「うわー、たくさん来たねー」 ルーミアちゃんが一、二、と数えて、 「十四人様、ごあんなーい」って、と「リグルーっ、リグルーっ、どっか入るー?」 それなりに混雑する店内にルーミアちゃんの声が響く、が、答えたのは、 「中央の大きい机、空いてるから埋めちゃいなさいっ」 「なんで咲夜が答えてるんだろ?」 レミィが首をかしげる。確かに答えたのは、咲夜さんの声。 「なんでそんなに大所帯で来るのよっ!」 奥から霊夢の悲鳴が聞こえた、で、ひょい、と彼女は顔を出して、 「妖夢っ」 「へ?」 「あんた手伝いなさい」 「え? いや、私、客ですよ?」 「問答無用」 おおっ、速いっ。 「へ? ちょ? ゆ、幽々子様ーっ」 「がんばってねー」 連行される妖夢をひらひらとハンカチを振って見送る幽々子さん。 それと、霊夢はぐりん、とこっちを見て、 「レイセンは、……いいや」 「言わなくていいですよっ、いいならっ」 あ、へこんだ。 「あと、依姫と豊姫もこっち来なさい。 手伝えーっ」 「えーっ」「なんでですかっ!」 「手が足りないのよっ。自分たちの食いぶちくらい自分で働きなさいっ」 凄い事を言って戻ってきた霊夢は、依姫と豊姫の手を引っ張って無理矢理奥へ。 「え、永琳先生っ」 「まあ、これも経験ね」しょげるレイセンを撫でながら「頑張ってきなさい」 「「そんなーっ」」 うん、 「誰にも容赦ないわね、彼女」 「わ、……わたし、いらない、子」 レイセンはまだしょげてた。 「妬ましいわーっ、こっちがこんなに忙しいのに、呑気に飯食べてる全てがーーっ!」 「あははははっ、がんばって働くんだねー」 「麦酒美味いなー」 「妬ましいわーーっ! 代ってーっ!」 「叫んでないで働けっ!」 「なんか、混沌としてるわねえ」 響きわたる店員さんの叫び声、思わずぼやいた言葉に案内をするルーミアちゃんが微笑んで、 「賑やかだよー」 確かに、さて、と私たちは腰を降ろす。 「蓮子、メリー、いい加減酒は大丈夫?」 レミィの問いに、 「明日は博物館とか、町内を回るみたいだから、多少寝坊しても大丈夫じゃない?」 永琳先生が答える。まあ、そういう予定になった。 「よし、じゃあどんどん行こうか。 私はワイン、赤で」 「私も、白を」 へえ、とレミィが私を見て微笑む。 「行けるねえ」 「っていうか、レミィはお酒呑めるんだ」 「ここに暮らしてて酒を飲めない奴はいないよ」 「こいしちゃんも飲めるの?」 メリーは不思議そうに問い、こいしちゃんは元気良く頷く。 「レミリア、蓮子も、最初はまとめて麦酒にしませんか? 初めからばらばらに注文したら、彼女も混乱するでしょう」 それもそう、か。 ふむ、と頷くレミィを見て映姫さんはぐるり、と。 「飲めない人はいますか?」誰もが首を横に振る、なら、と「ルーミア、麦酒を十一、お願いします」 「りょうかーい。 ありがとー、一斉に注文されたらどうしたものかと思ったよー」 「かもしれませんね」 取りあえずメニューを広げる、今夜は宴会になりそうねえ。 「今夜は宴会かしら?」 メリーも同じ事を思ったらしい、問いかけに、 「ええ、お二人の歓迎と行きましょう。 昨日でもよかったんだけど、ごめんね」 幽々子さんは悪戯っぽく舌を出す。もちろん、言う事は、 「「ありがとう、みんな」」 「私も参加したいわーっ」 「お姉様、……とりあえず、諦めましょう」 「なんで働いているんでしょうね? 私たち」 「妖夢、気にしたら負けよ」 「っていうか、ここで霊夢に目をつけられたら負けですね」 「うう、こんなに忙しいのに、お腹すいたのに、料理を運ばなくちゃならないなんて、 ここで酒を飲んでご飯食べてる全てが妬ましいわーっ」 凄い口上と共に料理が来た。 「あはは、しょうがないさ。 