「なんだ、こりゃ」 気の抜けた声が、僕、土樹良也の口からこぼれた。 そこには多く自動車が行き交い、人々は携帯電話を用い、空にはヘリコプターなんかが飛んでいた。 それどころか、飛空挺まで空に浮かんでいる。 おかしい。おかしいぞ。 ここは幻想郷のはずだ。外の世界なんかじゃないし、それとも違う。 と言うか、博麗神社の境内にぽっかりと四角く窓みたいに空間が空いていたのだ。 その窓をくぐってみると、あったのは外の世界と見まごう世界だ。 スキマが開けたのとは違うだろう。 こんな簡潔な感じに空間を開ける奴じゃないし、姿を現すはずだ。 「うん、落ち着こう」 焦ったりしても、経験上いいことないしね。 もう少し、観察してみる。 僕みたいなジーンズ姿の人も多少なりともいるが、大体和服だ。 髪を結っている人も多い。 人間の里より髪を結ってる人多いんじゃ? なのに現代の電気機器、スマホらしき物まで使っている人がいるなんてアンバランスさを感じさせる。 まあ、こっちじゃ普通なのかも。 とにかく、全く別の世界なのだろう。 行き交う人々の中には、犬や蛙としか見えない顔の者も平然と闊歩し、違和感を誰も覚えないようだった。 妖怪とも違う。 一体、どんな存在なのだろう? “お通ちゃーん!!” ……どこかのアキバなる場所で聞こえて来そうな暑苦しい男どもの声が聞こえた。 どこも変わらないんだな。 路上ライブか。 プリズムリバーのは結構みるけど、こんなアイドルの路上ライブは初めて見るな。 “みんなー、こんにちわんこー!” と、ミニスカ状の丈の短い和服を着た女の子がマイク片手にトラックを改造した壇上に現れた。 あ、結構かわいい。まさにアイドルって感じだ。 こーゆーのは、本当に外の世界と変わんないな。 “それじゃ盛り上がろお(ピーーーー)!!!” 「ぶっ!!」 ちょっと待てぇぇぇええええ!! いきなりとんでもないデットボールぶん投げてきたぞ!! それ、放送禁止用語! “(ピーーー)”“(ピーーー)” 男共は興奮しながら連呼してるし! ダメだろ、これ!! 警察来てもしらんぞ! って、警察いるのか? この世界。 そんな事を考えている時だった。 ビュン、不意に風を感じた。 それは紅白だった。 ……チガウヨネ。 “ぎゃあああ!”“ぐあああ!” と叫びが聞こえて来た。 ……イヤ、チガウヨネ。 ライブ会場に何か、突入シテナイヨネ? “何この脇開いた変な服の……あ”あ”あ”あ”” 「霊夢ぅぅぅぅうう!!」 いきなり何やってんだよ! いつもの異変の時と同じく、弾幕をバラまく霊夢。 撃墜された妖精のごとく沈む観客。 そして、弾幕食らいながら霊夢につかみかからんとするハッピ姿の男たち……。 いや待て。 なんであんなに弾幕食らいながら動けるんだ? “護るんだぁぁああああ! お通ちゃんを護るんだぁぁああ!!” 血だらけになり、それでも立ち上がる男たち。 “ああ! みんな大丈豚の尻! 速く逃げ天明の改革!” 変な語尾のアイドルの言葉と。 “豚の尻ぃぃぃいいい!” “天明の改革ぅぅぅううううう!” そう叫びつつ、ゾンビのごとく起き上がる男たち。 全く気にも留めず蹴散らす、巫女。 ……カオス過ぎる……。 「って、霊夢! 止めろ! この人たちは、その…祭りで盛り上がっているだけで」 「こんな汗臭くて、訳のわからないこと叫んでいるんだから、異変でしょーが!!」 その気持ちは正直わかるんだけどさ! って、この人たち、人間だから! 妖精と違う! 「下手な妖怪より復活早いわ。化け物認定よ」 お前が言うな!、と心で強く思った。 アイドルの子がいるステージ前まで来た時だった。 いや、僕だって霊夢を止めようとしてたんですよ。止まらないんです。 お賽銭うんぬん言っても、聞いてくれないんです。 「ダメだ。逃げ……ぐふ」 不意に、一人のハッピ姿の男が浮き上がった。 その男の鼻には深々と指が突き刺さり、一人のメガネの少年がそのまま持ち上げていた。 持ち上げていた男を投げ捨て、霊夢に立ちはだかった。 「貴様、この神聖なるライブに一体何をするというのだ」 「異変の解決よ。邪魔しないでくれる?」 「邪魔だと……? テメーが一番邪魔だあぁぁぁぁあああああ!!」 「ちょ……君落ち着いて! こっちが悪いんだし!! 謝るから!!」 霊夢は完全に異変解決モード。 このままじゃ、この人ピチュるぞ! 「どけぇ! 親衛隊長、志村新八が相手だぁぁぁあああああああ!!!」 押しとどめようにも、この人見た目の細さに比べて力が思ったより強い! って、霊夢。弾幕撃たないで! バシッ、と弾幕が少年に当たった。 次から次へ命中する。 いや……、自分から当たりに行っている? と言うより……。 「フンフンフンフンフンフン!!」 桜木花道が乗り移って、壁のようにアイドルを完全ガードしてる!? 嘘だろ?!! 「止め天竺! 傷だらけじゃない脳味噌!」 変な語尾の声が聞こえてきた。 「歌って下さい、お通ちゃん。 馬鹿にされ、理解されなくても、傷ついてたとえ死んでも。 僕たちはファンなんです。 護って見せます。歌って下さいならっきょぉぉぉぉおお!!」 一瞬の沈黙の後だった。 “歌って下さいらなきょぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!!” 傷つき倒れていた、ハッピ姿の男たちが一斉に叫んだ。 アイドルは涙ながらに応えた。 「歌います。みんな聞いて! お気に入りの一曲『放送コードがまんぼのもんじゃい』」 ……………ひどかった。 立っているのも困難な位地面が揺れた。 ぼくは『自分の世界に引きこもる程度の能力』の範囲を霊夢がいる所にまで広げた。 これでやかましいライブ会場でも話が出来る。 「霊夢、どうするんだ?」 「あきれた……。別な場所に行ってみるわ」 そう言い残し、飛んでいった。 方向的にはあの窓のある方じゃない、街の方向だった。 「ちょっと待てよ。霊夢」 と、僕もついて行く。 空を飛ぶのは目立つから止めた方が良いんだろうけど。 この世界でも、さすがに生身で空飛ぶ人はいないようだし。 「…にしても」 あの少年は手段はどうあれ霊夢を撃退した。 こんな事あっただろうか? これが異変としたら、かつて無いことになるはずだ。 この世界は一体どうなっているのだろうか? そう思いつつ僕は超高速で飛んでいく霊夢を追った。 会場はゾンビの様なファンの怒号と放送禁止用語で状況が悪化していた。 ……警察、この世界にいないんだな……。 |
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