早めの夕食を終えて、私達は『Scarlet』に戻る。
 さて、
「それじゃあ、お風呂に入ったらおやつね」
 どーいうスケジュールなのかよくわからないんだけど、ともかくそういう事に、
 で、私はお風呂、――考えてみれば今日二回目ね。
 しょうがないとはいえ、一日二回かあ。珍しい事もあるものね。
「お風呂ー、お風呂ー」
 楽しそうに笑うこいしちゃんと、フランちゃん。
「こいし、あまりはしゃぐと転ぶわよ」
 それに続いて苦笑するさとりちゃんと、レミィ。
「そうだ。
 蓮子、メリー、お菓子食べる時だけど、霊夢と魔理沙も来るみたいよ」
「そう、足りるかしら?」
「夕食食べた後だから大丈夫でしょ」レミィはにや、と笑って「まあ、さとりがそこまで大食いじゃなければ」
「そんなに大食いじゃないわよ、失礼ね」
 むぅ、とさとりちゃんは頬を膨らませる。
 さて、さっさと洗って、……あ、そうだ。
 すとん、と隣に腰を下ろしたさとりちゃん。
 つつつ、とその後ろによって、
「お背中流しましょうかー」
 むにゅ、とその薄い背中に泡を押し付ける。
「ひゃぁああっ?」
 びくっ、と震えて悲鳴をあげるさとりちゃん。
「ん? なかなかサービスいいわね。
 私お願いしてもいい」
「おっけー」
 レミィの背中をシャワーで流す。――――「うーむ?」
「なに? 私の背中に何かついてる?」
「いや、朝てゐちゃんの背中流した時も思ったんだけど、
 綺麗だなーって」
「背中に何感心してるのよ。貴女」
 あきれられた。まあ、ともかくわしゃわしゃと背中を洗う。
「ん、――人に洗ってもらうのも楽ね」
「今度咲夜さんにお願いしてみれば」
「そうする」
 小さな背中はあっという間に洗い終わる。だから、
「頭はどうする?」
「んー、ついでだからお願いしようかな」
「了解、痒いところありますかー?」
「ないわよ」
 ちぇ、
 レミィの髪はてゐちゃんと同じくらいには短い。丁寧に、梳くようにその髪を洗う。
「んー、これは楽ね」
「喜んでいただければ恐悦至極、と。
 流すわよー」
「ん」
 なんとでも取れる一音。肯定ととらえてシャワーを頭からかける。
 鏡を見る、――「大丈夫よ、そんな力一杯目を閉じなくても」
「つい、ね」
 そんなものかな。
 ともかく、シャワーで髪についている泡を流す、一通り梳いてあげて、残りがないように、
「さて、こんなものかな」
「ん、ありがと」
 どういたしまして、と戻ろうとしたところで、
「………………………………ど、どうしたの? さとりちゃん」
 なにか、恨みがましい目で寒そうにしているさとりちゃん。
「……………………」
「あ、うん、わかった。
 洗ってあげるから、怒らないで、ね?」
 そして、さとりちゃんの背中と頭を洗ってあげて、メリーも見れば似たような事をやっていて、さて、と。私達はお風呂に入る。
「はー、いい湯」
 湯船につかってくたーっ、と。
「疲れ取れるわね」
「メリー、眠いー」
「ここで寝ちゃだめよ。
 溺れるわ」
「むー」
 こいしちゃんは頭をふらふらさせている。眠そう。
「まあ、気持ちはわかるけどね」
 レミィはざぱっ、とこっちを見る。
「こいし、寝たらだめよ。
 お風呂からあがったらおやつなのだから」
「うーん、おやつは食べるー」
 くあー、と欠伸を一つ。
「お姉様、どこで食べるの?
 メリーと蓮子の部屋?」
「かなあ。……いや、霊夢や魔理沙がなに連れてくるかもわからないし、ちょっと狭いかも」
「広い部屋のほうがよさそうね。
 レミリアさん、どこがありますか?」
「うーん、咲夜の方が詳しいからなあ。部屋については。
 まあ、じゃあ適当に見繕っておくよ」
「ええ、お願い」さとりちゃんは小さく微笑んで「楽しみね」
 ふと、……そういえば、
「ねえ、レミィ、さとりちゃん、フランちゃんとこいしちゃんも、
 霊夢の事、好き?」
「ん、好きだよ」「ええ、私も好きよ」「好きっ」「霊夢? うん、好きよ」
 四人が四人、それぞれの表情で頷き肯定する。
 ほんと、彼女好かれてるのね。
 羨ましい、と思う。
「妬くなよ?」
 にやん、とそんな表情でレミィが笑う。
「ふふ、そうね。
 好きよ。霊夢さんの事。まあ、くっついたら鬱陶しいって言われるでしょうけどね」
「妬きはしないけどね」
「なるほど、あの御店があれで繁盛している理由が分かるわ」
 お客さんを働かせる店。いろいろだめな気もするけど、それでもやっていけているのは一重に、彼女の人柄か。――――な?
