「はー、すっかりな時間になったわね」
「あはははは」
 あれから、さとりちゃんやらレミィやら『博麗』のちっちゃい子たちに頼まれて結構な時間、昔噺を読んだ。
 まあ、楽しかったからいいけどね。
「メリー、お昼どうする?」
「『とおの昔話村』に行く前に食べておきたいわね。――うーん、『西行寺』行ってみる?」
 霊夢はまだ寝ていたので『博麗』は真昼間に準備中、思うに食事処としてかなり駄目だと思う。
「そうね。あそこ食事あったっけ?」
「うーん、よく覚えてないわ。
 ま、甘いもの食べるだけでも食べておきましょ」
 それにしても、
「メリーモテモテだったわねえ」
 にやー、と笑うとメリーが苦笑。
 フランちゃんとこいしちゃん、それに諏訪子ちゃんで、次に読んでもらう本を選んで、結局順番、と。
「蓮子にいわれたくないわよ」まあ、とメリーが苦笑して「そっちのほうが静かだったわね」
「ルーミアちゃんとか半分寝てたしね。
 ミスティアがたまに変な歌うたったくらいね」
 あははっ、とメリーも笑う。まあ、楽しかったから良しとしますか。
 そんな話をしながら『西行寺』へ。
 からん、と扉を開ける。
「いらっしゃいませ」
「こんにちわ」
「あ、蓮子、メリー」
 エプロンを着た、妖夢。それと、
「んあー?」「あら、こんにちわ」
 天人の女の子、天子と、衣玖さん。
 椅子に座って静かに本を読む衣玖さんと、テーブルに突っ伏してぼーっとしている天子。
「相変わらずヒマそうね」
「ひまなのよー」
「お二人は知り合いですか?」
「まあ、ちょっと図書館で」
 テーブルに座る、そして、メニューを見る。
 …………おにぎり? いや、和風喫茶ならこれもあり? なのかしら?
 まあ、いっか。
「すいませーん」
「はい」
 ぱたぱたと、妖夢がこっちに、
「御注文ですか?」
「ええ、おにぎりの、三点セットを」
「私はこの御団子セットをください」
「はい、わかりました」
 さらさら、と伝票にメモをして、妖夢は奥へ、――あっちに幽々子さんもいるのかしら?
「こんにちわ、相席、いいですか?」
「ええ、いいですよ。
 ね、蓮子」
「ええ、歓迎するわ」
「あら」衣玖さんはおっとりと頬に手を当てて「ありがとうございます」
「でさ」とさっ、と天子は私の右に腰をおろして「二人ってどーしてこんな田舎に来たの? 福引だっけ? 物好きよね」
「まあねえ」
 物好き、酔狂、――もう、なんかそう言われても上等、としか思えない私。
 健全な女子大生の青春なんてはるか彼方よね。
「はー、いいなあ、京都。
 私も行ってみたいなー」
「遠いけどね」
 メリーの茶々入れに天子は頬を膨らませて「解ってるわよ」
 そんな様子を見て、衣玖さんはくすくす笑う。
 なんていうか、
「お姉さんみたいね」
「へ?」
「いや、衣玖さん、天子のお姉さんみたいだなーって」
「そう、でしょうか?」
「衣玖さんも学生なのですか?」
「ええ、先にいた衣姫と豊姫と同じです。
 天子様も、ですが」
「そういえば、天子は天人なんですよね?」
 メリーの問いに、天子は胸を張って、
「ええ、そうよ。
 凄いのよっ」
 なら、
「どうして、地上に? それとも遠野だと天人も地上に暮らしているとか?」
「いいえ」衣玖さんはくすくす笑いながら「天人様は天に暮らしていますよ。ねえ、天子様」
「ぐ、べ、別になんでもないわよっ」
 なんだろ? ただ、衣玖さんはくすくす笑って、
「いえ、天子様。
 昔、随分昔に天人の羽衣を人に盗られてしまって、……まあ、なんとか取り返して天に戻ったのですが、一度とはいえ羽衣を盗まれた罰として、地上に落とされてしまったのです」
「別にいいわよ。
 もともと天だって退屈だったし、第一、衣玖っ! 勘違いしないでよっ!
 追い出されたんじゃなくて、私から出てってやったのっ!」
 あらあら、と衣玖さんは相変わらずおっとりと頬に手を当てる。と、
「えっと、衣玖さんも天人さんですか?」
「いえ、まあ、似ていますけど、
 私は元々、天子様の御屋敷に仕えていた者です」
 天人というほどではありませんよ、と衣玖さん。
 なら、とメリーは、
「どうして、衣玖さんも地上に?
 貴女は追放された、っていうわけじゃないのよね?」
 へ、と。衣玖さんが首をかしげた。――なんで貴女が首をかしげるの?
