、移動し続ければヒットする。
「残念」
 だが、俺もそれぐらい魔眼を使わなくても予想出来た。右側に壁を作って、体をぶつけ急ブレーキをかける。右拳が顔のすぐ右横を通り過ぎた。
「え?」
 4発目も躱されたレミリアの動きが止まる。
「せいっ!」
 チャンスとばかりに斜め後ろ――よく、陸上でクラウチィングスタートをする時に使われるあの機材のように壁を作ろうとした。しかし、急に体を包んでいた浮遊感が消える。
(え……)
 後ろをチラリと見ると良也が一生懸命、フランと戦っていた。そう、俺が良也の世界から出てしまうほど遠いところで。
「終わりよ」
 そんな冷徹な言葉を聞くと同時に腹部に鋭い痛み。
「ぁッ……ぐ」
 霞んで行く視界の中で捉えたのは不敵に笑うレミリアの顔だった。







 あとがき




 皆さん、こんにちは。ホッシーです。
 とうとう、戦闘シーンが始まりました。きっと、読みにくいと思いますので少しだけ解説を。
 瞬間移動の所の描写が一番、わかりにくかったと思います。説明しますと、良也さんの世界は円だと考えました。そして、その世界の中心点は良也さん。そこで響さんが円は端っこ。つまり、円から出るか出ないかの位置に移動しました。その時、響さんも良也さんと同じように円の形をした世界の中心にいますので良也さんの世界と響さんの世界が半分ほど重なっていますが、広くなるんです。良也さんの瞬間移動は『自分の世界のどこかに移動できる』と言う物です。普段なら、そこまで広くはないと思いますが、響さんがいる事によって良也さんの世界から響さんの世界の端っこまで飛ぶことが出来る、と言う事です。そして、響さんも同じように自分の世界から良也さんの世界の端っこに飛べば、かなりの距離を飛べると考えました。
 長々と説明すみません。では、また第8話でお会いしましょう。お疲れ様でした!



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