「まったく、賑やかね。ほんと」
「んー、でもいいんじゃない?
 あたいはああいう楽しいの好きだよ」
「楽しいっていうのかなんなのか。
 ま、あそこね」
 人里の本屋さん。なにがあるかなー、と。
「あ、霊夢?」
「小傘?」
 本屋から、妙な傘を持った女の子。
「ん? 霊夢の友達?」
「……まあ、それでいいわ。
 化け猫のお燐よ。お燐、こいつは多々良小傘、化け道具よ」
「うらめしやーっ!」
 挨拶するみたいに言われた、だからあたいも、
「うらめしやーっ♪」
「……なにやってるのよ。あんたら?」
 ともかく、
「本屋になんかようでもあったの?」
「んー、怖い本を探しに来たの。
 これも人間を驚かせるためっ! わちきは頑張るよっ」
「はいはい、頑張ってね」
「驚かせる? 人間を?」
 問いに、小傘は頷いて、
「うんっ」
 明るい笑顔。――ごめん、あんまり怖いとか、そういう感じじゃないような。
 ただ、
「人間は死体が動くと驚くよ?」
 過去の経験から引っ張って言ってみる。怨霊を操り死体に宿らせて動かせた時、腰を抜かしてた人間を思い出して、
「う、――し、死体って、ど、どうやって?」
「最近は火葬だからあんまりないかな?
 土葬だったころは墓から死体を掘り起こ「や、やだやだっ、そんな怖い事私やらないっ」あれ?」
 うー、と何か警戒を始める小傘。
「死体を掘り返すなんて、そ、そんなの、動き出したらどうするのっ?」
「怖いよねえ」「怖いわねえ」
 あたいと霊夢はそろって頷く。小傘は「うー」と威嚇。うん、とあたいは頷いて、
「ただ、気をつけなお姉さん。
 たまに、死体が腐っててねえ」
「ひ、く、腐って?」
「半分くらい骨になってて、肉がぐちゃぐちゃになって、虫が「いやーーーっ!」」
 小傘が悲鳴を上げて座りこむ、いやいや、と耳に手を当てて、
「そ、そんなのだめっ! 不気味なのだめっ! 気持ち悪のもだめぇっ!」
 座りこんでがくがくする小傘。
「はぅうう」
「あー、ごめんよ。お姉さん。
 まさかここまで怖がるなんて思わなかった」
 どうどう、と背中をさする。うー、と涙目で立ち上がった。
「うう、意地悪だよお」
「っていうか、あんたが怖がってどうするのよ?
 まずはそっちなんとかしたら?」
「うー、怖いものは怖いのよお」小傘は霊夢を見て「霊夢だって怖いものあるでしょ?」
「あるの?」
 これはあたいも興味ある。
 あたいと小傘の視線が集中する。霊夢は首をかしげて、
「別にないわね。
 魔理沙に聞かれたら御饅頭って答えたけど」
「なんとっ、なら霊夢には御饅頭を持っていけばいいのねっ?」
「落ち付いてお姉さん。それ落語ネタ」
 それはともかく、
「で、霊夢とお燐はどうしたの? お勉強?」
「ん、まあ久しぶりに立ち寄ったのよ。
 なんか面白い本ないかなーって」
「ふーん、お燐は?」
「今だけはお姉さんの付き合い。
 ま、元々はあたいが付き合ってもらってるんだけどね。ちょっと寄り道さ」
「? 何に?」
「今日は、なんでもお世話になっている人に贈り物をする日みたいなのよ。
 だから、あたいのご主人様に贈り物を、って思ってね。買い物に付き合ってもらってるの」
 へ? と小傘が、
「そうなの? 私初めて知った」
「私もよ。まあ、そういう記念日かなんかじゃない?」
 ? 咲夜も知らなかったみたいだし、あんまりメジャーじゃないかな?
 まあ、なんでもいっか。
「うむむ、じゃあ私も白蓮にプレゼントをしないと」
「どんなものプレゼントするの?」
 問いに小傘は一度首をかしげて、
「うーん?」
「あんたもお燐と同じか」
「そうなの?」
 問いに、あたいは頬を掻いて、
「なんていうかさ、ご主人様――さとり様。っていうんだけど、
 なんでも自分でやっちゃう人でさ、だから改めて何を贈ったら喜ぶとか、あんまり考えてなくて」
「うー、白蓮もそうかなあ。
 なんでも喜びそうだけど」
 うーん、と首をひねるあたいと小傘。
「難儀な連中。
 ま、適当に見て回りましょ、小傘はどうする?」
 一緒に来る? と問いに、小傘は少し迷って、
「うーん? 私は本屋も見終わったし、自分で探してみる。
 またあったら一緒に見ようね」
「そ」「わかったよ」
 それじゃ、と手を振ると小傘も手を振り返す。
「にしても、お姉さん友達多いね」
「友達なんだか、よくわからないわ」
「ふーん?」
 ともかく、霊夢について本屋へ。
「いらっしゃい、――と、巫女様?」
「こんにちわ、なんか面白いのない?」
「面白いのねえ」本屋の店員さんは首をかしげて「巫女様には大体渡したと思うんだけど、……どうかな、『諏訪大明神絵詞』は守矢神社の神様に売っちゃったけど」
「なんであいつらそんなのほしがるのよ?」
「さあ、ま、『南総里見八犬伝』ならあるから、それで我慢してくれ」
「馬琴の?」
「まあね。――そういえば、前から欲しがってたけど」
「スペルに使おうかなって、その参考に、
 ほら、夢想封印・八徳、とか」
「仁義礼智信忠孝悌、って弾幕にでも書いてあるのかい?」
「夢想封印・八犬?」
「どんな弾幕だいそれは? 犬でも出るのかい?」
 何か話し始めた店員さんと霊夢、あたいはそっちを無視して、
「何かないかなー?」
 本は慣れないなー、とか思いながら辺りを見る。
 でも、
「さとり様が喜んでくれそうな本とか、あるかな?」
「なんか面白そうな本とかある?」
 ホクホク顔の霊夢。――って、
「あれ? もう買ったの?」
「ええ」霊夢は袋を掲げて「あんまりいっぺんにもらってもしょうがないでしょ? 『南総里見八犬伝』だけでいいわ」
「もらったの?」
「くれるのよねえ」
 いいのかしら? と首をかしげる霊夢に、
「それで巫女様のスペルに磨きがかかって、妖怪から里を守ってくれれば十分さ」
「まったく、変なプレッシャーかけないでよ?」
 苦笑する霊夢に、向こうから笑い声。
「はは、それに本屋って言っても本を買うのは慧音さんか阿求様か、人里でもそのくらいでね。
 眠らせるくらいなら読んでもらった方が本も幸せだろうよ」
「あれ? 小傘来てたんじゃないの?」
「小傘? ああ、さっきまでいた娘か。
 なかなか難しい娘だね。怪談読みに行ったら可哀想とか怖いとか、――うーん、何が何だか」
「…………なんか、あんまり妖怪らしくない娘だね」
「妖怪だったのか、変わった傘持ってるから何かと思ったんだけどね。
 なんていうか、ああいう妖怪もいるんだねえ。驚いたよ」
 しんみりと言う店員さん、霊夢はため息をついて、
「小傘、いろんな人驚かせているわよね」
「方向性間違ってない?」
 ともかく、あたいと霊夢は本屋を出る。ほとんど見てないけど、ま、いっか。
「あとでさとり様と来ようかな?」
「それもいいかもね。あいつどんな本読むんだか」
「結構難しい本読んでたよ。
 あたい、字も読めなかったよ」
「ふぅん、――古語か、それとも、異国の本か。魔術書かしらね」
 さあ、とあたいは肩をすくめる。
「霊夢も興味ある?」
「ま、人並みには」
「ならまた遊びに来なよ。
 さとり様なら書庫案内してくれるよ。きっと」
「そうね。――言っておくけど「魔理沙には言わないようにするよ」ならよし」
 盗まれちゃあねえ。と、あたいと霊夢は次のお店へ。
「次は?」
「うーん、…………あんまり行きたくないんだけど、まあ、しょうがないか」
「無理しなくていいよ?」
「いや、別に嫌いってわけじゃないんだけど、疲れるっていうか。
 まあ、プレゼントっていうんなら、ね」
 何とも言えない表情で霊夢、その視線の先。
「呉服屋?
 あたい、さとり様の服のサイズ知らないよ?」
「日用品もあるからそっちから選べば」
「ん、そうだね」
 ただ、どうも霊夢は、少し気が進まなさそう。
「どうしたの?」
「あー、……まあ、いっか。
 よし、気合い入れて行くわよ」
「…………なんで気合いが必要なの?」
 で、呉服屋突入、問いの答えはすぐに出た。
「あっ! 巫女様っ」
「みんなっ、巫女様がいらっしゃったわっ」
「ほんとだっ、巫女様ーっ」
「…………人気者だねえ」
「なんで、なのかしらね?」
 霊夢は遠くを見た。