「さあ、ヒマだったんじゃない」
 それは、……たぶん、
 そっぽを向いた天子の表情と、そんな天子を伺う衣玖さん。
 まあ、間違いなく、だけど、
「ヒマだったんじゃなくて、物好きだったのよ。
 きっと、ねえ、衣玖さん?」
 メリーの問いに、衣玖さんは苦笑して、かもしれません、と応じた。
「? どういう事?」
 きょとん、としている天子。うん、
 言ってやれ、と。
「天子のいない天じゃなく、天子のいる地上のほうが好きなんでしょ、衣玖さんは」
 へ、と。天子が硬直、そして、
「れ、蓮子さんっ」
 私のいった意味を思い、顔を赤くして声をあげる衣玖さん。――――うわあ、可愛いなあ。
「…………あら、お邪魔だったかしら?」
「御注文の品は、もうちょっとあとのほうがよかったでしょうか?」
「いや、何一つ気にしないでいいわ」
 妙な沈黙の降りた衣玖さんと天子、その二人を見て妖夢と幽々子さんが首をかしげた。
 ふふ、と幽々子さんは微笑して、
「面白いお話? 私も混ぜてくれる?」
「いや、いいんですか? 喫茶店」
「ええ、お客さんなんて滅多に来ないもの。だから、」とお団子の盛り合わせを両手に持って「いい?」
「混ざる気満々ねえ」
「それはもちろん。
 あ、蓮子の注文もお団子にしちゃった」
 ちろっ、と悪戯っぽく舌を出す幽々子さん。――いや、いいけどね、もう。
「あの、構いませんか?」
 混ざる気満々な幽々子さんとは違い、妖夢はちゃんと問いかける、いい子ねえ。
「いいわよ。まあ、そんな面白い話しをするとは思えないけど」
「大丈夫よ、貴女達は面白いから。
 ねえ、衣玖」
「……まあ、かもしれませんね」
「そうかしら?」
「ええ」メリーは私の肩を叩いて、重々しく頷く、結構ないい笑顔で「蓮子の面白さは、私が保証するわ」
「…………メリーの面白さはその私が保証してあげる」
「ひどいわねっ」
「最初にいった貴女に言われたくないわっ」
 むぐぐ、と睨みあう私たち、――で、
「……まあ、どちらも面白い事は解りました」
 妖夢が肩を震わせる、そして、視線を戻した先。
 幽々子さんと天子が容赦なく笑った。

「まったく、なんでいきなり笑われるのよ」
「あら、いいじゃない、仲がよくて」
 うらやましいわ、と幽々子さんはお団子を頬張りながらいう。
 まったく、私はお団子に手を伸ばす、おにぎりが食べたかったんだけど、
 まあいいや、その分食べれば、
「そういえば、蓮子さんはおにぎりを注文したのですよね。
 お昼には、ちょっと遅くないですか?」
 時計を見る、午後二時ごろ、確かにね。
「ちょっと、遅くなっちゃって」
「なにそれ、……そういえば、『博麗』も閉まってたわよね。準備中で」
「お昼時に営業していない食事処っていうのも、…………斬新、ですね」
「わざわざ言葉選ばなくていいわよ、妖夢」
「そうそう、はっきりとダメって言っちゃいなさい」
 だめよね、実際。まあ、いいけど、
「ちょっと、『Scarlet』で絵本を読んでてね」
「あら、それはぜひ聞きたかったわ。
 もう、どうして呼んでくれないのよっ、ねえっ、妖夢っ」
「へ? 絵本、ですか?」
 なぜか眼がきらきらしている幽々子さんと、首をかしげる妖夢。
「どーせ古臭い昔噺でしょ?」
「まあ、そうよね」
「ふんっ、そんなのもう聞き飽きたわよっ」
 そっぽを向く天子、その傍らで、
「ふふ、昔は夢中でせがんだのですけどね。天子様」
「妖夢もね、懐かしいわー
 ゆゆこさまー、次はこの御本を読んでください、って、舌足らずな口調でお願いとか」
「あら、それは可愛いですね。
 でも、天子様も可愛らしかったですよ? 絵本を抱えて無言で突き出して、どうしましたか? って、聞くと顔を真っ赤にして不機嫌そうに、読んでっ、って。照れくさかったのでしょうね」
 ほわほわと回想に浸る衣玖さんと幽々子さん。で、
「わ、忘れてくださいっ」「変なこと思い出さないでよっ」
 うん、
「「可愛いわー」」
 私とメリーはそんな二人を暖かな笑顔で見る。
「う、うるさいわよっ!」
「っていうか、幽々子さんも聞きたいものなの? 昔噺とか」
「ええもちろん、読んでくれるならなおさら」
 ふふ、と笑って、
「童心に帰って、膝枕でお昼寝とかー、今度妖夢にお願いしようかしら?」
「はあ、まあいいですよ」
「あらっ、嬉しいっ」ぱんっ、と手を打ち合わせて「ね、衣玖も、どう? 天子ちゃんにお願いしてみたら?」
「「へ?」」
 ……固まった。
 硬直する二人、私はメリーに目配せする。
 メリーは頷く。
「いいかもしれないわね。
 フランちゃんやこいしちゃんも、喜んでくれたわ」
「って、な、なんで私がされる側なんですかっ」
 いやあ、やっぱりそういう態度取られちゃうとねえ。
「そ、そうよっ、どうして私がしなくちゃならないのよっ!」
「衣玖が喜ぶから、なんて、どう?」
 幽々子さんは悪戯っぽく笑う。すっごく悪戯っぽく。
「よ、喜ばないわよっ、ね、ねえっ、衣玖っ」
「え、え、ええ、っと」
「ふふ、妖夢の膝枕ー、楽しみー
 今から読んでもらう絵本を見繕っておこうかしらー」
「幽々子様、仕事してください」
 惚気るように言う幽々子さんに、妖夢は微笑して、とりあえず、という感じで応じる。けど、膝枕で読んであげることに妖夢もまんざらではなさそう。
 で、
 じとっ、と集まる視線、天子は慄き後退し、…………ため息。
「わかったわよっ、やるわよっ!
