「なんと……、私は蒙昧だったのでしょうか」
「こんなの……あたいだって見たこと無いよ!」
「剣士として……素直に尊敬します」
男は、巫女に向かって近づいていく。
絶対あり得ない物を足場に。
霊夢だって驚きを隠していない。

「ワシの七の怒り、ぶつけてやらんかい!」
「パー子! 骨は拾ってやるよ! そのまま行きな!」
「ダンコンなら、僕が拾う! 与えるんだ、一撃を!」
だって、男が足場にしている物、それは霊夢が展開している弾幕なんだから!
確実にトドメを刺そうとしている高密度の弾幕、その上を次々に飛び移り、駆け上って行く!!

「んな、あり得ないじゃない!! あんた何者なのよ!」
「ただの馬鹿な侍だぁぁぁあああああああああああああああああ!!! コノヤローーーーーーー!!!!!!!!!!」
 木刀が届く。
霊夢は地面へ落ちていった。




「そんなもんでやられたって言わないでよね! そんな面白い奴、私が遊びたいんだから!」
「本当に私が苛めてみたいわ。譲っているんだから。わかってるよね?」
「ああ疼く! 闘ってみたい! 博霊の巫女らしく、立ち上がれ! 倒して見せろ!」
「もっと見せないさいよ。こんな財宝よりも価値のある闘い、めったになんだから」
「不死に打ち勝つようなお前が、倒れるなよ!」
立ち上がり呟く。
「全く、妖怪に心配される巫女なんてね……」
傷だらけの男が立ちはだかる。
「おう。まだ遊びは終わってねーだろーが」
一体、何度霊夢のスペルを受けているのだろう?
どれほど、ダメージを受けているのだろう?
「そうよね。まだこれからよ! 『極・夢想封印』」




って、さっきから周囲の面々全く無視してスペル使ってるよね!
どれもこれも周囲に霊弾バラ蒔くから!
「斬る」「Z―――――」
切り落としまくっている人いるけどさ。
大体みんな超高密度の弾幕に耐え、この戦いを見守っている。

 特に目の前にいる銀髪の男へに向けての霊弾。
見たことの無い、一人で出しているとは思えない密度だった。
それを一切の霊力の無い人間が、肉体と精神と一本の木刀だけを頼りに、突き進んでいく。
「行けぇ! 娘を任せた奴がやられんじゃねーぞ!!」
「太子様! 一体どういう事でしょうか!?」
「仙人の才を強く持った人間、そうとしか言えません!」

再び霊夢の近くまで、木刀が伸びる。
大きな塊のような霊弾を浴びせ、距離を取る。
一歩二歩とまた詰めてくる。
「折れるな! 曲がるな! 名刀のように、そのまま行くんだ!」
「その火だけは、何があっても消すんじゃ無いよ!」
霊夢は屈んで、男の懐に入った。
男の体が宙に浮く。霊弾を打ち上げた。
「霊符『滅 夢想妙珠』」
大きな霊弾がいくつも男に向かっていく。
防ぎきれない。
ゆっくりと落ちて行って……、倒れず、着地した。

「まだ、その男は諦めとらん! 十分気をつけるんじゃぞ!!」
「二人共、なんて波長よ……。本当に、人間……?」
「お前は紫様が認めた人間だ! ここで負けるんじゃ無い!」
「銀さん! 負けないで!!」
「ここでやられるタマじゃないでやんしょう! ここが正念場でやんす!!」
男が笑いながら、霊夢を見すえた。




木刀が霊夢の頭上にまで届く。
「『夢想天生』」
いや、その木刀はそのまますり抜けた。
そして襲いかかるのは、数多くの陰陽玉に札。
何度も何度も木刀を振るうが、どれもこれもすり抜け、何発もの攻撃が当たってしまう。
霊夢の「空を飛べる程度の能力」を極端な形で表した、スペルだ。
「金時ぃ! おまんなら、やれるがよ!!」
頭に白い大きな犬がかじりつき、首筋にルーミアと思しき黒い球体を付けている男が叫んだ。
なんで平然としてるんだよ……。
「痛覚ないんか、おまんは……」
ほら、隣の笠を被った人も引いてるし。