 わいのきゃいのやいのやいの、と賑やかになる霊夢の周辺。
 は、いいとして、
「プレゼント?」
「うん」
 あたいの案内を買って出てくれた店員さんに頷く。感謝感謝。
「ご主人様に、ねえ。
 うーん、好みがわからないとなかなか、難しいですね」
「ハンカチも、結構いろいろだねえ」
「そう?」
 ずらり、と並べられたハンカチ。――旧都にも売ってるっていえば売ってるけど、あそこのは手ぬぐいと大差ない。
「あたいが暮らしてるところって、こういうのあんまりないからね」
「あら、じゃあ、いろいろと着てみない?」
「みない」
 即答、ちなみに奥から、
「ああもうっ! 仕事しなさいよっ! 夢想封印やるわよっ!」
 ……人間にそれはどうかと思うわ。霊夢。
 くすくす、と店員さんは笑って、
「賑やかねー」
「霊夢って人気者だね」
 くすっ、と店員さんは笑顔で、
「だって、ここを護ってくれている御方ですから。
 人里も、幻想郷も、……私にはよくわかりませんけど、慧音さんや阿求様がそう言っていたので、間違いありません」
「それが嬉しいの?」
 問いに、店員さんはきょとん、として、そして、笑った。
「はい、――守ってもらえるのは嬉しいです。
 ここの生活は好きですからっ」
「そうだね」
 あたいは頷く。大切なご主人様を思い出して、と。
「巫女様っ、晴れ着っ、晴れ着作りましたよっ! 着て見てくださいっ!」
「なんでそんなもの作ったのっ?」
「うう、あんな小さかった巫女様が、こんなに大きくなって、とうとう晴れ着を着て、……くぅ、泣かせるねえ」
「勝手に泣き出すなーっ!」
「大丈夫っ!
 意味なんていらないっ! 相手もいらないっ! 巫女様の晴れ着を見る、それだけでいいんですっ!」
 むんっ、と胸を張って謎の主張をする店員さん。そして、わーっ! と、店員さんとお客さんが一体となって拍手喝采。
「意味わからないわよっ! ってか、作るなーっ!」
 きゃーっ、と声が上がる。あたいはあたりを見る。お店の中にいるお客さん。
「あのさ、他にお客さんいるんだけど」
「いいんじゃないですか?」
 いいのかなあ?
 まあ、霊夢は放っておいて、
「プレゼント、どんなのにしようかな?」
「その、ご主人様ってどんな方なのですか?」
「にゃ?」
「好きなものとかはわからなくても、その人がどういう人かを考えるのは、プレゼントを選ぶのに助けになりますよ?」
 どういう人か、――あたいは改めてさとり様の事を考える。
 穏やかで、優しくて、ちょっと意地悪で、
「……暖かい人、かな?」
「そう、ですか?」
 困ったような店員さん、あたいは自分で言った事を思い出して、苦笑。
「うーん、よくわからない事言っちゃったなあ。
 ごめんねー、お姉さん」
「いえいえ、御主人さまの事が大好きだっていうのが解っただけでも十分です」
 にゃー、改めて言われると照れくさい。
「女性?」
 問いに、あたいは頷く。
「ふーん、……なら、可愛いものがいいかしらね?
 ほら、こういうの」
 ぱっ、と渡されたものは、レースとフリルに飾られた。可愛いデザインのハンカチ。
 うーん、さとり様には、似合う、かな?
「色はどんなのがお好みでしょう?」
「うわ、結構あるね」
 同じデザインでも、黒、赤、青、といろいろな色が並んでる。――にゃあ、地下には絶対にないね、こんなの。
 力と酒と祭りと、豪放磊落を地で行く鬼が楽園と称す都。――旧都。
 ハンカチなどいらぬっ! 手ぬぐいがあれば十分っ! と。まあ、そんなイメージ。

