『さがさないでください』

「と、手紙置いてきたから大丈夫よ」
「いや、それはだめだと思う」
 なぜだか寺小屋に現れた妙な客に、慧音はため息。
「先生、その人はお友達?」
 生徒の少女がおっとりと首をかしげる。さて、どういったものか、と考える間もなく。
「ええ、友達よ」
「…………まあ、そうだな」
 とりあえず頷いた。妹紅との確執が気になるけど、知らない仲ではないし、会えば挨拶は交わすし気が向けば立ち話にも興じる。
 それならそれでもいいか、と慧音は苦笑。
「きれー」
「あら、ありがとう」
 思わず、という感じで呟く少女に、彼女はころころ笑って頭を撫でた。
 まあ、それはともかく、
「で、どうしてこんなところに来たんだ? 輝夜」
 というわけで、何だか一人ふらりと現れた永遠亭のお姫様に聞いてみた。
「どうってほどじゃないけど、前に永琳に言われたのよ。
 やりたいことが見つからなければ、やりたいことを見つけることをやりなさいって」
 ほう、と慧音は頷く。あとで子供にも聞かせてやろう、と思いながら、
「いい事を言うな、あの薬師も」
「そうね。
 意味不明五割、毒三割、妄言一割、金言一割で出来ているわ。永琳の発言」
「…………また、随分と話しにくそうだな」
 一瞬納得してしまった自分に苦笑し、慧音は頷いて、
「つまり、やりたいことを探すための散歩か。
 まあ、好きにするといいさ、お前は好き好んで人に害を成すようには見えないからな」
「私はそんな好戦的じゃないわよ。
 いついかなる時も仕方なく、よ。弾幕ごっこもね。もちろん、」
 苦笑。
「妹紅の迎撃も、ね?」
「買わなければいいだろう?」
「押し売りならそれもいいんだけどねえ。殴り込み売り、――ううん、語呂が悪いわね。
 まあ、そんな感じだし仕方なくよ」
「はあ、妹紅も止めているのだが、なかなかなあ」
「一応御苦労さま、と言っておくわ」

「ん? お参り?」
 ダウザーとしての務め、――と、好奇心や探究、暇つぶし、その他もろもろの理由でしていた散歩の帰り、一人の少女と出くわした。
「んー、半分正解よ」
 問いに、少女――輝夜はころころと笑って応じる。その答えに、ナズーリンは首をかしげる。
 この道の先にあるのは命蓮寺。後は行き止まりくらい、だから、と。
「半分?」
「観光はお参りになるのかしらね」
「……知らないよ。
 ま、来るもの拒まずだ。好きにするといいさ」
「あら? 貴女はこの先のお寺の、……えと、命蓮寺、だっけ?
 そこに暮らしているの? 僧には見えないけど」
 さて、どう答えたものか、とナズーリンは首をかしげる。
 毘沙門天の使いとして、寅丸星の監視兼従者。……だか、お目付役兼フォローだか、なんだかよくわからない縁でいる。
 だから、まあ、
「暮らしているけど僧じゃないよ。
 偶さかの縁でいるだけさ」
「ふぅん、いい響きね。縁。縁。――」繰り返しくすくす笑う「そうね、私がここに来たのも偶さかの縁。良縁でありたいわ」
「……まあ、勝手にすればいいさ」
 なんか変な人が来たなあ。とナズーリンは内心でぼやいた。
「そういえば、君は妖怪かい?」
「そう見える?」
「そう見えない妖怪も多いからね。
 まあ、うちはどっちでも受け入れるけど、どっちかっていえば妖怪優遇なのさ」
「それは残念ね、私は地上の穢れた民よ」
「…………はあ?」
 簡単な問いに意味不明な答え。ナズーリンは首をかしげる。
「まあ人間よ。人間」輝夜は軽く手を広げて「見ての通り、普通の人間よ」
「なんていうか、とてもそうは見えないんだけど、」何なんだろうなこの人、と呆れながら、ふと、前を見る「見えてきたよ」
「あら、ちっちゃくって可愛いお寺ね」
「そう? あんなもんじゃない?」
 問いに、輝夜は首をかしげて、
「私が知っているお寺って山一帯とかそういうのばっかりよ。
 僧が御神輿担いで都に強訴っ! 強訴っ! とか行列してたわ。お祭りみたいで楽しかったわよ」
「…………なに? その奇祭」
「さぁ? 面白いんじゃない。私はよくわからないけど」