「まあ、料理も美味いし、霊夢のほかの店員もなかなか面白いってのもあるけどね」
 レミィが楽しそうに笑って言う。あそこで食事をとる事、――じゃなくて、あそこで騒ぐ事が楽しいんだろうな。……まあ、私も楽しいし。
「いいなあ、大学の近くにもああいう楽しい食事処があればいいのに」
 だから、羨ましい。
「そういえば、蓮子ってどんなもの食べてるの」
 フランちゃんの問いに、なんといったものか、と少し考えて、
「合成食品」
「……なにそれ?」
 うーん、なんて言えばいいんだろ?
 案の定不思議そうに問いかけるフランちゃん、こいしちゃんやさとりちゃん、レミィも首をかしげている。
「百パーセント人工の食べ物よ。
 自然素材は一切使っていないわ」
 ……メリー、それ、あってるけど、
「なんか、不思議なものを食べているのね」
「ううん、想像できないわ」
 さとりちゃんとレミィが首をかしげる。
 まあ、こういっちゃあなんだけど、田畑に囲まれたこの町で暮らす人には想像できない、か。
「まあ、一応普通の食べ物よ」
「百パーセント人工で普通っていうのも、あんまり食べてみたくはない、わね」
 レミィがいやそうな表情。まあ、確かにね。
「メニューとしては普通よ。
 ご飯と焼き魚とお味噌汁とか、サンドウィッチにサラダとか、…………えと、内容だけなら、ここと変わらないわね」
 機械仕掛けの人工素材合成食品と、人手で収穫して霊夢たちが作ってくれた料理を同列に扱うのも失礼だけど、
 と、さとりちゃんがくすっ、と笑う。
「なによ?」
「蓮子さんは優しいですね」
「なにが?」
 半目を向ける先、さとりちゃんは楽しそうに笑って、
「なんでもありません」
「そ、なんでもないよ。
 蓮子は優しいってだけ、ねえ、フランドール」
「? お姉様、よくわからないわ。
 こいし、わかる?」
「んー、蓮子が優しいって事でいいんじゃない?」
「そっか」フランちゃんは不思議そうな表情から一転、にぱっ、と笑って「蓮子は優しいんだねっ、ねっ、メリー」
「あ、こらっ、そっちに振っちゃだめっ」
「私にはあんまり優しくないわよね。蓮子」
「だって、メリーに優しくする必要ないじゃない」
 やれやれ、と肩をすくめるとメリーは唇を尖らせ、こいしちゃんが無邪気に笑う。笑って、
「メリーは蓮子が大好きだから、蓮子が優しくしなくても好きなままなんだよねっ」
 …………わかりにくい事を言われた。けど、
「こ、こいしちゃんっ」
 顔を赤くして抗議の声をあげるメリー、私はとりあえず湯船に沈んだ。
 上、――間違いなくにやーっ、と笑っているであろうさとりちゃんやレミィと目を合わせないために、一時逃避。

 お風呂からあがって浴衣を着て、
「こっちですよー」
 寝間着姿の美鈴さんが扉を叩く。
「この部屋?」
「はい、もう皆さんお待ちです」
「つくづく、大規模になるわねえ」
「あははっ、楽しい事が大好きな人ですからね」
「美鈴さんも?」
「それはもちろん、言うまでもなくっ」
 ぐぐっ、と拳を握る。
「っと、急がないと、叱られちゃいますね」
 真剣な――まあ、それもわざと、なんだろうけど――表情から一変して笑って、私達が泊っている部屋の扉よりさらに一回り大きい扉を開けた。
「…………え、なに、この頭の悪い部屋?」
「失礼な」
 寝転がるレミィが唇を尖らせる。
「おーいっ、これは結構いいぞ、ごろごろ出来て快適だぜ」
 そういって、魔理沙は事実ごろごろ転がりまわり、
「魔理沙、迷惑よ」
 壁に背を預けたアリスは苦笑してたしなめる。
「ま、なんでもいいわよ。