 店員さんはくすくす笑って、
「お客さんが来たところって、こういうデザインの物はないのですか?」
「うーん、ないなあ」
「では、是非記念に、……っと、じゃないですよね」
 ごめんなさいねー、と店員さん。
「そうそう、さとり様のプレゼントだよ」
「さとり様、――が、御主人さまの名前?」
「うん」
 頷く、頷いて、
「あたいの、大好きなご主人様の」
「ふふ、いいわねえ。そういうふうに言ってもらえるなんて、
 大好き、って、素敵な言葉ね」
「うん」
 あたいは頷くと、店員さんも微笑んで、
「よし、じゃあ、頑張って決めちゃいましょうか」
 うーん、ただ、
「お金足りるかなあ」
「あら、現実的」
 くすっ、と笑顔。にゃー、とあたいは呟いて、
「盗んで手に入れたものなんて持って来たら、さとり様に怒られるよ。
 第一、そんなプレゼントなんて、あたいもいやだし」
「ふふ、いい娘ね。
 そんないい娘にはいいものをプレゼントしちゃう」
「にゃー、ほんとにいいのそれで?」
「ええ」店員さんは苦笑して、あっちを示して「あっちに比べれば安いものよ」
 視線を向ける。
「なもの作られても買うお金なんてないわよっ!」
「巫女様の晴れ着を見れれば、お金なんて要りませんっ!」
 ねーっ、と同意の大合唱。――お客さんからも、
 視線を戻す。
 とはいっても、
「さとり様、どんなデザインが好きかな?」
 うーん、なかなか難しいなあ。
 それに、時計を見る。
「あら? 時間制限があるの?」
「うん、――その、今日中がいいんだ」
 そう、と店員さんは頷いて、なら、と。
「だったら、ここよりも置物とか、そっちの方が決めやすいと思うわ」
「そう?」
「ええ、柄とか色とか、たくさんあるし、
 ここで悩んで時間をつぶしたら、もったいないでしょ?」
 かもしれないけど、
「いや、いろいろと案内してくれたし「なら、」」
 あたいの言葉をさえぎって、店員さんが笑って、
「今度、その御主人さまと一緒に来て、一緒に御揃いの物を選んでみたりとか、楽しいと思うわ」
 さとり様と、……
 あたいはあたりを見る。いろいろな服、日用品とかもそろってる。そこをさとり様と一緒に見て回るのも、きっと、
「じゃ、お言葉に甘えようかな。
 ありがとっ、お姉さんっ」
「そう言ってもらえるだけで案内した甲斐があったわ」
 笑顔、そして、ぺこり、と大仰に一礼して、
「では、またのおこしをお待ちしております。
 次は大好きな御主人さまと、一緒にいらしてください、ね」
「うんっ」

