第3話  会議

「あ、あの? 大丈夫?」
 呆けたまま、パソコンの画面を眺めていると後ろから良也の心配そうな声が聞こえた。
「見てみろよ……先生もお手上げだそうだ」
 かの有名な画面の向こう側でいつも俺たちの質問に答え続けてくれたこの方も『東方project』を知らなかった。
「でも、その東方ってなんなの?」
「幻想郷が舞台となっているゲームだよ。弾幕シューティングゲーム」
「……なるほど」
 絶対に納得はしてないだろうが、これ以上異世界の知識を言ってはいけないと踏んだのでスルー。
「サンキュな。パソコン貸してくれて……」
「あ、ああ。いいけど……本当に君は異世界から?」
「異世界って言っても多分、並行世界だろうけどな」
「それだけでも十分すごい……って、じゃあ、どうやって帰るの?」
 その問いには溜息で答える。もう一度、あの魔方陣を通るにしても俺が通り抜けた途端壊れてしまったらしい。紙の燃えカスが部屋の隅っこに鎮座しているのがその証拠だ。
「ああ! もう! どうしよう!?」
 頭をガシガシと掻き毟って叫んだ。例え、能力が使えるようになって紫の衣装になり、スキマを開いたって無駄なのだ。俺が帰りたいのは異世界なのだから。
「そ、そうだ! もう一度、魔方陣を描けば!!」
「描けるのか? 言ってたよな? 魔方陣を止めようとして線を引いたって。それを正確に引けるのか? ああ!?」
「ひぃっ!? ご、ごめんなさい!!」
 肩をビクッと震わせて良也が謝る。
「……すまん。イライラしてて」
「う、ううん。当たり前だよ。異世界に来ちゃったんだから」
「正直言ってお前のせいだけどな」
 『す、すいません……』と俯く良也。何だろう。すごく楽しい。きっと、幻想郷の奴らにも弄られてばかりいるんだと推測出来た。
「さて、遊ぶのもこれぐらいにして……どうしよ?」
「あ、遊んでたんだね。まぁ、今日はもう遅いし明日……は僕、仕事があるから明後日の土曜日に幻想郷に行こうか」
「うぇ……もし、明日の内に能力が使えるようになってたら勝手に行ってもいい?」
「駄目です。さすがに女の子一人をあの狂戦士の巣窟に行かせるわけにはいかないから」
 確かにあそこの住人は戦い好きだな、と納得し俺はしぶしぶ頷いた。

(……てな、感じだ)
『それは、また変な事に巻き込まれたわね……』
 良也の家にあった布団に潜り込んだ俺は魂の方に意識を向けた。さすがに完全には行かない。良也が俺を起こしに来たら大惨事になりかねない(目を覚まさない俺を病院に連れて行きそうだ)。
 吸血鬼の呆れたような呟きに俺も同意した。
『それにしても……異世界か。こっちのフランはどんな感じなんだろうな?』
 今度は狂気が呟く。狂気は元々、フランの中にいたのだ。気になるのだろう。
(う〜ん……狂気に取り込まれてなきゃいいけど。でも、こっちのフランは俺の事を知らないんだよな?)
『そうじゃろうな……我らは知っていて向こうは知らない。戸惑いそうじゃ』
 最後にトール。
(明後日か。長いな。それに能力が使えないのが気になる)
『ああ、その事なんだが……何か、変な力が働いてるみたいだぞ?』
「え?」
 狂気の言葉に思わず、声を漏らしてしまった。近くで寝ている良也に聞かれてはまずい。変な奴だと思われる。
『そうなの。なんて言えばいいのかしら? 私たちがいた世界にはなかった力が能力を消してる……とも、言えなくもないわ』
(どっちやねん)
『簡単に言えば、わからんのじゃ』
 結局はそうなるのね、と何度目かわからない溜息を吐く。先ほども指輪を使おうとしたが光らない。
(も、もしかして……俺の能力が変わった?)
『それが打倒ね。でも、何が原因? やっぱり、ここに来たからかしら?』
『そうとは言い切れないぞ? こっちにも幻想郷があるんだ。東方はなくとも、霊夢や紫、フランは存在しているはず。そう簡単に能力が変わるか?』
『むぅ……考えれば考えるほどわからなくなっていきおる』
 その頃には俺は眠っていた。長すぎるんだよ、全く。

「じゃあ、行って来るけど……大丈夫?」
「ああ……いってらっしゃい」
 寝惚けた声で良也を送り出す。聞けば、高校の先生らしいではないか。立派なもんだ。ガチャリ、とドアが閉まった。それを見て何となく溜息を吐く。
『どうしたの?』
「いや、何か……」
 吸血鬼に問いかけられてすぐには答えられなかった。自分でもよくわからないがやっと、いつもの空気になったような感覚。
『……世界が変わった?』
「へ?」
 急に狂気が呟いたので驚いてしまった。
『スペルを宣言してみろ。出来るかもしれない』
「んー、わかった」
 PSPを左腕に括り付け、ヘッドフォンを頭に装着。紅いボタンを押して自動的にサイズを合わせた。
「移動『ネクロファンタジア』!」
 スペルを掲げて唱えると部屋着がすぐに紫の衣装に早変わり。
「で、出来た……よし」
 扇子を取り出してスキマを展開する。繋ぐ場所はもちろん、俺の家だ。右腕を左側に引いて一気に横薙ぎに振るった。
「え?」
 しかし、スキマは展開されない。つまり、開けない。
『やっぱり、無理じゃったの……ここが異世界なのは間違いないようじゃ』
「ああ、そうだな」
 試しに博麗神社の思い浮かべながら腕を振るうとスキマが開いた。やはり、この世界にも幻想郷があるようだ。
(まぁ、良也との約束があるし……さすがに行けな――)
「ちょっと! 紫! スキマを開いたなら出て来たらどうなの!」
「うおっ!?」
 スキマを閉じようとした刹那、にゅるりと向こう側から腕が伸びて来て俺の胸ぐらを掴んだ。そのまま、引っ張られた。
(まずっ……)
 急な事で対処出来ず、俺はスキマを潜ってしまった。



あとがき

どうも、皆様。ホッシーです。3話目です。え? 前回のあとがきで幻想郷に行くって言った? い、行きましたよ? 最後だけだけど……まぁ、あれですよね。プロットなしで書いてるからどうなるかわからないんですよ……
 えっと、気付いた方もいるかもですが、良也目線の時と響目線の時の文章の書き方を変えています。決して、ミスじゃありません。理由も何となくです。まぁ、世界が違うから表示される文章も違うようにしようかな? みたいな感じで書き始めました。
 次回は……多分、良也と一緒に幻想郷に行く事になります。あ、出だしは作中で次の日。つまり、良也が指定した日になっているかと……だって、このまま書き続けたら良也さん、出せないんだもん! ダラダラと書きすぎちゃって……
 そ、それではまた4話で会えることを楽しみしています。読んでくださってありがとうございました!!



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