 それより早く食べましょうよ」
 寝転がる霊夢の視線はお菓子に釘づけ、さっさと食わせろとその視線が語る。
 で、お菓子はベッドの上、ボードに載せられたお皿に綺麗に盛り付けてある。
 そして、別のボードには零れないようにの配慮か、蓋をされストローがささったジュース。
 それもどれもこれも全部ベッドの上、私達が借りている部屋より一回り大きい部屋は入り口を除いて全てベッド。寝転がり放題ね。
「確かにこれならかなり入れるわね。
 霊夢の所の店員さんは来なかったの?」
「眠いとか言って寝ちゃったわ」
「なので、代りに私が来ました」
 にこっ、と笑う、阿求ちゃん。
 一緒にお風呂に入った四人に、霊夢、魔理沙、アリス、阿求ちゃん、咲夜さん、美鈴さん、と思い思いに寝転がる。当然、狭さは感じない。
「パチェは来なかったんだ」
 阿求ちゃんに聞いてみると彼女は寝転がったまま器用に肩をすくめて、
「家で本を読んでいるほうがましとか、
 もったいないですよねえ。楽しいのに、パジャマでごろごろするのも」
「おっ、阿求は話が分かるな」
 魔理沙とぱちんっ、と手を打ち合わせる。――うん、
「かんっぺきにパジャマパーティーね」
「なにそれ?」
「まあ、この状況そのままね」
「ふーん? お姉ちゃん、知ってた?」
「ううん、知らなかったわ」
 あれ?
「さとりちゃん、お雛様は?」
 一緒の部屋にいるはずなんだけど、
「お雛様なら、縁日に行くとか言ってたわ」
「縁日っ?」
「縁日なんてどこかでやってたのかしら?」
 霊夢が首をかしげる。――それにしても、縁日、か。
「咲夜、美鈴、そこの酔狂なのを取り押さえなさい。
 縁日に行くとか言って飛び出しかねないわ」
「はい、お嬢様」「合点承知ですっ」
 うぐっ、
 じとーっと、全方向から胡乱な視線がつきささる。そして、否定できない私。
 まあ、いい、か。
「行かないわよっ」
 言葉と、その証明として私は飛び込むようにベッドに倒れこむ。ぼふっ、と柔らかいベッドは私の体を受け止める。
 うわー、寝心地いい。
「蓮子、よく我慢できたわね」
「頭撫でないでよっ」
 えらいえらい、と私の頭をなでるメリーの手を払う。メリーは払われた手をひらひらして苦笑。
「メリーっ、代りに私の頭を撫でてっ」
「ええ、わかったわ」
 もぞもぞと寄ってきたフランちゃんの頭をなでるメリー、そして、
「霊夢さん、私の頭を撫でてくれますか?」と、さとりちゃんに「殴っていい?」
「じゃあ、霊夢、私の頭を撫でて」と、レミィに「張り倒すわよ」
「私も撫でてもらおうかしら?」と、アリスに「冗談じゃないわ」
「よしっ、霊夢っ、私を撫でろっ」
 最後、突撃した魔理沙を殴り落とす霊夢。
「では、お嬢様。
 僭越ながらこの咲夜、思う存分撫でさせていただきます」
「…………誰が思う存分なのよ?」
 気合いを入れて提案する咲夜さんにレミィが半眼の問いかけ。
「え? 私がですが」
「いらないわ」
「そ、そんな」
「さ、咲夜さん、そんな項垂れないでください。
 代わりに私が咲夜さんを撫でてあげますから」
「張り倒してあげましょうか?」
「ひいっ」
「皆さん撫でられるのが好きなのでしょうか?」
 阿求ちゃんが楽しそうに笑って問う――うーん。
「そうね、たまには甘えたくなるものよ」
 レミィは微笑して言う。なら、と。
「さあ、お嬢様。思う存分甘えてください」
「あ、……いや、咲夜にはいい」
 さあっ! と、両手を広げる咲夜さんにレミィは告げる。咲夜さんはゆっくりと横になった。
「主人として従者には甘えたくないですか?