無料で賄いもらってる身なんだから」 ヤマメがどうどう、と肩を叩いて、 「無料働きよりはましー」 「……ミスティア、さらにへこむような事を言わないでください」 割烹着完全装備の妖夢が悄然と呟いた。――彼女、ミスティアっていうんだ。 「ふふ、ありがとう、妖夢」 「ま、適当に抜けてきますよ。 私の分の席、空けておいてください」 「私の膝の上とか、どう?」 「へえっ?」 「そりゃさすがに重くないかい?」 笑いながら身を乗り出す小町さんに、妖夢は顔を赤くして、 「重くないですっ」 「私よりは重いー」 「……そりゃ、ミスティアよりはそうかもしれませんけど」 っていうか、歌ってばっかりね。 さて、四人がかりで並べてくれた料理。 ずらり、と。――宴会って感じね。 楽しみ。宴会とかは大好き、お祭りも好き、騒ぐのは大好きだし、 さて、と。 「さて、それじゃあ、乾杯と行きましょうか」 レミィが麦酒を持って立ち上がる。 「私の新たな客人と、ここにいるすべての者が交わった佳き運命に、」 す、とグラスが掲げられる。よし、 息を吸う、思いっきりの声を張り上げて、 「「「「乾杯っっ!」」」」 「ううん、麦酒は慣れないわね」 一口飲んで、苦笑するさとりちゃん、ちなみに減っているようには見えない、なら、 「んじゃ、私もらうよ」 ひょい、とその麦酒をもらう私のグラスはもう半分無くなっている。 さとりちゃんがあら、と笑って、 「はい、メニュー」 「ええ、ありがと」 永琳先生からメニューをもらって視線を落とす。 「お姉ちゃん、ワインとか好きなのよね」 こいしちゃんが笑って言う、「こいしもでしょ」とさとりちゃんは唇を尖らせる。 「私は日本酒ね」「ワインが一番美味いわ」 ばちっ、と。――いや、火花散らさないでよ、レミィ、永琳先生。 「あはは、まー美味けりゃあなんでもいいんだけどね、あたいは」 「小町は節操がなさすぎます。 それに酒ばかりでは悪酔いしますよ。ちゃんと食事もとりなさい」 「うへえ、映姫様、ここでお説教は辞めて」 「賑やかね」 「あら、大体いつもよ。 結構たまり場に使われているのよね、『博麗』って」 つい、とあたりを見る、ぱたぱたと走り回る依姫と豊姫。割烹着装備。 「そうなの」 「ええ、料理も美味しいし、なにより、――」 つい、と幽々子さんが向けた視線の先、 「ヤマメっ、パルスィっ、さっさ取りに来なさいっ。 美鈴っ、これ一番の卓っ! 妖夢、こっち切ってっ」 凄まじい速度で指示を飛ばす女の子。 「大体の子は彼女が好きなのよね」 「店主?」 「ええ、霊夢」幽々子さんはくすっ、と笑って「なんでなのかしらね? 私も彼女のこと好きよ。けど、理由は、忘れちゃったわ」 「お嬢様、妹様も、ただ今戻りました」 「へふはー」 咲夜さんと美鈴さんがため息をついて戻ってきた。 「お疲れー」 「ん、とりあえず、酒は?」 「そこは抜かりなく」咲夜さんは瓶を二本「かっぱらってまいりましたわ」 「さすが咲夜ねっ、転んでもただでは起きないわねっ」 わあっ、と両手をあげるフランちゃん。 「お褒めにあずかり光栄です」咲夜さんは隣を見て「美鈴、いい加減復活しなさい」 「へふー、疲れましたよー」 「えっと、あれ、窃盗なんじゃ?」 おずおずとレイセンは永琳先生にいう、永琳先生は深く頷いて、 「別にいいんじゃない?」 「それでいいんでしょうか?」 よくはないと思うけど、 そして、咲夜さんは手をあげて、 「妖夢っ、お豆腐のサラダを持ってきてっ」 「抜け駆けなうえに、私を指名で注文ですかっ!」 「さっさと作りなさいっ!」 ふむ、と。 「依姫っ、豊姫っ、私に焼酎をっ」 「は、はいっ、ただいまーっ」 「嫌がらせに走り始めたわね」 さとりちゃんは淡い微笑で言う、……いや、笑うところ? 「あ、よ〜む〜、私にもサラダー」 「はいいっ?」 奥から、肯定の返事何だか悲鳴何だかわからない声が響いた。 ふー、と一息ついて私たちは『博麗』を出る。 