 衣玖っ、本は自分で探しておきなさいよねっ!」
「…………はい」
 照れと嬉しさと、綺麗に混ざり合った、物凄く可愛い笑顔で、衣玖さんは頷いた。
 うむ、
「善哉善哉」
「お節介って言われない?」
「物好き、酔狂なら開き直ったわ」

 お団子を食べて満足した私たちは、『とおの昔話村』へ。
 時間は、
「三時、五時に閉館だから、十分余裕はあるわね」
「よしっ、じゃあ、悔いがないようにうろちょろしましょうか」
「あんまりはしゃいじゃ駄目よ、蓮子」
 はいはい、とメリーに頷く。頷いて、地図を広げる。
「ちょうど、道挟んで『Scarlet』の向こうにあるのね」
「そうね」
 地図に示された場所へ。よく見ると看板がある。そして、その看板には『とおの昔話村』、とある。
 よし、
「行きますか」「行きましょうか」
 駐車場を抜けて、右手にある甘味処。――は、さっき『西行寺』で十分食べたから何なく通り過ぎる。
「昔話村っていっても、そう広いわけじゃないのね」
「どっちかって言えば資料館みたいね」
 入って右手、建物が二つ、そして、左手に一つ。
「柳翁宿、資料館、それと研究所、ね。
 研究所って、何の研究してるのかしら?」
「さあ? 民俗学じゃない」
 視線の先、柳田國男翁の像を見ながらいう。そこでの研究なら、ほぼ間違いなく、ね。
「ともかく行ってみましょう」
 そして、柳翁宿、へ、って、
「あはははっ」
「こらっ、サニーっ、待ちなさーいっ」
 ととととっ、と走っている女の子、――小学生、くらい?
 そんな女の子が私たちの横を駆け抜ける。一人目が駆け抜け、二人目が、
「きゃっ」「っと」
 二人目の女の子が、転んだ。
 なにもないんだけど、……まあ、
 ともかく、受け止める。
「大丈夫?」
「あ、……う、うん」
 さっき追いかけっこしていた時の元気な様子はどこへやら、まあ、このくらいの女の子じゃよくあることよね。
「こらこら、だめよ、ちゃんとお礼を言わないと」最後、駆けまわる二人を見ていた女の子がおっとりと頭を下げて「ルナがお世話になりました」
 世話、ってわけじゃないんだけど、
「ふふ、礼儀正しい子ね」
 メリーが微笑んで女の子の頭をなでる、彼女は心地よさそうに目を細めた。
「むっ、別にスターに言われなくてもわかってるわよ」
 そして、こっちを見て、視線をそらして、いいにくそうに言葉を噤んで、一息ついて、
「あ、ありが、と、う」
「どういたしまして」
 おずおずと、気まずそうに視線をそむけながら、それでも、精一杯のお礼。
 そのことが妙に嬉しくて、
 私が返す笑顔に、ルナちゃんも笑顔を見せてくれた。
「って、ルナっ、スターっ、なにやってるのよっ、早く来てよ」
 と、いいながら駆け寄ってくる女の子。確か、
「サニーちゃん?」
「ん、なんで私の事知ってるの?」
「さっき名前が聞こえたのよ。
 はじめまして、私はメリーよ」こっちがと私を示して「私の友達の、蓮子よ」
「はじめまして」
「メリー、蓮子、……」サニーちゃんは一度繰り返し、頷いて「はじめましてっ、私はサニーよっ」
