「おはようっ、メリーっ」 「…………なに、その朝っぱらからさわやかな笑顔は?」 ぼんやり、と目を覚ますメリー、まったく、 「さわやかな朝よっ!」 「うるさい、黙れ蓮子」 怖いわー 「第一」メリーは眼をこすり、ぼーっとしながら「早すぎるわよ、なによ。午前四時って、まだ夜じゃない」 「もう明るいわよっ」 さあっ、とカーテンを開ける。――いや、あんまり明るくないけど、 とはいえ、夜の闇じゃない。少しずつ朝になる時間。 「なんでそんなに絶好調なのよー 私はまだ眠いのよー」 「ん、やっぱりお酒が入ると熟睡できるわね」 起きようとしないメリーを無視して、私はお風呂に向かう。 考えてみれば、昨日は酒でダウンして入れなかった。さすがにこのままはきつい。女の子として、 その旨をメリーに告げたら蓮子はそんな事を気にするやつじゃないわ、と言われた。 「まったく、メリーは私の事をなんだと思ってるのかしら?」 「さぁね、変な友達、とでも思ってるんじゃない」 とん、と。 「早いわね、てゐちゃん」 「まあね。年寄りは早起きなのさ」 ぺたぺた、とてゐちゃんは私の隣を歩く。その手の中にある物は、 「てゐちゃんもお風呂?」 「そりゃね。うら若き乙女は珠の肌を何時でも磨かないと」 「年寄りなのかうら若いのかはっきりしなさい」 「見た目どおりさ」 「幼女?」 「そう、それっ!」 皮肉のつもりで言ってやった言葉を、てゐちゃんは満面の笑顔で肯定した。 「まったく、そこで肯定しないでよ」 「あんたがどう見るかなんてあんた次第よ。 私はそんなこと気遣うつもりはないよ。面倒くさい。そっちの主観でものを見ればいいわ」 「ようするに、その時の気分でてゐちゃんはどうとでもいうってことね」 「まあね」 なるほど、彼女と付き合うのは、大変そうで面白そうだわ。 鈴仙の境遇に同情と納得をしたところで、お風呂に到着。 「おーっ、やっぱり誰もいないわねえ」 「こんな早く起きるなんて子どもか年寄りくらいよ」 「てゐちゃんはその両方だからこんなに早起きなのね」 「まあね」てゐちゃんは肩をすくめて「それに、これは本音。健康に気を使ってるんだよ、私。早寝早起きは基本よ」 「ま、それはいいことよね」 さて、と、手早く着ている物を脱いで脱衣籠に放り込む、そして、扉を開ける。 「うん、がらがら」 「こんな朝っぱらにお風呂に入るなんて、子どもと年寄りと健康に気を使う美少女しかいないさ」 「前二つはてゐちゃんで最後は私ね」 「自分でいうな」 「てゐちゃんもね」 ふーん、といい返してやると、てゐちゃんは楽しそうに笑う。 「あ、そうだ。どうせなら背中洗ってあげようか?」 「見返りは?」 「私の背中洗って」 はいはい、とちょこん、と座るてゐちゃんにシャワーをかける。 「お客さーん、髪はどうしますかー?」 「わしわし頼む」 ふわふわの髪が水にぬれる、私はシャンプーを出して、 「そういうのなんかなあ、撫でられてるみたいで落ち着かないわ」 「そう?」 なら、と軽く指を立て、てゐちゃんの希望通り、少し乱暴に髪を洗っていく。 「んー、いや、やっぱり誰かにやってもらってのは楽だねー」 心地よさそうな声。鏡に映るてゐちゃんの表情は、確かに心地よさそうに目を細めている。 「鈴仙にはやってもらわないの?」 「一緒にお風呂入るの恥ずかしがってねぇ、可愛いものだよ」 「そんなものかしらね」そろそろかな「流すわよー」 「ん、お願い」 きゅっ、と鏡に見えるてゐちゃんが眼を閉じる。そんな仕草が外見年齢相応に思えて笑みが浮かび、そのままに、 「目、気をつけてねー」 「……うるさいな」 しゃーっ、と泡を流してあげる。 「大丈夫?」 「大丈夫、だからさっさとやって」 「水苦手とか?」 「そういうわけじゃないわよ」 そして、てゐちゃんの髪を洗い背中を、…………「なによ?」 