「そういえば、さとりちゃんたちはどうするの?」 永琳先生たちや幽々子さんと妖夢、映姫さんと小町さんはそれぞれ帰る場所に、なら、 「大丈夫よ。 『Scarlet』においてもらう事になったわ」 「おいて、って」 「暮らす、っていうわけじゃないでしょ? 人じゃないんだから」 さばさばとレミィがそう言って、さとりちゃんは笑って頷く。 人じゃない、――まあ、ザシキワラシだから当然か。 「ええ、だから二人の部屋の真正面の部屋でこいしと座ってるわ」 「……正座で?」 「ええ、正座で」 いや、力を込めて言わなくても、 「美鈴、大丈夫」 「はい、大丈夫ですよー」 よいしょ、と美鈴さんはフランちゃんを背負いなおす、どうも、酔い潰れちゃったらしい。 ちなみに、こいしちゃんも似たり寄ったりで、さとりちゃんと手を繋いで半ば寝てる。 「んじゃ、戻りましょうか。 といっても、隣だけどね」 「お二人は、明日朝はどうしますか?」 「市内の、博物館とか図書館に行ってみるわ」 「じゃあ、今日よりも遅くて大丈夫ですか?」 「そっちの方がいいな。毎日あんな早起きじゃあこっちが疲れるわ」 無理に付き合ってくれなくてもいい、――っていうのも、野暮よね。 「何時に起きてたのかしら?」 「朝八時、前。 まったく、いつもは寝てるわよ。その時間。ねえ、咲夜」 「いえ、私はいつも起きて仕事をしていますよ?」 うぐっ、とレミィが、 「ねえ、美鈴」 「へ? 私はいつも起きて仕事をしていますよ?」 「ぐぬぬ」 「なにを唸っているのよ?」 「さとりは?」 「仕事はしていないけど、そのくらいには起きてたわね」 「……別に、必要がなければ起きないわよ」 あ、拗ねた。 「早起きは三文の神徳。 前にいわなかったっけ?」 あ、 「諏訪子ちゃん?」 「やっほ」夜道、神様の女の子はけろけろ笑って「楽しそうだね。どう? 遠野は」 「楽しいわ、期待以上に」 「それはよかった」 「神様も家に来るとは言わないよね?」 レミィの問いに諏訪子ちゃんはけろけろ笑って、 「まさか、私はそっちの屋敷神とは違うさ。 見知った顔を見れば挨拶をしたくなる、ってなところよ」 「否定しないけどね。 では、神様、また気が向いたら会いましょう」 「あはははっ、その時は『Scarlet』に遊びに行くよ」 じゃあねーっ、と諏訪子ちゃんは両手を振って、遠野の夜の街へ駆け出して行った。 うーん、 「やっぱり神様?」 「他の何に見えるのよ?」 レミィにあきれられた。 ちゃぷん、と。ホテルの大浴場に私はのんびりと浸かる。視線の先には体を洗うメリー。 はあ、極楽。極楽。 「はあー、疲れたわー」 「マッサージは正解だったわね」メリーは足を軽く揉みながら「だいぶ楽になったわ」 「筋肉痛なんて笑えないからねえ」 「ほんと」 と、から、と。 「失礼、いいかしら?」 「あ、咲夜さん?」 戸をあけて入ってきたのは咲夜さん。 「どうぞー、っていうのも変よね」 「そうでもないわ。私はここの従業員、貴女はお客様だもの」 そう、かもしれない、けど、なら、どうして? そういうところきっちりとしてそうなんだけどな。 「まずは報告、貴女たちの服だけど、勝手にクリーニングに出しておいたわ」 そして、咎めるように表情を厳しくして、 「だめよ、女の子なんだから、そういうところに気を使わないと」 「あはは、面目ない」「ありがとうございます」 苦笑する私と、頭を下げるメリー、それを見て咲夜さんもくすくす笑う。 「それと、ありがとう。 お嬢様や妹様も二人が来て楽しそうだし、感謝するわ」 「どういたしまして、っていっても、別に何をやっているわけでもないんだけどね」 「蓮子はマイペースねえ」 「…………メリーにだけは言われたくないわ」 へ? ときょとんとするメリーに戦慄を感じた、なにこの無自覚? 「でも、いいんですか? 