 とりあえずお客だし、とナズーリンは一輪に一言告げ、輝夜はそこに漂っていた雲山に向けて手を伸ばしていた。
「雲でも触れるのね。意外だわ」
「まあ、そうかもしれないね。
 雲山は入道だから」
 マジマジと手を見る輝夜に一輪は苦笑して頷く。
 そして、軽く手を広げて、
「ようこそ、命蓮寺へ」

「はじめまして、命蓮寺で尼僧をしています。
 聖白蓮です」
「ええ、はじめまして、地上に這いつくばって暮らす民の蓬莱山輝夜よ。
 今日はとりあえず来てみたわ」
「は、はあ?」
 妙な自己紹介に来客に向けた穏やかな笑顔はきょとんとなる。そんな表情が面白くて輝夜はくすくす笑う。
「ま、なんでもいいわ。
 えっと、――散歩? 暇つぶし、――まあ、何となく来てみたわ」
「そう、ですか?」
「ええ、実は、こんなところにお寺があるって知ったのも数刻前なのよ。
 知らないところがあったらとりあえず行ってみようと思わない? 面白そうだし」
「そうですか? まあ、でしたらどうか私のお話も聞いていただけますか?」
「ええ、これも偶さかの縁。
 興味深い噺、面白い噺、大歓迎よ」
 では、こほん、と咳払い一つ、白蓮は姿勢を正す。
「私は人と妖怪の共存を目指しているのです」
 むん、と胸を張って告げる白蓮に、
「は? 共存もなにも、妖怪も人間も大差ないじゃない」
 輝夜はあっけらかんとそんなことを言った。
「は?」
 肯定か否定か、共感か拒絶か、その反応を待っていた白蓮は肩を落とす。
 意外、とそんな白蓮の反応に輝夜は首をかしげて、
「私も人も妖も、皆同じ、穢れた地上に這いつくばって生きる者には変わりないでしょ?
 なら、どれも大差ないじゃない」
 白蓮はしばらく唖然、と輝夜を見る。
 輝夜はそんな白蓮をとりあえず見つめる。
 なんだかよくわけのわからない沈黙に、とりあえずお茶をもってきた水蜜は固まる。
 どーしたものか、とナズーリンが内心でため息をついたところで、白蓮が苦笑。
「なんというか、当たり前のようにそう言う人もいるのですね。
 妖怪を見かけたら問答無用に退治する、そのくせ妖怪に好かれる巫女も変わっていますが、本当に幻想郷は不思議な人が多いですね」
「え? 私そんなに不思議?」
 普通に驚く輝夜にナズーリンはため息。
「かなり変わってるよ」
「そうかなあ。永琳のほうが変だと思うけど」
「君にそう言われるなら、その永琳とやらは余程だろうね」
「ええ、余程よ」
 と、ここで、
「どうぞ、お茶です」
「あら、ありがとう。水蜜」
「ありがと」
 お茶を受け取って、輝夜は一口。うん、と頷いて、
「普通のお茶ねー」
「まあ、人里で買ったものですから」
「霊夢のところに行くと出涸らししか出てこないのよねー」
「倹約を心がけているのでしょうか?」
 首をかしげる白蓮に輝夜は思う、絶対にそんなことする奴じゃない、と。
「単にケチなだけじゃないかい?」
「あー、それね間違いなく」
 まあ、と頷いて、
「妖怪と人間の平等、だっけ?
 悪いけどあんまり共感はできないわ。それ以前に、そもそもそんなふうに分かつ理由がない。
 結局はどちらもこの穢れた地に宿る有限の命でしょ」
「ですが、妖怪は人に虐げられています」
「代わりに妖怪は人を食らう。
 人は人を殺す、妖怪は妖怪だって殺す。…………ああっ」
 ぽんっ、と輝夜は合点がいった、と手を打って、
「なるほど、ようするに弱い者を助けたいのねっ!
 で、貴方が知っている弱い者が、つまりは妖怪だった。なるほど」
「あ、――えっと、まあ、そんな感じです」
 間違ってはいないけど、と困惑する白蓮と、その様子を見て苦笑する水蜜とナズーリン。
「うんうん、いいことだと思うわ。
 私の知り合いって、変な医者と変な兎と変な巫女と変な魔法使いとかしかいないから、驚いたわ。
 そういう人が幻想郷にいるのね」
「あ、えと、ありがとうございます?」
 真剣に称賛する輝夜に、なんでこんなことになったのでしょう? と首をかしげながらとりあえず白蓮は応じた。
 その様子にナズーリンは笑うのをこらえる。
 輝夜は一人頷いて、
「やっぱり出歩くものねえ。いい出会いがあるものだわ」
 そう言ってお茶を一口。
「そういえば、君はどこから来たんだい?
 人里、には見えないんだけど」
「竹林の奥ーのほうにある永遠亭っていうところよ。
 私そこのお姫様をしているわ」
「永遠亭、ですか?
 確か、腕のいいお医者様がいるとか」
 水蜜がえっと、と首をかしげて言う。輝夜は頷いて、
「ええ、余程な医者がいるわ。
 永琳っていうんだけどね。相談すればたいてい何か答えはくれるわよ。結構意味不明だけど」
 くすっ、と白蓮は微笑んで、
「お医者様がいるところでしたら、怪我をしても平気ですね」
「んー、お医者様がいなくても怪我しても平気よ。
 第一、私死ぬことなんてないし」
 へ? と、
「死ぬことはない?」
「うん、全身が焼き尽されても生き返ったわ。
 まあ、熱いのは勘弁だけど」
 死ぬことはない。
「それは、どういう、理由で、ですか?」
 白蓮は、その意味を問う。
 死ぬことが怖くて、死にたくなくて、外法に手を染めた過去が、再燃する。
 どういう理由? その問いに、輝夜は彼女を思い浮かべ、くすっ、と笑って、
「秘密、――――意地悪じゃなくて、気遣いよ?
 その方法で不死になって、化け物扱いされた挙句に原因はお前だーって殺しに来る娘がいるんだから」
「そう、ですか」
 残念、と白蓮はため息。その態度にナズーリンは眉根を寄せ、「それはまた、災難ですね」と水蜜は苦笑していう。
「まあ、といっても死なないから殺しに来られてもねえ。
 向こうもそれがわかってて来るんだから、暇なんだか何だか、ま、私もいい暇つぶしだけどね」
「随分と過激な暇つぶしだね」
「まあね。――それも不毛な。
 あの娘もわかっててやるんだから、大概暇よねー」
「止めようとは、思わないのですか?
 一度話し合い、そのようなことをやめにするとか出来ませんか?」
「無理じゃない?
 っていうか、面倒くさいし、大体どんどこケンカすれば収まるからね。余計な被害出さなきゃそれでいいわよ」
 あっけらかん、と輝夜。白蓮ははあ、と首をかしげる。
 そしてお茶を一口、ほう、と一息。
「さて、そろそろ私は行くわ。
 また幻想郷の面白そうなところを歩きまわらないと」
 立ち上がる、白蓮もそれに続いて、水蜜はお茶を片付ける。
「来てよかったわ。面白い出会いもあったことだし」ちらり、ナズーリンを見て「良縁ね、良縁」
「まあ、私としても変わり者がいるってわかっただけよかったかもしれないね。
 また来なよ。茶くらい出すよ」
 ひらひらと手を振る。輝夜はそれに手を振り返す。
「ええ、そうね。
 今度はお昼寝しに来るわ。涼しくて静かだし」
「白蓮がそれでいいならいいさ」
 そう言って視線を向けた先、白蓮は歓迎します。と頷く。
 そして、外へ。
「これからどこへ行くのですか?」
「そうね。私の事を嫌っている人のところ行くわ」
 嫌っている人のところ、とその言葉に白蓮は眉根を寄せ、輝夜は肩をすくめる。
「私が嫌いっていうわけじゃないんだけど、
 ほら、相性が悪いってあるでしょ? そういう意味。
 顔を突き合わせて嫌そうな顔されたあと、茶飲み話でもするわ」
「そうですか。
 では、貴女の道中に幸多からんことを」
「ええ、ありがとう」
 そう言って輝夜は歩き始める。――ふと、振り返る。
「蓬莱の薬」
「へ?」
「対象を不死にするための薬よ。
 名前だけは教えてあげる。でも、もうないわ。興味があるのなら今度永遠亭にいらっしゃいな」