 面倒な性格ですね。レミリアさん」
「うっさいな」
「霊夢も撫でてあげなさいよ。
 減るものじゃない」
「なによ、あんたも撫でてほしいの?」
「いやよ、絶対。
 霊夢は私を撫でたいの?」
「いやよ、絶対」
「あ、じゃあこういうのはどうでしょう?」
 ぽんっ、と阿求ちゃんが、
「霊夢さんが魔理沙さんとアリスさんを撫でて、
 蓮子さんがさとりさんと霊夢さんを撫でて、
 咲夜さんがレミリアさんを撫でて、
 美鈴さんが咲夜さんを撫でるっ!」
「……完璧ですっ、とかそんな事考えているんだと思うけど、
 なによ、そのパズルみたいな状況」
「私はお嬢様を撫でられるなら、美鈴に撫でられるも我慢するわ」
「……我慢、なんですね」
 決意を新たにする咲夜さんに美鈴さんがへこむ。
「あ、と、そうだ。
 メリーさんが蓮子さんとフランドールさんを撫でて、さとりさんがこいしさんを撫でる?」
「いや、完全に意味不明だし、多分物凄くアクロバットなことになるでしょうね」
「はいっ」阿求ちゃんは満面の笑顔で「その体勢を想像するだけで、なんか噴き出しそうです」
「性格悪いわね、単純に」
 アリスが半目で睨み、阿求ちゃんが笑って、
「たまにいわれます」
 と、
「さとり様ー」「うにゅ? 開かない」
 扉が小さく叩かれた、追加の声。それはもちろん、
「お燐、お空も、遊びに来たの?」
 扉を開ける、猫と烏が我先にとさとりちゃんに飛びついた。
 さとりちゃんは二人を抱きとめて撫でる。
「さて、それじゃあみんな来た事だし、パジャマパーティーだっけ? そんなの始めましょうか」
 レミィがにや、と笑う。阿求ちゃんが座り、近くのボードからジュースをとって、
「蓮子さん、パーティー、というからには乾杯とか必要ですか?」
「いや、ごめん、私も知らない。
 やったことないし」
「やるものじゃない」アリスも座って近くに置いてあったジュースを掲げ「このままぐだぐだするよりは一応の開始って事で、やっておきましょ」
「よしっ、じゃあ、第一回パジャマパーティーの開催だぜっ」
「第何回までやるつもりよ」
 意気揚々と立ち上がる魔理沙に、霊夢がため息交じりに言う。ため息、と笑みを混ぜてジュースを持つ。
 咲夜さんもジュースをとって、……なぜか私に押しつけながら、
「では、とりあえず主催の蓮子さん、乾杯の音頭を」
「へっ? 私が主催なのっ? なんでっ?」
 いきなり言われても困るわよ。第一、
「会場のオーナーの「景気よく頼むわよ、主催」」
 私の言葉を先取りレミィ、――はあ、
「ああもうっ、わかったわよっ
 じゃあ、みんなグラスをとってっ!」
「あたい無理」「私も無理」
「…………あ、うん、そうね。ごめんね」
 自棄交じりにあげた声は即座にトーンダウン。そんな私に肩を震わせる相棒を睨んで、
「笑うなメリーっ」
「ぷっ、あ、あはははははははははっ」
「なんで笑うなって言ったら笑いだすのよっ」
「いやいや、お姉さん面白いねえ」
 にゃーっ、とお燐は笑う。
「うにゅ、さとり様。
 もしかして私、悪い事した?」
「いいえ、してないわ。
 そうね、グラスとれないものね。しょうがないわね、悪いのは蓮子さんね」
「……さとりちゃんも性格悪いわよね?」
「お姉ちゃん捻くれてるからねー」
 からから笑うこいしちゃんに失礼ね、とこっちも笑ってさとりちゃん。
「ほらほら、始まらないわよ。
 お燐とお空は諦めてさとりにくっついてなさい」
「「はーい」」
 手を鳴らしてアリスが言う。笑いながら、――もう、
「かんぱーいっ」
「「「かんぱーいっ」」」
 唐突な言葉に応じてくれるんだから、……まあ、有り難いわよね。

 飲み物はこぼさないように気をつけて、ボードにおいてクッキーに手を伸ばす。
 さくっ、と。
「結構美味しいわね。
 これ、どうしたの? 咲夜が作ったの?」
 霊夢が感心して呟く。咲夜さんもクッキーを一口、む、と小さく呟いて、
「いえ、蓮子さんが買って来たのよ。