 霊夢を襲う斬撃。
それは無駄に終わり続け、それ以上のダメージを次々に負い続ける。
でも、止めない。
まだ、止めない。
これが、か?
「そう、これが霊夢にはない、人間特有の強さ。異常なまでの意志」
「自由だからこそ、強いからこそ持てない強さ。そういう事でしょうか?」
「そういう事よ。この世界の人間はみんな持っているけど、特に強いわね」
 これが、侍なのか。
これがこの世界なのか。
でも、このままだと。
 ガキィ、と何かがぶつかった音がした。




 その木刀の斬撃が、何かに当たった。
霊夢の体から数十センチ離れた空間にだ。
ミシィと音が続く。
「それ、危ないよ!」
チルノが叫ぶ。

……霊夢のスペルを、能力を、破壊している?!!
「だからよ。だから、コイツの存在をなくさないといけなかったのよ!!」
本能的に、それに気付いてたから、攻撃を繰り返していたのか。
それに近い性質のこの世界の人々にまで、攻撃をしていたのか。
「うるせーよ! 自分の殻をこじ開けてなんぼだろーがァァァァ!!!!!」
木刀にさらに力を込める。
スペルにさらに侵入してくる。
「そんなもん、どこのシンジ君だ! どこの童貞だ! どこのダンボール騎士だァァァァァ!!!!!!」
「訳の分からないことばっか言って!! 負けはしないわ!」

弾幕がより強くなった。
男が倒れるのが先か、霊夢のスペルが破壊されるのが先か。
時間制限のあるスペルだったけど、おそらくそのどちらかじゃ無いと、終わらない。
「銀さん!!!」
「銀ちゃん!!!」
メガネの少年とチャイナ服の少女が声を上げる。
それをきっかけに。
「銀時ィィィ!」「霊夢!」「万事屋ァァァ!」「霊夢―!」「旦那!」「霊夢さん!」「銀さん!」「霊―夢!!」「銀の時ィ!!」「れいむ!」「パー子!」「霊夢!」「金時!」「霊ぇ夢ぅ!」「あんぱん!」「霊夢!」「わん!」
次々と。




鍔迫り合いの消耗戦が、二人の名前コールの中、続いている。
侍と巫女が。
かつて大きく傷ついた男と天衣無縫の少女が。
強大な意志を持つ男とこの世の何よりも自由な少女が。
やる気のない者同士が。
常識の無い何でもありの町と郷を象徴する二人が。
異変となったら解決させる二人が。
多くの人や宇宙人や妖怪を引きつけてしまう二人が。
「だからよ。だからマッチするのよ。このかぶき町と幻想郷が」
スキマだ。
「それならマッチさせるのは、当然でしょ?」
「待て。そーゆー理由?」
「そうよ」
もうついていけん……。何気に境界超えているのは気のせいか?
「そろそろ、終わるわ」
名前のコールはより大きくなった。
全身血まみれの男の木刀が、霊夢のスペルに深く入り込んでいる。
強さをさらに増す弾幕に、力を込め続けられる木刀。
その時だった。


バアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンンン!!!!!


 スペルが破壊され、木刀が折れた。




「はあ……負けたわ。今のを耐えきった上に、まさか木刀を当てて破壊するなんて……。
こんな事初めてよ。悪かったわ。好きにして」
「うるせーよ。ごっこ遊びが終わっただけだろーが。何をするも何もねーよ。木刀の弁償しやがれ、コノヤロー」
大きく歓声が上がる。
凄い闘いだったな。
「では、この弾幕ごっこ勝負、両者痛み分けでよろしいな」
と、気品のある声がした。
頭に曲げを結った、思わずひれ伏しそうな人の声だった。
ブリーフ一枚なのが、凄い気になるけど触れないでおこう。
……あれ、さっき乱闘で振り回されたりぶっ飛ばされたりしてた人だよな。

「将ォォォォォ軍ンンンンンンンンンンンンンンンン?!!!」
と一斉にツッコミ。
「え、ええええええええ!?」
って、あの城の偉い人?!
「違う、将ちゃんだ」
何、このどっかのテロリストみたいな言い方。
「良い物を見ることが出来た。後始末、余が引き受けよう」
「そういう事よ。後は宴会ね」
スキマがそう締めた。




 銀時という男が空間に穴を開け、霊夢がそこに飛び込みそこら中破壊して、幻想郷の面々とかぶき町の住民による大規模乱闘異変は、こうして丸く収まった。


 そして、皆の傷が癒えるのを待って、宴会することになったのだった。




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