固まった私に、胡乱な表情で振り返るてゐちゃん。 「背中」 「ん、ああ、どうかした?」 「背中」 「だからなによ?」 「すべすべだなーって」 「そう?」 首をかしげるてゐちゃん。 さすが、珠の肌とかいうだけあって、綺麗だわ。 薄い、肉付きの少ない、白い肌。けっこう羨ましい。 それこそ、メリーが聞いたららしくない、とかいうかもしれないけど、 「ま、そんなことはどうでもいいわよ。 さっさと洗ってよ」 「はいはーい」 てゐちゃんの背中を洗って、代りに、と、私はてゐちゃんに背中と髪を洗ってもらう。その上で、 「ふぃー、極楽―」 「ああ、いい湯ねー」 ほふはあ、とてゐちゃんと顎まで湯船につかる。――――はあ、 「温泉に入ると無条件に幸せを感じるわ。 私、日本人でよかったー」 「日本人だからってわけじゃないと思うけど、前半は同感。幸せー」 ほはーっ てゐちゃんとお風呂を堪能し、部屋に戻るがまだ朝の五時半、メリーはすやすや寝てる。 「ん、にしても早く起きすぎたわね」 レンタサイクルが開くまであと二時間半、か。 七時に朝食、としてもまだ一時間半ある。レミィ達もまだ寝てるだろうし、 「散歩、かな。 開いてればいいんだけど」 「あ、衣玖さん」 「こんにちわ、蓮子さん」 朝の散歩としゃれこめば知り合いに出会えた。衣玖さんは笑顔であいさつ。もちろん気になるのは、 「で、結局やったんですか?」 「ぐ、朝一でいきなり。………………まあ、はい」 おお、よくやったっ! 内心で天子に喝采を送る。 「それで、今日はどうするのですか?」 「ん、と。 『遠野ふるさと村』に行ってみる。それと、途中にある御寺も」 「そうですか、遠いですけどがんばってくださいね」 「あはは」 メリー、また足痛くならなければいいけど、……また永琳先生のお世話になろうかな。 ま、大丈夫でしょ、メリーなら、 「天子はまだ寝てるの?」 「ええ、この時間に起きるなんてありえませんよ」 くすくす、と衣玖さんは笑う。――なんか、 「天子、寝相悪そう」 「あら、見透かされていますね」 楽しそうに笑う衣玖さん。――まあ、完全な予想だけどね。 「衣玖さんは、今日は何か予定とかあるの?」 「特には、まあ、天子様に付き合って、」沈黙、ふと、言葉を選ぶ程度の時間を置いて「一緒に遊ぶでしょうね」 「あ、やっぱり遊ぶ、なんだ」 衣玖さんは悪戯っぽい微笑付きで指を立てて口元へ。 「照れるので、天子様には言わないでくださいね」 「わかったわ。 仕方がなくついてきたお目付役、って感じ?」 「ええ、それで」 澄ました表情で衣玖さん。 きっと、なんだかんだ言いながら楽しんでるんだろうなあ。と。 そのまま、他愛もない雑談に興じて、ふらふらと遠野駅へ。 「って、なんでこっちに来てるんだろ?」 「さあ、なんででしょうね?」 衣玖さんは、くすくす笑って頷いた。 時計を見る。まだ六時ごろ、か。 当然お店も開いてないし、うーん。 「ふふ、時間つぶしですか?」 「まあ、うん。朝食七時だとしても、まだ一時間近くあるからね。 相棒は寝ちゃってるし、他のみんなも、まだ朝早いからね」 てゐちゃんは起きてたけど、たぶんあらかたまだ寝てる。――と、思う。人形とかザシキワラシは、たぶん寝る。 「蓮子さんは早起きなのですね」 感心されてもなあ。――ただ、 「あはは、お恥ずかしい話し、昨日酒呑んで、そのあと二日酔いの薬は飲んだんだけど、そのまま寝酒になってぐっすり」 「あら、そうでしたか。 『博麗』で?」 「夕ご飯はいつもそこなのよ」 なら、と。衣玖さんはぱんっ、と手を合わせて、 「今日は天子様とそこで食べましょうか」 「よく行くの?」 「はい。天子様は霊夢さんの事を気に入っているみたいなので、よく遊びに行きます」 「霊夢今日無事かな」 へ? と、 「飲み比べ、さっき酒呑んだって、霊夢と飲み比べして、ダブルノックアウト」 ていうか、なんであんな事をやったのよ私。