「ん、――――ふぁ」 眼を開ける。枕元の携帯電話を見る。表示されている時間は、 「うわ、六時」 いつもならまだ寝ている時間。自然に目が覚めたのはここ最近の習慣ね。 京都に戻ってもこのままかな、と思い苦笑。 朝食は朝七時。だから、 「お風呂、かな」 「あら、おはようございます」 「あ、おはよ」 「おはようございます」 脱衣所に行くと、白蓮さんと一輪と水蜜。 「うん、おはよ。 お風呂、よね?」 「ええ」白蓮さんは苦笑して「せっかくの広いお風呂なので、つい、……」 「あはは、私も」 やっぱり何度も入りたくなるのよね。広いお風呂って、 「メリーさんは?」 「まだ寝てる」 「そうなのですか?」 「まあ、いつもなら私もまだ寝てるんだけどね。 こっちに遊びに来てから毎日早起き」 「いい事じゃない。早起きは三文の徳よ」 一輪が笑って言う、まあ、 「広いお風呂に朝一で入れるんだから、得よね」 「……たぶん、違う徳だと思う」 うーん、と一輪と首をかしげる私。 「なんでもいいじゃないですか。 それより、ゆっくりお風呂に浸かりましょう」 まあ、確かに何でもいいわね。水蜜に頷いて服をさっさと脱ぎ、私たちはお風呂へ。 「蓮子さんはよく朝風呂に入っていたのですか?」 「うん、ここに来て三回目。 大体誰かと一緒だったかな」 「そうなのですか?」 「うん、てゐちゃんとか、阿求ちゃんと霊夢とかと一緒に、……あー」 「どうしましたか?」 「いや、背中洗ってあげたりしたなあ、って思って」 阿求ちゃんの時は、まあ、一応それに分類してもいいと思う。綺麗にすることが目的じゃないけど、 「あらっ」ぱんっ、と白蓮さんは手を叩いて「それも楽しそうですね」 「…………あははは」 無理矢理楽しい思いをさせられた私は乾いた苦笑。 「それじゃ、姐さん。洗ってあげようか」 「あら? いいの?」 「うん」 「ふふ、ありがと。 じゃあ、お願いね」 心得た、と一輪は白蓮さんの背中を洗う。うん、 「いいなあ、仲睦まじい感じで」 「蓮子さんの時は違ったのですか?」 水蜜の問いに、私は阿求ちゃんの攻勢を思い出して、 「思いっきりくすぐられたわ。 御蔭で朝一で疲労困憊、ジョギングでもしてきたのって言われたわ」 「あら、それは大変でしたね」 だから、視線を向ける。 「ふふ、くすぐったいですよ、一輪」 「あ、ごめん。こっちは?」 「ん、大丈夫。ありがとう」 うん、 「平和ねー」 「……まあ、そうですけど、こういうことで平和を実感するってのも、珍しいような」 水蜜は困ったように苦笑していた。 さて、シャワーで泡を流して、 「一番風呂」「二番風呂ですね」 水蜜とお湯につかる。向こうでは今度は白蓮さんが一輪の体を洗ってる。 「仲いいわねー 姉妹ってわけじゃないんでしょ?」 「そうですね、姐さん。というのは一輪からの愛称です。ちょうど、」水蜜は笑みに目を細めて私を見て「貴女がメリー、と呼んでいるのと同じような、ですね」 「…………ま、まあ、メリーはあそこまで丁寧に背中流してくれるとは思わないけどね」 どもるまい、と伝えた言葉に、 「なに、私、面白い事言った?」 「いえいえ、全然。仲いいなあって思っただけですよ」 笑いながら水蜜が言う。そんなふうに取られる事言ったかな? 「何か納得いかない」 ただ、仲がいい、で思い出した二人。鈴仙とてゐちゃん。 あの二人とはまた違う感じよね。……それでも、どっちも楽しそう。と、 「どうしたの? 二人とも」 白蓮さんと一輪が洗い終わってこちらへ。どうしたの、それは、 「別になんでもないわ」「別になんでもありませんよ」 水蜜が笑って言う、まあ、間違いなく私も似たような笑みを浮かべているなあ、と思う。 「はあ?」 白蓮さんは首をかしげた。 「あうぅ、あ、朝風呂」 「痛恨のミスです。 まさか、寝顔を抑えられないばかりか、朝風呂まで逃してしまうとは」 リビングに行くと、悄然と肩を落とす早苗と文。 「どうしたの?」 