 で、どこから買って来たの?」
「『遠野ふるさと村』」さくっ、と一口、うむ「美味しいわね、白蓮さんの手作りかしら?」
「これも美味しいわよ。
 『遠野ふるさと村』って近くの観光地よね。お姉様、今度遊びにって買い占めよ」
 さすが妹様。――が、レミィは肩をすくめて、
「遊びに行くのはともかく、お菓子は不要よ。
 ねえ、咲夜?」
「ええもちろん、絶対に負けません」
 むんっ、と気合いを入れる咲夜さん。でも、と。
「甲乙つけがたいですね」
 美鈴さんがクッキーを食べて呟く、むむ、と咲夜さんが、何か燃えた。
「お土産物って手作りなのかしらね?」
「うーん? 京都じゃ違う、と思うけど。……いや、どうだろ。手作りを売りにしてたお土産物屋もあったわね」
 どこだったか覚えてないけど、
「手作りかもしれませんよ。
 あんまりお客さんもいないでしょうし」
 お燐を撫でながらさとりちゃん、うにゅ? とクッキーを啄んでたお空が首をかしげて、
「そうなの? さとり様」
「ええ、だって地元の人はあんまり行かないでしょ。観光地」
「それもそうね。わざわざ行こうとは思わないわ」
 問いにアリスが同意、そうよね、とさとりちゃんが頷いて、
「それに、外から来るような酔狂な人は少ないだろうし。ねえ。蓮子さん、メリーさん」
「そっちの酔狂な連中に同意求めてどうするのよ?」
「面白いんじゃない?」
 呆れた声の霊夢に不思議そうにこいしちゃんが続く、うん、
「酔狂なのは任せなさいっ」
「胸張らないでよ」
 アリスが苦笑し、でも、と魔理沙が、
「私は酔狂なのは好きだぜ。
 面白いからなっ」
「魔理沙らしいねっ」
 嬉しそうに笑うフランちゃん。確かに、
「魔理沙って、そもそも口調が酔狂よね」
「同感、さすが野良」
「こんな田舎に暮らしてて野良も都会派もないだろ。
 悔しかったら都会行け都会」
「蓮子とメリーは都会から来たのよね?」
 こいしちゃんの問いに、ええ、と頷くメリー。
「そうなのか?」
「ええ、京都から」
「なにいっ!」
 叫ばれても困るんだけど、ともかくその魔理沙が、
「京都だとっ! 阿倍晴明の符とかあるかっ! 私のコレクションに加えたいぜっ!」
「当り前のようにないわよ。
 っていうか、みんな京都の認識がおかしすぎるわよっ!」
「そうなのですか?
 橋を渡ると橋姫が川に引きずり込むところですよね?」
「いないからっ!」
「あ、でも私は京人形はほしいわね。
 コレクションに」
「アリスのコレクションは変だなあ。人形ばっか」
「ガラクタをコレクションといい張る魔理沙に言われたくないわ」
「ひどいぜ」
 ふてくされる魔理沙、けど、と阿求ちゃんが、
「蓮子さん。魔理沙さんの口調を酔狂とか、そんなことないですよ。
 うふふふふ、とか、きゃはっ、とか女の子らしいところもあるんですから」
「へ、え?」
「……あ、可愛いかも」
 首をかしげる私と、頷くメリー、対して、
「阿求っ、余計な事を言うなっ!」
 魔理沙は顔を真っ赤にして叫ぶ、阿求ちゃんはくすくす笑ってクッキーを一口。
「私見たーいっ」
「私も見たい」
「私も見たいわね」
「ええ、私も」
「あたいは想像もできないよ。どんなのかな?」
「うにゅ、……ぷっ」
「私も、お願いします。魔理沙」
「可愛いんでしょうねえ。――ふふ」
「そうね、魔理沙、またお願い」
「久しぶりに見せて、魔理沙」
「私の記憶更新のためにも、お願いします。魔理沙さん」
「とりあえず、そこの笑ってる烏と美鈴は後で殴ってやる。
 言うまでもないが断固拒否だぜ」
 うん、
「可愛いと思うわよ、魔理沙ちゃん」
「ええ、私も見てみたいわ。魔理沙ちゃん」
「知るかっ! 可愛かろうと見てみたかろうと断固拒否だぜ。
 それと、」
 魔理沙は、嫌そうに私を見て、
「なんか、蓮子に魔理沙ちゃんとか言われると怖気がする」
「なんでよ? なんで私限定なのよ」
 心外な、という。と、
「魔理沙ちゃん」
「うおっ、霊夢も言うなっ! ちゃんをつけるなっ!