 命蓮寺を出る。そこで、
「うらめしやーっ」
「きゃー」
 ばっ、と飛び出した少女に、輝夜はとりあえず棒読みで応じた。
「うむむ、あまり驚かなかった」
「ふふ、甘いわよ。
 昔はもっと怖い事なんて割とざらだったわ」
「なんとっ、やはり古典から引用すべきか」
「ええ、――というか、貴女は誰かしら?」
「私は多々良小傘。
 人を驚かせる妖怪よっ」
「そう、はじめまして、私は蓬莱山輝夜。
 ちょっと散歩などをたしなんでいるわ」
 そして、歩き出す。小傘は少し迷って、そのあとを追う。
「ねえねえ、怖い事ってどんなこと?」
「そうねえ。やっぱり人の怨念が一番怖いわー」
「うむむ、妖怪のわちきは一番にはなれないのかー」
 がくっ、と肩を落とす小傘。輝夜はころころ笑って、
「そのわちきって一人称なぁに?」
「私の個性っ」
「かなり捏造ねえ。
 でも残念、可愛いわよ。怖くないわ」
「くっ、気に入ってたのに〜」
 うぬぬ、と苦悩する小傘に輝夜は笑う。
「怨み辛みを抱えた怨念が一番怖い。
 人は同族を殺す、人は妖怪を殺す、人は老人を殺す、人は稚児を殺す、人は主君を殺す、人は従者を殺す、人は親を殺す、人は子を殺す、人は己さえ殺す」
 とつとつ、零れる言葉に、気がつけば小傘は聞きいる。綺麗な声に流れるような言葉。
 その言葉が止まり、視線が向けられる。
「ねえ、小傘」
「あ、うん」
「本当に怖いものはね」とん、と輝夜は小傘の胸を指で突いて「心がないもの。憎悪、怨念、強い負の思いで、心が壊れたものが、一番怖いの」
「そうなの?」
 ええ、と輝夜は頷いて、小傘の髪をなでる。
「怖がらせよう、そう思っているうちは本当の恐怖にはたどり着けないわ。
 そう思う心さえ破綻したもの、それが一番怖いの」
「うむむ、難しいね」
「そうね。
 でも、古典を読み解いてみなさいな。人の怨念が一番怖いわよ」
「うーん」小傘はため息「私も、勉強に読んでたけど、そういうのは苦手。――なんか、読んでいるこっちまで痛くなってくるんだもん」
 怨霊譚は読んだ事がある。裏切られ、心壊された女性の話。それは、
「そういう話は、辛いもん」
 読んでいて、悲しくなった。辛かった。
 裏切られて捨てられたその女性が、昔捨てられた自分の過去に重なって、
 呟く小傘を、輝夜は優しく撫でる。
「え、と?」
「優しいのね、驚いたわ」
「うう、驚くところが違うよお」
 ただ、撫でられるのも、優しい、と言われた事も嫌ではなくて、
 小傘はくすぐったそうにしながら、撫でられるに任せていた。