――はあ、気をつけよ。 「霊夢さんと、ですか」 「うん」 頷くと、衣玖さんは意外そうに頬に手を当てて首をかしげ、 「意外ですね。 彼女が飲み比べっていうのも」 「そう?」 なんか、売り言葉に買い言葉、それと、酔った勢いそのままで飲み比べ始めたからなあ。 と、衣玖さんは立ち上がって、自動販売機へ。 「コーヒー、奢りましょうか? せっかくですし」 「あ、いいわよ。そのくらい」 「そのくらい、奢らせてもらえませんか?」 「……結構強情?」 「ええ、とても」 衣玖さんは、楽しそうに笑った。 「ブラックがお好み?」 「ええ、御馳走様です」 「いえいえ」 衣玖さんのコーヒーをもらって、私たちは駅前のベンチに並んで座る。 東北の夏、早朝。涼気が心地いい。 「ふふ、それにしても、二人と別れて大変でした」 「なにが? 膝枕」 まあ、それも、と衣玖さんは照れくさそうに頷いた後、 「天子様が、京都に行ってみたいと、駄々をこねて、……まあ、すぐに行けるわけではない、というのはわかっているのでしょうけどね」 「駄々をこねるのが楽しいんじゃない?」 具体的には、それを聞く衣玖さんの反応を見るのが。 「そんなものでしょうか?」 「たぶんねえー」 私にも、まあ、経験はある。――遅刻して、メリーに怒られて、それをかわして、そんな下らない会話を重ねて、それが楽しい。 から、 「相手してもらうのが好きなのよ、きっと」 思ったままの事を言うと、衣玖さんが噴き出した。 「あれ?」 そのまま、俯いて肩を震わせる。くつくつ、と。 「私、そんな面白い事言った?」 「あ、いえ、すいません。 ただ、――――」 くつくつ、と衣玖さんは笑いながら、 「天子様、猫みたいだなって」 その言葉に、ネコミミと猫の尻尾付き、それと猫の手を模したグローブをつけた天子を想像。照れくさそうな表情で、にゃん、と。 「…………可愛いかもしれない」 と、 「おや、早いですね。 まだレンタサイクルは開いていませんよ」 「おはよう、映姫さん」 「ええ、おはようございます。蓮子。衣玖」 「おはようございます。映姫さん」 映姫さんは微笑のまま私の隣に座って、 「どうしたのですか? こんなに朝早く」 「あはは、昨日寝酒でぐっすりで、今日妙に朝早く目が覚めちゃって」 「霊夢さんと飲み比べをしたそうですよ。彼女」 「おや、それはまた、無茶を」 「あははは」 咎めるような視線に、私は髪を掻いて乾いた笑い。――うん、無茶よね、気をつけよう。 「まあいいでしょう。 アルコールの過度の摂取は毒なのですから、気をつけるように」 「はいー」 項垂れる私と、くすくす笑う衣玖さん。――と、彼女は時計を見て、 「そろそろ天子様も起きますね。 先に失礼します」 「ええ、付き合ってくれてありがとう」 「いえ、私も楽しかったです」 にこりと笑って、衣玖さんはどこか、――たぶん、天子の所へ。 「まだ、時間はありますか?」 問いに、ええと、と時計を見て、 「あと三十分くらい、そしたら朝食をとってまた自転車借りに来るわ」 「そうですか」映姫さんは小さく笑って「また、『八意診療所』に予約入れておきますか?」 「遠そうだし、そっちの方がいいかも」 「わかりました。なにより無理をしない事が大切です。 貴女達は時間に限りがある旅行者、なのですから」 そうだね。――限りが、か。 うん、 「お気遣い、ありがとうございます」 「だから、楽しんでください。 そうすれば、私も嬉しいですから」 映姫さんはにっこりと笑って言ってくれた。だから、うん。 「はい」 楽しもう、悔いが残らないように、 「と、言うわけで今日は『遠野ふるさと村』にいきます」 「また、遠いわねー」 朝食三十分前、完全に目を覚ましたメリーに宣言する。