問いに、神奈子さんが苦笑して、 「いや、早苗朝風呂に入りたいって言ってたんだけど、」時計を見る「もう、そんな時間はないな」 「文も?」 テレビをぱちぱち弄ってるぬえに聞いてみる、が。 「いや。朝風呂はともかく、蓮子には興味あったみたいよ」 「蓮子さんは人気者ですね」 「なんでかね」 いや、ほんと、誰か教えてほしい。 「ふぁー、眠いわ」 「あ、おはよ。メリー」 「うん、おはよー」 眠そうに眼をこするメリー、そして、 「う、――みゅ、おはようございます」 「あはははっ、みんな寝むそうだねい」 その後ろから椛ちゃんとにとり、にとりは楽しそうに笑う。 「あれ? にとり、はたては?」 「はたてならまだ寝てるよ。 寝るのも早かったし起きるのも遅い、寝る子は育つって言うからこれからまだ育つだろうね」 「早起きは三文の徳、寝る子は育つ。 結局、起きる時間なんていつでも好意的解釈ができるのね」 「おはよー」 苦笑するレミィと、やっぱり眠たそうなフランちゃん。 「レミリアさん、その解釈は少し捻くれていませんか」 「んんー」 と、さとりちゃんとこいしちゃんが顔を出して、最後に、 「…………何なのでしょうね、この大所帯」 「さ、さあ」 それだけの食事を用意しなくちゃならない咲夜さんと美鈴さんが、ひきつった笑顔を浮かべた。 早池峰山から来た神奈子さんたちやにとり五人。 『遠野ふるさと村』から来た白蓮さんたち三人。 町で会い、そのまま泊った文とぬえの二人。 そして、元からここにいた私たち八人。――計十八人。 レミィとフランちゃんの分を作って、食べ終わってから美鈴さんと咲夜さんが食事をとる。と、普段は四人前の料理、私たちが泊ってもそこは咲夜さん、余計に時間をかけることもなかったけど、 「すいません、少し調理に時間がかかりますわ」 「まあ、しょうがないわね。 いいわよ、今日は、」レミィは私を一瞥して「ゆっくりでも」 出かけるつもりはないからね。 「ありがとうございます。お嬢様。まあ、」咲夜さんは、笑って「いざとなれば、最初からいたお客様とお嬢様の分だけ作ればいいですわ」 「えーっ、私たちの分も作ってよっ」 はたてが両手をあげて抗議。「はいはい」と咲夜さんが奥へ。 「私も手伝いましょうか?」 白蓮さんが手をあげる。 「そう? ……えと、お嬢様?」 「当人がやりたいと言っているんだからいいでしょ?」 「そう、ならお願い」 「ええ、わかりました」 「早苗も、手伝ってきなさい」 「あっ、はいっ」早苗は立ち上がって白蓮さんを追いながら「私もお手伝いします」 「ええ、お願い」 「私も手伝いましょうか?」 メリーが手をあげる、が。 「いえいえ」咲夜さんは笑いながら「妹様の御相手をしてあげてくださいな」 「そうそう、メリーは私と遊んでっ」 「えー、私もっ」 早速メリーの手をとるフランちゃんとこいしちゃん、それと、 「あ、……その、」 「? 椛、どうしたの?」 はたてが首をかしげて、けらけらと文が笑う。 「椛、貴女も相手をしてほしいのでしょう?」 「へ? そうなの」 「あ、う」 おー、可愛いわねえ。……と、 「こいし、貴女はこっち」 ひょい、と。 「へ?」 「お燐、お空、こいしにたかってなさい」 「「はーいっ」」 「へ? え、ちょ、ま、やーーーっっ」 たかって、その言葉通り、さとりちゃんに引っ張られて転んだこいしちゃんにべたっ、としがみつくお燐とお空。振り払う事も出来ずこいしちゃんはされるがまま。 「ほらっ、椛っ、今がチャンスよっ」「右手、右側からえぐりこむようにっ」「行け行け椛っ、がんばれ椛っ」 声援をあげる文、にとり、はたて、そんな彼女たちに物理的に押される椛ちゃん。 フランちゃんは何かを警戒してメリーの左手を掴みそっちを睨み、レミィは笑って静観している。 「あのさ、蓮子。なんで文たちあんな楽しそうなの?」 ぬえの問いに私は大きく頷く。 「ほら、椛ちゃんマスコット系だから」 「……そんなもの?」 「はは、まあ、椛は意地っ張りなところがあるからな。 