「では、改めて、私はスターといいます」
「ルナよ」
 元気にあいさつをするサニーちゃん、丁寧にお辞儀をするスターちゃん、そして、照れくさそうにそっぽを向くルナちゃん。
 また、みんなタイプの違う子だな。ただ、仲はいいみたい。
 ばらばらだからかな、私とメリーも、性格はかなり違うし。
「三人はここに遊びに来たの?」
 メリーは座って、視線を合わせて問う。うんっ、と返事が三つ重なった。
「メリーと蓮子も遊びに来たの?」
 ルナちゃんの問い、――まあ、似たようなものか。
 頷く、遊ぶ、って言うつもりはないんだけど、
「よしっ、それじゃあ一緒に遊ぼうっ」
 言うなり、サニーちゃんは駆け出して、ルナちゃんが慌てて追いかける。
「って、ちょっとサニーっ」
 慌てて追いかけて、……あ、転んだ。
「もう、大丈夫?」
「あ、いたた」
 一体どうすれば転べるのやら、ともかく、手をとって助け起こす。
「ありがと」
「別に逃げたりしないんだから、ゆっくり行きましょ」
 危なっかしいから手をつないだまま、ルナちゃんは頷いて歩き出した。
 ……向こう、手を振るサニーちゃんには、適当に手を振り返しておいた。で、
「こんにちわ、って、随分来たな」
「こんにちわっ、慧音先生っ」「こんにちわ」「こんにちわー」
「うむ、こんにちわ。
 それと」
 視線が私たちに向けられる。訝しげ、というほどでもないけど、伺うような視線に、
「観光客です。
 チケット、いいですか?」
「ああ、わかった」
「蓮子とメリーだよっ」
 サニーちゃんは、なぜか両手をあげてアピール。
「ふむ、そうか。
 私は慧音、一応、ここの職員だ」
 はじめまして、と会釈を交わす。
「それじゃあ、ゆっくり見て行ってくれ。
 三人はあまりはしゃぐなよ」
「「「はーい」」」
 手をあげる三人、……けど、あんまり慧音先生は信用してなさそうだなあ。
「ま、いざとなったら止めますよ」
 展示品に突っ込んだりとか、まあそれはないと思うけど、
 私の提案に、慧音先生は困ったように苦笑して、
「……頼む。
 客人にいうのも難だがな」

 当時の民宿を模したらしい館内。
 板張りの廊下をぱたぱた走っている三人、他にお客さんがいたらかなり迷惑だろうけど、誰がいるわけでもないから無視。
「三人はよく遊びに来るの?」
「うんっ」
「慧音先生にいろいろ教えてもらったりするの」
 元気に頷くサニーちゃんの横で、スターちゃんがおっとりと解説を入れる。
 先生、……うん、なんかそんな感じ。
 こう、郷土歴史学者、みたいな。
「あーっ、お人形さんだっ」
 って、
「こらっ」
 大きな間の、その奥に飾ってあった人形を持ちあげようとしたサニーちゃんを、メリーが慌てて止める。
「え?」
「だめよ、それを持っていったら」
「えーっ、別にいいじゃない」
「だめよ、展示してあるものだから。
 ね」
 丁寧に、サニーちゃんに注意するメリー、むぅ、と頬を膨らませるサニーちゃんと、
「そうそう、ありがとう。
 助かったわ」
 お礼を言う人形。――――人形?