私たちだけに、なんか、特別扱いっていうか」 最初、フランちゃんと会ったのは偶然だし、それで彼女の相手をした。けど、 そのあと一緒に食事に行ったりとか、他のお客さんはいいのかしら? ふと、――そういえば、そもそも、ここ私たち以外に誰か泊っているの? ない、って事もないと思う。凄いいいホテルだし、京都の三ツ星ホテル、とか雑誌で紹介されているのと遜色はないと思う。 「たちだけ? 貴女達の他に誰がいるの?」 咲夜さんは、不思議そうに信じられない事を言った。 「え? 誰も泊ってないんですか? 私達以外に」 メリーの問いに、咲夜さんは首をかしげて、 「そうね、私の知る限り、お客様は貴女達、くらいね」 知る限り? って、 「他に、お客さんって、いないんですか?」 「ええ、そうよ」 信じられない、ばかげた問いに、咲夜さんは至極当然と肯定した。 「そうそう、さとりとこいしから伝言だけど、 ヒマだったら遊びに来てほしいそうよ、扉はあけっぱなしだから」 頷く、――けど、そういえば、 「おいて、って、そういうものかしらね?」 なんか、表現がおかしいような、まあ、細かい事かもしれないけど、 「まあ、神様だからね。 なんていえばいいのかしら? いる? ものでもないのよね」 「うーん、難しいわね」 咲夜さんは苦笑し、メリーは首をかしげる。そして、私は何が何だか、 「メリーメリー、どういう事?」 「羊みたいな名前ね」 メリーさんの羊、……じゃなくてっ、 「御神体に宿る、という事を考えれば置く、といういい方が正しいでしょ? 蓮子はお地蔵さんを見かけたら御地蔵さんがいる、という? それとも置いてある、という?」 「うむ?」 それは、――そう、だけど、 「逆に自然の神格の神々としては自然現象そのものなんだから、いる、とか置く、とかいう表現も似合わない。 強いていえば、ある、よね。 なら、座敷神は、御神体はない、この館そのものに宿るなら、ある、といういい方もおかしいわね」 うーん、………… 「まあ、でも、いるでいいんじゃない? 手っ取り早くて」 そして、いいだした咲夜さんがフランクに私の煮詰まった疑問をぶった切った。 「そ、それで終わりっ?」 「別に何でもいいじゃない。 蓮子は物理屋だから、難しく考えすぎよ」 「メリーに説教されたっ、なんでよっ! 解説したのメリーじゃないっ」 「一般論ですわ」 澄ました顔で言われた。それを見て咲夜さんは笑う、楽しそうに、 うーむ、――あんまり表情変わらない人だから、なんかそう楽しそうに笑われると、 「はあ」 怒る気力もなくなって、私は湯船に沈んだ。ぶくぶくと、 浴衣に着替えて、着てた服はそのまま咲夜さんが持っていった。 さて、部屋に戻ってベッドに横になる。 「ん、今日も疲れたわー」 「っていうか、いろいろあったわね。今日も」 「そうねえ、さすが遠野、広いわ」 「いや、蓮子、それはあんまり関係ないと思う」 ごろん、と寝転がってメリーに視線を向ける。 「ん?」 「でも、なんか違和感ない?」 「ザシキワラシや河童が普通にいるのに違和感を感じないほど、私は蓮子みたくないわ」 「……ちょっと待ちなさい、私だって変だって思うわよっ」 「え? ……う、そ?」 「うわっ、なんか傷つくわねそのリアクションっ! メリーは私の事をなんだと思ってるのよっ!」 「秘封倶楽部の暴走役」 「なわけがあるかーっ! 「うるさいわよっ! さっさと寝なさいっ!」」 扉を蹴り壊さんばかりに突貫したレミィ。 「「ごめんなさい」」 ずるずると、私は再度ベッドに寝転がり、メリーもそれは同様。 「寝よう」「そうね」 おやすみなさい。と、私は目を閉じた。 目を閉じる前に、月が見えた。 その月は、この場所の名前を教えてくれた。 『遠野』、と。 |
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