 怖気がするぜ」
「魔理沙ちゃん。……怖気、しましたか?」
 咲夜さんの問いに、魔理沙はいや、と。
「霊夢と蓮子ほどじゃないぜ。
 もちろん、断固拒否だがな」
「「なんでよ」」
 ふと、
「霊夢ちゃん」「蓮子ちゃん」
 ぞわ、と、した。
「うわ、霊夢に蓮子ちゃんって言われるとほんと怖気がするわ」
「同感ね、気色悪いわ」
「なんか、変な意気投合してません?」
 美鈴さんの言葉に、頷くのは阿求ちゃん。
「たぶん、二人は赤い糸で結ばれているのですね」
「「気色悪いわっ!」」
「……咲夜、なにこの二人?」
「仲いいねっ」
 変なものを見るように私と霊夢を見るレミィ、その横でこいしちゃんが笑って言う。
「仲、いいとは思わないんだけど」「別に仲良くなった覚えはないわよ」
「蓮子、霊夢も、なんでいちいち言う事が重なるの?」
「はははっ、同類だぜ」
「「いやよっ!」」
「ほらほら、落ち着きなさい。
 それにしても、ほんと、変な二人」
 一緒にしないでよ、と、内心でぼやく。と、メリーが一つ頷いて、
「きっと一緒にするなって思ったわね」
「「なんでわかったの?」」
「……お姉ちゃん、なんか不思議なことになってない?」
「そうね。
 とりあえず、霊夢さん、私を撫でてくれませんか?」
「いやよ。どさくさまぎれになに言い出すのよ?
 あんたは猫の毛繕いでもしてなさい」
「あたいは霊夢にしてもらってもいいよー」
「却下」
「ちぇっ」
「あ、じゃあ私を撫でてください」
「なんでそんなに撫でられることにこだわるのよっ!」
「さとり様は甘えたい盛りだから?」
「お空、余計な事は言わないの」
 ペットにそんな事を言われるのが照れくさいのか、さとりちゃんは少し顔を赤くして、唇を尖らせて抗議。
 否定しないんだけどね。
「よしっ、なら私が撫でてやるぜ」
「いや、いいわ。遠慮します」
 ふるふると首を横に振るさとりちゃんに、魔理沙が半目を向けて、
「……なんなんだ、この差別」
「霊夢の人徳で納得しなさい」
 アリスが不貞腐れる魔理沙に笑って言う。
「人徳ねえ。私そんなもの持ってたんだ」
「霊夢お姉ちゃん、撫でて?」
「うわっ、レミリアやめてっ、それっ」
 いやそうな表情に、レミィはわざとらしく目に手を当てて泣き真似をし、
「蓮子お姉ちゃん、霊夢お姉ちゃんがいじめるー」
「やめて、ほんと、お姉ちゃんはやめて」
 ぶんぶか首を横に振る。レミィはにやーっ、と笑う。
「メリーお姉ちゃんとか、メリーは平気なの?」
「私は気にしないけど、蓮子って変なところで過剰反応するわね」
「そうかなあ」
「それと、撫でられるのは好きなのよ。女の子なら、ね?」
「そんなもの?」
 首をかしげるアリスに、魔理沙が、
「よしっ、ならば私が撫でてやろう。
 光栄に思え」
「光栄には思わないけどね。
 ま、好きにしていいわよ」
 よし、と魔理沙がアリスの髪を掻きまわす。
「ちょっと、ぐしゃぐしゃにしないでよっ」
「これが私流の撫で方だぜ」
「魔理沙っ、私もっ」
 両手をあげるフランちゃんに、魔理沙は笑顔で、
「よしっ、ヘアースタイルなぞ気にするなっ」
「気にせんっ!」
 なんか気合いが入っている二人。
「気にしなさいよ。女の子なんだから。
 ねえ、レミリア」
 掻きまわされた髪を手櫛で直しながらアリスが言う。妹の反応にレミリアは頷くけど、
「ま、身だしなみは無礼にならないように整えておけばいいでしょ。
 この場で気にする人はいないと思うわ」
「まあ、そうだと思うんだけど」
 それでもねえ、とアリスは納得いかなさそう。けど、
「ま、いいんじゃない。
 フランちゃんもよさそうだし」
 ぐしゃぐしゃと頭をなでられ、フランちゃんは笑顔ではしゃぐ、それをやる魔理沙も笑みを浮かべる。
「メリー、私もー」
「ええ、わかったわ」メリーは座りなおして膝を叩き「こいしちゃん」