「はー、…………疲れたー」
「……お姉さん、あたいと弾幕やった時より疲れてるよね?」
 ぐったり、と霊夢。
「はー、……まあ、慣れの問題よ。
 っていうか、なによ? 晴れ着だけ用意して、とりあえず着て見てって、何のための晴れ着よ」
「着てるところ見たいんじゃない? せっかく作ったんだし」
「勝手になもの作られて着せ替え人形にされるこっちの身にもなってよ」
 ま、ともかく、……と、
「あら? こんにちわ」
「……うわー、お燐、逃げましょ。面倒なのがいるわ」
「あら失礼ね」
 ふわり、と。緑色の髪の、……多分、妖怪。
 ふわふわとした笑顔の女性。……笑顔、なんだけど、
 霊夢は露骨に警戒してるし、なんか、――なんとなく、危ない。
 妖怪、以前に猫としての本能がちりちりと警鐘を鳴らす。と、
「あ、幽香さん」
「こんにちわ、娘さん」
 近くの、花屋さん? そこから顔を出した女の子が、彼女に向かって挨拶、そして、
「あ、巫女様も、こんにちわ」
「こんにちわ、相変わらずよく来るの? 幽香」
「ええ、これでも草花愛好家のなのよ」
「フラワーマスターがよく言うわ」
「ふふ、それで、そっちの猫さんは?」
「巫女様のお友達ですか?」
「まあ、それでいいわ」
 はあ、と霊夢はため息。
「ふふ、巫女も丸くなったわね。妖怪の友達なんて」
「なんでもいいわよ」
 それにしても、奥、花屋さん、か。
 地霊殿に花はない。あたりまえだけど、太陽ないし、
 お空のあれは――――いや、花を咲かせたり、とかそういうイメージの太陽じゃないわね。禍々しいし。
 ただ、……だけど、
「? どうしたのよ。お燐。
 まさか、花買おうなんて言わないわよね?」
「お買い物ですか?」
 娘さんの問いに、霊夢は頷いて、
「こいつが飼い主にプレゼントって言ってるんだけど、場所がね。
 地霊殿っていう、地下なのよ」
「あちゃ、……それじゃあ、お花はないですね」
 苦笑する娘さん。と、
「地霊殿、貴女、あの嫌われた大妖のペットなの?」
 嫌われた、その言葉に、少し引っかかるけど、……にゃあ、さとり様、気にしないからなあ。
「ま、ね。
 さとり様さ、あたいの御主人さま」
「ふぅ、…………ん」
 幽香は興味深そうに笑って、ぽんっ、と手を打つ。
「旧都のお酒が飲みたいわ」
「飲めばいいじゃない?」
「駄目よ。
 私が地下に行ったら、幻想郷の賢者も地下の鬼も、……それに、地獄の閻魔も黙ってはいないわ。
 だから、とんと御無沙汰なのよ」
「勝手にしなさい」
「だから、物々交換。
 そこな猫さん。地下でも咲く花をプレゼントしましょう」
 へ?
「そんな花があるの?」
「幽香さん。それ、どんな花ですか?」
 娘さんも不思議そうに問いかける。幽香は手に持っている日傘をくるくる回して微笑む。
「…………あんたの力ね。フラワーマスター」
「御名答」
 胡散臭そうな視線の霊夢に、幽香は笑顔で頷く。娘さんもぱんっ、と手を合わせて、
「あっ、幽香さんって花を咲かせたりする能力を持ってるんですよね?」
「ええ、そうよ。
 その能力で、咲き誇る花をプレゼントしてあげる。…………って、お酒と交換じゃプレゼント、なんて言わないかしら?」
「あんたこそどういう気まぐれよ?」
 霊夢は胡散臭そうに問いかけ。幽香は傘をくるくる回して微笑む。
「他意なんてないわ。失礼ね。
 地獄のお酒が飲みたいの、霊夢、貴重なお酒を飲むためなら、安い代価だと思わないかしら?」
「ま、……いっか」
「でも、水をあげないと枯れることには変わりないわ。
 ちゃんと世話をしてあげることね」
 いい? という問いかけ、
 花、か。――にゃー、確かに、地霊殿だと滅多にないし、……さとり様、喜んでくれる、かな?
「ね、お花、いいかしら?」
「あ、もちろんですっ」
「幻想郷の商売人は適当すぎるわよ」
 呆れた口調の霊夢に、娘さんは苦笑して、
「でも、幽香さんにはいろいろお世話になっていますから。このくらいはお安いご用です」
「じゃ、さっさと選んできなさい」