「い、いま、その人形、喋らなかった?」
 ルナちゃんは私の後ろに隠れていう。
 あ、スターちゃんも私の後ろにいる。――まあ、あんまり危なくなさそうだからいいけどね。
「ええ、こんにちわ」人形は立ち上がりとてとてと近寄ってきて「雛。といいます」
「雛ちゃん?」
「お雛様、って言ってもらえると嬉しいわね」
 もちろん、大きさは日本人形サイズ。
「うわっ、メリーっ、メリーっ、喋ったわ」
「喋るものねえ」
 しんみりと頷くメリー、……ああ、うん、お燐とかお空も喋ってたしね。
 遠野は人形も喋るのね。
「ふふ、素敵ね」
「喋る人形が?」
「ええ、喋る人形が」
 そして、辺りを見て、
「あ、ちょっといいかしら?」
 ぱたぱたと、飾ってあった箱の後ろへ。うーん。
「だ、大丈夫そう?」
 私のスカートを掴んでいたルナちゃんが不安そうに問いかける。まあ、
「大丈夫、と思うわよ。
 変な人形じゃないし」
 喋ることは気にしても仕方なさそうだからスルー。
「もう、ルナったら臆病者ね」
 ひょい、と私の横に立つスターちゃんが胸を張る。ちなみに、彼女も一緒に私の後ろにいたけどね。
「う、うるさいわよっ」
「まあまあ」
 こんなところで子供の喧嘩とかみたくないし、私はルナちゃんとスターちゃんの頭を撫でてみる。
「ん」
 心地よさそうに目を細めるスターちゃんと、顔を赤くして黙るルナちゃん。
 ま、落ち着いたならいっか。
「私もっ」
「あ、へ? っとっ」
 なんか、サニーちゃんがつっこんできた、慌てて抱きとめる。
「はいはい」
 まあいっか、と、その髪を撫でてあげる、ほう、と一息。
「そんなに頭撫でられるのっていいものかしらね?」
「さあ、そんなものじゃない」んー、とメリーは少し考えて「私は好きだったわよ。小さい頃」
「今度メリーも撫でてあげようか?」
「遠慮しますわ」
 と、
「お待たせしました」
「え? なんでフリル追加?」
 そこには、ふりふりでひらひらで、おまけにフリル満点のリボンをしたお雛様。
「可愛いかしら?」
 そっと、リボンに飾られた髪を示す。
「可愛い、けど、……え? 日本人形?」
「ええ、日本人形よ」くるっ、とひらり、とフリルに飾られたスカートを翻して「可愛いでしょ?」
「可愛い、けど」
 いや、日本人形のイメージにはあわないわ。
「さて、ここに座っているのも飽きちゃったから、持ち出してくれる?」
「えっ? いいの?」
 気楽に言うわねえ。けど、私の問いにお雛様は笑って、
「だって、私は人形だもの。
 こんなところに置いておかれるより、女の子の傍で大切にしてもらった方が嬉しいわ」
 それに、と。
「人形だからね、ほら、呪いを代わりに受けてあげるわよ?」
「いや、私たち呪われた覚えはない、けど」
「そういえば、メリーたちはどこから来たの?
 観光客、って言ってたわよね?」
「京都よ」
「まあっ!」
 メリーの右手に抱えられたお雛様が素っ頓狂な声をあげた。
「え? そんなに驚くような事?」
「ええ、京都よね。
 『火雷天神』菅原道真や『大魔縁』崇徳天皇の怨念が渦巻く『魔都』よ。
 そんなところから来たなんて、私じゃあその呪いは受け切れないわ」
 ちょっと待て、遠野にとっての京都ってどんな魔界よ?
「こ、怖いの?」
 またも私の後ろに隠れてルナちゃん、そして、
「そんなところから来たなんて、蓮子は凄い人なのねっ」
 ……ごめん、物凄い誤解。
 瞳をキラキラ輝かせるスターちゃん、さて、なんていえばいいんだろう?
 とりあえず、
「お雛様、それかなり誤解。普通の町だから、京都も」
「それにしても、遠野ってほんと、信仰についてはいろいろだったのね」
「ん?」
「ほら、これ、
 近い祖霊は仏間に、
 遠い祖霊は神棚に、
 遠野山麓の掛け軸をかけ、
 押入れにはオシラ様を入れて祀る、…………ね、蓮子、わかる?」
「まあね。
 仏教、神道、自然信仰、民間伝承が混ざり合ってるってことでしょ?
 なにせ遠野特有の創世神話もあるくらいだしね。面白いと思うわよ、そういうの」
「ねー、メリー、どういうこと?」
 サニーちゃんがメリーの手を引っ張る。メリーはえっと、と笑って、
「祖先と山と家に感謝をする、ってことね」
「ふーん?」
 よくわからない、という表情でサニーちゃんは頷いた。
「それより二階に来ましょ」
 スターちゃんが私の手を引っ張る。二階、あるんだ。
「そうね、行きましょう」
 いうなり、サニーちゃんはメリーの手を引っ張って走り出す。落っこちそうになるお雛様は慌ててメリーの肩を掴んだ。
「蓮子も、急がないとサニーに遅れちゃうわっ」
 ぐいぐい手を引っ張るルナちゃん、私は頷いて、
「ま、置いていかれるのも癪ね」
 手をひかれるままに、板張りの急な階段を上る。
 二階、吹き抜けで一階がすぐ下に見える。
 そして、二階。――いくつかの展示品に、こんな言葉が書かれていた。
 おそらくは、柳田國男翁の書いた言葉。
「山には山人、」「淵には河童、」「「家には座敷童」」
 民俗学の始まりを告げた翁は、ここ、遠野でそれを感じていたのね。
 そして、今は私たちがその意志に触れている。そのことが、ぞくりと、するほど、……楽しい。
「どうしたの?」
 首をかしげる三人の女の子に、なんでもないわ、と私たちは言葉を返した。

「あーっ、サニーにルナにスターっ、どこにいってたのよっ」
「やほー」
「おお、戻ってきたか」
 一階に戻ると慧音先生と、あと、また女の子が二人。
「あっ、チルノっ、リリー」
「やっほー」
「あ、ごめんねー」
 え?
