ストーブに火を点け、ヤカンを乗せる。

不意にやってきてツケを払わずに行ってしまう女の子たちのためだ。

 僕はこれでも何とか店をやっていけているし、思わぬ掘り出し物や情報を彼女たちから得る事ができる。

持ちつ持たれつの関係かなと個人的には思っている。
少し違うかもしれないが、まあいいとしておこう。

 このところ、幻想郷のあちらこちらに不思議な空間がゆがんだような穴が開いた。
その先には外の世界とも違う世界が広がっており、不思議な人間やアマントと呼ばれる存在、そのアマントがもたらしたと言う技術や物がひしめき合っているらしい。

 彼女たちはその穴の向こうへ突入したそうだ。
いつもながら恐れ知らずな子たちだ。
大方、そろそろ何か持ってこっちに来る頃だ。
そしてコレクションもきっと増えると思う。


「おーい、じゃまするぜー」

おや、噂をすれば。特徴的な白黒の服。
魔理沙だ。

 僕が返事をする間もなくヤカンを手にして、お茶を入れているあたり、彼女らしい。

「久しぶりだね。行ってきたのかい?
最近行けるようになった世界に」

「ああ。不思議な世界だったな。香霖堂で見た事のある物もあれば、全く見た事もないものもある。
空を飛ぶ大きな鉄の塊に船。地面を走る人が乗る箱に、弾幕を出す筒なんて物もあった。
それ以上に驚いたのがスペルも何もなしで私並の速度で走ったり、クナイってやつを大量に投げる奴だ。弾幕を駆け上がる奴までいる。
一体どうなっているのか、皆目検討つかないぜ」

空飛ぶ鉄の塊か、コレクションに加えたい所だな。
その前に間理沙が持っている物だな。

「それで、その包みがあの世界から持ってきた物かい?」

「ああ……、お宝らしいんだが一体何なのか全くわからないんだ。見てくれないか?」
 そうして出した物は……なんだろう、これは。


 それは円柱状の物だった。

ただ、半球状の頭には何か人を不快にさせる様な顔が描かれ、下向きに二本腕を模したと思しき棒が付いている。
ただそれだけの物だった。

 なるほど、これは何なのかわからない。
まあいい、僕の能力で見てみよう。

僕は、物の名前と用途がわかる程度の能力を持っている。
これである程度わかるはずだ。

「よしわかった。まず名前は……ジャスタウェイだ」

「変な名前だな。それで用途は?」

「うん。用途は……ジャスタウェイ……、ちょっと待ってくれ」
 おかしいな……。


 おかしい、おかしいぞ……。

何度やっても用途がジャスタウェイだ……。一体どんな意味があると言うんだ、ジャスタウェイに……。

「どうしたんだ? 顔色悪いぞ」

うーん。いままでこんな事は……。

“オイイィィ!! ジャスタウェイはジャスタウェイであってそれ以上でもそれ以下でもねェんだよ!”

「魔理沙、何か言ったかい?」

「いいや、何も」

 まさか……。

“ジャスタウェイは理解するんじゃねえ! 感じるんだぁぁぁぁ!!
考えんなぁぁああ! ゴルァァァァア!!!“

コレの声が聞こえている?・
魔理沙には聞こえていないようだし……。
一体何が………?


“何を考えてるんだァァァァ! ジャスタウェイはジャスタウェイでしかねェェェんだよ!
考えても無駄だァァァァ!!!“

これは…、僕の能力が進化して物の声が聞こえる様になったとでもいうのか?

いやいや、他の物にはそんな現象は起きない。いつも通り名前と用途がわかるだけだ。

“いいかァァ! ジャスタウェイを置物にしたり、爆弾にしたり、風鈴にしたり、鍋物の出し取りにしたりするんじゃねェぞ!!
ジャスタウェイはジャスタウェイだからなァァァ!!
断じて馬の名前なんかじゃねェェエエエエエ!!!!“

 ジャスタウェイ……、一体何の意味がある言葉なんだ。

“ジャスタウェイはジャスタウェイでジャスタウェイなんだァァァ!
ジャスタウェイはすべてがジャスタウェイであり、ジャスタウェイとなって、ジャスタウイだァァァァ!!!!“

…どうしよう、本当に。


「本当にどうしたんだ? 死にそうな顔してるぜ?」

…そうか、そんな顔をしていたか。

これは決まりだ。

「魔理沙わかったよ。変な封印みたいなのが用途を不鮮明にしていたんだ」

「それで、何に使う物なんだ?」

「これをスペルで破壊すればスペルの能力が上がるようなんだ」

“え、ちょ……”

「あの世界の人はコレを壊して筋力等を上げていたんだろうね。
壊す方法によって上がる能力が違って来るみたいだ。
もっとももうずいぶん古いみたいだから能力が上がるかわからないけれど、やるだけやったらどうかな」

「ふーん、じゃ早速表でやってきていいか?」

「ああ、思いっきりやってみてくれ」

“ちょっとォォォォ!!”


「『恋符 マスタースパーク』」

元気の良い魔理沙の声が聞こえてきた。

“スンマセンしたぁぁぁぁぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!”

それ以上に響き渡る断末魔が僕の耳をつんざいた。
 あれが一体何なのか、わからない。
しかし、知らない方が良い物もある。
あれはその一つなんだろう。

 僕はストーブのヤカンを手に取り、お茶を入れた。
今年の新茶は良い出来だと思った。


 余談。
魔理沙はあの世界から、ジャスタウェイなる物を大量に持ち込んできたようだった。
風鈴になっていたり、時計になっていたり、色々らしい。

 そして吹き飛ばされる度に、やけに轟く叫びが僕の耳に届いてきた。

 いくら壊しても能力は上がる気配がないと、彼女はこぼす。
僕は、古いからね、と言いつつお茶を入れた。



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