案の定な言葉に私は胸を張って、 「大丈夫、映姫さんが『八意診療所』に予約入れてくれるらしいから。 これでメリーの筋肉痛もばっちりよっ」 「…………ありがと、映姫さんにお礼が言えるわ」 「せっかくの機会だものねー」 笑って言うと、メリーも苦笑を返す。 「途中のお寺だけど、行きによっていく?」 「そう、ね。――『伝承園』何時ごろから開いてるかしら? 出来れば幽香さんのおにぎり買って、途中で食べて行きたいわね」 「食べ物屋、まったくないわね」 うん、――まあ、『遠野ふるさと村』まで行けば何かしらあるとは思うけど、ないと最悪。 「それじゃ、そういう感じで行きましょう」 「ええ、了解。 まずは朝食ね」 そして、私とメリーは食堂へ。 「おはようございます。お客様」 咲夜さんが丁寧にお辞儀をする、おはようございます。と返したところで、 「おっはよーっ」「おはよ」 フランちゃんとレミィ、それと、 「おはよ」 「パチェ」 「眠いわ、よくそんな早起きできるわね」 「そりゃあ若いからさ」 あくびをする鈴仙と、そんな彼女を見てけらけら笑うてゐちゃん、――ほんと、言う事がころころ変わるわね、彼女。 それそのことを楽しんでるんだろうけど、……いや、それかなり性質悪い気がする。 「ふぁあ、おはよ」 「おはようございます」「おはよー」 こいしちゃんとさとりちゃんも顔を出して、レミィは首をかしげた。 「なに、この大所帯?」 「これもお客様の人徳ですわ」 咲夜さんは澄まし顔でそんな事を言った。 「おお、美味い美味い。れーせん、見習いなよ」 「そうね」鈴仙は真面目な表情でベーコンエッグを見て「咲夜、今度教えてくれる?」 「暇な時なら、もちろん、試食はてゐね」 「あいよ任された。 れーせん、あんまり変なの作らないでよ」 「はいはい」 「健康に気を使ってるから、その辺うるさいんじゃないの?」 あれ? と、 「知ってるの?」 「ええ、朝ちょっと」 「朝風呂でねー」 「えーっ、ちょっとなによそれっ! 朝お風呂に入るなら私も誘ってよーっ」 「私もーっ」 きゃーっ、と両手をあげて騒ぐ妹二人。 「朝四時ごろなんだけど」 「むぐっ」「うーっ」 あ、黙った。 「妹様はその時間絶対に寝てるわね」 パチェが淡々と言い、フランちゃんはテーブルに突っ伏した。 「うう、せめて後二時間遅くしてー」 「頼まれてもねえ。 第一、今日はたまたまであって明日も、とは限らないよ」 「私は毎日だよん」 てゐちゃんはウインク一つ。――すご、毎日あの時間に起きてるんだ。 と、 「私は頑張りますっ」 さとりちゃんは立ち上がる。いや、がんばられても、 「お燐っ、明日は起こしてください」 「いやあ、あたい猫だし、そんな早起きできないよ。 お空は、……まだ寝てるっけ?」 「……私のペットに鶏はいないですよね」 「にゃー」 がっくりしたさとりちゃん。お燐は困ったように一つ鳴く。 「明日もこんな早くに起きないわよ。 昨日は酒が入ったから朝早かっただけなんだから、……じゃあ、今日の夜は一緒にはいろっか」 私の言葉に、さとりちゃんだけでなくこいしちゃんやフランちゃんも応じる。 「もちろんっ、メリーもねっ」 「ええ、わかったわ」 「れーせん、私たちどうする?」 てゐちゃんの言葉に、鈴仙は肩をすくめて、 「チェックアウト今日でしょ? レミリア、ここって泊ってなくてもお風呂入れる?」 「入れないよ」 「だってさ」 「あら、そりゃ残念。 しょうがない、今夜は鈴仙と二人風呂かなー」 「どういう言葉よそれ」 「い、いいわよ。別に、一人で入れるから」 ふん、と鈴仙は視線をそらす。 「いいじゃない、たまには裸の付き合いもいいものよ?」 「う、」 それに、と。 「頭洗ってあげたら、てゐちゃんも喜んでくれたわ。 