第2話  真実





「「……」」
 カレーもすっかり、冷めた。それでも、僕も音無さんも動けずにいる。そりゃそうだ。音無さんもあの幻想郷を知っているのだから。

「……い、一旦座ろうか?」
「お、おう」
 お互い、ぎこちない仕草で座った。しかし、すぐに沈黙が流れる。

「単刀直入に聞く。幻想郷を知っているのか?」
「……うん。そっちも?」
「知らなかったら、これを持っているわけないだろ?」
 音無さんがスペルカードをひらひらさせて言う。

「えっと……じゃあ、幻想郷に行った事があるんだよね? でも、普通スキマが記憶を消すと思うんだけど?」
「スキマ? ああ、紫の事か……でも、それはお前にも言える事でしょ?」

 お互いが自分の事を言おうとしない。僕の場合、自由に入る事が出来るのだから。もし向こうは幻想郷に戻りたいと思っていたら? 連れて行けと言うに決まっている。だから、言えずにいた。

「い、いや……」
 何と言えばいいか悩んでいると音無さんが溜息を吐いた。

「全く……どうなってんだ? 能力も使えないし良也は幻想郷を知ってるし……」
「あ、能力持ってるんだ?」

 意外だった。幻想郷に流れ着いた多くの人は霊夢の手によって外の世界に返される。しかし、たまたま能力を持っていた人は残る事もあるのだ。
「お前もか?」

「『自分だけの世界に引き篭もる程度の能力』だよ。そういう君は?」
「あー、すまん。口止めされてて言えない。それにしても……何だ? その能力名」

 苦笑いする音無さん。自分でも意味のわからない能力だと思っているのだ。
「とりあえず、自分の周りの気温を上げたり下げたり出来るかな? 他には弾とか曲げたり、周りの時間を遅くしたり、瞬間移動したり」
「す、スゲー」
「まぁ、効果が微妙だから弾幕ごっこじゃいつも、死んでばかりだよ」
「ああ、わかるかも。異変解決の時とかよく血だらけになったよ。死にそうになった事も何回もあったし」
 いや、本当に死んだんですけど……

 だが、今の音無さんの言葉に違和感を覚えた。
「え? 君も異変解決した事が?」
「ん? あ、ああ……脱皮異変とか狂気異変とか」

「は?」
 そんな異変、聞いた事もない。僕が幻想郷に行っていない時に起きたのかもしれないけど、その解決後の宴会も開かれていないし人里の人からそんな話をされた事がない。おかしい。

「……音無さんは宴会とか出てる?」
「宴会? 酒は飲まないけど料理とか作ったりしてるよ? 依頼で」
「依頼?」
「聞いた事ないかな? 万屋『響』。結構、有名になった方だけど」
「それを言うなら、僕だってお菓子売りをしているんだ。外の世界のをね」

 ……ん? 宴会? 万屋? 有名?
 普通に話していたが、今までの会話はある条件を満たしていないと成立しない。

 ――幻想郷に自由に出入り出来る。

「お、お前!?」「き、君!?」
 僕と音無さんは同時に立ち上がってお互いに指を指し、叫んだ。

「「幻想郷に行き来しているのか!?」」
 二人の悲鳴が部屋に響いた。そして、数秒間の沈黙。

「ま、待て! じゃあ、なんだ? お互いがお互いを知らずに幻想郷に行ってたのか?」
 僕よりも早く正気に戻った音無さんが叫ぶ。

「そ、そうなるね。どれくらいの頻度で?」
 戸惑いながら頷いた後、質問する。

「ほぼ毎日……1か月に1回だけ能力が使えない日があってその日以外は……仕事もあるし」
「ま、毎日!?」

 予想以上だった。僕は外の世界で仕事をしているから土日――それも、残業や部活がなかったらの話。そこまで、頻繁に通っていない。

「で、でも。仕事は人里で軽い手伝い程度だから」
 その発言でまた、矛盾が発生した。
「待って。僕、土曜日とかに人里でお菓子売ってるんだよ? まぁ、それもすぐに売り切れちゃうからすれ違う事もあるけど……」

 しかし、本当にそんな事があるのだろうか。音無さんも納得していないらしく唸った。
「後は……ああ、博麗神社には必ず寄ってる。縁側でお茶、飲んでるから」

「あー、わかる。落ち着くよね」
 思わず、同意してしまう。本当にあそこは和む。

「そうそう! 霊夢の淹れるお茶、美味いし」
 ん? 僕には淹れさせて音無さんには淹れてあげるのか、あいつ?

「……待て。お前、幻想郷に行ったらどんな感じに過ごすんだ?」
 何かに気付いたのか音無さんが質問して来る。
「え? お菓子売って……それからは色々かな? 紅魔館に行ってパチュリーに魔法、教えて貰ったり守矢神社に行って東風谷と話したり……まぁ、一番多いのは博麗神社でお茶を飲む事かな?」

 その後は普通にご飯を作って霊夢と一緒に食べ、温泉で汗を流してから寝る。何だろう。とても、霊夢と一緒の時だけ老人っぽい生活だ。

 首を傾げていると音無さんの肩が震えていた。
「ど、どうしたの?」

「何時くらいだ?」
「へ?」
「博麗神社にいる時間帯はどれくらいだ!?」

「え、えっと……長くて昼前から次の日まではいるけど……」
突然、絶叫した音無さんに驚きながらも何とか、答える。

「嘘だろ? 俺、だいたい午後3時から3時間はそこにいるぞ?」
「……土日も?」

 僕の問いかけに頷く音無さん。おかしい。その頃には僕だってお茶を飲んでいるはずだ。
「あ、もしかして最近、入って来た? それならまだ、可能性はあるんじゃない?」

「俺が初めて幻想郷に入ったの去年の夏だぞ?」
「うわー結構、前だね……うん。あり得ない」
 今は3月。半年以上経っていて会わないのはおかしい。おかし過ぎる。

「……一つだけ、可能性がある。正直言ってそれが本当だったら俺はここで咽び泣いてやる」
「ええ!? 何で泣くの!?」
 すでに涙目の音無さん。意味がわからず、僕は目を見開いてしまった。



「だって……だって、俺からしたらこの世界……異世界かもしれないんだよ?」



 世界が止まった。
「……いやいやいやいや!! あり得ないでしょ? 僕が描いた魔方陣が繋いだのは異世界? そうだったら、世紀の大発見だよ!」
 パチュリーも涙して喜ぶだろう。幻想郷と外の世界を繋ぐはずがまさかの異世界とは。

「……よし。なら、証明してやる。お前、オタクだろ?」
「ぐはっ!!」

 そう言えば、ここは僕の部屋。別に相当、変な物はないけどアリスが作ったあの人形やその他、数多くのグッズが置いてある事には変わりない。吐血する勢いで僕は床に突っ伏した。

「まぁ、そんな事はどうだっていい」
「なら、何で言ったんですか!?」

「……東方って知ってるか?」
 その問いに首を傾げる事しか出来なかった。









あとがき

 皆様、こんにちは。ホッシーです。ここまで読んでくださってどうも、ありがとうございます。
 さて、前回のあとがきは恐ろしいほど長かったので今回は短めに。
 この話で言いたかった事はあれですよ。異世界だったよー、って事だけです。まさか、ここまで引っ張るとは思いませんでした。まぁ、そりゃ異世界に来たら涙目になりますよね。帰れないかもしれないんですもん。あ、ちゃんと帰してあげるので安心してください。
 次回はやっと、幻想郷に行こうかと思います。まだ、書いていないのでわかりませんが。また、第3話で会えることを祈っています(俺が書けるかと言う意味で心配なので)。



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