その辺、はたてやにとりがフォローしてくれているから、こっちとしては有り難いよ」 神奈子さんが笑って頷く。 「これも仲がいい、という事なのでしょうか?」 水蜜の問いに、答えたのは苦笑付きのさとりちゃん。 「お節介、とも言えるのではないかしら?」 こいしちゃんを遠ざけたさとりちゃんが言うことかしら? ちなみにこいしちゃんはお燐の肉球をぷにぷにして遊んでいる、もう片方の肉球をお空につつかれてお燐は暴れてる。 「はは、彼女たちにしてみれば椛は可愛い妹みたいなものだろう」 ふーん、 「なんか、神奈子さんも早苗相手に似たようなことやりそうね」 「む、……わ、私は早苗の成長のためにはあえて手を出さないようにするのも、必要と思ってる」 「可愛い子には旅をさせろって感じ?」 ぬえの問いに神奈子さんは「その通りだ」と頷く。けど、 「旅をする可愛い子について回りそうね。心配で」 「ある意味で過保護。……いや、子離れできないって感じか」 さとりちゃんと一輪の言葉に、神奈子さんはそっぽを向いて言う。「そんな事はない」と、とりあえずこっちを見ながら言わないと説得力ないわ。 視線を向ける、おずおずと手を出す椛ちゃんと、後ろから声援だか野次だか、いまいちよくわからないものを飛ばすはたて、文、にとりの三人。 対して、左手をとったままのフランちゃんは何か警戒中、それをレミィが囃し立てる。 肝心のメリーは、椛ちゃんが手を伸ばすのを黙って見ている。 「メリーも人気者ねえ」 「ふふ、小さい娘に好かれるのね」 「かもね」 「ああ、そうそう」 ふと、フランちゃんを囃し立てていたレミィが、 「蓮子、メリー、今日は一日遠野にいるんでしょ? っていうか、私たちに付き合ってくれるんでしょ?」 「ええ、そのつもりよ」「うん」 「なら、午前中とお昼はこっちに付き合ってもらうわよ。 バーベキュー」 いいけど、 「こっち?」 「ええ、夕方から夜は私たちに付き合ってもうらうわ。 お祭り」 さとりちゃんが笑って言う。 「どいこと?」 「あんまりたくさんいても難だからね。 午後までは私たちに付き合って、 そのあと、夕方から夜はさとりたちとお祭り、よね」 「ええ、こっちに付き合ってもらうわ」 「わかったわ」 そういうこと、と頷く。午前中バーベキューで、夕方から縁日かあ。それはまた、 「楽しい一日に、」ふと、笑う「しようね」 「ん、なるといいわね、なんて言ったら張り倒してたわ」 けらけらとレミィが笑う。それは怖いわ。ほんと、 「バーベキューって、どこでやるの?」 「猿ヶ石川、さくらロードっていう遊歩道みたいなところがあるから、そこでぱーっと」 そして、にや、と笑って、 「川が近いからね。フランドールが川に突入するとか言ってたわ。 濡れてもいい服装で来なさい」 「ないわよ」 当り前、と応じる。っていうか遠野に旅行に来て水に入るなんて思ってもみなかった。――まあ、『カッパ淵』には入ったけど、 「いいじゃないですか、素っ裸で」 そんな真顔の提案にはもちろん笑顔で「文、殴っていい?」 「御免こうむります」 真顔で言わないでほしいわ、ほんと。……ただ、まあ、 「着替えくらいは持っていきましょう。 今着ている服が濡れるのは、……覚悟かな」 「そうして、 クリーニングはこっちでしておくから」 「悪いわね」 ほんと、そういう事を気にしないで済むのは有り難いわ。 「気にしなくていいよ。 咲夜がやたら楽しそうにやってたから」 そして、首をかしげる。 「美鈴が手伝いましょうか、っていっても断ってたのよね。 洗濯好きなのかしら?」 「どーだろ?」 まあ、清潔好きっていう印象はある、けど、……まあ、いっか。 好みなんて人それぞれだし、 と、いうわけで、 「メリーっ、着替え持っていきなさいよー」 「ええ、聞こえてたわ。 大丈夫」 フランちゃんを左手に抱き、椛ちゃんを撫でるメリーが応じる。 「ふふ、たくさん水遊びしようねっ、メリー」 「いや、メインはバーベキューでしょ?」 