「うんっ」
 こいしちゃんは笑顔でメリーの膝の上に座る。その髪を丁寧に梳いて、こいしちゃんは心地よさそうに目を細める。
「あ、お空っ、お空撫でてあげる」
「うにゅ?」クッキーを無心で啄んでたお空は一度首をかしげて「うんっ」
 ばさっ、と、メリーの膝に座るこいしちゃんの膝に着地、こいしちゃんはうりうり、とお空のいろいろなところを撫で始めた。
「メリーっ! そんな軟弱な撫で方じゃ駄目だっ」「だめだっ」
「もっと丁寧に撫でてあげないとダメよ。魔理沙」「だめよっ」
「あれこそ当人がよければそれでいいんでしょうけどね」
 美鈴さんがそんな二人組を笑って見る。咲夜さんは重々しく頷いて、
「さあ、お嬢様っ」
「あ、私はいいや」
 しょげた。
「はあ、でもこれは楽ねー」
 髪は満足したのか、アリスがころん、と寝転がる。
 座っている私はそんな彼女に視線を落して、都会派、と魔理沙が言っていたのを思い出しながら、
「行儀は良くないけどね」
「それもそうね」
 仰向け、そのままパリパリとお菓子を食べながらアリスが苦笑。けど、
「行儀が悪くても、……いや、そっちの方が楽しいかも」
「そう思えるなら何よりね。
 いや、頭固い人だとその辺うるさそうねえ」
「妖夢とか?」
「あ、――」あの、生真面目な口調と顔を思い出して「一言ありそう」
「結局は幽々子と楽しむくせにねー」
「でしょうね。まあ、けど、」
 思い出す、ここに来て会った人たち。
「楽しめない人は、…………あ、映姫さんは微妙かも」
「かもしれないわね。お小言始まりそう。
 蓮子、そうなったらどうする?」
 寝ころんだまま、見上げる視線と真正面から視線を合わせる。――なんとなく、笑っているなあ、とか思いながら、
「そりゃもちろん、開き直るまで、押し倒してでも行儀悪い真似させるわ」
「なんか蓮子さんが押し倒すとか言っていますよ?」
「誰を? 霊夢?」
「なんで私が押し倒されにゃならんのよ。
 っていうか、そんな事をしたら張り倒す」
「押し倒すって」ぐっ、とフランちゃんが一度身を沈めて「こうっ!」
「って、きゃああっ」
 霊夢に突進、不意を突かれた霊夢が文字通り押し倒される。
 よし、と魔理沙が、
「突撃ーっ」
「なんでよーっ!」
 右手をフランちゃんに抑えられた霊夢、彼女の顎に頭突きする勢いで魔理沙が飛びつき、逆の手をレミィがしっかりホールド。
「よしっ、固めたっ!
 阿求っ、今がチャンスだぜ」
「って、ちょ、やめてっ、何する気なのよっ!」
「ふふふふ」
 阿求ちゃんが手をわきわきさせている。そして、
「ひゃうっ、きゃあああっ! ちょ、ばっ、ひゃぁあっ! なんで私なんだーーーっ!」
 魔理沙をくすぐり始めた。そのころにはフランちゃんとレミィは魔理沙の両手をホールドし、下から霊夢が抑え込む。
 一通りくすぐられ、ぜはーっ、と疲労困憊の魔理沙。美鈴さんがぱんっ、と手を叩いて、
「魔理沙のきゃー系悲鳴が聞けました」
「録音できなかったのは残念ね」
「ふ、――ふ、ざ、けんな」
「ほらほら、とりあえずジュースでも飲んで落ち着きなさい」
 近くにあったジュースを渡す。おう、と魔理沙が受け取り、ぐーっ、と飲む。
「それ、私が飲んでたやつなんだけど」
 アリスが首をかしげ、飲んだまま固まる魔理沙。
「あれ? そうだった?」
 ごめんね、と謝るとアリスはまあいいけど、と応じる。――それで終わりなら問題はないんだけど、終わりにならないのがここにいる人たち。
「間接キス」
 さとりちゃんが重々しく頷いて、魔理沙が固まった。
「な、な、き、さ、さとりっ、へ、変な事言うなっ!」
「魔理沙顔が赤ーい」
 こいしちゃんが笑って言う。――うむ、
「乙女ね」「乙女ですね」
「蓮子っ! 阿求っ! 黙ってろっ!」
「よし、アリス、次は直キスよ」