「うわー」
「いろいろよね。どうするの?」
 あたいは、改めて中に入って、圧倒された。
 地下にはない、無数の花。色とりどりの花々。
「す、すごい」
「そう? ――って、地下には花なんてないか」
「まあ、ね」
 あたいは頷く。大輪の花、小さな可愛らしい花、いろいろな花。
「さっさと選んじゃないなさいよ」霊夢は外を見て「そろそろ時間、やばいんじゃない?」
 そう、だ。
 一度博麗神社に行って、そこから地霊殿に戻る。――結構な道のり。
 だけど、――と。
「迷ってるなら」幽香はふわり、と入ってきて「私が選んであげましょうか?」
 そして、奥から一つの花を持ってきた。
 薄紅色の、大きな花。
「乙女百合。お勧めよ」
 どうしよう。――確かに、その花は綺麗だし、……うーん。
 あたいはもう一度あたりを見る。どれも目移りするくらい綺麗で、……よし、
「うん、それにする」
「そう、それはよかったわ」
 くすっ、と笑って、ふわり、と。その花を包み込むようにその力が解き放たれる。
「はい、終わり」
「あ、幽香さんっ。
 花瓶もってきました」
 ぱたぱた。と娘さんが両手に花瓶を抱えて来た。
「ありがとう」
 そういって、花瓶に花を挿して、
「はい、どうぞ。
 あの大妖によろしく」
「あ、ありがと」
 綺麗な、細かい装飾の入った花瓶と、そこにある花を受け取る。……いいにおいがする。
 さとり様、喜んでくれるかな?
「随分サービスいいわね。
 そろいもそろって」
「地獄のお酒はそれだけ貴重なのよ。
 ああ、もちろん、鬼が飲むのをお願いね。――そうねえ。明日、博麗神社にでも」
「別にいいけど、私はいないわよ?」
「あら?」
「近くの茶屋でお茶の淹れかた教えてって言われてるからね」
「そう」なら、と娘さんを見て「ここでお花見、いいかしら?」
「花屋でお花見って、……」娘さんは苦笑して「でも、幽香さんならいいですよー」
「ふふ、ありがと」
「もちろん、……えと、お燐さんですよね?
 お燐さんも、歓迎します」
「ついでにもう一人、いろいろなのから嫌われた妖怪もいいかしら?」
 う、とさとり様を知らない娘さんは困ったように、
「え、えっと、――嫌われたって、危ない、妖怪さん、ですか?」
「そいつに比べれば大体は安全よ。
 幻想郷縁起読んだことない?」
「ありますけど、……そういえば、幽香さん危険度極高」
「で、おまけに人間友好度最悪。酷い評価よねえ」
 ひどい、なんていいながらもくすくす笑う。――まったく気にしてなさそう。
 ただ、
「さとり様なら大丈夫だよ。
 ちょっと意地悪なところあるけど、優しい人だから」
「そう、……ですか。
 解りました。楽しみにしていますっ」
「ま、いざとなったらそこの巫女が暴れ出すから大丈夫よ」
「なにが暴れ出すよ。あんたら妖怪と一緒にするな」
 仲がいいのか悪いのか、霊夢と幽香は言いあい、それを見ている娘さんはくすくす笑う。
 そして、あたいは、手の中の花を抱きしめた。
 さとり様、……喜んでくれるかな?