フランちゃん、ずれてるずれてる。 「そう?」 「蓮子は食い意地が張っているからね」 「メリーメリー、私の倍はケーキをいける貴女に言われたくないわ」 「うぐっ、…………そ、思い出させないでよ」 忌まわしきはケーキバイキング、早々にダウンし、紅茶を啜っている私がげんなりする程度の量をメリーは食べた。 「大丈夫ですよ」水蜜は微笑んで「たくさん材料は用意していますから、どんなに大食いでも安心です」 「だって、よかったわね、メリー」 「私はそんなに食べないわよっ!」 「うう、にとりー、あっちはあっちで楽しそうねー」 はたてが羨ましそうに声をあげる、その相手、にとりはけらけら笑って、 「だったら面白くなるように頑張る事だね」 「縁日、よね? 夜のほうは」 「そうよ。 ただ、何やろうかなー」 「屋台出すわけじゃないからねい。 これは楽しみ方を考えないと」 首をかしげるはたてと、うーむ、と唸るにとり。そんな二人を見て神奈子さんは笑う。 「ただ屋台を見て歩くのも楽しいだろう」 その言葉に、ええ、と応じるのは、 「だから、付き合ってくださいね。 蓮子さん」 「ええ了解、お任せあれ」 「むっ、私も蓮子と遊ぶわっ」 ぬえが横から声をあげる。むぅ、とさとりちゃんが警戒。 まあ、いっか。……そうだ。 「あのさ、レミィ」 「ん?」 「この辺って浴衣売ってる場所、ある? せっかくだから着て行こうかなーって」 もし、――――まあ、あまりお金のない学生でも、無理すれば数着買えるなら。 みんなにも買ってあげたいな、とか。 「安心していいよ、もちろん織り込み済み。 咲夜がサイズも把握してたから」 「? なんで」 測ってもらった覚えはないんだけど、 「さあ?」 レミィも不思議そうに首をかしげた。 「朝食は、バーベキューがあるので少し控えめですね」 白蓮さんがエプロンを外しながら言う。とはいっても、 「さすがにこの人数だと、場所取るわね」 パンやサラダ中心の朝食。中央の大皿にはいろいろな種類のサラダが並んでいる。 みんなが席について、さて、とレミィが、 「いただきます」 その声に合わせて、いただきます、とみんなで声をあげる。――なんとなく、その妙な一体感が面白くて、 「どうしたのですか? 蓮子さん」 「ん、……いや、なに、家族みたいだなあって、みんなでそろっていただきます、とか」 「あっ、そうですねっ、それは面白いですねっ」 ぱんっ、と早苗が手を打つ、なら、と。 「長女は私ね」 「「「え?」」」 胸を張るレミィに一斉に視線が集中、…………レミィが、長女、ねえ。 「ちょ、な、なによっ、文句あるってのっ?」 「お姉様っ」 咲夜さんは張り切ってた。レミィは震えあがった。 「う、うわー、咲夜にそういう言われるの、なんだわあ」 ふむ、と声。 「レミリアお姉ちゃんっ」 神奈子さんが言ったあたりで、レミィは座りこんだ。ゆっくりとした動作で頭を抱えてうずくまる。 「ごめん、ごめんなさい、ほんと、ごめんなさい」 「……なあ、早苗。 そこまで悪い事をしたか、私?」 「あ、あはははっ」 笑うしかないわね。ほんと、 「一番のお姉さんっていえば、白蓮だよね」 フランちゃんの声に、「私ですか?」と首をかしげる白蓮さん。けど、うん。 「それなら納得」 神奈子さんか白蓮さんか、になるんだろうけど、姉、という意味だと白蓮さんっぽい。ちなみに、言うまでもなくレミィはありえない。 いくつかの同意、けれど否定はない、そして、白蓮さんもまんざらじゃなさそうに微笑んで、 「ふふ、それも楽しいかもしれませんね」 なら、と。 「メリーさんはどのへんでしょうか?」 「うーん、真ん中、位?」 「私より上っ! ね、メリーお姉ちゃんっ」 「私よりも上がいいですね。メリーお姉ちゃん」 さとりちゃんとこいしちゃんにメリーは微笑んで頷く。うん、 「メリーお姉ちゃん」 「なぁに? 蓮子ちゃん」 とりあえず言ってみた言葉に満面の笑顔、ちゃんづけ、――うん。 