「全く……ボロボロだ」
今日だけで霊夢のスペルに二回巻き込まれ、それに萃香のスペルに神楽って子の銃撃、バズーカ砲の集中射撃の余波、誘爆させてしまった爆弾の爆発を食らってしまった。

…………そりゃ死ぬよ。
二回死んだだけですんでよかった……、よくないな……。

 服は使い古した上に焦がしてしまった雑巾みたいな事になっている。
原型保っているだけで奇跡だ。
幸い『倉庫』にスペルカードや小物は入れておいた。

まだ霊夢を探すことはできるけど……。
「どうしよ……」




幻想郷の人外どもと同じか、それ以上に酷いリズムで生きているこの街の人間と上手くやっていける気がしない……。
というか、なんで僕が死ぬような状況で平然としているんだよ。
霊夢が暴れても、この街だったら何の問題もないんじゃないだろうか?




「でもなあ。止めなきゃ」
大人の義務、だよな。
中身は成長している自信はないけれど、せめて行動は表さないと。
大体、教師やっているんだから。

「さて」
行くかな、と思っていた矢先だった。
さらなる災難に見舞われたのは。




「ダメじゃ無いですか。
今、蟻さんの列を踏みつぶす所でしたよ。気をつけて下さいね」

そう、筋肉質の緑色の巨躯で大きな牙と角を生やし、極悪人の様な目つきで、額に傷痕とかわいらしい花を咲かせている、無駄に長い髪の化け物が僕に語りかけていた。

悪夢だと思った。
不意に顔面にもの凄く強い衝撃が走り、壁にめり込み、瀕死になっているなんて。
ありえない。
夢だ。
たった今、一歩を踏み出そうとした瞬間、こんな事になるなんて、ない。
そして、目前の化け物の拳に血糊がついてるのも、夢だからだ。
ああ、まだ僕は死んでいてまだ復活に時間がかかっているんだな……。

「おやあ?
なんでそんなに大けがをされているんですか?
もしかして、意識が半分失いかけてたから、蟻さんを踏みそうになっていたのですか?」

あんな化け物が僕を心配するはずがない……。
巫女や魔法使いすら僕を心配しないんだぞ……。

「こうしちゃいれられない。
すぐに処置しますね!
僕の家はすぐそこです!」
と、思ったより優しく抱きかかえられるなんて、ありえない……。
でもって、あのよくわかんない、瘴気か何かを吹き出す世界樹的な何かの中に入ってくなんて、もっとありえない!
ありえない、はずなんだけど!!!




入り口には色彩豊かな花々の鉢植えが整然とたくさん置かれ、花屋のような雰囲気だった。
……この化け物の趣味? まさか。

その奥、螺旋階段を上り、一つの部屋に入った。
そして僕を何かの台に乗せた。

 すると大きな口に牙を生やした、Tウイルスに浸食されたパックンフラワーみたいのが、
僕を捕食しようとしていた。
ここでまた死ぬのか?! 食われても復活出来るけど!
体を再生させた直後に大けがして、まともに体が動かない!!

霊弾……、よし、せめて抵抗してやる!
「ん、何だろう、これ」
デコピンで渾身の霊弾を吹き飛ばす化け物。
……死んだな。

「こら、お客さんですよ」
と、凶暴化したパックンフラワーもデコピンではね飛ばした。
えーと、助かった?

「ちょっとしみますけど、良く効きますから我慢して下さいね」
異臭を放ち、七色に輝く粘液が入った瓶を手にした化け物。
お父さん、お母さん、じいちゃんに妹。それに霊夢。
僕はもう、この世から消滅するんだと思う。




「あれ?
気がつきましたか?」
と、化け物。

「おかげさまで……」
……一応ちゃんと包帯を巻かれ応急処置された僕。

服を脱がされ、得体の知れない粘液でつけ込まれるかのように塗りたくられ、それに続く意識が遠のくような激痛がかえって、意識を鮮明にさせてくれたりしたけど。
無間地獄のような体験のお陰か、傷は大分良くなったようだ。

「いやあ、心配しましたよ。
よく見たら、服は焼け焦げ、体は傷だらけ。
たまに大きな爆発がこのあたりじゃ起きますからね。それに巻き込まれたんですか?」

黒い制服と攘夷志士の連中だな。
しょっちゅうその辺爆破しているのか。
というか、何をやりたいんだ。あの人たちは。

いや、それ以上に。
「自分の家だと思ってゆっくりしてって下さいね。
今、もっと良い薬を持ってきますから」

と、アップでそう言う化け物。
…………………怖いんだよ!!




「いえ、大分良くなりましたし、行かなきゃならないんで……」
霊夢がどんな悪さしてるか、分からないし。
この化け物が怖いとかじゃない。
親切な化け物が怖くてチビリそうとかじゃないんだからね!!

