『倉庫』より服を取り出し、ちゃっちゃと着替える。 こんな時のために用意しておいてよかった。 焼け焦げ破れ最早原型をとどめていないさっきまで着ていた服をコンビニのゴミ箱に入れ、公衆電話もあったので救急車を呼んだ。 ゴリラ顔の男が全裸で倒れていると、通報しておいた。 股間は隠すようにしといたけど。 「で、どーしよ」 霊夢が広範囲に無差別的に攻撃を仕掛けているのは確実だ。 てことはかなり移動速度が速いことになる。 この街は広い。 しかも、聞くと大規模に地下にも街があるようだ。 下手に動いても霊夢を見つけることが出来ない。 空を飛んで、霊夢の姿もしくは弾幕を見つけるように網を張った方がいいか? そんなことを考えていると。 「全く、やってらんねーな。オイ」 そう一人呟く男の声がした。 見ると、あの目が死んでいる銀髪の男がコンビニの前に座り込んでいた。 「あの、さっき霊夢に僕と一緒にぶっ飛ばされた方ですよね?」 と僕。 この人、霊夢から逃げ延びたのか? あのチート巫女から……? 「なんだよ。さっきの兄ちゃんじゃねーかよ。ぶっ飛ばされた所じゃねーんだよ。コノヤロー。 飯でも食ってねーとやってらんねーよ」 そう言いつつ、コンビニで買ったと思われるパックご飯を取り出した。 それにオカズと思しき缶詰をその上に開けた…………って、ちょっと待てええええええ!!!! 「食うんですか?! それ!!」 「うっせーな。いい年こいて思春期ですか、欲求不満ですか、テメーは」 ほっかほっかの温かいご飯、その上に盛られたのは和菓子に使われるアンコであった……。 しかも、ご飯がアンコで見えなくなる位。 「うっぷ……」 マヨラーといい、この世界の味覚は、バカばかりなのだろうか……。 「あの巫女は追ってこなかったんですか?」 吐き気を堪えつつ、聞いてみた。 「追ってきたって所の話じゃねーよ」 チリンチリンとコンビニのドアが開く音が聞こえてきた。 「いたわね! くたばりなさい!!」 「どっから出てきたんだテメーは!!」 コンビニから普通に出てきた!!? 「氷があるわけでもないのに冷たい氷室があると思えば、こんな所にいたのね!!」 コンビニはクーラーが効いてて涼しいからね、とか思っている場合じゃない。 「何だっつーんだよ! コノヤロー!! 人が病院でケガ見て貰おうと思ったらいきなり入って来て、ジャンプ買おうと本屋行った所を偶然会って、便所に籠もっていたら扉開けやがってェェェ! つーか、おかしいからね! 女の子が男子便所に入ってくる時点でおかしいからね!!」 カギしてなかったんですか? 「いくらぶっ飛ばしても手応え無いからよ! あの扉のカギと同じくらいに!!」 ぶっ壊したのね、何も言うまい。 「うるせーよ! どこにいても何か出てきやがって! ストーカーはもう十分なんだよ!」 すると、後ろから声がした。 「銀さん! 何この子!! まさか、銀さんの新恋人? 私と言うものがありながら?! そんな寝取られなんて、しかもこんな子供に……どんだけ私の好みをピンポイントで責めてくるのぉぉぉおおお!! さっちゃん、いやん感激ぃぃいいい♪」 ……何かめんどくさそうな女の人が来た。 その女の人は藤色の長い髪で赤い縁のメガネに胸当てをした、ちょっと忍者っぽい服装だった。 「なんで来るんだよテメーはぁぁああ! こんな時にぃぃぃ!!」」 「流行の寝取られをプッシュするなんて、銀さんたらおませさん♪ 日々屋根裏に潜んで銀さんの私生活チェックしてるのに、さっちゃんたら銀さんが寝取られのすばらしさに気付いていることを知らなかったわ。 恋人に気付かれずに行われるあれやこれ。背徳感。 そして恋人に気付かれ、傷つき合う二人。 でも負けないわ。 障害を乗り越えてこそ愛は育まれるのよ!」 「それただの妄想だからね! 長げー上にそれただのストーカーの妄想だからね!」 「とりあえず、まとめてくたばりなさい」 霊夢の手には退魔針。それを投げつけ……、いや突如出てきた糸に絡め取られる。 