「…………うわあ」
「のっけから歓迎されてないわねえ」
 いやそうな顔をする幽々子に輝夜はひらひらと苦笑。
「まったく、食べ物持ってきてないけど、だからっていやそうな顔するなんて、そんなにお腹すかせているの?」
「……別にそれが理由じゃないわよ。
 失礼ねえ」
「で、輝夜。どうしたのですか?
 一人でこんなところに来るなんて珍しい」
 妖夢の言葉に輝夜は頷いて、
「永琳が言ってたのよ」
「ええ、それは何か言うでしょうね?」
「そうよ。
 ただねー、結構意味不明なことを言うのよねー」
「あら大変。きっとそれは貴女の理解力が低いからだわ」
「失礼ね、理解力がずれているっていいなさいよ」
「……あ、あの、どっちも大差ないような。
 っていうか、質問に答えてないです」
 おずおずという妖夢に輝夜は肩をすくめて、
「まったく、これだから若いのは、質問にすっぱり回答したら話が続かないじゃない」
「そうよ。妖夢。
 無駄話も楽しめるくらいの余裕が必要よ?」
「半人前だからって人生を急くのは感心しないわね。
 日々を見つめること、これも一人前になるためには大切なことをよ」
「あらら、千年近い引き籠りは言うことが違うわー」
「ええ、貴重よ。
 ありがたがりなさい」
「全然、ありがたみなんてないわ」
「で、ここに来た理由だけど」
「えっ? 戻るんですかっ?」
 唐突な話題の転換に妖夢は変な声を上げ、輝夜は眉根を寄せる。
「なによ、聞いたのは貴女でしょ?
 答えたら驚くなんて、幽々子。失礼な従者だと思わない?」
「そうねえ。
 妖夢、質問に答えてくれるのだから、ちゃんと聞くことは最低限の礼儀よ」
「あ、はい、すいません?」
「永琳が言ってたのよ。
 やりたいことがなければやりたいことを見つけることをやりなさいって、
 とりあえず博覧会とかいろいろやってみたけど、その一環として幻想郷をうろちょろしてみようかなって思ったの」
「それで冥界まで来たの?
 うろちょろする範囲が広いわねー」
「ええ、やるからにはとことんよ。
 手を抜いたら大変なことになるわ」
「……ただの散歩でしょ?」
「でも、それならどうして冥界まで来たの?
 地上にだって面白い場所はいくらでもあるでしょう? 春真っ盛りな神社とか」
「真っ盛りって言っても巫女の頭の中だけで、外はそうでもないじゃない」
 無視された妖夢はため息一つ。なんなんでしょうか、この人たちと少し遠い目。
「それに博麗神社ならよく行くもの。
 やっぱりあまり行かないところがいいわ。というわけで冥界に来たの」
「なるほど、で、具体的には何するのかしら?
 茶飲み話?」
「ええもちろん」
「それで、輝夜。
 散歩が目的でいろいろなところを訪れているのなら、冥界以外にも行って来たのですか?」
「まだ命蓮寺っていう小さなお寺くらいよ。なんか妖怪と人間は平等にあるべきだー、って言われたわ。
 どう思う? 亡霊姫」
「難しいわあ」幽々子は隣に控える妖夢を見て「だって、ここには妖怪と人間が半分半分の娘がいるのよ? 差別したら私はどうすればいいのかしら?」
「人間優遇なら人型を可愛がって妖怪優遇なら魂魄を可愛がればいいんじゃない?」
 なるほど、と幽々子は手を打つ。
「あのー、どっちも私なのですが」

