第6話  血液






「あれ? 良也さん?」
 紅魔館の門に到着すると同時に美鈴に声をかけられた。

「こんにちは」
「あ、はい。こんにちは。えっと……その方は?」

 視線を僕の後ろに向けながら問いかけて来る。そこには音無さんが立っていた。

「音無 響さん。色々あってパチュリーに用事があるんだ。この子も通していい?」
「そ、そうですね……多分、良也さんの知り合いなので大丈夫かと。それにしても珍しい方ですね」
「何がだ?」

 美鈴の呟きが聞こえていたようでキョトンとしたまま、音無さんが聞き返す。

「いえ、気が良也さんと同じなので」
「……」
「……どうして、君はそんなに嫌そうな顔をするのかい?」

 音無さんの眉間に皺が寄ったのを見て思わず、口を出してしまった。
 その仕草だけで何が言いたいのかわかってしまったが……。

「と、とにかく! お邪魔します!」
 音無さんの右手を乱暴に掴んで急いで紅魔館の中へと突入する。



「やっぱり、内装までは変わらないみたいだな」
 紅魔館の中に入ってからしばらくして音無さんがそう呟いた。

「君の世界との違いは東方って奴が存在しているかしていないかって所だけみたいだね?」
「ああ……まぁ、それだけでも俺からしたらかなり、問題だけどな」
 溜息を吐きながら音無さん。

「東方がなかったら何か困る事でも?」
 趣味がなくなるとか?

「俺は紫のテーマ曲を聴かないとスキマが使えないんだよ」
「……どゆこと?」
「だから、俺の能力は変化するって言ったろ? 俺が人間の時は『幻想の曲を聴いてその者の力を操る程度の能力』なんだよ。東方ってゲームはここ、幻想郷が舞台になってるって説明したよな?」

 少し、面倒臭そうだが説明してくれる。口は悪いが優しい子だ。

「うん、確かフランのテーマ曲が『U.N.オーエンは彼女なのか?』だったよね?」
 一昨日、東方についてあれこれ聞かれた時にそんな事を言っていたような気がする。

「ああ。で、紫のテーマ曲は『ネクロファンタジア』。それを聞けば紫の能力が使えるようになる。まぁ、俺はあまり使いたくないがな……」
「え? どうして、聞くだけなら強そうな能力だけど?」
「その曲のキャラの服に着替えさせられる」

 ……えっと、それはつまり?

「コスプレ?」
「お前は少し、デリカシーと言う言葉を覚えた方がいいな?」
 博麗のお札を高速で(取り出した所が見えなかった)僕の首に突き付けて脅された。

「す、すみませんでした……」
 この子はすでに幻想郷に染まっているのかもしれない。

「……まぁ、今の俺じゃ人を殺すのもかなり、難しいけどな」
 どうやら、許してくれたようでお札を仕舞いながらそう言う音無さん。

「そうなの?」
「この機会に言っておく。俺はお前で、お前は俺だ。もし、戦う事になったら覚えておけ」

 僕は音無さんで、音無さんは僕?
「ねぇ? それってどう言う――」
 意味が分からず、聞き返そうとしたら不意に後ろから僕の世界に何者かが進入して来た。

「あら?」
「いきなり、人を羽交い絞めにしようとするのはここのサービスなのか?」

 振り返すと僕の両脇に腕を突っ込んでいつものように捕まえようとする咲夜さんと咲夜さんの両手首を掴んでそれを阻止している音無さんがいた。

「え?」
 さっきまで隣にいたのに……。
 床を見れば少しだけ焦げている。

「うお……時間操作って意外に体力、使うんだな。それに雷も平行で使うとしんどっ」
 咲夜さんを睨みながら音無さんが独り言をごちる。見れば音無さんの靴から煙が上がっていた。

「その言い方だと貴女も時間を操れるようだけど?」
「お前のように停止までは出来なくても3倍速ぐらいまでなら行けるぞ」
 それって僕と同じだよね? それに雷? 確かに僕も使えるけど……。

「へぇ? 咲夜を止めるなんて……それに良也と同じで運命が見えない」
 咲夜さんの後ろからレミリアが感心しながら優雅に歩いて来た。

「良也、誰なの?」
「まずは咲夜さんに指示するべきだろ」
 音無さんは少し辛そうだ。咲夜さんも全力で音無さんを押し返そうとしているし。早く、僕を捕まえる事をやめさせないと彼女が負けてしまう。

「ああ、そうね。咲夜、予定変更。その子を“捕えて”」
「はい」
「うおっ!?」

 咲夜さんはいきなり、力を抜く。不意を突かれた音無さんは勢いが余って咲夜さんの方に倒れ込んでしまった。その隙を突いて僕ではなく音無さんを羽交い絞めにする。

「離せ! このっ、力が弱すぎんだよ! 良也は!」
「ええ!? 何で、僕なの!?」

 とばっちりにもほどがある。

「んー、今日はこの子から頂きましょう。咲夜」
「かしこまりました」

 どうやら、僕以外の人間がここに来る事は珍しいので音無さんから血を吸うらしい。

「ま、待て! 駄目だ!」
 血を吸われるのに慣れていないのか(いや、慣れてる方がまずいだろう……)音無さんが大暴れする。だが、咲夜さんは巧みに音無さんの手首にナイフで傷を付け、血を採取した。