 手を振るサニーとルナ、はともかく、スターは手を合わせて謝る。――って、
「まさか、待ち合わせ、してたとか?」
「ええ、でも、忘れちゃってたわ」
 ちろっ、と舌を出すスターちゃん。――いやあ、それはひどいと思うんだけど、
「あーもうっ、せっかく来てみれば誰もいないし、約束は守らなくちゃだめなんだよっ」
 地団太を踏むチルノ、と呼ばれた女の子と、なんかぽやぽやと笑顔のリリーちゃん。
「ごめんごめんっ」
 ぱたぱたと三人はチルノちゃんとリリーちゃんの方へ。
 さて、
「それじゃあ、メリー、行きましょうか」
「……えっと、この子は?」
 あ、そうだ。メリーの手に抱かれて心地よさそうにしているお雛様。
 どうしよう、……まあ、
「えっと、慧音先生」
「君の先生ではないが、どうした?」
「お雛様、持っていっていいですか?」
 問いに、慧音先生は首をかしげて、
「持っていくもなにも、そんな人形ここにはないぞ。
 自分で持って来たんじゃないのか?」
 日本人形から大幅なイメチェンがなされたお雛様。どうしよう?
「えっと、人形が、着替えました」
 変な眼で見られたらどうしよう、とはいえ、事実そうだし、通じるかなー
 ふむ、と慧音先生は頷いて、
「で、その人形はどうしたいと?」
 通じたっ? ――けど、
「とりあえずこの人たちと一緒に行こうと思ってるわ。
 まあ、遠野の中で、だけど」
 ……喋ったよお雛様。普通に、しかも、慧音先生はそうか、と頷いて、
「ならば人形の意志を尊重するべきだろう。
 すまないが、持っていってくれないか」
「いや、まあ、いいのならいいですけど」
 何か袋はあったか、と奥に向かう慧音先生。うん、
「さすが遠野、凄いわね」
「そんな、『魔都』京都に比べれば全然よ」
「とりあえず貴女達のいう京都はありえないから」
 っていうか、私たちの地元を魔都っていうな、魔都って、
「慧音ー」
 ん? お客さん?
 ひょい、と顔をのぞかせる女性、彼女はあたりを見て、
「あれ? いない、か」
「慧音先生でしたら、今奥に、すぐに戻って「妹紅?」あ、来ましたね」
 メリーが言葉を区切って苦笑し、彼女――妹紅さんも苦笑して、それでもメリーにありがと、と言って、
「慧音、そろそろ時間だよ」
「そうだったな、すまない」慧音先生は手に持った袋を見せて「メリー、だったね、人形はこれで入るかい?」
「人形?」
「ああ、どうも人形が外に出たいと言ったそうなんだ。
 私に人形の意志を束縛する権利はない、が、一抱えある人形を持って往来をいくのも大変だろうから、せめて入れられるような袋を探してたんだ」
「ふぅん」妹紅さんはあたりを見て「なんだ、ここ、そんなに居心地悪いのか?」
「失礼な奴だな」
 苦笑する慧音先生。と、
「いえ、そんなことはないわ」
 お雛様は二人を見て、
「ただ、飾ってあるよりは人の手に抱かれていたほうがいいのよ。
 人形の気持ち、わからなくてもいいわ」
「んー、まあ、わかるようなわからない様な。
 あれかい、みんなの見世物になるくらいなら誰か一人に可愛がられていたほうがいいって感じ?」
 妹紅さんが解りやすいようなわかりにくいような、そんな事を言う。ただ、
「確かに、そっちの方がいいかもね。
 誰か一人の特別な存在になりたい、なんて女の子の夢だもの」
「あら、わかってるわね」
 お雛様は笑顔でいい。
「貴女は誰?」
 とりあえずメリーははたいておいた。
「いたっ、なにするのよっ」
「誰ってなによっ! 誰ってっ!
 私は宇佐見蓮子っ! 秘封倶楽部でメリーのパートナーっ、「メリーの特別な人」そうよっ! ――――あれ?」
 なんか、勢いに任せて妙な事を叫んだ、よ、う、な?
「おやおや」にやにや、笑うてゐちゃん「その女の子の特別な人なんて、お熱いねー」
「…………えっと、――」
「ま、まあ、……うん、いろいろな形があってもいいと、思うわ。うん」
 鈴仙とレイセン、……紛らわしいわね。――じゃなくて、
 硬直する私とメリーに、ぽんっ、と。
 慧音先生は重々しく。
「まあ、…………なんていうか、若いうちはいろいろ経験するのも、……悪くはない、と、思う、ぞ?