 とにかく、今さらな気もするけど妖夢は二人分お茶を入れる。輝夜と幽々子。二人は相変わらず縁側で謎の会話を続ける。
「それにしても、やりたいことを見つけるために散歩かあ」
 自分もしてみようかな、と妖夢は思い縁側へ。
 そこには相変わらずの幽々子と輝夜。
 仲は、そう悪くはなさそうなんだけど、蓬莱人、というだけでなんだかよくわからない苦手意識が幽々子にはある。
 その理由が食べると毒だから、――もしかしたら苦手、と言っているのも単なる冗談じゃなんじゃないでしょうか? と、あっているんだかずれているんだかよくわからない会話を繰り広げる二人を見る。
「あ、来たわね。冥界特産のお茶」
「いえ、人里のものですけど」
「えー、それは命蓮寺で飲んだわ。
 なんかもっと冥界っぽいお茶ない?」
「冥界のものを食べたら冥界から還れなくなるわよー」
「生きたまま冥界から出られなくなるの?
 うーん、困るわ。っていうか、幽々子はそれでいいの? 苦手な私がずっといつくわよ。永遠に」
「いやねえ。確かに困るわ。
 そういう困った事態にならないためにも、冥界特産の玉露はあきらめなさいな」
「はあ、しょうがないわねえ」
「? 幽々子様、冥界特産の玉露なんてあったのですか?」
「ないわよ」
「ないんか」

「って、これは何のスクープですかっ!」
「なんか酷い言い様ねえ」
 射命丸文はきょとん、と客を見る。
 妖怪の山、――そこに登るには絶対にふさわしくないその姿。
 相も変わらずの輝夜に文は八つ手の扇を取り出して、
「まあ、どっちにせよ。
 個人的には興味ありますけど、ここから先は立ち入り禁止よ」
「入山禁止なんて、昔のお寺みたいねえ」
 輝夜はのんびりと呟いて、現在時刻を永遠にした。
 そして、永遠となった今をのんびりと歩く。そして、永遠を解除。
 文の肩を叩いて、
「んじゃね」
「いっ!」
 ぶんっっ、と振り返る。その表情は、一言でいえば驚愕。
「い、いつの間にっ!」
「さっきだけど、っていうか、山って登っちゃいけなかったんだ」
「まあ、基本引きこもりの貴女は知らないでしょうけど、
 ともかく、だめなものはだめよ」
「だめなんてだめよ。
 私が興味を持ったんだもの。登るわ」
「はあ、まったく、どこのお姫様もこんなのばっかり」
 思い出すのは、レミリアとか天子。軽く頭を抱える。
「ん、っていうか、あややや。
 登るなっていうことは登ったら天狗とかが襲いかかってくるって事? 面倒ねえ」
「なによ。そのあやややって、……まあ、もちろんそうよ」
 ふぅん、と声、そして、
「消えた? ――どういうこと?」



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