「どれ? お味はいかがかしら?」
「飲むな! レミリア! お前にとって俺の血は――」
 音無さんが大声で何かを言い終える前に血が少しだけ注がれたワイングラスを傾けるレミリア。


「――毒だ!!」


「ッ!? ごほっ!!」
 その声を聞いた瞬間、レミリアが目を見開き、床に飲んだ血を吐き出した。

「お、お嬢様!?」
「さ、咲夜! 水だ! 早く、うがいさせろ!! 少しでも体内に入れば数週間は寝込む事になるぞ!!」
 音無さんを解放し、レミリアの傍に駆け寄る咲夜さん。自由の身になった音無さんはすぐにスキホを取り出してミネラルウォーターを出現させ、咲夜さんに向けて投げてそう指示した。

「お嬢様! お水です!」
 緊急事態だと判断し、咲夜さんは疑う事無く水をレミリアに与える。レミリアもレミリアでペットボトルの蓋を開けて(少し、手間取っていた)大量の水を口に含み勢いよく廊下に吐き出す。

「はぁ……はぁ……」
 息を荒くして音無さんを睨むレミリア。でも、倒れていないので音無さんの血はだいたい外に吐き出す事が出来たらしい。

「あ、あんた……何者なの?」
 その台詞を言った途端、レミリアの霊力が膨れ上がる。僕には向けた事がないほどだ。つまり、“本気”。

「ちょ、ちょっと待ってよ! 音無さんが何をしたっていうのさ!」
 このままでは彼女が殺されかねないので震えながらもレミリアと音無さんの間に割って入った。

「お姉様? どうしたの?」
 そこに首を傾げたまま、フランドールが登場。どうやら、近くを通っていて急にレミリアの霊気が膨れ上がったのを察知し、様子を見に来たらしい。

「あれ? 良也もいる。咲夜、何があったの?」
「えっとですね……」
 フランドールは咲夜さんにまかせ、僕はレミリアが口を開くのを待つ。

「……良也。説明しなさい。そいつ、どの世界から来た?」
「そんな言い方じゃ音無さんが異世界から来たって……言ってるようなもんじゃないか」
 途中で言葉がつまってしまったのはレミリアが紅い槍を出現させたからだ。

「じゃあ、どうやって説明してくれるの?」
「はぁ? 何が?」

「そいつ……少しだけど血液に吸血鬼の血が混ざってる。しかも、その血は……」
 吸血鬼の血が混ざっていると言う時点で僕は驚愕しているのだが、まだ続きがあるらしい。

「フランの血よ。そいつ、フランの血を飲んだに違いないわ。でも、私や咲夜。いえ、きっと紅魔館に住んでる人全員、そいつの事、知らない。じゃあ、可能性として平行世界から来たとしか考えられないじゃない」

「ふ、フランドールの血を飲んだ?」
 振り返って音無さんを見ると黙って頷いた。

「俺はレミリアの言う通り、フランの血を飲んだ。だから、止めたんだよ。吸血鬼にとって同じ吸血鬼の血は毒だからな」

「そう……なら――」
「ッ!? 良也! 3倍速!」
 一瞬だけ、姿勢を低くしたレミリアだったが消えた。それを見た音無さんが僕に指示する。

「う、うん!」
 ほぼ本能的に能力を使った。その刹那、音無さんが僕の手を掴んで右に跳ぶ。

「――死になさい」
 気付けば今まで僕たちがいた所にレミリアの槍が伸びていた。動かなかったら僕たちは串刺しにされていただろう。

「あ、あれ?」
 でも、僕は違う所に違和感を覚えていた。
 3倍速じゃ躱せなかったんじゃ?

「に、逃げるぞ! もう一回、3倍速!」
「え? あ、ちょっと!!」
 音無さんの言う通り、能力を使った瞬間、彼女がレミリアの横(僕の世界にギリギリ入らない距離だ)を走り抜ける。手が繋がったままなので僕もそれに付いて行く羽目になった。

 やっぱり、いつもより速い。3倍速じゃ横を通り過ぎた瞬間に裏拳を貰ってるはずなのに。
 周りを見れば遥かに周囲のスピードが遅くなっている。その原因を知っていそうな音無さんだけど、今は逃げる事に集中しよう。


 こうして、僕たちの逃走劇が始まった。





あとがき

 はい、皆さんこんにちは。ホッシーです。第6話、無事に書き終わりました。まさかの戦闘突入です。ここからもっと読みにくくなると思いますがご了承ください。後、戦闘において良也さんの能力をたくさん使います。なので、よくわからない事になったり、普段より強くなったりしますが、その辺は大目に見てください。今回のテーマみたいな物で『良也さんが二人いたら相当、強くなる』みたいな感じなんです。まぁ、霊力の消費量などはもう、考えてないです……そこもスルーでお願いします。
 では、長くなりましたが第7話でお会いしましょう。読んでくださってありがとうございました!



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