 道は無限に広がっているのだから」
「けーねー、また、難しい説教するね」
「…………すまん、私の語彙が少ないばかりに」
 そして、沈黙、重々しい沈黙。てゐちゃんだけが一人笑ってる。
 せーの、
「「そんなんじゃないわよっ!」」

「はあー」
 スターちゃんたちが鬼ごっこを繰り広げる中庭、私とメリーはぐったりと座りこんでた。
「なんていうか、タイミングが難しいですね」
「フォローありがと」
 レイセンはいえ、と苦笑。
「はい、とりあえずアイス、これ食べて落ち着きなさい」
「いや、落ち着いてはいるわ。
 ただ、なんか力抜けただけで」
 とりあえずアイスは受け取る、抹茶アイス。
 そして、鈴仙も隣に座る。
「てゐちゃんは?」
「慧音や妹紅と何かの検証、と資料をもらってるわ」あそこ、と示した先にある研究所「一応てゐは館長だからね」
「へえ、真面目に働いているのね」
「真面目、なのかしら?」
「でも、てゐさんは凄いです。
 頭もよくて、機転も効いて、永琳先生も褒めてました」
「…………あー」
 絶賛するレイセンを見て、鈴仙は曖昧に笑って、
「うん、頭もよくて機転も効くわ。
 おかげで私はいらない苦労を毎日背負ってるんだけどね」
「……お疲れ様」
 メリーと合掌をする、鈴仙はいやそうな顔をした。
「にしても、元気ねえ」
 で、メリーの膝の上に鎮座するお雛様が『とおの昔話村』の敷地をところ狭しと駆け回って鬼ごっこに興じる五人を見る。
 サニーちゃんとスターちゃんとルナちゃんとチルノちゃんとリリーちゃん。
 ほんと、元気ねえ。――あ、ルナちゃんが転んだ。
「っていうか、ルナちゃん、どうしてなにもないところで転べるのかしら?」
「走ってると前の足に後ろの足を引っ掛けて転ぶんです」
「…………あ、そう?」
 なぜか自信満々に言われて、変な返事をする私。――っていうか、答えが返ってきたのが物凄く意外。
「レイセン、自信満々に言っているところ悪いけど、私はそんな事したことないわよ」
 鈴仙は呆れたような目を向け、
「ええっ!」
 レイセンは普通に驚いた、すがるような眼をこっちに向ける、ごめん。
「私もないわ」「ないわね」
「そ、そんなあ、……もしや、豊姫様にとろいって言われたのは、それが理由?」
「たぶん」お雛様はおっとりと首をかしげて、優しい笑顔で「理由の一つ、だと思うわ。具体的には理由は行動全般」
 あー、言っちゃった。――レイセンはがくーっ、とへこんだ。
 さて、私は抹茶アイスの最後の一口を食べて、
「ちょっと研究所行ってみるわ。メリーはどうする?」
「私はここで見てるわ」
 優しい表情で駆けまわる女の子たちを見るメリー、そう、と私は頷く。
「あ、私も行くわ」鈴仙は立ち上がって「レイセンはどうする?」
「私はここで見ています」
 お雛様もメリーの膝の上から動こうとしないし、
「じゃ、行きましょうか」
「そうね」
 立ち上がる、鬼ごっこを邪魔しないように遠回りに、だから、
「鈴仙とてゐちゃんであの博物館やってるの?」
「そうよ。館長がてゐで、……まあ、大体の仕事は私がやってるんだけど」
「てゐちゃんは指示を出す役?」
「ま、そんなところ」もっとも、といって肩をすくめ「いろいろ要領がいいし、気が回るからね。結構フォローしてもらってるわ」
「メインは鈴仙が働いて、後詰めはてゐちゃんって感じ?」
「そうね。最後のチェックとか、代りに普段はめったに働かないんだけど」
「それもだめじゃない?」
「館長なんてそんなものでしょ。
 そんなに無茶なことは、……まあ、てゐの趣味範囲外でならそんなに無茶なことは言わないから、私一人でもやっていけるわ」
「何かあったらてゐちゃんがいるからね」
 鈴仙はちょっとムッとした表情を浮かべ、ため息。
「そういう言い方は意地悪ね。
 まあ、そうだけど」
「ごめんね」
「いいわよ、間違えたことじゃないんだし」そして、うん、と一つ頷いて「私ももっとしっかりしないとね」
 そして、研究所の中に入る。
「うわー」
「ん、来たんだ」
「さっきの?」
「ようこそ、まあ、ゆっくりしていってくれ」
 中央の大きなテーブルを囲い座るてゐちゃん、妹紅さん、慧音先生。
 は、――いいとして、その周り、ずらり、と物凄い量の本がある。
 ハードカバーから文庫、冊子、新聞らしきものまである。形状には節操がないけど、
「これ、全部民俗学関連?」
「そりゃそうだ、そういう研究をしてるんだからね」
 妹紅さんが新聞を片手に笑う、その傍ら、てゐちゃんが不思議そうに、
「にしても、鈴仙がこっち来るなんて珍しいわね」
「ま、たまにはね」
「二人とも、興味があるなら好きな本を読んでいっていい。
 まあ、汚されたら困るけどね」
「そんなことはしないわよ。
 それに、」時計を見る、もう、午後四時半か「あんまり時間もないでしょ?」
「む」「ああ、後半時間で閉館か」
「おっと、じゃあ急がないと、
 鈴仙、ちょっと手伝ってくれる」
「いいわよ、なに?」
 てゐちゃんは一枚のメモを渡して、
「この本探してくれない?」
「ん、わかったわ」
 受け取って、ざっと見て、……うん、
「私も手伝おうか?」
「いいの?」
「ん、まあ、本を読む時間もなさそうだしね」
「そっちにある冊子だが、持っていってもかまわないよ」
 え? ――と、これ?