「…………ごめんなさい」 「あははっ、まあ、蓮子さんとメリーさんって同じ年ですよね。 もう、双子でいいんじゃないですか?」 「そういうもの? ……って、それ言ったら文だって大差ないんじゃない?」 「文、とはたて、とぬえ、早苗かしらね? 同年代位って」 「んー、私ははたてがちょっと年下って感じするんだけど」 はたてが睨む視線をにとりは適当に受け流して、 「そっちの、水蜜と一輪じゃない、そのくらいはさ」 「かもしれませんね」 水蜜が頷く、その横で一輪が、 「じゃあさ、さっき言ってた、にとり、とはたてが私たちの一つ下くらい?」 「おおっ、それは面白そうなポジションだねっ」 にとりが喝采、そう、とはたてが首をかしげる。 「面白そうなのがそろってるじゃない。 なんか暴走しそうな蓮子と文とぬえ。 それを止めようとして止められないでいる早苗と、暴走に歯止めをかける水蜜と一輪。 傍観して笑ってそうなメリー」 「なるほどっ」 「なに納得しているんですか、はたて」 ぽんっ、と手を打つはたてを睨む文。 「私も暴走しそうな一人?」 ぬえが首をかしげる傍ら、 「私って、無力なのですね」 早苗が項垂れた。おずおずと水蜜が手をあげて、 「あの、私、蓮子さんは止められる自信、ないです」 「なんで私限定っ?」 「あははっ、うんっ、蓮子の暴走を止めるのは難しそうね」 ぬえが楽しそうにけらけら笑う。文も笑って、 「絶対周り中巻き込みまくりますからね」 「どんだけ私は暴走してるのよ?」 「いいじゃない、それでみんなが楽しければ」 ぬえの言葉に、何か納得いかないものを感じながら、まあ、 「そうだけどさ」 「ふふ、私も止めようとするかどうか」 水蜜が苦笑する傍ら、ぽつりと、 「なんか、私だけ一人ひどい子になってない?」 メリーはしょげて発案のにとりはけらけら笑う。うん、 「傍観者」「暴走者」 「なんですか? 暴走者って」 「文、私達も暴走するの?」 「いえいえ、そんな事はありません。 この清く正しい私がなぜ暴走など」 「胡散臭いわね」 「というか、清く正しいって、貴女は誰ですか?」 「全否定ですかっ?」 椛ちゃんの半眼に文が叫ぶ。 ふと、早苗が神奈子さんを見て、 「神奈子お姉様」 「な、……な、なん、だ、い、早苗」 物凄くぎこちない微笑で神奈子さんは頷いた。 「やっぱ慣れかしらねえ」 「そう? 私は別にお姉ちゃんってつけて呼ばれても気にならないわよ?」 なら、と早苗が、 「メリー、お姉ちゃん」 「なぁに? 早苗ちゃんっ」 おお、と早苗は、 「す、凄いですっ、全然違和感ないですっ」 「ふふ、さすがメリーさんですね」 白蓮さんが楽しそうに笑う、メリーはいえいえ、と。なにに対してだかわからない謙遜をする。 「にとりとはたての下にさとりちゃんと」神奈子さんにお姉ちゃん、と言われた精神的ショックから抜け出せないでいる彼女「レミィよね」 「私の方が姉よ」 あ、レミィが復活した。そんなレミィを見てさとりちゃんは嬉しそうに微笑んで、 「ふふ、手がかかりそうな姉ですね」 「うるさいわね」 「まー、お姉様性格が微妙だしねえ」 「あんたに言われたくないわよ。 ん、って、そうなると」レミィは視線を向ける「咲夜は?」 「蓮子さんたちよりちょっと上じゃないですか? 美鈴も」 「そうですねー」 あー、なるほど、 「年の近い姉って感じ?」 「あはは、どんなことでも相談に乗りますよ」 「確かに、咲夜さんと美鈴さんならたいていは何とかしてくれそうね」 メリーの言葉に、二人は少し、言葉に詰まって、微笑。 「あはは、ありがとうございます」「そう言っていただけて光栄ですわ」 「じゃあさ、逆に一番下は誰になるの?」 ぬえが手をあげて問いかける、もちろん候補は、 「フランちゃん、こいしちゃん」 前に似たような事を話した時はてゐちゃんがいたけど、今は、 「それと、椛ちゃん?」 「わ、私ですかっ! 私はもっと上ですっ」 「いいじゃない、可愛いわよー、椛ちゃーん」 にやー、と笑うはたてに震えあがる椛ちゃん。 