「恋路を邪魔する不埒な輩には、始末屋さっちゃん、成敗するわ」 かっこよく決めてるけど、手にしてるの、納豆ですよね? いや、納豆で霊夢の攻撃防ぐ時点で色々おかしいけど。 「よし逃げるぞ」 と、銀髪の男。 「待ちなさい! そして地獄に墜ちなさい!!」 と、凄まじい殺気を振りまき追う、霊夢。 「子供であろうが容赦しない。銀さんとの愛の為ならなおの事。覚悟!」 と、納豆持った女の人。 「みんな、ちょっと待ってぇぇぇぇ!!!」 と、この3人に挟まれた僕。 「霊夢ぅぅぅ! 最近給料上がったんだ! お賽銭これからもっと入れるから! だから攻撃やめてぇぇえええ!」 「そんな事言って、邪魔をするのね! 良也さんもつまりは敵! 一緒に沈みなさい!!」 「なんで、そうな……うわああ!!」 霊弾だけで無く、クナイも飛んでくる! 納豆からクナイに得物を変えて、攻撃して来てる! 「ヤメテ下さいいぃぃい! 危ないですから!」 「銀さんと私の間にいる邪魔物は、お仕置きよぉぉ!!」 アカン。暴走列車二両を止める術が無い!! 必殺のお賽銭も、何か全く無意味だ! あの二人お互い攻撃し合っているから、まだ追いつかれないけど、いつか追いつかれて僕死ぬぞ! いや、生き返るけどさ。 「ただでさえ家賃に追われてるってのに、ストーカーが増えるってどんな日だよ! オイィィ!!」 すると。 「銀時様、お登勢様より伝言です。『家賃払いな!! 払えねんならテメーの命(タマ)を家賃代わりに払って貰うからね!』とのこと。払えそうに無いので、命をいただきに参りました」 そう、少し機械のような声の女性が割り込んできた。 「何でこんな時に家賃の請求に来るんだぁぁああ! 空気読めぇぇえええ!! 払えるモンも払えねーよ!!!」 その人はどことなくアリスの上海人形のような、よくできているけど無機質な感じがした。 緑の髪を束ね、改造したミニスカ風の和服にヘッドドレスとニーソ、足にはジェット噴射するローラースケートを履いていた。 和風メイドと言う感じだ。 その瞳の感じといい……、人形かロボットか? 「たまァァ! ちょっと待てぇぇ! 金の玉は出せねーけど、銀の玉は出せるから! たま同士仲良くしてぇぇええ!!」 「『いいから金の玉、換金しやがれ』との伝言もあります」 すると、手にしていたモップより砲撃した。 ……なんでこう爆破が好きなんだ……。 そしてなんで僕にその余波を襲わせるんだ……。 「新手ね!! 一緒に消滅しなさい!」 「たとえどんなに寝取られても、寝取りかえしてみせるわ!」 そして、ヒートアップする爆走戦車たち。 「チリチリがさらにチリチリになってんですけど! 天パに悪い奴いなくても悪い目には遭うって不公平じゃね?!」 至近距離で爆破されても全然元気な、男。 明らかにダメージ大の、僕。 不公平はこっちだ。 「うわ粘つく…、でまた爆破……。クナイ刺さるし…!」 「ちょっとぉぉおぉおお! エネルギー弾撃ちすぎだろぉぉおお!!」 巫女と女忍者とロボが放つ、霊弾に退魔針にクナイに納豆、そして砲撃。 そんなカオスな攻撃にさらされる僕たち。 「あーもう! 早くくたばりなさいよ!!」 「四角関係なんて、ステキィィィイイ♪」 「家賃代わりのタマを早くお支払い下さい」 お互い攻撃し合いながら、追ってくるモンスターたち。 「いい加減にしやがれぇぇ! 命いくらあっても足んねーよ!!」 すると人影。 それは腕と足をピンと伸ばし、飛び跳ねるようにやってきた。 どこかで見たぞ。おい。 「ゾンビだぞー! お前もゾンビにしーてーくーれーよーう!!」 「はい、何か来たんですけどォォォ! 何コイツぅぅ!!」 「コイツじゃないよ。名前は……えーとなんだっけ」 「芳香!! 自分の名前も忘れたのかよ!!」 脳天気キョンシーがなんでいるんだよ!! 「そうそう、私は宮古芳香。よろしく」 「よろしくじゃねーよ! こんな状態でェェェ!! 」 「あの邪仙のキョンシーじゃない! 面倒くさいから墜ちなさい! 私はあの男を成仏させないといけないの!!」 ……、やけに物騒な事を口走るな。らしくないぞ……? 「むむ! あの紅白には嫌な予感がする! 私に囓られればキョンシーになって生き延びられるよ、どう? こんな風に」 もう一つ、どこかで見た人影が現れた。あのサングラスはまさか。 「殺せぇぇ! 俺を殺せぇ!! ゾンビつーか、キョンシーになって永久に生きて行けるって、どんな罰ゲームだぁぁあああ!!! 俺を殺せぇえええええ!!!!」 「マダオさんんんんんん?!!!! あと、僕って罰ゲーム?!」 「オイイイィィ! 社会的ゾンビがリアルなゾンビになってんですけど! つーか、そのポーズ、マジでキョンシー化ァァァ?!」 「『夢想封印』」 って、霊夢が流れを読まないでスペルを使ってきた! 四方八方に弾幕をまき散らし、全員の始末を付ける気か! 「まるでダメなキョンシー、略してマダキ! 私の盾になれ!」 と芳香。 「え? あれ? 体動かないんですけど。てか、マダキって俺?」 …お前、主人にやられた事をマダオさんにやるのね。 その前に、お前がマダオさんの主人なの? 「よし」 と銀髪の男。芳香とマダオさんの間に移動。 ……すいません、僕も。 「え、ちょ……? あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 冥福祈ります。南無阿弥陀仏。 「銀時様、御覚悟を」 「また女の子? ああん♪ どんだけぇぇぇ♪♪」 霊夢のスペルにも関わらず、ほぼ無傷で切り抜けた追跡者二人。 「どいつもこいつも邪魔ばっかり! 生き地獄に送ってやるわ! 特にその縮れた銀髪に!!!」 「ねえ、何かあったの? 天パに何かあったの?」 「だから霊夢! あとそこのお二人!! 僕、無関係!!!」 「可哀想で可愛くないマダキを倒すとは! 許せん、覚悟!!」 「なんでそうなるの! お前が盾にしたのに!!」 「ただ単にストーカー増えただけじゃねえかぁぁぁ! どうなってやがんだぁぁぁ!!」 もう、収集がつかない!! 「万事屋ァ! 何追われたんだテメーもォォ!!」 さっき聞いた、黒い制服のマヨラーの声がした。 てか、手にはマヨネーズ山盛りのどんぶりが……。 「うるせっつーの! つーか、何持ってやがんだぁあ! 持つべき物は宇治金時丼だろーが!」 まだ持ってた? あの、アンコ山盛りの物体! って、そう言う問題じゃ……。 「何言ってやがる! 持つべきはこのマヨネーズ満載の土方スペシャルに决ってんだろーが!」 んな事争ってる場合じゃないのに! あと、どっちも人の食べる物体じゃない! 「うん、どっちもおいしい」 芳香……。 「あの、そういうそちらは誰に追われているんですか?」 と、僕。 「ああ? やつしかいねーよ」 すると、何かの発射音と同時に周囲が爆破された……。 これはまさか。 「土方さん、みんなの怒りに応えて死んで下さいや」 「ドS野郎だよ!」 「一体何やりやがったんだよ! テメーは! 状況ますます悪化してんじゃねーかぁぁぁあああ!!」 マヨネーズを人に強制する決まり、撤回してなかったのね……。 霊夢がスペルカードを再び取り出した。 芳香も、いつの間にか手にしている。 女忍者も何か、爆発物を持っている。 ロボは、どこから取り出したのか、ミサイルを肩に担いでいた。 バズーカ持った男は、言わずもがな。 一斉に放った 長く響く、の世界でよく聞く叫びを上げながら、2つの影は飛んでいった。 僕はその様子を、マンホールに瞬間移動して、耳を澄ませて聞いていた。 ………ついてけないよ、もう。 「それにしても、どうしよう」 まず、霊夢には今『お賽銭で買収して落ち着いて貰う』と言うのが効かない。 しかも、完全に異変解決時の耳を貸さないチートモード。 僕には止める術が無い。 「それともしかしてだけど」 霊夢があの銀髪の男に対して、感じてるのって。 「あいつに関して、それはないと思うけど」 恐怖? |
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