 慧音先生の示す先には、『遠野の昔話』と書かれた冊子が置かれている。
「遠野地方に伝わる昔話だ。
 興味があるなら持っていっていい」
「『遠野物語』とは違うの?」
「まあ、いくつか内容は重なっているが、『遠野物語』に掲載されていないのもある。
 そのくらいのサイズなら暇つぶしにもなるだろう」
 暇つぶし、――ってわけじゃないけど、なら、
「ええ、ありがとう」
 手伝い終わったら持っていこう。と私は頷く、そして、
「じゃあ、蓮子」鈴仙はメモを示して「この、『柳田國男全集』、ってお願い」
「了解」
 『柳田國男全集』、ね。
 ざっとあたりを見る。ハードカバーや小冊子、文庫、と。……小冊子だとしたら面倒ね、背表紙もないし。
 出来れば文庫を、と思ってあたりを見る。――――――――うぇ?
「あ、――あの、れーせん」
「なによ?」
「あれ、全部?」
 震える指が示す先。――鈴仙が硬直した。
 発見は簡単だった、当たり前、ずどんっ、とそんな形容さえ出てくる巨大な本が、三十六冊。ずらり、と並んでいる、かなり壮観な光景。
「……がんばってね」
「不可能よっ!」
 三冊でも無理っ!

「あははっははっ、本気で引っかかってくれるなんてっ、やったかいがあったわっ」
 心底楽しそうに笑うてゐちゃんに、私と鈴仙はそろって肩を落とす。やられた。
「まったく、相変わらずてゐは懲りないね」
「まあねーっ、いやいや、やりがいがあるってものよ」
 妹紅さんは呆れてぼやく、それにもてゐちゃんは絶好調に応じる。
 で、
「楽しそうね、メリー」
「……レイセンはまた転んでるし」
 サニーちゃんを右手に、チルノちゃんを左手になんかくるくる回っているメリーと、倒れてスターちゃんにつつかれているレイセン。
 ベンチを見ると、リリーちゃんがお雛様を抱えて座っていて、その隣であくびをしているルナちゃん。
「あっ、蓮子終わった?」
「まあね」
「そろそろ五時だぞー、子供は帰って寝ろー」
 妹紅さんが声をあげる、えーっ、と。
「あたいはまだ遊ぶっ」「私もまだまだいけるわよっ」
「だ、め、だっ、ほらほら、さっさと子どもは帰れ」
「ちぇーっ」
「妹紅のケチーっ、けーね先生に言いつけてやるー」
「いいつけられたところで私が言う事も変わらないな」
 慧音先生も顔を出す、子供たちはちぇーっ、と不満そうに、そして、
「じゃあねっ、メリーお姉ちゃんっ、また遊ぼうね」
「ばいばーいっ」
「って、まっ、――っきゃっ」
 ルナちゃんが転んだ。私が駆け寄る前に、サニーちゃんとスターちゃんが駆け寄って、皮肉をいい、フォローして、文句を言って、笑って、立ち上がる。そして、
「ばいばーいっ」
 手を大きく振って、帰っていった。
「元気ねえ」
「子供は元気が一番さ、
 さて、妹紅、私たちも帰ろう」
「そーだな」
「で、三人はどうする?」
 お雛様は私たちが持って帰る事になったみたいだけど、
「あ、私は『八意診療所』に帰ります」
 レイセンはそう言って、さようなら、と丁寧に頭を下げて帰っていった。
 で、
「二人は『Scarlet』に泊ってるんだっけ?」
 にやー、と笑うてゐちゃん。
「ええ、そうよ」
 あ、――メリーの即答に、てゐちゃんは笑って、
「よしっ、帰るの面倒だから、私たちも行くぞれーせんっ」
「はいはい」
 てゐちゃんに振りまわされてるけど、……まあ、まんざらでもないらしい。
 鈴仙もため息を交えて、それでも笑って、頷いた。



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