「じゃ、また明日ねー」
「ん、忘れないでよ。酒」
「はいはい」
 結局、あたいは地霊殿から酒を二つ、……霊夢の分と幽香の分持ってくる事になった。
 まあ、安い買い物、かな?
 幽香は鬼が飲んでる、とかわけのわからない指定がついたけど、……とりあえず強い酒を持っていこう。とあたいは急ぎ地霊殿へ。
 まだ、間に合う。――袋に入れてもらって、両手で抱える花瓶に気を使いながら、帰りを急ぐ。
 急いで、……急いで、そして、
「見えた」
 ぽつり、呟く。旧都の先、地霊殿。
 さとり様のいる場所。――あたいは慣れた家の中を駆け抜ける
 思う事は一つ、さとり様、喜んでくれるかな、と。
 だから、一直線に、
「さとり様っ」
「燐、御帰りなさい」
 読んでいた本から顔をあげて、さとり様が言う。
 そして、ふと、微笑して覚りの目を手で覆った。
 その意味は、……あたいは袋から花を取り出して、
「さとり様。――あの、」
 なんて言おう。なにを言おう。言いたいことはたくさんある。……たくさんありすぎて、何を言えばいいのか、わからない。
「燐、前にいいましたね?」
「あ、うん」
「口に出す事が大切、だと。
 悩む事も、迷う事もないわ。――言いたい事がたくさんあったら、そのたくさんの言葉の元の、ただ一言でいいの。
 それで、十分よ」
 一言、……あたいは頷く。たった一言。
「さとり様、」
 いままで、見守っててくれて、
 いままで、御世話をしてくれて、
 いままで、一緒にいてくれて、
 いままで、大切にしてくれて、