「うわあ、はたて、気持ち悪」 「な、なんでにとりに言われなくちゃいけないのよっ!」 「確かに、今のはないですねえ」 「はたて、言っていいことと悪い事があるわ」 文とぬえの援護射撃にはたてが唇を尖らせる。うむ、と神奈子さんが、 「あまり変な事を言ってはだめだよ」 「お客様、これはホテルご自慢の鏡です。 どうぞ」 渡された手鏡、その意味に神奈子さんは首をかしげて、 「どういう意味?」 「お嬢様への暴言もそれと似たようなものですわ」 「なんであれで暴言になるんだっ!」 「まあ、確かに、あれはないですよねえ」 我関せず、とパンを食べてたさとりちゃんがしんみりという。うん、同感。 「それでさ、一番下が私かフランじゃあ、どっちが年下?」 「フランドールとこいし、か」 「なかなか難しいですね」 レミィと咲夜さんが首をかしげる。うーん? 「こいし、貴女が一番年下よ」 「へ? そうなの?」 さとりちゃんの断言にこいしちゃんは首をかしげる。 「そう?」 「そうかもしれないわね。こいしちゃんの方が無邪気っぽいし」 そっかー、とこいしちゃんは嬉しそうに、 「フランお姉ちゃんっ」 「あ、え、えーと」フランちゃんはいきなりな呼ばれ方に、少し頬を赤くして「な、なんか、いきなり言われると照れるわね」 「誰かは寒気がする、とか何とか言ってたわね」 「……な、なによ? 私が悪いの?」 無邪気にお互いの名前を呼ぶフランちゃんとこいしちゃんの傍ら、なぜか私は劣勢に立たされて後退する。 「えへへー、フランお姉ちゃんっ」 「も、もーっ、こいしもくっついてこないでよっ」 立ち上がり、フランちゃんに後ろから抱きつくこいしちゃん。満面の笑顔と照れた微笑。そんな二人を見て、レミィとさとりちゃんはお互いを見て、 「レミィお姉ちゃんっ」 「…………うわあ」 「な、なんですかっ! うわあってっ!」 どん引きするレミィに思わず立ち上がるさとりちゃん。――うわ、さとりちゃんも顔が赤い。 「そうなると、お父さんとお母さんは?」 「お父さんはいないでしょ」 首をかしげるフランちゃんにレミィが呆れて応じる。男性いないし、 「むー、じゃあ、お母さん」 「白蓮さん?」 「あら、私は長女と兼任ですか?」 「それこそ、神奈子さんじゃないですか」 首をかしげる白蓮さんの横、水蜜が笑って言う。 「私か?」 ええ、と頷きながら、ふと、小さく笑い口をつぐむ。――――あー、 「肝っ玉お母さん」 誰かが噴き出した。 「な、れ、蓮子っ、それはどういう意味だっ?」 くわっ、とこっちを見る神奈子さん。どういう意味、それは全く深くなく、ただ単に、 「あ、いや、うん、思いついた言葉」 「あははっ、それは楽しそうねっ 朝起きられないはたてとか、鍋をお玉で叩いて叩き起しそうっ」 けらけら笑うぬえに、はたてが苦笑して、 「…………ネタが古い気がするけど、すっごく想像できたわ」 「お鍋を持ちつつ、その実料理をするのは白蓮さんですねっ」 「あらあら、ふふ。 ネボスケさんたちに美味しいものを食べてもらわないといけませんね」 「一輪とか美鈴さんは朝も普通に手伝いしてそうよね」 「……そうかな?」 「ええ、一輪にはいつも助かっています」 「あ、ありがと、姐さん」 と、なんとなく咲夜さんを見る。――――ため息。 「まあ、確かにそうかもしれないわね。 美鈴にはいろいろ手伝ってもらってるし、一応、……感謝しているわ」 「わ、あ、ありがとうございますっ」 ぱっ、と笑顔の美鈴さん、咲夜さんは照れくさそうに苦笑した。 「ねー、それより早く朝ご飯食べて行きましょうよ」 こいしちゃんがフォークを振りあげる。――あ、そういえば。 誰ともなく苦笑。 「話してばっかりで全然食べてなかったわね」 たぶんここにいる全員の、その苦笑の理由をメリーがぽつりとつぶやいた。 |
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