ね、鈴仙」 「そうね。気持ちよかったし、また誰かにしてもらいたいわ」 ……しん、と沈黙、やがて、 「蓮子」 少し紅くなった顔で、私を睨む鈴仙は、拗ねたような口調で、 「人を乗せるの、上手でしょ?」 「自覚ないけど、どっちかっていえば乗ってくれた方が嬉しいわ。 ね、てゐちゃん?」 「うんっ」にかっ、とてゐちゃんは笑って「よしっ、今日はれーせんの体を隅々まで洗ってあげるわっ」 「背中と髪くらいでいいわよ」 はあ、と鈴仙は苦笑。ふと、パチェがのんびりと、 「私も入れないの?」 問いかける。レミィは首を横に振って 「構わないよ。パチェは友人だからね」 「おおっ、客人差別だ」 てゐちゃんが指さして笑う。レミィはむしろ胸を張って、 「悪い?」 「お嬢様、開き直りっぽいですよ?」 「んじゃ、時間は昨日と同じ、午後五時半まで、楽しんで来な」 小町さんが用意してくれた自転車。奥を見ると、映姫さんが笑顔で会釈をする。 私たちも会釈を返し、いざっ、と、 「じゃあ、いってきますっ」 「いってきまーす」 「ああ、いっておいで」 ひらひら手を振る小町さん、私とメリーも手を振り返して、ペダルを踏んだ。 「今日も好調だねっ」 「整備の成果かしらね。うん、軽いわ。 京都戻ったら自転車買おうかしら?」 しゃーっ、と山と田んぼの道を自転車で快走する。相変わらず駆け抜ける感覚が心地いい。 楽しい、そう、無条件で思う。子供みたいだな、とも、 「あははっ、でも京都でこんな光景は拝めないでしょうけどねっ」 「それは残念ねっ、東京でも無理かしらっ!」 「無理無理っ」 東京にあるのは罅の入ったコンクリートと所々の草原、それと彼岸花くらい。地霊の罪は時効を迎えても、そこから農耕地として復旧するには途方もない手間と時間がかかるでしょうね。 もしかしたら、まあ、隅っこに行けば違うかもしれないけど。 笑いながら道を疾走する。車は通らない。けど、歩道を自転車で駆け抜ける。 「蓮子っ、どの道っ?」 「もうしばらく先っ っていうか、まずは『伝承園』っ」 「開いてるといいわねっ」 「それもそうねっ」 田圃道を抜けて、少しずつ、家が見えてくる。 似田貝、標識に書かれたその文字を確認し、そして、 「この道ね」 案内板、『遠野ふるさと村』の文字を見る。 「『伝承園』でおにぎり買ったらこの道をまっすぐね。 かなり遠いけど、気合い入れて行くわよ」 「はいはい、――まったく、秘封倶楽部はいつからこんな体育会系になったのかしら」 「あら、体力は大切よ? 面白いものを見逃すなんて、それこそ秘封倶楽部の存在意義に反するわ」 どうかしら、とメリーは笑う。 ともかく、道を抜けて『伝承園』へ。 「あら? 開店にはまだ少し早いわよ」 自転車を止めると、外を掃いていた幽香さんが首をかしげた。 そして、ふと笑い。 「で、今日はどうしたの? また見学かしら?」 「あ、いや、 今日は『遠野ふるさと村』にいくつもりなんだけど、遠そうだし、おにぎりでも買って行こうかなって」 「そう、」幽香さんは箒を傍らに置いて「なら、来なさい。売ってあげるから」 「あ、ありがとうございます」 やったっ、とメリーと手をたたく、幽香さんは扉を開けて、振り向いて笑い。 「ええ、一昨日、可愛い声を聞かせてもらったお礼よ」 可愛い声、――――まさか。 「あ、…………あ」 メリーが、その時の事を思い出して顔を赤くする。そういえば、結構な悲鳴だったわよね。 硬直するメリー、その姿を見て、幽香さんは声に出して笑いながら奥へといった。 「ん、どうしたの?」 「なんでもないわ、たぶん」 首をかしげるメディスン、彼女は私の返事にふぅん? とまた首をかしげた。 |
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