「ありがとうっ」

 さとり様は、優しく微笑んで花を受け取ってくれた。

「どういたしまして、……私からも、綺麗な花をありがとう。
 燐」

 その笑顔、あたいは嬉しくなって、だから、
 もっと、その笑顔が見たいなあ、なんて思って、
「あ、あの、……さとり様っ」
「何かしら?」
 早速、花瓶を持ってあたりを見ていたさとり様。――もちろん、咲夜の言っていたことを思い出して、
「あの、……これから、あたいに出来る事があったら、あたいにやらせてください。
 その、少しくらい、――あたいじゃ、本当に少し、だけど、さとり様の役に立ちたい、です」
 にゃー、……言っててだんだん自信なくなる。さとり様に比べたら、あたいに出来る事なんて「そうね」
「にゃ?」
「燐、貴女が思った通りよ。
 まあ、地霊殿でやる事なんてほとんどないけど、そうね。貴女に出来る事はほとんどないでしょう。
 お茶を淹れること、出来るかしら?」
 うう、……そう、だよね。
 思わずしょげるあたいに、さとり様は優しく微笑んで、
「だから、これからいろいろ教えてあげる」
「へ?」
 教えて? 俯いた顔をあげると、さとり様は優しい笑顔で、
「お茶の淹れ方も、そうね。
 料理の作り方も、いろいろと教えてあげるわ。一緒にやっていきましょう。
 ちゃんと出来るようになったら、その時は私を手伝ってね。燐」
「え、と。
 けど、いいの? その、さとり様、迷惑じゃ?」
 嬉しい、けど、それでさとり様に余計な手間をかけさせるのも、……
「いいのよ。私も楽しいと思うわ。
 それとも、燐は嫌かしら?」
 問いに、あたいは全力で首を横に振る。そんな様子を見てさとり様はくすくす笑う。
 その胸には抱かれた花。花を受け取ってくれたこと、そして、いろいろ教えてくれる、その言葉、そして、
「これからも、よろしくね。燐」
 向けられた言葉と、笑顔に、……あたいは嬉しくて、ただ、嬉しくなって、

「ありがとう、さとり様」

 自分でもよくわからない、いきなりの感謝の言葉に、さとり様は微笑んで、どういたしまして、と言ってくれた。

 さとり様、迷惑じゃない?
「燐、空の件でもですが、貴女は気を遣いすぎです」
 そう? と、あたいは目を閉じる。
 言葉は出ない。猫の声帯に人の言葉を出す事は出来ない。
「まあ、私がいいと言ったのよ。
 それとも、燐は不愉快?」
 問いに、あたいは動きの許す限り、全力で首を横に振る。
「ふふ、そんなに慌てて否定しなくてもいいわよ。
 でも、よかった。悪くないみたいね」
 悪くない、わけがない。
 さとり様の膝の上は暖かくて、あたいをなでる手は柔らかくて、向けられる目は優しくて、…………だめだ、と思う。
「無理は、しなくていいのよ。燐」
 かけられる声は、子守唄みたいに心地いい。
「そうだ、燐」
「にゃー」
 問われた、だから、答える。答えるために、あたいは一声鳴く。
 じゃないと、本当に眠ってしまいそう。
 お話したい。心の声でいいから、あたいの言葉を伝えたい。
 だから、眠らないように、鳴く。さとり様は微笑して、
「眠りたければ眠ってもいいのよ?
 聞きたい事はあるけど、些細なことだから」
 どんなこと?
「ううん、どうしていきなりプレゼントを、って思ったの」
 今日は記念日じゃないの?
 あれ? とあたいは疑問を返す。そして、そういえば、と。
 咲夜も、小傘も、霊夢も、――誰も知らなかったっけ。
「小傘? ――ふふ、燐も面白い友達がいるのね」
 思わず思い浮かべたその姿、そして、追加で彼女の事を思い出して、
「あら、…………そう。――ふふ、面白い妖怪ね。
 そんな妖怪がいるなんて、驚いたわ」
 にゃー、とあたいは一つなく。驚かせる、とその言葉を結構達成しているなあ、と。
「今度、会ってみようかしら? ――燐、一緒に会いに行きましょう?」
 さとり様と、……思い出す、そう、さとり様と一緒に人里に行くって言ったこと、お酒を持っていかなくちゃいけないこと、
 そして、人里にはいろいろなものがあったこと、綺麗な花があったこと、
「そう、……それは、面白そうね。
 明日、私も行こうかしら」
 そっと、あたいの全身が撫でられる。柔らかい手が心地よくて、思わず目を閉じる。
 ずるいなあ。と、何となくそんな事を思った。
 あたいをなでる手が心地よくて、――せっかく、
「いいのよ」
 そっと、頭を撫でられて、
「その時は、案内をお願いね。
 燐」
 ずるいなあ、と。
 あたいが言いたかったのに、こんな甘えた姿じゃなくて、人の形をとって、胸を張って、少しくらい、頼りになるところを見せて、
「その気持ちが有り難い。…………そんなものよ」
 にゃー、と鳴く。
 結局そう言われて、甘えちゃう。
「甘えられるときに甘えなさい。
 それができなくなる時もあるのよ。そして、それが後悔につながる事も、ね」
 さとり様は、誰かに甘えた事があるの?