 立って走ろうとした時だった。
ズガ! と包丁が目の前に突き刺さった。

「ダメダメ。安静にしなきゃ。
そんな大けがで外に出てもまた事故に巻き込まれてしまいますよ」
この化け物は僕を保護したいのか、なぶり殺したいのか、わからない……。
どうしよう……。




「そうそう。自己紹介まだでしたね。
放屁の屁に激怒の怒りにロビンマスクの絽で屁怒絽です。
よろしくお願いしますね」
どういう名前だ。しかもジャンプネタ。
ツッコミ所が多いが、それどころじゃない。

……まずは僕も名乗ろう。
「僕は土樹良也です。
ケガとか本当に大丈夫なんですけど……」

「いえいえ遠慮なさらずに。ちょっと待ってて下さいね。
本当に良く効く薬があるんですよ。今準備しますから」
と出て行った。

……今のうちか。
窓を開く。まさか僕が生身で空を飛べるとは思っていないだろう。
眼下には和風の町並みが見える。それと、なんか変な花。
僕を見つけるなり、煙を放射した。

速攻窓を閉める僕。
部屋には得体の知れない靄が漂った……。
いや、僕の能力ならもしかしたら影響はないかもしれないけどね。
心の準備がね。てかあれ、花粉?

「……う、ぶわっくしょん!」
「お待たせしました。
これで元気になりますよ」
と、化け物。
手にはもぞもぞ動く得体の知れない幼虫みたいのがどんぶりいっぱいに、蠢いていた。

「貴重なマンドラゴラ星の薬膳虫です。さあ、どうぞ」
率直に、食いたくない。
「あの、それ僕、苦手かな、みたいな」
「好き嫌いは良くない。さあ、どうぞ」
口を力ずくで開けられ、流し込められる。
あれ、僕いつ映季に阿鼻叫喚地獄に落とされる判決うけたんだろう?




……元気になった。
いや、生まれ変わったかのように、体力も何もかも完全体だ。
永琳さんが回復薬を本気で作ったんじゃないのかってレベルで、MAXだ。
精神面を除く。
もう、崩壊寸前。
逃げ、逃げなきゃ……。

「まだ安静にした方がいいですよ。ゆっくりしてって下さいね」
「は、はいいいぃぃ………」
顔が怖すぎる……。
逃げれない……。




「ほら、落ち着きなさい。じゃないと、苛めるわよ?」
どこかで聞いた声が窓の外からした。
この声は……。

「なんだろう? 誰かいるのかな?」
と、緑の化け物は窓を開ける。
外には幻想郷のフラワーマスターがいた。

「あら、初めまして。ここの住民かしら」
「初めまして。あれ? どうやって窓の外にいられるんですか?」
「ちょっと空中散歩を。この子、ここじゃ普通のお花なのかしら?」
「ええ、僕の故郷じゃ普通に見られるんですけど」

……怖がってない。怖がってないぞ、この花の妖怪。
幽香さん、精神強すぎだろ。
ええと……、一か八かやってみるか。

もの凄い賭けだから、失敗が怖すぎるけど!
むしろ、成功しても嫌な予感がするけど!!
じゃないと、ここから逃げ出せそうに無い!!!




まず、『自分だけの世界に引きこもる能力』の範囲を広げる。
その範囲をゆがませる。
で、幽香さんの耳に少しその範囲をかぶらせる。
微妙な能力操作だが、一応特訓しといてよかった。
続いて、助けを求める。範囲を幽香さんだけに聞こえるように調整したのはこのためだ。
……問題しかないと我ながら思う……。




緑の化け物と和やかに話をする幽香さん。
どう反応するか……。
「あの幽香さん。今、その緑の人? に聞こえない様にして話しかけているんですけど」
僕の意図に気付いたのか、視線を一瞬僕に向けたものの、変わらず話を続ける。

「僕の事を心配しすぎて、帰してくれないんです。僕は不老不死なんで、もう体は何ともないのですが。
それに霊夢を探さないといけないんです。
なんとかここから逃がせてくれませんか?」
あのパックンフラワーの葉がOKの形を取った。




「お花屋さんをやられてるのでしたね。見せていただけません?」
「ええ、それはもう! いやあ、初めてのお客さんですよ」

え、あれお店だったの?
人、誰も来ないだろ。
そうして部屋を出て行く化け物と幽香さん。
なんという美女と野獣だろう。

そんなことを思っていると、幽香さんの日傘の先端が僕の方を向いた……。
続いてパックンフラワーが僕を固定する。
コレってやっぱり。
日傘から弾幕が展開される!
嫌な予感当たったァァァァアアア!!




弾幕と共に開いていた窓から発射されるように飛び出た僕。
この世界に来てから、本当にこんなんばっかだ。




そしてさらなる災難に巻き込まれるのだった。



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