「絶対に嫌よ。なんで女同士で」
 笑いをこらえてのレミィにアリスは素っ気なく応じる。ちっ、と舌打ち。
「それはそれで、禁断の関係っぽくて、……難ですねえ」
 と、さとりちゃんが、
「霊夢さんと蓮子さんはいかがですか?」
「私に死ねっていうの?」「死んでもお断りよ」
「……ほんと、気が合うんだか合わないんだかよくわからない二人ですね」
 咲夜さんは不思議そうに首をかしげる。あのね、と。
「咲夜さん、そもそも女同士でって時点でダメでしょ?」
「私は「言うなっ」むぐっ」
 何か言いかけた咲夜さんの口をレミィが塞ぐ。…………うん、まあ。
「レミリア、たまにはいいんじゃない?」
「冗談じゃないわよ」
 むーっ、と口を押さえられてうめく咲夜さん。レミィは安堵のため息一つ。
「あ、あはははは」
 で、咲夜さんの言おうとした事が分かったのか、――解るんだろうなあ。美鈴さんが乾いた苦笑を浮かべる。
 さて、と手を伸ばす、その先。
「あれ? もう、ない?」
「うそ?」
 辺りを見る、確かに、もうお菓子はない。
「メリーが大量に食べるからよ?」
「え? な、なんで私なのよ? そ、そんなに、食べてない、わよ?」
 あれ?
 いつもの冗談、それに返って来たのはリアルに不安そうな反応、その理由は、
「メリーたくさん食べてたよ。
 私が見た限り一番」
「こ、こいしちゃんっ」
 じと、と視線が集まる。
「な、なによ?」
 うん、
「太るわよ」
 言うと、メリーは優しくこいしちゃんを膝から降ろして、
「蓮子ーっ!」
「ぐはっ」

 パジャマパーティー、の楽なところは、お開き直行お休み、となる事で、
「んー、お姉様ー」
「か、金縛り?」
 フランちゃんがレミィにしがみついて、レミィは金縛りにあっている夢を見る。
 さとりちゃんとこいしちゃんは仲良く手を取り合って眠る。さて、私はそこらへんに寝転がり眠っている少女たちを起こさないように気をつけて、浴衣のままテラスへ。
 天頂の月と、満天の星、
 時刻と場所を告げる。その存在、それと、
「楽しかった?」
 くすくす、と笑う一人の少女。
「輝夜」
「あら、覚えていてくれたなんて、嬉しいわ」
 博物館にいた少女は、ころころと楽しそうに笑った。

 テラスにある丸テーブル、そこにある椅子に私と輝夜は座る。
 座って、輝夜は真っ直ぐ私を見る。
 楽しそうな笑み、期待、なのかしらね?
「明日、早池峰山に行くのよね?」
「ええ、その予定。
 よく知ってるわね」
「それはもう、私は語り部だもの」
 ぱんっ、と手を叩いて、何がそんなに楽しいのか、笑顔で言う。
「何か、面白い噺はあるかしら? 語り部さん?」
 問いに、えっと、と、首をかしげる。
「ないわね」
「語り部失格じゃない。語るものがないと」
 それもそうね、とあっけらかんと輝夜。
 ただ、と彼女は袖で口元を隠す。
 その目は笑う。楽しそうに、愉しそうに、ほんとうに、楽しそうに笑う。
「早池峰山は神の山。
 山の娘神が治める山だから、神様はいるわよ。会いに行ったら?」
「『早池峰神社』に?」
「ええ、『早池峰神社』に。それと、天狗には気をつけてね?」
「いるんだ」
「それはもちろん、……あら、いない方が不思議じゃない?」
 ……確かにね、視線を部屋に向ける。
 ザシキワラシに、喋る猫と烏。――河童もいた、確かに、天狗がいないっていうのは、
「遠野じゃ、ありえないか」
「ええ、山岳信仰が盛んだもの。
 修験者、とも言うわね。人と山をつなぐ存在、」
 つまり、と語り部は笑う。
「楽しい道行を期待しなさいな。
 くれぐれも、隠されないようにね」
「まあ、神隠しには気をつけるわ。
 サムトの婆の二の舞にならないようにね」



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