 その事を少し羨ましく思う。さとり様は苦笑して、
「さあ、どうかしらね?」
 そして、そっと撫でられる。
 教えてくれない、ずるい、と思うのに、思いたい、のに、
 撫でられる手が心地いいから、それだけで、よくなっちゃう。
 にゃー、と、鳴く。
「そうそう、忘れてたわ。
 プレゼント、……何かの記念日だったかしら? 忘れてたらごめんね。燐」
 そういえば、そうだった。あたいも忘れてた。
「ふふ」
 さとり様は楽しそうに笑ってあたいをなでる。どうしてそんなふうに楽しそうに笑うのか「ええ、もちろん教えてあげないわ」
 上機嫌な声に、ずるいなあ、と、
 そして、思い出す、事の発端。――そして、
「あら、そのこと?」
 さとり様は知っているの?
「ええ」
 さとり様は楽しそうに笑う。今度は、その理由教えてくれるかな?
「教えてあげます。
 燐、今日は記念日でも、なんでもないの」
 へ?
 あれ? と、あたいはさとり様を見上げようとして、
「にゃー」
「あら、抗議?」
 見上げるあたいの頭を押さえるように、さとり様の手が柔らかく頭をなでる。
 声は楽しそうに、笑い声を交えて聞こえる。
 そして、もったいぶるような沈黙。ずるいなあ、とあたいは思う。伝えるつもりで思う。
 あたいも、知りたいのに、
「ふふ、……そうね、ごめんね。燐。
 それはね、私が言ったのよ。適当に、ね」
 へ? さとり様が?
「こいし、いつもふらふらどこかに行っちゃうでしょ?
 だから、たまにペットに会える機会をね。……まあ、それを私たちがやっても、罰は当たらないわね」
 そういって、また、あたいをなでる。
 きっと今頃、咲夜や小傘も、お世話になっている人にプレゼントしているのかな、とか。
「記念日一つ捏造しちゃったわね。
 まあ、悪い事でもないし、秘密にしておきましょうか」
 誰も言ったらだめですよ。と、さとり様は優しく呟く。
 秘密の共有、何となくうれしくてにゃあ、と鳴く。
 そして、疑問が解けて、さとり様が何かを呟く。
 それは、語りかけかもしれない、子守唄かもしれない。――ただ、心地いい声。
 ただ、――――もう、だめ。
 膝は暖かくて、撫でる手は柔らかくて、聞こえる声は穏やかで、…………本当に、もう、

 もう意識がもたないから、あまりにも心地よくて、眠ってしまう。前に、

 さとり様。――――

「わかっていますよ。
 だから、おやすみなさい。燐。…………明日、一緒に遊びましょうね」

 ずるいなあ、ちゃんと言わなくちゃ伝わらない、って言ったのは、さとり様なのに、

「言わなくても伝わる。――心を読む私が言うのも、変ですか?
 でも、そういう事もあるのですよ。燐」

 おやすみなさい。



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